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主要通貨・国・地域におけるLIBOR移行および金利指標改革の進捗状況や主要動向にかかる分析をまとめたレポートのサマリーです。今号は、移行できないレガシー契約に対処するためのEC立法案やECBによる複利€STR平均金利の公表にかかる市中協議などについて解説します。
ユーロ市場における新しいRFR(リスクフリーレート)への移行は重要な節目を迎えました。中央清算機関(CCP)は、ユーロ建て金利スワップの価格調整利息(Price Alignment Interest: PAI、担保に支払われる利息)を計算するためのレートをEONIAから€STRに変更しました。この結果、将来のキャッシュフローは€STRで割り引くことになります。この変更は大きな問題なく完了したとされています。
市場参加者は2020年10月17日の週末に予定されている、実効フェデラル・ファンドレート(EFFR)からSOFRへの米ドル金利デリバティブのクリアリングの切り替えに向けて準備を進めており、現在、金融界の注目は米ドルデリバティブ市場に集まっています。直近のCFTC(米商品先物取引委員会)市場リスク諮問委員会(MRAC)の会合では、金利ベンチマーク改革小委員会が、今年初めに実施した割引率の切り替えに関する机上演習から得た知見をまとめた報告書[PDF 245KB]を提出しました。この報告書の主な論点は以下の通りです。
報告書の付属書には、2つの主要な清算機関であるCMEとLCHが提案する割引率の切り替えアプローチの概要が含まれていますが、その仕組みはEONIAから€STRへの切り替えとは異なっています。主な相違点は、企業のポートフォリオが保有するデリバティブのディスカウンティング・リスク・プロファイルの変化に対する追加的な補償として、現金支払いに加えベーシススワップを使用すること、またこれらのベーシススワップと同時にアンワインド(解消)を希望する参加者のためのオークションプロセスを採用すること、および現金補償額の計算方法などが挙げられます。
割引率の切り替えは、金融システムに€STRを定着させるための出発点に過ぎません。予想通り、この変更により€STR建てデリバティブ取引が即座に増加することはなかったものの、最終的には€STR建てスワップは7月に記録的な取引量となりました。
市場参加者は、主に補償金の検証と支払事務に重点を置いて内部システムとプロセスの運用準備をしており、移行に向けた準備は全般的に十分であったようです。10月のSOFR割引率への切り替えへと意識を移した企業は、少なくとも今回と同レベルの準備を行うべきでしょう。SOFR割引率への切り替えは、さらなる複雑さを伴うものと考えられ、軽視すべきではありません。EONIAと€STRのディスカウントカーブは両者の間の固定スプレッドにより定義上平行であり、昨年10月以降、EONIAは「€STR + 8.5bps」となっています。一方、EFFR曲線とSOFR曲線は両者の間のスプレッドが固定ではなく期間構造が異なるため、参加者のポートフォリオへの影響を計算し、補償するための清算機関のアプローチは著しく複雑になります。これらの課題にいかに対処するか、そして関連するヘッジと会計上の影響は依然として多くの企業における懸案事項です。MRACの報告書が強調しているように、オークションのタイミングやベーシススワップの受領をオプトアウトする機能など、2つの主要な清算機関が採用しているアプローチの間には、さらに微妙な違いがあります。こうした違いによって、特にLCHとCMEの両方にエクスポージャーを持つ多くの参加者にとっては、さらに複雑さが増すでしょう。
清算機関と業界団体は、市場参加者への教育を充実させるようにというMRACの呼びかけに同調すると考えられます。移行の準備を進めている組織は、今後提供される可能性のある追加的ガイダンスを準備の一環として取り入れるよう検討すべきでしょう。
欧州中央銀行(ECB)は、2019年7月に単一監督メカニズム(SSM)の下で監督する銀行に対しDear CEOレターを送付してから1年以上が経過したところで、金利指標改革に対する銀行の準備状況に関する水平的レビューの結果[PDF 54KB]を公表しました。
ECBは報告書の中で、銀行は金利指標改革に関連するリスクを概ね認識していたと述べる一方で、これらリスクに対応する削減措置の策定と進捗状況の遅れについて批判しています。さらに、銀行がユーロ圏で最も広く使われているベンチマークであるEURIBORにあまり注目していないことに対し懸念を表明しました。
ECBは、代替金利指標への移行に向けた準備を行う金融機関を支援するツールとして、銀行のベストプラクティスに関する報告書[PDF 89KB]も発表し、ガバナンス構造、リスク識別アプローチ、行動計画、予算編成、業界動向の把握などに関するガイダンスと考慮すべき事項を提示しています。
銀行は、ECBが水平レビューの結果公表にレター送付から1年以上要したことを、ECBの関心や関与の欠如と解釈すべきではありません。€STRへの割引率の切り替えやISDAフォールバックプロトコルなど、EONIAからの移行に関する主要なマイルストーンが完了した今、銀行は特にEURIBORからの移行に関連して、規制当局から移行の計画と活動に関しさらなる問い合わせがあることを想定しておくべきでしょう。
ここ数週間の規制当局の発言トーンや率直さは各国で異なるかもしれませんが、市場参加者に対するメッセージの核心は同じです。すなわち、市場参加者は残課題の進捗チェックを受ける準備をしておくべきであり、準備ができていない場合は、移行の残りの期間中、継続的に一層注視されるということです。例えば、米国代替参照金利委員会(ARRC)は、最新のニュースレター[PDF 304KB]の冒頭で、米国連邦金融機関検査協議会(FFIEC)、米通貨監督庁(OCC)、米証券取引委員会(SEC)を含む規制当局が、検査の一環としてLIBORからの移行を重視する傾向が強まっていると強調しています。これまでに移行計画やLIBORエクスポージャー、移行リスクを軽減するためのアプローチについて詳細な議論をしていない企業は、法域を問わず、監督当局と厳しい対話を行わなければならなくなる可能性が高いと思われます。
規制当局の監視という点以外でも、移行に向けて積極的に準備をしていない、あるいは不完全なソリューションに対応するための戦術的アプローチを策定することを躊躇している金融機関は、LIBOR移行の過程において、より困難かつ高リスクの事象に直面しがちだと考えられます。LSTA(Loan Syndications and Trading Association)は、LIBOR移行に関する最新のオンラインセミナーにて、頭を砂に隠すダチョウの写真を紹介し、現実から目を背けることなく、LIBOR移行に向けた取り組みを進めることを提言しています。
ARRCは、シンジケート・ビジネス・ローンにおける後決めSOFRの使用に関する推奨コンベンションを公表[PDF 211KB]しました。このガイダンスでは、推奨方法を一つに収斂させるのではなく、新しいSOFRシンジケートローンの単利および複利それぞれのコンベンションを明確にしています。ガイダンスでは、営業日のルックバック、観測期間のシフト(Observation Shift)、日数計算(Day count)のルールや桁数の四捨五入など、その他のコンベンションについて具体的な推奨を行っていますが、ARRCはその選択を市場参加者に委ねています。
本ガイダンスを補足する追加の技術的な参考資料や市場からのフィードバックは別途公表される予定です。
さまざまな企業が異なる選択をするため、市場参加者はキャッシュ商品の複数のコンベンションに備える必要が出てくるでしょう。ARRCの推奨は、特定の市場参加者やLSTAのような業界団体からのフィードバックを考慮し、意図的にバランスを取ろうとしているようです。日次の複利計算(daily compounding)は、多くの参加者がローンの金利リスク管理に使用しているヘッジ手段であるデリバティブ市場で確立されたコンベンションに沿っており、ローンの資金調達にかかる財務コストをより正確に表したものであると認識されています。一方、日次の単利計算(daily simple interest)は、期間内取引や繰上返済に関連した経過利息など、シンジケートローン市場の既存のコンベンションを崩すことなく、運用が容易なソリューションとなっています。この2つのコンベンションの経済的な違いが比較的小さいこと(一部は現在の低金利環境の影響もある)を踏まえると、少なくとも短期的に、精度の低下と運用の容易さの間のトレードオフを受け入れようと考えている市場参加者もいるようです。
新たな業界標準が存在しない中で、多くの市場参加者は、戦術的にも戦略的にも、両方のコンベンションをサポートする能力を開発する必要があるでしょう。今後数カ月の間にさまざまな商品の登場が予想されますが、業界が最終的に単一のコンベンションに収束するかどうかはまだ分かりません。
欧州委員会(EC)は、LIBORの停止前に移行・修正ができないLIBORベースのレガシー契約(他国の同様の提案では「タフレガシー契約」とも呼ばれている)の問題に対処することを目的としたEUベンチマーク規制(BMR)の改正案[PDF 362KB]を公表しました。本案は、今年初めに実施された影響度評価[PDF 2,337KB]に基づき、LIBORが停止した場合にLIBOR(または他の重要なベンチマーク)への契約上の代替参照レートをECが指定することを可能にするものです。
代替レートは、英ポンドLIBORの代替としてのSONIAや、米ドルLIBORの代替としてのSOFRなど、さまざまな代替基準レート委員会の勧告を十分に考慮して選択されます。タフレガシー契約のためのこのソリューションの適用範囲は、ECの監督下にある事業体が締結した契約に限定されます。
本案は商品に関わらず、フォールバック条項がない、または不十分なLIBORベースの契約に適用され、当事者に相互のオプトアウト条項を提供するという点で米ARRCが提案したものと類似しています。
本案は、発効前に欧州議会および欧州理事会の間で協議される必要があり、その結果、重大な修正が行われる可能性があります。ECは、LIBOR停止前に最終的な結論を出すために、これらの協議を迅速に進めたいとしています。
規制当局は、ECやARRCが提案する法的救済の形であれ、FCAが提案するシンセティックLIBORの公表の形であれ、これらの法案を頼りにするのは最後の手段と考えるべきであることを明確にしてきました。このようなソリューションがLIBOR停止前に完全に制定されるかどうかは不確実であり、またこのようなソリューションに依存している市場参加者は、レガシー契約の移行条件に対するコントロールを実質的に規制当局に譲ることになります。さらに、さまざまな提案が法域を超えてどのように相互に作用するのか、訴訟の可能性、ソリューションの範囲などについても未確定のままとなっています。
これらのリスクを軽減するために、市場参加者は可能な限り積極的に契約の移行を行うべきです。先日PwCが開催したオンラインセミナー*で実施したアンケート調査の結果(下図参照)は、この見解を支持しています。レガシー契約の変更戦略について質問したところ、変更戦略を実施している回答者の75%が、変更戦略の中にLIBORの停止に先立った積極的な変更の要素を含めていると回答しました。シートベルトは必要ですが、それよりも、シートベルトが必要ない状態にする方が好ましいのは明らかでしょう。
※当該オンラインセミナーの録画映像はこちらより視聴可能です(登録要)。
ECBは、€STRの幅広い利用を奨励・支援し、BMRの対象となる市場参加者がEUR LIBORまたはEURIBOR参照契約のフォールバック条項で参照可能なレートを提供するために、複利€STRの平均金利とインデックスの公表に関する市中協議を発表[PDF 289KB]しました。ECBは、1週間、1カ月、3カ月、6カ月、12カ月の満期におけるバックワードルッキングの平均金利を計算・公表するための方法論と方式についてのフィードバックを求めています。€STRインデックスは、€STRの最初の公表日である2019年10月1日から、1ユーロを日次複利で計算した値を集計することになります。
国際的な整合性を促進するため、ECBの提案する方式は、イングランド銀行(BOE)とニューヨーク連邦準備銀行(FRB NY)がそれぞれSONIAとSOFRで同様に平均金利とインデックスを計算・公表する際に採用しているコンベンションと緊密に整合しています。
市中協議へのコメントの受付は2020年9月11日までとなっており、結果は3週間後に公開される予定です。
ECBの発表のタイミングが銀行のベンチマーク改革への準備に関する報告書と同時になったことは、全くの偶然ではないかもしれません。この提案は、ローン商品におけるフォワードルッキングなタームレートであるEURIBORの代替として複利€STRを声高に宣伝することで、EURIBORの将来が非常に不確実なものであることを想起させる役割を果たしているように思われます。
ECBの提案は、BOEとFRB NYがそれぞれ行っている、SONIAあるいはSOFRのバックワードルッキングの平均金利またはインデックスを公表する取り組みを反映しています。これらの取り組みは市場参加者から高く評価されており、コメントの大半がECBの取り組みを支持するものになると予想されます。
(平均金利の)公表は市場の一部では確かに有益ですが、普遍的な解決策を提供するものではありません。他のRFRで公表された、または公表される予定の平均金利と同様に、提案されている方法論は、金利計算期間の終了時に日次金利のいずれかを定められた日数だけ固定化するロックアウト方式など、異なる計算方法に基づく貸出のコンベンションとは相容れないことに変わりはありません。
シンガポール銀行協会(ABS)、シンガポール外国為替市場委員会(SFEMC)、シンガポールSORA移行運営委員会(SC-STS)は、シンガポールにおけるSIBOR改革と金利指標の将来について報告書[PDF 556KB]を発表しました。報告書では、改革されたSIBOR(「ニューポールドベンチマーク」とも呼ばれる)とリスクフリーの代替金利指標であるシンガポール翌日物金利平均(SORA)が共存する複数金利環境は想定せず、3、4年後にはSIBORを廃止し、SORAを主要な金利指標とすることを推奨しています。
今後を見据え、ABS-SFEMCとSC-STSは、SORA市場の流動性の向上を最優先に、SORAへの移行に向けた段階的なアプローチを提案しています。デリバティブ市場においてSORからSORAへの移行が進んでいることや、2020年第2四半期と第3四半期にビジネスローンとリテールローンのパイロットディールが実施されていることを踏まえ、銀行には今後、より多くのSORAローンを立ち上げ、顧客へのアウトリーチと教育活動を強化することが期待されています。
多くのアジア太平洋諸国が金利指標について複数金利方式を採用しており、既存のIBORを改革しながら、新たなリスクフリーの翌日物金利を金利指標として導入しています。このような複数金利環境の課題は、銀行の資金調達が銀行間の無担保ターム物から構造的に変化することで、IBORの流動性が低下していることです。無担保ターム資金調達とオーバーナイト市場の両方で流動性を維持することは、特定の市場においては不可能ではなくとも困難であるといえます。この報告書は、シンガポールが単一の翌日物金利指標に向けた第一歩を踏み出したことを示すものであり、翌日物金利市場における金利の頑健性を維持するための流動性に焦点を当てています。
企業は、このガイダンスに沿って移行計画を見直し、適応させることに注力すべきでしょう。ローン市場における金利指標としてのSIBORの継続的な利用可能性に依存していた企業は、SORAに連動した新しいローン商品を開始するためには何が必要なのか分析を急ぐべきです。企業は、新商品開発に関連した戦略的な意味合いを考慮するだけでなく、システムやプロセスの運用面で準備ができているかどうかも評価する必要があるかもしれません。SORA建て貸出のコンベンションに関する追加ガイダンスは2020年第3四半期の後半に公表される予定ですが、企業はすでに、他の国や通貨での議論や公表されたガイダンス、新たなコンベンションを活用して、移行計画のための情報を得ることができます。
※本コンテンツは、PwCが2020年7月に発刊した「LIBOR Transition Market update: July 16 - 31, 2020」の一部を抜粋し翻訳したものです。
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