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近年、地球周回軌道を巡る動きが世界的に活発化しています。従来は国家の役割だった宇宙開発・利用について、民間資金を活用して技術革新や商業化を狙う動きは、まだ途上ではあるものの着実に進展しています。特に輸送分野においては、例えばスペースシャトルの時代と比べればコスト低減がなされたことで、宇宙へのアクセスは容易になり、地球周回軌道の各種ビジネスに大きく門戸が開かれています。
宇宙への輸送コストの低減は、地球周回軌道上ビジネス全体の成長サイクルの加速をもたらす主要ドライバーの1つとなっています。輸送コストの低減により軌道上へのアクセスが容易になってきたことは、まず、現在の宇宙産業において主要なビジネスの一つである、衛星関連ビジネス領域(通信・観測・測位)のさらなる成長に繋がっています。特に通信・観測領域では、低軌道におけるコンステレーション(人工衛星を多数機配置したシステム)の構築を計画する企業が増えた結果、衛星機数はここ数年で大幅に増加しており、今後も成長が見込まれます。これら従来の衛星関連ビジネス領域は、安全保障の文脈も絡み、引き続き官需が主な需要の牽引役とはなっているものの、民需による商業化も徐々に進みつつあります。今後はこれら領域の衛星の整備が進み、衛星を活用した各種ビジネスのさらなる充実と民需による市場成長に繋がることが見込まれます。さらに、特に低軌道において、従来の衛星関連ビジネス領域のみならず、新たな活用方法を目指す動きが出てきています。
軌道活用の新たな領域の一つが、商業宇宙ステーションです。現在の国際宇宙ステーション(ISS)は2030年に退役予定であり、その後継として民間事業者による商業宇宙ステーションの計画がいくつか動き出しています。特に米国では政府主導のプログラムも開始され、採択された米国企業を中心に、日本を含む各国の政府機関や大手企業等との連携も実施しながら計画が推進されています。2026年の打ち上げを計画している事業者もおり、今後の成長が期待される領域です。
この商業宇宙ステーションにも関連する領域では、軌道上における微小重力1環境を活用した研究・開発や製造に関する事業を目指す動きも出てきています。微小重力環境下では、重力による沈降や滞留、浮力などがほぼ消失することから、材料の混合・結晶化が重量環境下と比較して均一化しやすい、液体や気体の分離が抑制され純度の高い構造体が得られる、表面張力や拡散といった重力以外の力が支配的になる、といった地上では再現が難しい事象が実現できます。この環境を活かした材料科学やバイオ・製薬分野への応用が期待されており、実際にこのような環境実験をサービスとして提供する事業者が登場しています。
このように、従来の衛星関連ビジネス領域のみならず、新たに軌道上を活用しようとする動きが出てきており、今後軌道上には、衛星のみならず、他の宇宙関連アセットの打ち上げが見込まれます。そして軌道上アセットが増加することで、軌道上の環境はより複雑化・混雑化し、そこに新たなビジネス機会も生まれるでしょう。例えば、軌道上における安全な運用や宇宙環境のサステナビリティの観点から、軌道上の交通管理や宇宙デブリ対策に関わる事業などが考えられます。
従来の衛星関連ビジネス領域のさらなる成長、軌道上を活用した商業宇宙ステーションなどの新たなビジネス領域の登場、そして、これら軌道上の活動を支えるための軌道上交通管理や宇宙デブリ対策などのビジネス領域の発展が見込まれており、地球周回軌道ビジネスは今後大きな成長が期待される事業領域といえます。
このような地球周回軌道ビジネスの動向の中で、有人関連の取り組みへの期待も高まりつつあります。軌道上への訪問・滞在は、商業宇宙ステーションの登場により、科学実験等を行う商業宇宙飛行士や宇宙旅行を目的とした一般消費者にもその間口が広く開かれ、後述のとおり、低軌道への有人輸送人数を大きく増加させる可能性を秘めています。特に宇宙旅行に関しては、宇宙ステーションにおける滞在の他にも、サブオービタル宇宙旅行や、サブオービタル飛行を利用するP2P(Point to Point)輸送などの期待が高まっており、わが国の政府検討会2においても、制度整備を含めて将来の経済圏が検討されています。
これまで、宇宙への有人輸送は、高度な技術と高い安全性等の要求により、国家的なプログラムとして、各国政府を中心に推進されてきました。対して近年、上述の軌道上ビジネス全体の活発化、その中でも特に有人活動への期待の高まりとともに、地球周回軌道への有人輸送についても、民間企業の参入と市場の拡大が期待され始めています。
PwCでは、5地域(欧州・北米・中東・アジア・オセアニア)14カ国に宇宙ビジネスの専門チームを擁しており、世界中の市場動向を調査し、その結果を一般に公表してきました。日本において最近では、2021年に月面市場調査レポートを、2024年には宇宙関連市場のマクロおよび分野動向を調査したレポート「宇宙分野の主要トレンドと課題:第4版」を発行しています。また、PwC Japanグループにおいても、2024年に宇宙・空間産業推進室として従来の宇宙ビジネスコンサルティングサービスをより発展させる組織を発足し、国内外の宇宙ビジネスの動向の把握を行ってきました。本レポートでは、宇宙・空間産業推進室の活動を通じて調査してきた宇宙関連市場のうち、今後民間企業の参入による市場の拡大が期待される宇宙への有人輸送(宇宙ステーションへの輸送、サブオービタル宇宙旅行、P2P輸送)について、動向と需要ポテンシャルの調査を行いました。
国際宇宙ステーション(ISS)は、これまで、地球低軌道における国家プログラムの活動拠点として開発・運用されてきましたが、2030年代を目途に退役し、その後は民間企業による商業宇宙ステーションの運用が始まる見込みです3。商業宇宙ステーションに関する取り組みは、ISS退役を見据え、2021年に米国で開始されたCommercial LEO Destinationsプログラムにて、同国の支援を受けたいくつかの企業が推進しています。同プログラムが予定している全3フェーズのうち、2025年後半にフェーズ2の提案募集を開始する予定であり、資金提供を伴う設計開発推進の後、正式な設計承認を行うフェーズ3へ進むとされています4。
どれほどの数の商業宇宙ステーションが運用されるかについては、政府パートナーとしての選定の有無や有人関連技術の成熟度など考慮すべき変数が多岐にわたり、現時点で精緻なモデルにより予測することが困難です。他方で、地球低軌道に滞在できる拠点が持つ、重力の影響の少ない特殊環境における科学実験や研究、宇宙空間からの地球観測といった“価値5”が商業市場に解放されることによる低軌道への有人輸送需要のポテンシャルを把握することは、今後の市場動向を見極めるうえで重要です。
現在検討されている商業宇宙ステーション計画では、2020年代後半から宇宙ステーションを構成するモジュールが打ち上げられ、本格的な建設が始まる予定です6。商業宇宙ステーションの建設が計画どおり進むとともに、技術進展に伴い有人輸送機の機体コストを含むサービス価格が2025年時点から一定程度低下するという仮定に基づき、建設後の宇宙ステーションへの輸送サービスの需要ポテンシャルを推定しました。その結果は、2040年時点で最大2,100人程度となり(図表1)、人類のこれまで約40年の宇宙活動における累計人数595人(2023年時点7)を上回る結果となりました。また、有人輸送拡大と歩調を合わせる形で、水・食料等の生活物資の輸送量は拡大し、2040年時点で最大240トン程度の規模で輸送されると推定しています。
図表1:宇宙ステーションへの輸送サービス
各年において想定される利用者の最大人数
出所:PwC作成
これまでに実現している民間人の宇宙旅行には、宇宙ステーションへの旅行・滞在のほか、高度100km程度まで上昇後に地上に帰還するサブオービタル飛行8があり、また、さらに高い高度において、宇宙ステーションには接続せず数日間飛行する形態(以下、「オービタル飛行」)も存在します。
オービタル飛行についてはまだ商業化されたミッション実績はありませんが、サブオービタル飛行による宇宙旅行は民間事業者による事業化が進展しています9。これは、宇宙ステーションへの輸送やオービタル飛行と比べて高度が低く、宇宙における滞在時間も短いことから、費用等も含めて比較的手軽に利用でき、宇宙空間を体験するという目的においては、幅広い顧客層からの需要を見込むことができるためと考えられます。ただし、比較的手軽であるとはいえ、既存の一般航空機におけるサービス価格と比較するとサブオービタル飛行のサービス価格もまだ非常に高額であり、チケット価格は100万米ドル前後という情報もあります。
本レポートでは、現状のサービス価格は高額ではあるものの、技術発展等による価格低減の可能性も見込み、サブオービタル飛行/オービタル飛行からなる宇宙旅行サービスの需要ポテンシャルを推定しました。その結果、2030年時点で最大1.2万人程度、2040年時点で最大33万人程度となりました(図表2)。現在商業化されているサブオービタル飛行の利用者数が年間100人未満であることを考えると、成長のポテンシャルを有する市場と捉えることができます。
図表2:宇宙旅行サービス:サブオービタル飛行・オービタル飛行
各年において想定される利用者の最大人数
出所:PwC作成
P2P輸送(Point to Point輸送)とは、地球上の二地点間を高速で結ぶ10宇宙輸送サービスの形態です。大気の希薄な高高度を航行することで、大気抵抗の制限を受けない超高速での輸送を可能とします。P2P輸送は未実現の技術ですが、事業者の公表している目標値に基づくと、従来航空機の約10倍、また、超音速旅客機と比較しても数倍の速さで飛行するとされています。
P2P輸送によって従来よりも高速の輸送が実現すれば、どのような価値が生まれるのでしょうか。まず、直接的な価値としては、旅客事業においては乗客の拘束時間を減らすことができます。また、貨物では輸送時間に伴うさまざまな損失が低減することができると考えられます。例えば、医療品の有効期限切れに伴う廃棄損失、機械機器の故障時ダウンタイムにおける稼働損失などです。加えて、より波及的な期待効果ではありますが、従来の輸送時間を前提に分散保有されていた物品在庫をハブ拠点に集約し、必要時にはP2P輸送により遠方へ高速輸送するといった新スキームにより、在庫管理コストを抑えるといった価値も考えられます。
なお、P2P輸送サービスの実現に向けては、技術開発のみならず、発着する各国・地域における法規制・ルールの整備が必要です。サブオービタル飛行による宇宙旅行サービスについても同様ですが、宇宙ステーションへの輸送サービスなどと比べて低高度を飛行する機体について、航空法上どのように扱うべきかなどの問題がすでに議論され始めています11。P2P輸送はサブオービタル飛行/オービタル飛行と比べてさらに将来的な技術・サービスであり、今後、政府とも連携して取り組むことが必要でしょう。現時点では、米国および日本がP2P輸送に明確に言及した計画を発表12,13しています(図表3)。法規制・ルールの整備の観点においては先進的な立場にあるため、今後の国際社会の中で議論をリードしていくことが期待されます。
図表3:米国・日本のP2P輸送計画
出所:PwC作成
P2P輸送サービスの実現時期については段階を踏みながら進展するという前提としました。具体的には、法規制・ルールの整備を含む実現に向けた課題を乗り越えたうえで事業化が実現する時期を「草創期」14、就航経路増や技術発展による価格低減を経た「普及期」を想定し、これら2時点における輸送量を旅客・貨物それぞれで算出しました。草創期においては、旅客と貨物それぞれで約1,300人/年ならびに約2トン/年、普及期において約41,600人/年ならびに約1,357トン/年となりました(図表4)。P2P輸送サービスは現在の航空輸送を代替するだけでなく、前述のとおり新たな価値を産み出す可能性のある輸送手段であり、この価値を捉えてどのような市場が創造されていくのか、注視が必要な市場領域です。
図表4:P2P輸送サービスの市場規模
本レポートでは、今後の商業化・市場拡大が期待される地球周回軌道への有人輸送について、動向と需要ポテンシャルに関する整理を行いました。今回扱った、宇宙ステーションへの輸送サービス、宇宙旅行サービス、P2P輸送サービスは、それぞれ政府においても将来の大型市場としてみなされていますが、その市場確保のためには輸送の抜本的な低コスト化が必要です15。本レポートにおいて記載した輸送量予測は、既存の機体・サービスに関する価格をベースに算出を行いましたが、「抜本的な低コスト化」がなされることにより、さらに大きな市場を形成する可能性があります。今後の技術・サービスの発展が期待されます。
1 微小重力:宇宙ステーションなど地球周回軌道上を周回する構造物において、地球重力と周回による遠心力の釣り合いにより発生する、地表に比べて小さな重力のこと。わずかなガス(高層大気)の存在等により生じる加速度のため、完全な無重力とはならず、微小重力と呼ばれる。
2 文部科学省「革新的将来宇宙輸送システム実現に向けたロードマップ検討会取りまとめ」
3 JAXA「ポストISSにおける低軌道利用サービス等の調達に係る情報提供要請(RFI)」
4 NASA「Commercial Space Stations」
6 文部科学省「ポストISSを見据えた我が国の地球低軌道活動の進め方について」
8 内閣府 サブオービタル飛行に関する官民協議会「サブオービタル飛行に関する官民協議会について(案)」
11 内閣府 宇宙活動法の見直しに関する小委員会「宇宙活動法の見直しの基本的方向性中間とりまとめ」
12 United States Space Force「Department of the Air Force announces fourth Vanguard program」
13 内閣府「宇宙技術戦略」
14 JAXA「宇宙輸送の技術ロードマップ(詳細版)(公開用)」では、2030年代半ばと想定されている
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