Sir Graeme Avery氏の見識

Sir Graeme Avery氏

創業者・慈善活動家/ニュージーランド

「私はビジネスの理論に従って働きません。信じてもいません。」

Sir Graeme Avery氏は、長きにわたり起業家として成功してきました。まず、Adis国際医学出版グループを設立し、医学ジャーナル市場におけるギャップを明らかにした上で、世界をリードする科学出版社へと育て上げました。この事業を1996年に売却すると、長年の趣味だったワイン事業に移行しました。今ではニュージーランドのSileni Estatesの社長です。同社の出荷数は1998年の2,000ケースから今では75万ケースにまで成長しており、次世代への承継の時期にさしかかっています。同氏は、尊敬を集める著名な慈善活動家でもあります。私たちは、起業家であること、デジタル化、そしてミレニアル世代の理解について同氏にインタビューしました。

 

どのような方法で、異なる分野で二つの事業をこれほど成功させることができたのですか?

成長のメカニズムには、現在の市場を成長させることと、新たな市場を見つけることの二つがあります。既存の市場は、チャネルの拡大や新製品の開発によって成長させることができます。ワイン事業では、チャネルが重要です。市場によって大きく異なる小売の仕組みを理解しなければなりません。例えば、英国の場合は比較的簡単で、全国規模の大手スーパーマーケットが少数存在するだけですが、米国の小売は全て地域的です。新製品も非常に重要ですが、ワイン分野での技術革新は簡単ではありません。もう一つの成長の方法は、新たな市場を見つけることです。私は常にこれを楽しんできました。

今のところ、今後の見通しは不透明ですが、考え方を変えれば、チャンスに満ちているとも言えます。先ほど言ったように、ワイン分野では技術革新が困難であり、できることは限られています。分かりやすいのがパッケージ、つまりボトルのサイズや形状を変えることです。しかしニュージーランドでは、競争力のある価格で形状の異なるボトルを入手することができません。当社では、カップ付きの187mlペットボトルの開発に漕ぎつけましたが、これをニュージーランド国内で製造するのは不可能でした。そこで、フランスの企業とのジョイントベンチャーでの製造を行いました。概して、技術革新とは会社のDNAだと私は信じています。外部からそれをもたらすことができるかどうかは分かりません。

Sir Graeme Avery氏

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ワイン事業でデジタル技術はどのような役割を果たしていますか?

間違いなく、デジタルコミュニケーションは簡単に利用できますが、その「方法」が重要となります。私の考えでは、ワイン分野のEコマースは、オフトレードブランドにとっては神話のようなものです。効果的に行うには、対象の国の文化にふさわしいコミュニケーションを、現地の言葉で行う必要があります。米国では当社もソーシャルメディアにいくらかお金をかけていますが、投資に見合う価値が得られているかははっきりしません。競合他社の中には大金を費やしたところもありますが、うまく機能しませんでした。ソーシャルメディアの効果的な活用にはどの会社も苦労しています。デジタル戦略が必要であることは分かっており、それに取り組んではいますが、まだ目標は達成されていません。その間、私たちはウェブサイトの品質を高めつつ、オーストラリアのWoolworthsなど、オンラインで成功している小売パートナーとの協力を進めています。しかし、当社では誰もがこう言います。オンラインとオフラインのバランスが大切。最終的には人と人がかかわらなければならないのだから。

そのため、今後のワイン小売店には、社会的なかかわりが重要となります。どの店舗もスターバックスのようになり、ワインも例外ではありません。人々は、ワインショップで友人とかかわり、小皿料理を食べ、それぞれの方法でワインについての知識を深めた上で、オンラインで注文するようになるでしょう。もはやワインそのものというよりも、お買い得かどうか、ブランドのイメージが良いかどうかが重要になっています。この流れを生かすには、ミレニアル世代が何を求めているかを理解しなければなりません。

 

ミレニアル世代は何を望んでいますか?

現在、フランス人のインターンが大型プロジェクトに取り組んでいます。彼女は、どのように購入の意思決定が行われるか、そしてそれが当社の事業にどのような意味をもたらすかを調査しています。ミレニアル世代の消費者は、何かを発見することを好みます。親とは違うことを望み、ブランドにこだわりません。彼らの方から近づいてくることはないので、こちらから仕掛けていく必要があります。しかし、今後4年間でZ世代(1995年以降に生まれた世代)が顧客層に加わり、ワインの50%~60%が40歳未満の人に消費されるようになると、当社も彼らにかかわっていかなければなりません。これは初めての経験であり、まだ正しく理解できているわけではありません。

ミレニアル世代の雇用に関しては、その年齢層の従業員を大勢雇用する必要がありますが、従業員としては扱いが難しい存在です。権利については敏感ですが、職場に来たがらず、自分と友達以外に責任を負うことを好みません。しかし、彼らのような異なる考え方が、今後は重要となるでしょう。

 

今振り返って、Sileni Estatesについてこうした方が良かったと思うことはありますか?

最初からMarlborough Sauvignon Blancを始めるべきでした。そうしていれば、今ごろ100万~150万ケースを売り上げていたでしょう。実際にはHawkes BayのSemillonから、英国、米国、オーストラリアの輸出市場の開発に着手しました。2000年までに、Sauvignon Blancの輸出も始めるべきことが明らかになり、実行しました。2004年までに、事業は軌道に乗り、ロンドンでいくつかの賞を受けました。Sauvignonがなかったために失った流通機会もいくつかありました。事業の経営者なら誰でも、小さなミスをたくさん経験して学ぶものですが、あれは大きなミスでした。

私はビジネスの理論に従って働きません。信じてもいません。全てのビジネスの理論は、成功している企業の後追いです。しかしこの分野にはロードマップが存在します。新参者は話題にも上りません。私は、それをどうにかしようというつもりはありません。ワイン事業とは、ワインを販売して利益を得ることです。それが難しい部分です。

 

ファミリービジネス企業の経営の特徴は何ですか?

全てのファミリービジネス企業は、緊密に経営が行われており、それが最も良い方法です。自分がもう一度やり直すとすれば、さまざまな人と非公式に相談したいと思います。しかしガバナンスという規律が不要だと言っているのではありません。それは必要です。外部の専門家の活用に関しては、私は外部のCEOと仕事をしたことがありません。それを容認することができなかったのです。

プロのCEOは、端的に言ってしまえば、単に大金を稼ぐためだけの存在の場合もあるかもしれません。幸運なことに息子のNigelがCEOを継いでくれそうです。一族以外の誰かに継承するのは非常に難しいと思いますから、息子が継いでくれるのはありがたいことです。当社のようなファミリービジネス企業は、次の世代が将来に対してまったく異なった考え方を持ち、必要な変化を起こしていく心構えがある場合にのみ、生き残っていくことができるでしょう。

しかし、長期的に見ると、Sileniは250年くらいでファミリービジネス経営を維持することができなくなると思います。上場する規模ではありません。残る選択肢は、中期的には増資か売却です。撤退戦略は、最も難しいものです。

 

250年後、どんな点で人々の記憶に残りたいと思いますか?

レガシーは全て、自分が達成した物事の中にあると、私は考えます。企業内における達成の他、国の成長の支援や慈善事業、有能なスポーツ選手が実力を発揮するよう支援することなど、何でも構いません。私は慈善活動に多くの時間を費やしてきました。特に、ニュージーランド国民のより健康なライフスタイルを奨励し、ワールドクラスの高機能のスポーツトレーニング施設の提供に取り組むオークランドのAUT Millenniumの活動には力を入れています。この施設のために8,500万ニュージーランドドルの資金集めをサポートしてきました。昨年の利用者は80万人に上り、250人のエリートアスリートがここを拠点に活動しています。他人を助ける人は、何も期待しません。私は、いかなる命名権も臨んだことがありません。何かに影響を及ぼそうとするのは、後世にプラスとなる何かを残すためです。

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小林 和也

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