米国銀行・証券業界 2019年第3四半期のM&Aに関するインサイト

2020-02-07

銀行・証券業界のM&A件数はほぼ横ばいで推移

銀行・証券業界では、2019年2月に公表された地方銀行の大型合併により業界全体における取引金額が急上昇したことから、2019年を通じて類似の取引が成立するのではないかと期待されたが、実際は予想と異なる展開となった。前述した2019年2月の地方銀行の大型合併を除き、マーケットは軟調に推移している。貿易摩擦、経済成長の減速、金利見通しの変化、英国のEU離脱問題をめぐる不透明感が根強く、銀行・証券業界におけるM&A活動は抑制されている状況にある。

2019年第3四半期、10億米ドルを超えた取引は1件となった。当該取引により、2019年第3四半期までの取引金額は498億米ドルに増加したが、その70%以上は、第1四半期に成立した取引によるものであった。

「経済成長の減速と新しい金利環境により、強いバランスシートを持つ企業による魅力的なM&A機会創出の可能性が高まる」

Greg Peterson, US Financial Services Deals Leader

トレンドとハイライト

  • 2019年第3四半期に公表された銀行・証券業界の取引金額の合計は、前年同四半期の125億米ドルから減少し、70億米ドルとなった。
  • CIT Bank,N.A.は8月、Omaha Bank of Omaha Insurance CompanyよりMutual of Omaha Bankを10億米ドルで買収する最終合意および合併計画を発表した。買収は現金とCIT Bankの親会社であるCITグループ普通株式、最大1億5000万米ドル相当により実施される予定。CITは今後、当該取引にて保有者が変わる株式の総価値を決定する。
  • 前述の案件を除く51件の公表済み取引金額の平均はわずか1億2000万米ドル。直近の複数四半期同様、これら小型案件の大半は商業銀行やリテール銀行関連の取引である。

2019年第3四半期のM&Aハイライト

2019年第3四半期には、50億米ドルを超える大型案件の発表はなかった。

2019年8月、ロンドン証券取引所が金融関連データのプロバイダーであるRefinitiveの買収合意を発表した。買収条件によると、Refinitiveの株主はロンドン証券取引所の株式37%を保有する予定。全額株式交換による買収額は、Refinitiveが持つ135億米ドルの負債を考慮した場合、270億米ドルとなる。

この取引は、Thomson ReutersがRefinitive株の過半数をBlockstoneが率いる投資家グループに売却してから1年も経たないうちに実施されており、取引所業界における統合が継続していることを示している。ロンドン証券取引所はRefinitiveの買収を発表した直後、香港証券取引所からの買収提案を受けたが、これを拒否した。

(注)多くのデータソースにおいて、取引所関連の取引は金融サービスの取引として分類されていないことから、本ページのデータに上記取引は含まれていない。しかし取引規模と、取引所業界で進行する統合の動きは注視するべきという考えから、本ページにて取り上げた。


トランザクションマルチプル

2019年第3四半期最大の取引である、WesBanco, Inc.によるOld Line Bancshares, Inc.の買収のP/TBV倍率は1.37倍となった。これは、当該四半期中では2番目に高い公表済みP/TBV倍率である。

平均P/TBV倍率は、2019年第2四半期比では22%、2018年第3四半期では29.2%低下している。主な要因は、取引金額の減少からも見て取れるように、当該四半期中に大型案件が成立しなかったことにあると考えられる。


銀行・証券業界の今後の見通し

2019年第1四半期、金利の上昇が銀行の業績を押し上げるという期待から銀行株が上昇した。また、銀行・証券業界のM&A活動も活発化した。しかしながら、市場サイクルの先行き不透明感が高まり、景気減速が懸念される中で、この動きは2019年第2四半期に反転し、株価は下落。9月に入り米連邦準備制度理事会(FRB)が指標金利を25bp(ベーシスポイント)引き下げる決定をしたことで、銀行業界は厳しい状況にある。また、更なる金利の引き下げや利益率圧迫の可能性にも直面している。経済成長の鈍化による貸出金の減少は避けられないだろう。

2019年第3四半期のトレーディングマルチプルが横ばいになったことにより表面化していないが、(前述の要因により)8月には、市場のボラティリティが上昇した。KBW銀行株指数は7月30日から8月15日の間で13%下落し、第3四半期末までに12%反発している。

投資家や企業の経営層は、最近のバリュエーションや利益予想の変化が及ぼす影響を注視しており、銀行・証券業界のM&A活動に対する静観の姿勢は今後も続くと考えられる。

データについて

本レポートにおけるM&A取引の定義は、ターゲットが米国を本拠とする銀行・証券業界関連(BCM)の会社であり、かつ買収者が米国または海外の買い手である合併・買収としています。当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2019年9月30日現在でCapital IQにより提供された、取引額公表済み取引の発表日に基づいており、これに当社の追加的調査を加え、補完したものです。

過去の期間に関係する情報は、過去に完了しているもののデータセットには反映されていなかった取引についてCapital IQが収集した新データに基づき、定期的に更新しています。取引情報はCapital IQを出所とし、買い手またはターゲットがBCM業界のサブセクターに該当する取引が含まれています。BCM業界のサブセクターには、商業銀行・リテール銀行、消費者金融、総合金融サービス、ノンバンク、投資銀行、証券会社が該当します。データ情報源では金融サービスに分類されていても、当社ではテクノロジーやその他のセクターに分類する(またはその逆の)取引があるため、情報に一定の調整を加えています。

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