LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2020年6月1日~15日)

主要通貨・国・地域におけるLIBOR移行および金利指標改革の進捗状況や主要動向にかかる分析をまとめたレポートのサマリーです。今号は、米消費者金融保護局によるレギュレーションZの改正提案などについて取り上げます。

1.CFPB LIBOR移行ガイダンス

米国の消費者金融保護局(CFPB)は、LIBORからの移行を促進するため、LIBORと比較可能な代替指標金利を規定するレギュレーションZの改正を提案しました。本提案では、オープンエンド型のクレジット商品について、USD LIBORの代替として、プライムレートとオーバーナイト・ファイナンス・レート(SOFR)を例示しています。住宅ローンについても、提案の中でSOFRを例に挙げています。

今回の修正により、LIBORの公表継続の有無にかかわらず、貸金業者がHELOC(Home Equity Line of Credit)やクレジットカード契約の基準金利としてのLIBORを2021年3月15日から早期に置き換えることが可能となります。

CFPBは、改正提案をまとめたファクトシートや、LIBOR移行がさまざまな消費者保護規則に与える影響に関するFAQを発表した他、「調整可能金利住宅ローン(CHARM)に関する消費者ハンドブック」の小冊子を更新しました。規則案に対するコメントは、8月4日が期限となっています。

PwCの見解

LIBORを参照する消費者ローンでは、一般的に、LIBORが停止した場合には、貸し手が「比較可能な」代替指標を指定できるようになっています。その結果、市場参加者からは、「比較可能」とは何を意味するのか、また、この表現によって、LIBORと代替レートの経済的差異を考慮して、代替レートに適用されるスプレッドを変更することができるのではないか、との疑問の声が上がっています。レギュレーションZの修正案は、SOFRにスプレッド調整を加えたものを規制上の比較可能な指標とみなすというCFPBの見解を成文化するものです。

予想されているLIBOR公表停止の前に、オープンエンド型消費者ローンの基準金利の切り替えを認めることで、CFPBは代替基準金利への移行を積極的に推進しています。これらの商品の基準金利の切り替えについては、LIBORの公表停止に先立ち、多くの金融機関で検討されることが予想されます。これにより、LIBORを参照する他の商品の移行準備を担う同様のシステム、事務、法務のリソースを削減することができるため、プロジェクト運用上のメリットがあると考えられます。

2.FRB議長Jerome PowellのAMERIBORに関する米上院質問への回答

連邦準備制度理事会(FRB)のPowell議長は、広く引用された書簡の中で、Tom Cotton上院銀行委員会委員からのAMERIBORに関する質問に答えました(以下引用参照)。Powell議長は、AMERIBORが銀行の資金コストを反映する場合には適切な代替指標金利となる可能性があることを認めましたが、USD LIBORの代替金利として代替基準金利委員会(ARRC)が推奨したのはSOFRであることを繰り返しました。

『FRBは、ARRCを支持しており、SOFRがLIBORからの移行において多くの市場参加者をサポートする強固な代替手段であると考えています。しかしながら、われわれは、ARRCの推奨とSOFRの利用は自主的なものであり、市場参加者はそれぞれの状況に応じた最も適切な方法でLIBORからの脱却を目指すべきであることを明確にしてきました。

AMERIBORは、国際証券委員会(IOSCO)の金融指標に関する原則を満たす、まとまりのある明確な市場に基づいて米国金融取引所(AFX)が作成した基準レートです。AFXを通じて自己資金を調達している銀行や、AMERIBORが資金調達コストを反映する可能性のある他の類似機関にとっては、完全に適切なレートではありますが、多くの市場参加者にとっては自然な形ではないかもしれません。』

出典: Powell連邦準備制度理事会議長からCotton上院議員への書簡 (2020年5月28日)

PwCの見解

Powell議長のコメントに関する報道は、AMERIBORが多くの場合で銀行の資金コストを反映していない可能性があるにもかかわらず、「完全に適切」というフレーズを持ち出して、AMERIBORを無条件に支持するものとして捉えているように見えます。さらに、Powell議長のコメントは、推奨の自主的な採用を一貫して指摘してきた規制当局やARRCのスタンスの変化を反映しているとは思えません。

先日、PwC米国が実施したLIBORからSOFRへの移行に関するオンラインセミナーでは、83%の出席者が、USD LIBORの代替金利としてSOFRのバージョン(後決複利、後決単純平均、先決ターム物)が登場すると予想していると回答しました。

SOFRを原資産とする1日平均取引量が1兆米ドルを大きく超えているのに対し、2019年末のAMERIBORの基礎となる1日平均取引量は約20億米ドルとなっています。これらの調査結果は、1日の取引量を共通の指標とすると、ほとんどの企業ではSOFRの方が資金調達コストをよりよく反映している可能性があるという考え方と一致しているようです。

以前「USD LIBOR transition to SOFR Making it happen[PDF 1,063KB]」にて、SOFRの利用とそれに伴う資金調達の意味合いについてコメントしましたが、SOFRが貸出市場で大きな役割を果たすと確実視されていることから、企業は、SOFRへのエクスポージャーを持つ資産の構成が増加している中で、資産・負債にかかる金利リスク管理の改善のために資金調達源にSOFRを活用することも含めて、SOFRに連動した融資およびその処理能力の全体的な見直しを行うべきでしょう。

3.金利指標改革問題に関するBCBSのFAQ

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、金利ベンチマーク改革に関する多くの問題を網羅したFAQを公表しました。BCBSは、「金利指標改革への対応のみを目的とした資本性商品の修正は、バーゼルフレームワークの目的のもとでの新規商品として取り扱われない」ことを確認していましたが、今回の修正でも、バーゼルフレームワークの目的のための新規商品として扱われることはありません。本FAQはこの確認事項を拡張し、IBORまたは移行の結果としてそれに代わるRFR(リスク・フリー・レート)のいずれかにおける過去データの不足や、代替指標金利の非流動性などの潜在的な問題に対処するための追加の詳細とガイダンスを提供しています。流動性の根拠は、資本の定義、市場リスクファクターの適格性と期待ショートフォール(ES)、カウンターパーティの信用リスク(CCR)、および高品質の流動性資産にわたり全体に適用されます。

PwCの見解

BCBSのガイダンスは、金利指標改革に対応するためだけに契約が修正・変更される場合に、既存の商品や関係性をグランドファザリングする際に他の規制当局が採用しているのと同様のアプローチを踏襲しています。

このガイダンスはさらに一歩進んで、置き換えられる指標金利の(規制上の)流動性属性にも特例を設けています。新指標金利商品は、1年間の移行期間中は、従来の商品の(規制上の)流動性属性を引き継ぐことができ、LIBOR公表停止後に流動性を徐々に新RFRに移行させることが可能となります。これは、多くの市場参加者が懸念していた、代替指標金利の初期の非流動性に起因する資本計算への悪影響を緩和するものと思われます。

4.FMSBがリスク事例研究を実施

FICC Markets Standards Board(FMSB)は、LIBORからの移行の一環として、コンダクトリスクの管理に関する原則と規制上の期待事項をまとめた報告書を発表しました。事例として、新規RFR商品(相対ローン、シンジケートローン、金利スワップ付ローン、クロスカレンシースワップ)の販売・発行に関する3つの異なるシナリオと、バイサイドシナリオ(パフォーマンスベンチマークの切り替え)が含まれています。

FMSBは、この原則に基づき、さまざまなシナリオに関連して発生する可能性のあるコンダクトリスクを軽減するために企業が取ることができるグッドプラクティス(またはアクション)を例示しています。

PwCの見解

FSMBのガイダンスは、市場参加者から歓迎されるでしょう。提供されるシナリオは実践的で、包括的な原則を中心に展開されていることが多いコンダクトリスクに関する既存のほとんどのガイダンスとは異なるものです。FSMBの事例研究はSONIA(ポンド翌日物平均金利)への移行に焦点を当てていますが、どのような組織にとっても、独自のフレームワークをテストするためのベンチマークチェックリストとして、あるいは現場のスタッフにコンダクトリスクの原則を伝えるためのトレーニングの補助として役立つものと期待できます。

Sterling RFR WGやARRCが最近公表した移行マイルストーンやベストプラクティスと同様に、企業は、規制当局がLIBORの移行に伴うコンダクトリスクの管理への企業の進捗状況を評価するために、本ガイダンスに記載されている原則や例を参考にすると考えるべきでしょう。

※本コンテンツは、PwCが2020年6月に発刊した「LIBOR Transition Market update: June 1- 15, 2020」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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