
LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2022年6月1日~7月15日)
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループが公表した、SONIAベースのビジネスローンコンベンションに関する推奨や英ポンドLIBOR参照ローン・債券の移行ガイダンスの他、スワップションの自主的補償に関するARRC推奨の改訂版について取り上げます。
英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループ(Sterling RFR WG)は、相対ローンおよびシンジケートローンにおけるポンド翌日物平均金利(SONIA)のコンベンションに関するガイダンスを公表[PDF 488KB]しました。同WGは、後決め複利SONIAの使用を提案しており、観測期間のシフト(Observation Shift)なしの5日間のルックバック(金利期間の5営業日前から支払日の5営業日前までの期間を基準として支払金利を算定)を推奨しています。これにより支払期日よりも前に支払利息を知ることができるようになっています。また金利フロアがある場合は、複利をとる前に日次の金利に対してフロアを適用することが必要になり得ると指摘しています。そして、期中に元本を部分返済する場合は、金利計算期間終了時ではなく、元本の部分返済時に未払い利息を支払うべきであるとしています。ガイダンスとともに公表された補足資料[PDF 1,044KB]には、WGの推奨に加え、異なるローンコンベンションに関する説明資料、市場調査結果のサマリー[PDF 721KB]、計算例のスプレッドシート[EXCEL 790KB]が含まれています。同WGが以前より明らかにしている通り、市場参加者は2020年第3四半期末までに、非LIBORローン商品を提供できるよう準備する必要があります。
SONIAベースの公表済み相対ローンの発行数はいまだ一桁台に留まっており、今回のWGの推奨が、必要とされている後押しになるかどうかは現時点では不明です。米国代替参照金利委員会(ARRC)のローンコンベンションに関する推奨と同じく、今回の推奨は業界標準を決定するものではありませんが、これまでに発行された少数の新規リスクフリーレート(RFR)ローンにおいて選択されたコンベンションのほとんどを支持しています。一方で、異なるアプローチをとることが適切な状況にある市場参加者も必然的に存在すると考えられます。WGの推奨は、これまでに発行された少数の新規RFRローンにおいて多くの企業が選択したコンベンションを改めて支持するものですが、統一された業界標準を反映したものではありません。企業として選好するコンベンションが何であれ、金融機関は複数のコンベンションに対応できるようにしておいたほうがよいでしょう。
これは米ドル建てローン市場においても同様です。相対ローンに関するARRCの推奨公表が待ち望まれていますが、シンジケートローンに関するガイダンスでは、市場参加者に幅広いコンベンションの選択肢を提供する一方で、日次単利(daily simple)か観測期間のシフトなしのルックバック(期間は指定されていない)による後決め複利SOFRのいずれかの使用を推奨しています。米国でも英国でも、それぞれのワーキンググループが定めた目標期日を達成するためには、市場が単一のコンベンションに収束するのを待つのではなく、市場参加者がそれぞれ固有のニーズに基づきコンベンションを選択する必要があるでしょう。
Sterling RFR WGは、英ポンドLIBORを参照するローン[PDF 798KB]および債券[PDF 437KB]の移行に関する推奨案を公表[PDF 295KB]しました。前者は、貸し手、借り手、投資家を含むホールセールローン市場の参加者を対象としており、後者は、既存の英ポンドLIBORベース債券の代替基準金利への移行について発行体に対しガイダンスを提供しています。
同WGは、LIBORの公表停止時に指標金利を切り替える契約上のフォールバック条項に依拠せず、ビジネスローンを事前移行することを強く推奨しています。特に借り手については、本ガイダンスが契約変更の可能性に関し貸し手と情報に基づいた議論を行う出発点となることを期待しています。借り手およびその他の市場参加者には、以下のアクションを推奨しています。
同WGは、LIBORの公表が停止する前にローンを積極的に移行しようとする取引当事者に対して、英ポンドLIBORから特定の代替基準金利への自動的な移行を可能にする、相互に合意された契約条項を盛り込んだ、ビルトイン・スイッチ・メカニズムを利用することを推奨しています。また英ポンドLIBORベースの債券の移行については、契約条件の変更について債券保有者の過半数から同意を得るという同意要請プロセスの概要を示しています。
金融機関は、既存のLIBOR参照ローンの代替指標金利への移行についてフォールバック条項をあてにすべきではありません。金融機関が移行戦略を策定する際には、取引先と合意できる契約条件で事前移行することによるメリットの他、(フォールバック条項に依拠することで)大量の契約のフォールバック処理を行わなくてはならなくなるという運用上の課題も考慮すべきです。
大手事業会社にも同様の対応が推奨されており、特にデリバティブでローンをヘッジしている場合は、既存のLIBOR参照ローンの移行を積極的に検討すべきです。コンベンションの違いやフォールバック条項が発動されるタイミングの違い、企業のキャッシュフローが悪化する可能性、オペレーション、さらにはヘッジ会計への影響を考慮すると、企業はその不確実性が解消するまで待っていると、価値移転を含む関連リスクを軽減することがますます困難になる可能性があると考えられます。
同WGによる借り手に直接働きかける取り組みは、企業の意識を高め、移行に向けより広く関与させる試みの始まりに過ぎません。全体的な移行のスピードは、最も動きの遅い者によって決まることから、積極的な移行には全ての関係者の自発的な参加が必要です。移行の議論に借り手を参加させたいと考えている貸し手にとって、今回のWGのガイダンスは借り手との会話を促進する上で有用と言えるでしょう。
ARRCは、推奨するLIBORのフォールバックスプレッド調整[PDF 597KB]とSOFRタームレート[PDF 173KB](同委員会がSOFRタームレートを支持することを決定した場合)の公表に携わるベンダーの選定に関し、それぞれ提案依頼書(RFP)を発出しました。
調整スプレッドの公表に関するRFPでは、現在使用されているLIBORのさまざまなテナーに対応するARRC推奨の調整スプレッドと、スプレッド調整された金利を、日次で計算し公表することを示唆しています。公表されるデータには、後決め複利SOFR(担保付翌日物調達金利)、日次単利SOFR、前決めSOFR、SOFRタームレートなど、SOFRの異なるバージョンに対するスプレッド調整後金利が含まれます。これらの情報は2021年3月31日までに無料で一般公開される予定です。
SOFRタームレートの公表に関するRFPは、1カ月と3カ月のSOFRタームレートを日次で計算するための方法論とデータソースの提案をベンダーに要求しており、実現可能性に応じて6カ月または1年タームレートも公表するとしています。2021年6月30日までの公表開始が目標とされています。
RFPへの回答期限は、それぞれ2020年10月16日と10月31日です。
今回のRFPの発出は、現時点では形式的なものと考えられるかもしれませんが、LIBORからの移行に向けたより具体的な進展を反映したものです。予想されていたことではありますが、契約に参照できるスプレッド調整後SOFRが公表される見込みが示されたことで、計算された調整スプレッドの公式データソースが将来的に入手可能になることを待ち望んでいる企業はさらなる確証が得られることになります。
しかしこのRFPの提示が、2021年第2四半期末までにタームレートが実際に利用可能になることを保証するものではないということには注意しなければなりません。また、SOFRタームレートに期待しSOFR参照ローンの新規発行を遅らせている企業は、ARRCが目標としているLIBOR参照ビジネスローンの新規発行停止日の2021年6月30日に間に合わない可能性が高くなります。
タームレートを選好するかどうかにかかわらず、後決めSOFRを利用したローンに対応する能力を確立できていない企業は、競争上の優位性を失う可能性があります。後決めSOFR参照ローンがビジネスローン市場に定着しないシナリオは考えにくいでしょう。例えば、Loan Syndications and Trading Association(LSTA)は先日、日次単利(daily simple)SOFRや日次複利(daily compound)SOFRのローン契約書の雛形を公表したばかりです。企業は、SOFRタームレートが使用可能になった際にはこれを採用する予定だとしても、今のうちにツールやガイダンスを活用して、後決めSOFRを使いローンの発行ができるようにしておくべきでしょう。
ARRCは、SOFR価格調整利息(Price Alignment Interest:PAI、変動証拠金に支払われる利息)と割引金利を実効フェデラル・ファンドレート(EFFR)からSOFRに切り替えることにより影響を受けるスワップションの自主的補償に関する推奨の改訂版を公表[PDF 225KB]しました。この切り替えによりスワップションの評価が変化する可能性を踏まえ、ARRCは以前から、契約当事者が影響を受ける既存のスワップション契約を国際スワップデリバティブ協会(ISDA)のSupplement 64(現金決済のスワップションの割引金利を指定できるようにするもの)の対象とした上で、価値変化を相殺するための現金補償を行うことを推奨してきました。 ARRCは市場参加者の多くがこのような自主的補償の推奨案を支持する可能性は低いことを認めて当初の提案を修正し、補償案に合意できない当事者は、少なくとも既存スワップション契約を修正してISDA Supplement 64の対象とし、割引金利にSOFRを指定することを提案しています。
予想されていた通り、ARRCによる自主的補償案を採用する市場参加者は限定的であるようです。各契約当事者の行動は、補償の支払い側になるか受け取り側になるかによって異なる可能性があり、また法的拘束力がないことを踏まえれば、この結果は驚くべきものではありません。ARRCの改訂推奨案は、市場参加者がISDAのSupplement 64を利用し、割引金利としてSOFRを指定することを事実上示唆しています。これにより現在の補償プログラムに関する議論が解決するわけではありませんが、PAI/割引金利変更後の既存スワップション契約の評価が明確になり、契約当事者間における法的紛争の可能性は低くなるでしょう。
※本コンテンツは、PwCが2020年9月に発刊した「LIBOR Transition Market update: September 1-15, 2020」の一部を抜粋し翻訳したものです。
今号ではFRBが公表したLIBOR法の施行案、英国FCAによる英ポンドシンセティックLIBORの公表停止時期にかかる市中協議のほか、米ドルシンセティックLIBORを巡る議論について取り上げます。
今号では、カナダ銀行間取引金利(CDOR)の公表停止の発表と米ドルLIBORスワップの事前転換について解説します。
今号では米国財務会計基準審議会が発表したLIBOR移行ガイダンスの「サンセット日」を2022年12月31日から2024年12月31日に延長し、ヘッジ関係で使用できる金利指標のリストを修正し、SOFRに基づく金利を追加する提案の公開草案について取り上げます。
今号では米国におけるLIBOR法案の可決と、米国フェデラルファンド(FF)金利の引き上げによるSOFRレートの動き、ISDAのイベントにて業界関係者より発信された米ドルLIBORの公表停止に向けた対応などにかかるコメントを取り上げます。