第23回世界CEO意識調査:保険業界編‐不透明な時代における成功の鍵は、レジリエンスからリインベンションへの転換‐

2020-05-19

PwCの第23回世界CEO意識調査では、経済への逆風、テクノロジーによるディスラプション(創造的な破壊に向けた変化)、地政学的な不確実性の高まりにもかかわらず、多くの保険会社のCEOが今後12カ月間におけるチャレンジを認識しながらも、自社の長期的なレジリエンス(危機を乗り越える力)について自信を持っていることが明らかになりました。実際、保険業界をリードするフロントランナーは、こうしたチャレンジの機会を利用して、単なる生き残り以上の結果を出そうとしています。

このような姿勢には、保険会社がこの2年間、規制や新たなテクノロジー、顧客期待の変化など、さまざまな局面において、ディスラプションに対峙する中で得た学びが反映されていると言えるでしょう。保険業界の変革のスピードは加速しています。この結果、保険会社は効率化を進め、より多くの商品をより安価に提供できるようになりました。保険の組成や保険金の支払いなどの重要な場面における顧客体験は、より迅速かつより直感的で、より顧客に寄り添うようになってきています。また、イノベーションは研究室を出て、リアルタイムでのリスク価格設定から、自動車、農業、健康など隣接するエコシステムへの進出など、実際の市場に投入されています。

変革への困難な取り組みが本格化する今、保険会社は、以前よりもはるかに自信を持って、ディスラプションに対処できると考えているようです。規制やテクノロジーの変化に対する懸念は依然として残っていますが、調査回答によれば、これらの懸念の度合いは以前に比べると軽微になっています。

競争の最前線

では、保険会社はこのような基盤のもとでいかにビジネスを構築していくのでしょうか。まず何より重要なのは、保険会社のCEOが、顧客体験を今後12カ月における最重要の機会と認識していることです。コアテクノロジーの変革よりもはるかに高い優先度を置いています。保険会社のCEOはまた、戦略的目標の実現のためには、顧客価値をいかに創造するか明確なビジョンを持つことが最も重要であると述べています。

しかし、機会には大きなチャレンジが伴います。PwCが2019年に実施したグローバルフィンテック調査で明らかにしたように、顧客は今、単なる効率性やスピード以上のものを企業に期待しています。業界の垣根を越えて提供されるパーソナライゼーション、柔軟かつさまざまなチャネルを介したエンゲージメントやソリューションなど、「Wow」の要素を求めています。顧客期待のハードルは今後も高くなる一方であり、それを更新していくのは非保険業界のプレーヤーとなるでしょう。大手保険会社はこの難題に立ち向かっています。

競争に後れをとらないためには、テクノロジーと同様に、人材が重要となります。従業員がアナログにとらわれていれば、最大のシステム投資をしても企業は競争力を得ることはできません。保険会社は果たしてこの状況を把握しているのでしょうか。保険会社の多くがデジタルスキルの向上に取り組んでいますが、将来の成長戦略を推し進めるスキルの定義や、従業員やリーダーのノウハウ向上に向けた取り組みが大きく進展していると答えた回答者は25%におよびませんでした。保険会社のCEOは、アップスキリングへの取り組みにおける最大のハードルは、資源(予算・人材・知識など)の不足と、獲得すべきスキルの定義にあると考えています。将来求められる機能的なスキルに関するビジョンを明確に示すことは、テクノロジーを使うこと以上に、従業員のスキルアップを図る上で不可欠と言えるでしょう。

サステナビリティが議論の中心に

保険会社のCEOが、世界のリーダーに対し支援が必要な分野を尋ねた場合、その回答は、健康、気候、金融包摂に一貫しています。保険業界はこれら3つの分野において深い知識と対応力を備えています。しかし、信頼の問題が、この機会を利用した官民パートナーシップ拡大の障壁となっています。PwCの調査によれば、保険会社のCEOは、社会的信頼に対する懸念を強めています。この信頼がない限り、保険会社がその専門性を発揮するのは難しいでしょう。サステナビリティに注力することは、保険の価値を実証し、社会における信頼の向上を図る機会となりますが、それは保険会社が事業のあらゆる側面において注意深く誠実に行動した場合にのみ達成可能なものです。保険会社がその時々でどのように対応したかが重要であり、特に保険金の請求時における体験は、社会の保険会社に対する見方を形成します。

中でも気候変動は、CEO調査によると、保険業界の取締役会の議題として上がってきてはいるものの、保険会社のCEOはこれを主に評判の問題と捉え、戦略的機会や政府との緊密な関係を築く契機としては考えていないことが分かっています。ビジョンを持つ保険会社のリーダーにとっては、他社との違いを示す機会があると言えるでしょう。

フロントランナーの特徴

先行する保険会社の特徴は、拡大する機会への対応能力にあると考えます。彼らはイノベーションやアジャイルなオペレーティングプラットフォーム、協調的なエコシステムの文化を醸成することにより、市場機会を見い出し、それらを素早く活用できるように備えています。こうした機会は、未開拓の市場や、モビリティサービス・環境マネジメントにおける新しいビジネスモデルの構築にあるのかもしれません。こういった業界のリーディング企業の多くは、急速に発展する市場、例えばアジアといった、レガシーインフラの不在が創造や再創造の余地を与えている地域に拠点を置いています。

先行企業として名を連ねるために、CEOは何をしなければならないのでしょうか。市場環境や事業機会は当然変化するものですが、成功には3つの必須条件があると考えます。

1.費用対効果、生産性、オペレーショナルエクセレンスが深く根付いた組織文化

組織のレジリエンスとアジリティは、将来の不確実性と課題に対峙する上で、成功の鍵となります。組織は、不必要な努力を排除し、コストを削減することに加え、組織のオペレーティングモデル、労働力、デジタルレイバー、文化、働き方を、可能な限りアジャイルで生産性が高く、顧客に合った方法へと調整していく必要があるでしょう。

2.スケールするイノベーション

保険会社は、自社のビジネス革新に、実証実験やテクノロジーのスタートアップ企業と提携することについて、安心感を強めています。しかし、成功にはスケール(規模)が必要となります。これは、単なる資源や市場範囲の問題ではなく、パイロット段階から市場参入への迅速な移行を可能にする、アジャイルなオペレーティングプラットフォームおよび複数のパートナーと協働する能力を構築できるかという問題でもあります。

3.競争力となる実行力

保険会社は、戦略を実行する優れた能力と、たゆまぬリーダーシップ、適切な意思決定プロセス、資源と能力への有益な投資、慣習に挑戦する姿勢、そして新しいアイデアの創出と追求を促す報酬体系を組み合わせる必要があると言えます。これには、プライベート・エクイティのマインドセットと支援体制を採用し、最優先事項の実行方法を変革することも含まれます。

これからの保険

変革の基盤のもと、保険は新しいアイデアと競争力のあるリインベンション(再創造)を歓迎します。成功する保険会社はその特徴として、スキル、スケール、生産性といった中核となる要素に加え、スピード感を持ってイノベーションを市場に届ける実行力と現代社会が直面する課題への解決策を生み出す能力を備えています。

※本コンテンツは、PwCが2019年9月から10月にかけて実施した「第23回世界CEO意識調査」の結果をもとに作成しています。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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