電力小売自由化にあたって消費者は何を注意すべきか

2016-04-21

2016年4月からの電力小売自由化に伴い、200社を超える小売電気事業者が市場に新規参入し、消費者は競争市場における自己責任での判断のもと、電力会社とメニューを選択する自由を得ました。そこにおいてどのような点に注意して行動すべきか、消費者目線で考察してみましょう。

電力自由化とは

電力小売自由化は、2000年3月の部分自由化により始まりました。 最初の小売自由化は、「特別高圧」区分の大規模工場やデパート、オフィスビルが電力会社を自由に選ぶことができるようになり、新規参入した特定規模電気事業者、いわゆる「新電力」からも電気を購入することが可能になりました。 2004年4月・ 2005年4月には、この小売自由化の対象が「高圧」区分の中小規模工場やスーパー、中小ビルへと徐々に拡大していきました。

そして、2016年(平成28年)4月1日以降は、いわゆる「低圧」区分である家庭や事業所なども含む全ての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになりました。

これが、いわゆる電力の小売全面自由化といわれるものです。 電力の小売自由化の範囲が「BtoB」という企業間から「BtoBtoC」企業間取引から一般消費者向け取引へと拡大されることになります。

自由化の課題と政府対応

このような状況をうけて、自由化における課題対応の一環として「適正な電力取引についての指針」平成28年3月7日(公正取引委員会、経済産業省)により、平成28年4月の小売全面自由化により新たなステージに入る新しい電力市場における適正な取引のあり方が示されています。

このなかで、小売分野において示されている公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為として例えば次の行為が明記されています。なお概要としている記載内容は、著者が「適正な電力取引についての指針」平成28年3月7日の内容の一部をまとめているものであり、正確な内容は同指針をご参照ください。

1. セット販売における不当な取り扱い

概要:
電力の販売において、併せて他の商品、サービスを販売する行為は、事業者の創意工夫によりクライアントへのサービスの向上が期待されるものではあるが、セット割引による不当な安値設定など、独占禁止法に抵触する可能性がある。

2. 戻り需要*に対する不当な高値設定など

概要:
変更前の電力小売事業者との契約を希望する需要家に対して、変更後の電力小売事業者が不当に高い料金を適用するまたはそのような適用を示唆することは、独占禁止法に抵触する可能性がある。 *「戻り需要」とは:区域において一般電気事業者であった小売電気事業者と電気の小売供給契約を締結した需要家が、他の小売事業者との契約に切り替えた後、再び当該区域において一般電気事業者であった小売電気事業者との契約を求める場合の需要のことをいう。(「適正な電力取引についての指針」より)

3. 不当な違約金・精算金の徴収

概要:
需要家との契約期間や契約期間中における解除に係る違約金・精算金の設定をどのように行うかは、原則として事業者の経営判断に委ねられている。しかしながら特定期間の取引を条件として料金が安くなる契約において、当該契約期間内に需要家が契約を解除する場合、不当に高い違約金・精算金を徴収するなどは、当該小売事業者との契約を実質的に解除できず、他の小売電気事業者との取引を断念せざる負えないため独占禁止法違反となるおそれがある。

消費者が注意すべき課題

上記のように、政府としても電力小売り自由化後に小売事業者が考慮しなければならない課題に対する指針などを提供することにより、その対応を行っています。 以下では、一般消費者として注意しなければならない課題とその対応について以下例示記載します。 なお記載している内容は、著者の私見であり、他の規制産業自由化の局面や、類似の販売プロセスを有する業界において課題となった点を参考に記述しています。

1. 個人情報の管理は大丈夫か?

電力供給契約の申し込みに際しては、住所、氏名などの個人情報を小売事業者に提供することになります。中でも電力料金の支払状況(不払いなどの情報)については、与信情報としての性質も有すると想定されます。またスマートメーターの導入に伴い、いつどれくらい電気を使用しているかなど、間接的にプライバシーが把握可能となる事が想定されます。消費者側から直接的に確認する術がないテーマではあるものの、契約する会社が適切な個人情報管理態勢を有しているか、注意を払うことが重要となります。

確認する方法としてプライバシーマーク(以下Pマーク)やISMSを取得しているか否かなど、公的な資格を有しているかが考えられます。 ただし、PマークやISMSは情報漏えいがないことを担保する資格ではなく、継続したセキュリティ管理プロセスの高度化を図ることができる能力があることを認証しているという点には、留意が必要です。

2. 計算された電気料金は適正か?

新規参入の電気小売事業者にとって、平成28年4月度の電気料金の計算と請求は初めてとなります。そのため、各電気小売事業者において、想定外の処理が発生した場合など、事務ミスやシステムの誤処理などにより誤った電力料金が請求される可能性が高い時期でもあると言えます。
確認する方法としては、消費者が自らの過去の電気料金と比較し、あまりにも乖離がある場合には問い合わせを行うことが第一でしょう。

3. 消費者ニーズに即した会社か?

電力小売自由化により、今まで10社の地域別電力会社に対する規制事業であった電力業界から多数の会社による競争が促されることになります。いわゆる「規制」から「競争」へと業界が転換していくことになります。この競争へと市場転換がなされる過程において、営業活動促進のため小売事業者の販売代理店が乱立する場合、消費者ニーズに即した提案がなされるか注視する必要があります。

特に、電気という品質に差異がないサービスの販売となるため、電気料金こそが事業会社選定の重要な判断基準のひとつとなり、各社が提供するサービスの差別化は、多様なメニューと料金体系に依存することになります。よって、契約する前にご自身のライフスタイルと各社が提案する料金プランとをしっかりと吟味して申し込みを行うことが必要です。

また、競争が進むにつれ携帯電話や保険商品のように電力事業者子会社の複数商品をひとつの代理店にて販売する業態も起きうるでしょう。通常、販売代理店に対しては、販売を依頼する会社から手数料が支払われることになります。

このように、電力小売自由化の開始当初には上記以外の課題も発生する可能性がありますが、読者の皆さまにおかれては、あらかじめ課題を想定し対応をとることで、ご自身の判断で賢い選択をしていただければと思います。

綾部 泰二

綾部 泰二

PwCあらた監査法人
システム・プロセス・アシュアランス部 ディレクター

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