LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2020年8月16日~31日)

主要通貨・国・地域におけるLIBOR移行および金利指標改革の進捗状況や主要動向にかかる分析をまとめたレポートのサマリーです。今号では、ARRCが公表した相対ビジネスローンのフォールバック推奨案やLIBORを参照する住宅ローン・学生ローンに対するガイドの他、IASBによる金利指標改革に伴うIFRSの改訂について解説します。

1.ARRCが相対ビジネスローンのためのフォールバック条項とシンジケートローンコンベンションの技術的な参考資料を公表

米国代替参照金利委員会(ARRC)は、新規の相対LIBOR参照ビジネスローンのフォールバック条項の推奨案を更新[PDF 127KB]しました。シンジケートローンの場合と同様に、ハードワイヤードアプローチは、タームSOFR(担保付翌日物調達金利)に続くウォーターフォールの第2順位を複利SOFR(adjusted compound SOFR)から単利SOFR(adjusted simple SOFR、すなわち複利なしの日次計算)に置き換えるよう変更されました。また、今回の更新では、LIBOR公表停止時に新たな指標金利の交渉を要求する修正アプローチを廃止し、LIBORの正式な停止前にLIBORをSOFRに置き換えることを可能にする早期オプトイントリガーの許容範囲を拡大しています。さらに、ARRCは、ヘッジドローンアプローチ(クレジット契約と関連するスワップ契約との間の調整を容易にするオプション)に指標金利のフロア(調整レート)を追加しました。

上記に加え、ARRCはシンジケートローンの利息計算方式(コンベンション)に関する推奨事項を補足する技術的な参考資料(technical appendices)を公表[PDF 554KB]しました。この資料では、これまで検討されてきたさまざまなコンベンションに関する議論の他、多様なコンベンションの下での日々のキャッシュフローと経過利息の計算例を示す補足的なスプレッドシートが紹介されています。

PwCの見解

シンジケートビジネスローンのフォールバック条項やコンベンションと同様に、ARRCが更新した相対ビジネスローンのフォールバック推奨事項には、ビジネスローンにおけるLIBORからSOFRへの移行をいかに運用すべきかについて市場参加者から寄せられた幅広い意見、メリット、課題が反映されています。また、この推奨事項は、単一の画一的なアプローチを示すものではなく、市場参加者が自社のビジネスモデルや具体的なニーズ、運用能力に沿った戦略を立案する際に検討すべき選択肢を提供するものです。このような選択肢はつまり、市場参加者が多くの異なるコンベンションに対応する必要がある可能性を示唆しています。これは特に利息計算にかかわるさまざまなアプローチ(ARRCはその差異を「本質的に僅少」と見なしている)において当てはまるでしょう。これにより金融機関は大きな経済的差異の発生を懸念することなく、さまざまなコンベンションやアプローチを柔軟に選択し、借り手のニーズに対応できることから、どれか一つのコンベンションが直ちに統一された共通の業界標準となることは考えにくいと言えます。

現在、多くの金融機関がリスク・フリー・レート(RFR)ローン商品の取引を行うための業務プロセスを構築しています。金融機関は、一つのソリューションだけに取り組み、一つのコンベンションに落ち着くのではなく、コンベンションに柔軟性を持たせた戦略を講じる必要があります。そのためには、貸し手の多様なニーズや今後登場し得る業界標準に対応した複数のアプローチを採用できるような、オプション性のある戦術的なソリューションの開発も求められるでしょう。

2.IASBが金利指標改革プロジェクトのフェーズ2を完了

国際会計基準審議会(IASB)は、金利指標改革に関するプロジェクトのフェーズ2を完了し、既存のベンチマークが代替指標金利に置き換えられた場合に生じる問題に対処する国際財務報告基準(IFRS)の改訂を公表しました。

今回の改訂は、特定のヘッジ会計要件の適用を一時的に緩和する、2019年9月に公表されたフェーズ1のガイダンスを踏襲しています*。フェーズ2では以下に示すIFRS第9号、IAS第39号、IFRS第7号、IFRS第4号およびIFRS第16号に対する改訂が行われています。

*IASBフェーズ2の改訂の詳細は、In brief:Phase 2 amendments to IFRS 9, IAS 39, IFRS 7, IFRS 4 and IFRS 16 –interest rate benchmark (IBOR) reform[PDF 137KB]を参照ください。

  • 金利指標改革により必要とされる金融資産、金融負債、リース債務の契約上のキャッシュフローを決定するための基準が変更された場合、即時の損益認識をせずに(将来にわたって)実効金利を更新することを認める。
  • 金利指標改革によりヘッジ指定の変更が必要とされる場合は、特定のヘッジ会計要件を免除する。つまり、改革のためだけにヘッジ関係を廃止する必要はないが、非有効部分は計上しなければならない。
  • 金利指標改革の影響に関する追加的な開示を企業に要求する。これにより、企業がその影響と関連リスクをどのように管理しているかを投資家が理解できるようにする。

これらの緩和は、金利指標改革によって発生する変更に限定されています。つまり、金利指標改革の直接的な結果として必要とされる変更であり、かつ、変更の結果としてキャッシュフローが変更後と経済的に同等でなければなりません。フェーズ2の改訂は、2021年1月1日以降に開始する事業年度から適用されますが、早期適用が認められています。

欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、2020年9月7日をコメント提出期限とする承認書案[PDF 519KB]を速やかに公表しました。同日、EFRAGは公開のアウトリーチイベントを開催し、承認書案に対するフィードバックを得る予定です。

PwCの見解

IASBのガイダンスの最終化は、規制当局による金利指標改革の影響を緩和するためのさまざまな取り組みの中で一つの節目となるものであり、会計上の観点から混乱を招くことなく、新しい指標金利への円滑な移行を可能にするものと考えられます。2020年後半には多くの金融機関が早期に適用を開始することで、RFRローンへの自主的な移行が促進されると予想されます。

企業は、LIBORを参照する既存(レガシー)契約の修正に向けた戦略やプレイブックを最終化するにあたり、IASBの修正の適用範囲を検討することが重要となるでしょう。契約文言の修正や再交渉を行う際には、緩和の対象となる変更の種類を考慮する必要があります。さらに、キャッシュ商品やそれに対応するデリバティブ契約の変更のタイミングの違いによっては、ヘッジ指定の変更が複数回必要となる可能性があり、そのような変更は慎重にモニタリングする必要があります。他の多くの機能横断的な相互依存関係と同様に、企業はLIBOR移行を管理するさまざまなワークストリーム間のコミュニケーションと調整が求められるでしょう。

米国では、今年初めに米国財務会計基準審議会(FASB)が独自の修正案を発表し、他の規制当局がスワップ取引に関連する税務上の影響や当初証拠金の要件に関する救済措置を提案しています。FASBとIASBの救済措置の目的は概ね一致しており、どちらも金利指標改革の取り組みに起因する変更による混乱を回避しようとするものです。しかし、FASBの救済措置は、トピックごとに適用される場合もあれば、便宜上、ヘッジ関係ごとに適用される場合もあるなど、いくつか注意しなければならない相違点があります。

3.ARRCがLIBOR参照の変動金利型住宅ローンと学生ローンのためのガイドを公表

ARRCは、LIBORを参照する既存(レガシー)の変動金利型住宅ローン(ARMs)と民間学生ローンの移行ガイドを公表[PDF 652KB]しました。本ガイドはレガシー契約のLIBORから代替基準金利への移行をサポートするもので、利用可能な参照情報の要約、推奨タイムライン、移行の影響に関する考慮事項、テンプレートのサンプルが含まれています。また、米国連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)と米国連邦住宅抵当貸付公社(フレディマック)が2020年初めに共同で発表したフォールバック条項、ARMsにおけるSOFRの使用規定、およびSOFRインデックス付きARMsのLIBOR移行プレイブックに関するガイダンスを補完するものでもあります。幅広いステークホルダーを支援することを目的としており、借り手、貸し手、ベンダー、債権回収会社(サービサー)、投資家、その他のステークホルダーに配慮した内容となっています。

PwCの見解

従来型のARMsの新規発行におけるLIBORからSOFRへの移行のタイミングと運用方法は、政府支援機関(GSEs)とARRCが発表したガイダンスによりすでに明確になっています。今回公表されたリソースガイドは、既存の資料を要約したものとして有用ではあるものの、市場参加者が確認を求めている全ての未解決の問題に答えるものではありません。例えば、消費者向け商品については、消費者ローンの金利移行に伴う支払金利の段階的な変更を可能とするためにLIBORからSOFRへの移行に1年間の期間を設けることが提案されていますが、この実施方法についての推奨ガイドラインをARRCはまだ提示していません。また、市場参加者は、LIBOR公表停止が既存(および新規)の政府系住宅ローンや不動産担保証券(MBS)商品にどのような影響を与えるかについて、米国連邦住宅局(FHA)と米国政府抵当金庫(ジニーメイ)からの指示を待っています。リバースモーゲージローンや証券の大半はLIBORに連動していることから、LIBORからの脱却に向けて、通常の政府系住宅ローン商品とリバースモーゲージの両方に関わるさまざまな関係者を支援するためには、さらなるガイダンスが必要となるでしょう。

本ガイドは、全ての市場参加者、特にサービサーには必読の内容と言えます。現在の危機に伴う債務者の返済計画の調整支援や、2021年初めには大量の債務者が返済計画から離脱することが予想されるなど、対応事項の優先順位が拮抗する中、サービサーはLIBOR移行計画の立案と実行を早急に行う必要があります。現在、消費者金融保護局(CFPB)を含む規制当局がLIBORの公表停止に向け積極的に準備を進めており、サービサーは規制環境の変化を十分に認識した上で、移行に臨む必要があります。サービサーは、指標金利の変更を債務者に伝える責任と、そのために必要とされるポートフォリオ内の契約条項の理解度という面において、LIBOR移行における自らの役割を過小評価してはなりません。

4.MASのSORA建てFRN

シンガポール金融管理局(MAS)は、シンガポール銀行間取引金利(SIBOR)とシンガポールスワップオファーレート(SOR)の代替として推奨されているシンガポール翌日物金利平均(SORA)に連動する変動利付債(FRN)、5億シンガポールドル分の入札を実施しました。

これは、MASが発表[PDF 359KB]したばかりのSORAインデックスを参照するFRNの一連の発行の第一弾となります。MASのFRNは、2日間のバックワードシフトの複利平均を採用しており、利回り期間終了前にクーポンの支払いが分かるようになっています。

PwCの見解

今回のFRN発行は、シンガポールのSORA市場の発展を促進するためにシンガポールSORA移行運営委員会が提案した移行スケジュールに沿ったものです。次回のFRN発行は2020年9月8日に予定されていますが、これらのFRN発行は、市場におけるSORAに連動するキャッシュ商品のさらなる発行を促進するものと予想されます。

今回、MASの選択したコンベンションが、新RFRに連動するFRN発行にかかる業界標準の変化を示唆するものであるかはまだ分かりません。これまで金融機関やGSEsがポンド翌日物平均金利(SONIA)やSOFRなどの他のRFRに連動してFRNを発行する際には、最近発行されたSOFR建てFRNのように、5日間のバックワードシフトやペイメントディレイなどさまざまなコンベンションが採用されてきました。

同様に、米国財務省が先般行ったSOFR建てFRNの発行可能性に関する市中協議において、市場参加者はバックワードシフトを選好することが明らかになりました。米国財務省が1年物のSOFR建てFRNの可能性を探り続ける中で、MASが示した成功例は、市場規模が小さいとはいえ、米国市場における同様の発行の機運を加速させる可能性があります。

5.JIBARの終焉

南アフリカ準備銀行(SARB)の市場実務家グループであるリスク・フリー・レート・ワークストリーム(Market Practitioners Group Risk-Free Reference Rate Work Stream)は、ヨハネスブルグ銀行間金利(JIBAR)に代わる代替指標金利についての推奨を公表[PDF 2,029KB]しました。同グループは、コール預金をベースとした無担保翌日物金利と、現行の債券レポをベースとした有担保翌日物金利の両方の開発を提案しています。SARBは、これらの代替案を順次採用することを支持しており、キャッシュ商品およびデリバティブ商品のJIBARに代わる無担保金利の候補としては、まず南アフリカランド翌日物インデックス平均(ZARONIA)を採用することを推奨しています。また推奨する担保付き翌日物金利として、南アフリカ有担保翌日物ファイナンス金利(ZASFR)が支持されています。

PwCの見解

無担保および有担保の代替指標金利の正式な推奨が公表されたことにより、南アフリカ金融市場における金利指標改革の道筋は明確になるはずです。ZARONIAの基礎となっている計算方法は、他の法域において代替指標金利として提案されている無担保翌日物金利が採用する方法と概ね一致しています。そのため現地の銀行は、このような金利を運用するための仕組みにはある程度精通しているはずです。推奨される代替指標金利および全体的な移行ロードマップと、他の主要通貨で採用されているこれらの取り組みとの整合性を取ることで、南アフリカにおける代替指標金利の採用が促進されるでしょう。同時に、現地の市場参加者はJIBARからの移行に伴うリスクの管理を模索するにあたり、世界の他の地域における移行努力から得られた学びを生かすことができます。

※本コンテンツは、PwCが2020年8月に発刊した「LIBOR Transition Market update: August 16 - 31, 2020」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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