監査の変革 2018年版 どのようにAIが会計監査を変えるのか

2018-04-10

監査の変革2024年版を発刊しました

このたび「監査の変革」の更新版(2024年版)を発刊しました。生成AIをはじめとしたAI技術の発展や、監査業務へのテクノロジー導入経験の蓄積によりAIに関する知識・理解が深まったため、内容を更新しています。

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監査にAI(人工知能)技術を応用するにあたり、監査業務の変革という観点から重要となる要素は、機械学習、自然言語処理、監査プロセスの自動処理です。これらの技術は、多くの作業を自動化し、意思決定を支援することで監査のあらゆる分野で大幅な業務改善に役立つことが期待されています。ただし、AIは課題を解決するためのツールであり、課題を定義することはできません。よって、このような技術を適用するためには、監査の課題を特定することが重要です。

本稿では、現代の監査が抱える課題を明確にし、AIを監査に適用した場合の具体例を検討した上で、監査人および被監査会社へ与える影響、将来の監査人の役割について考察しています。

1.はじめに

本稿ではAI(人工知能)の監査への適用可能性について考察する。

AIとはコンピューター上で人間と同様の知能を実現させようという試みであり、ニューラルネットワークなどの機械学習※1や質問応答システムなどの自然言語処理※2の発展に伴って、近年注目を浴びている。しかし、AI技術自体は新しいものではなく、何十年も前から研究されており、監査における普及はまだ初期段階である。監査にAI技術を応用する場合、監査業務の変革という観点から重要となる要素は、機械学習、自然言語処理、監査プロセスの自動処理である。これらの技術は、多くの作業を自動化し、意思決定を支援することで監査のあらゆる分野で大幅な業務改善に役立つことが期待される。ただし、AIは課題を解決するためのツールであり、課題を定義することはできない。よって、このような技術を適用するためには、監査の課題を特定することが重要である。

2.監査はどこを目指しているのか?

監査の課題とテクノロジーの可能性

昨今、企業の不正事件が多発し、投資家や一般社会からの監査人の役割が注目され、制度上の監査の目的を超えた期待が高まっている。一方で、被監査会社のビジネスの多様化、複雑化が進み、監査人が理解すべきビジネスの範囲の拡大、必要となる監査手続の量の増加など、ここ10年の間で監査現場の作業量は膨大となった。働き方改革の推進もあり、長時間労働の改善のため、監査の生産性向上についても急務である。ステークホルダーからの期待に応えるための品質向上および生産性向上は現代の監査人が抱える課題である(図表1)。

現在の監査における実施者の割合は会計士が大部分を占めており、業務の中には専門的な判断を伴わない業務も多く含まれている。そこで、RPA※3やAIなどのテクノロジーを監査現場へ導入し、専門的な判断を伴わない業務を自動化することで、会計士の業務負担を軽減させ、会計士をより専門性の高い業務に専念させる。導入にあたり業務の標準化やコスト・工数などの障害があるものの、業務の自動化は会計士を専門業務に特化させ、監査の生産性向上および品質向上に繋がるだろう。テクノロジーの導入が現在の監査に関する課題解決の糸口となる。

AI導入後の展望

一方で、被監査会社においてもテクノロジーの導入による抜本的変化が訪れ、被監査会社の業務にRPAやAIが組み込まれることになり、監査におけるリスクの評価や監査対象そのものに被監査会社が導入したテクノロジーが影響することになる。

将来的には高度化された被監査会社と監査人のシステムが連携し、AIによる自動かつリアルタイムの監査が行われることになるだろう。AIにより適時に問題点の検出が行われるため、監査人は問題点の解決と、被監査会社とのコミュニケーションが主要な業務となる。監査人には監査の知見に加え、テクノロジーを理解し使いこなす能力も必要になる。

現在、監査報酬は基本的に監査の作業時間の積み上げで決定する。しかし、テクノロジーの導入によって、将来的には、監査報酬が作業時間の多寡で決まるのではなく、高度なリスク評価とその対応手続の質に、より重点が置かれることになるだろう。また、今後適用化の流れにある「監査報告書の透明化」※4に伴い、監査報告書にAIで検討した重要な虚偽表示リスクとその対応結果が記載されることで、各監査人が提供する監査の品質が投資家にとって客観的に評価可能となる。より高付加価値のある監査を提供する監査人が被監査会社の本質を表すことで、ステークホルダーの期待に応えることになるだろう。

次章において具体的な監査手続の変化について説明する。

3.監査手続はどのようにAI化されていくのか?

監査手続のAI化

監査人は被監査会社の財務諸表における重要な虚偽表示リスクを識別および評価し、監査上重要となる勘定科目、開示項目などを特定する。これらの結果を受けて、監査人は原則として試査、すなわち母集団からサンプルを抽出する手法に基づく監査手続を実施し、十分かつ適切な監査証拠を入手する。監査人は、入手した監査証拠をもとに被監査会社の財務諸表に対し意見を表明する。

ここでは、主な監査手続のAI化について、具体例を用いて、必要な技術、成熟度、複雑度、監査に与える影響を考察した結果を図表2に示した。

次に、実現が比較的容易で影響が大きい証憑突合と仕訳テストについては、近年中に監査人がAI監査ツールを導入できる可能性がある。このため、それぞれ以下に具体例を述べる。

証憑突合の適用例

年間の売上テストは、被監査会社の規模・複雑性によって、多いときは数百万件以上に上る売上伝票を母集団として、数百件から千件以上に及ぶサンプルをテストするケースがある。サンプル1件につき、テスト対象の抽出から、テストの実施、調書作成までにおおよそ10分~20分かかると仮定すると、このようなケースでは膨大な監査時間が消費されており、AIの導入効果が高い手続である。

図表3は、証憑突合へAI監査ツールを導入した場合のフロー図である。

(1)AI監査ツールは会計システムから関連する全てのデータを読み込む。

(2)AI監査ツールはデータの条件やリスク評価、過年度の結果に基づいて、監査人へテスト対象を提案する。

(3)監査人はAI監査ツールが提案したテスト対象を参考に独自の判断に基づいて、テスト対象を選択する。

(4)AI監査ツールが被監査会社へ(3)で選択したテスト対象に対応する証憑をメールで依頼する。

(5)被監査会社は証憑を準備し、電子ファイルとしてAI監査ツールへアップロードする。

(6)AI監査ツールはテスト結果を出力する。

なお、各プロセスやテスト結果は一般的な考えを示すために簡略化している。

上記のAI監査ツールによって、証憑をアップロードしたあと即時にテスト結果が提示されるため、被監査会社が古い資料や誤ったファイルなどをアップロードしてしまった場合には、エラー結果に気づくことができ、監査人の介在なしに被監査会社が適切な証憑へ訂正することができる。

AI監査ツールが十分な精度に達するまでは、監査人がツールのテスト結果をチェックする必要がある。しかし、ツールの精度が100%に近づけば、監査人はAI監査ツールに依拠することができる。被監査会社が証憑を全て電子ファイルで保存している場合など、状況によっては全取引をAI監査ツールでテストすることで、内部統制に依拠せずとも必要な保証水準を得られるようになると予想される。この場合、監査人はAI監査ツールが検出した項目の評価と判断を行い、ツールの設定を調整したり、フォローが必要な項目について被監査会社とコミュニケーションすることになる。

将来的に、売上テストのような証憑突合では、AI監査ツールによる自動化によって、人手に依存しなくても正確なテスト結果が得られるようになると見込まれる。

仕訳テストの適用例

現在の監査基準における不正リスク対応手続の一例として仕訳テストがある。仕訳テストとは被監査会社の仕訳データから、監査人が通常のパターンではない取引を抽出し、仕訳内容を検証する手続である。しかし、補助元帳や外部システムのデータといったより広範囲のデータを積極的に監査に活用することで、不正リスクに対しより効果の高い監査が実施可能になると想定される。

仕訳テストへAI監査ツールを導入した場合のフローは図表4のとおりである。

(1)AI監査ツールは会計システムから取引データなどを読み込む。具体的には総勘定元帳、補助元帳、得意先/仕入先マスターといったデータを想定する。監査人が想定した不正シナリオによっては、会計システム以外のシステムからデータを読み込むケースもあり得る。

(2)監査人は想定した不正シナリオを基にテスト方法を選択する。テスト方法として、条件によるデータ抽出やカテゴリーごとの集計、複数データの照合結果、計算モデルによる例外値検出などが挙げられる。

(3)監査人はAI監査ツールのテスト結果を確認してどのようなフォローアップを行うかを判断する。

(4)監査人が必要と判断した場合、AI監査ツールは被監査会社へ説明資料を依頼する。

(5)被監査会社は説明資料を準備し、電子ファイルとしてAI監査ツールへアップロードする。

(6)AI監査ツールは説明資料を読み込み、(3)のテスト結果と照合して監査人へ提示する。

なお、証憑突合と同様に、各プロセスやテスト結果は一般的な考えを示すために簡略化している。

従来は年に一度または複数回に分けてデータ分析を実施しており、仕訳データの膨大さから(1)取引データなどを会計システムから出力してデータ分析ツールに読み込む作業と(3)テスト結果を出力する作業に多くの時間がかかっていた。この作業を自動化することで、ほとんど人手によらずに(3)テスト結果出力まで進めることが可能となる。

加えて、機械学習を使えば、どのようなパターンが例外的な仕訳かという条件を設定せずとも、AIが例外データを基に学習し、例外的な仕訳パターンを特定していくことが可能である。このような機能によって、監査人が想定しなかったような不正が発見されることが期待されている。

予想される監査へのテクノロジー適用の流れ

これまで現在の監査の課題と監査手続のAI化について述べてきた。監査手続に適用されると見込まれるAIの技術は、現時点で成熟しているものもあれば、未成熟のものもある。下図にテクノロジーの発展とともに適用され得る監査手続の流れを時系列で表した(図表5)。

まず、ルーティン作業の代替としてRPAの適用により、データやシステム間の自動照合・計算が行われる。このような作業は現在の技術で適用可能であり、早期の導入が期待される。

次にディープラーニング※5が発展し、AIによる判断の一部代替が行われる。具体的には、人間の判断を要する契約書内容のレビューや在庫数量の検証をAIが担うことになる。これらの領域は一部適用可能な技術もあれば、諸条件で適用が難しい部分もあり、今後のテクノロジーの発展が望まれる。 

最終的には、AIが発展することで高度な判断の代替ができるようになり、AIによるリアルタイムの監査や新たな観点からリスクの評価などが可能となる。人間は、AIが処理・判断した情報を利用し意思決定することで、被監査会社の問題点を即座に解決し、監査の価値を高めることができる。

監査手続がAI化されるのも遠い未来ではなく、近年中に監査業界で業務の変革が起こるだろう。テクノロジーとともに切り開く新しい監査は、ステークホルダーの期待に応える新たな価値を提供し、監査人の役割も社会にとってより重要になるだろう。

PwCあらた有限責任監査法人とGenial Technology, Inc.の概要

PwCあらた有限責任監査法人(以下、「PwCあらた」)は、PwCの世界158カ国にまたがるグローバルネットワークとも連携し、テクノロジーの活用をより深化させ、高品質かつ効率的な監査の実現を目指している。また、人間と機械の最適な分業による、次世代の会計監査の在り方を追究している。

Genial Technologyはクラウドコンピューティングと人工知能によって、会計データクレンジングおよび監査人・被監査会社間の監査証憑の授受を含む、監査手続を自動化するソフトウエアの提供を目的とした会社である。

PwCあらたとGenial Technologyの目的は補完的であり、この種類の共同研究活動においては優れた専門性と研究分野の組み合わせとなる。例えば、PwCあらたが会計監査における幅広い知見を提供し、Genial Technologyはデータクレンジング、データ分析およびAIモデル開発についての知見を提供する。

※1 機械学習(Machine Learning)とは、AIの領域の一つであり、データに潜むパターン(法則性やルール)をコンピューターに自動的に発見させる技術である。このパターンによって判断や予測を行うことができる。

※2 自然言語処理(Natural Language Processing)とは、人間が普段用いている自然言語をコンピューターに処理させる技術である。翻訳、検索エンジン、音声認識、OCRなど、すでに幅広い分野に自然言語処理が応用されている。

※3 RPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)とは、間接業務における単純な事務作業を自動化する取り組みやソフトウエアのことである。事前に設定したルールに基づいて処理手順を再現して、表示内容の判断やデータ入力などをソフトウエアに代行させることができる。

※4 我が国において「監査報告書の透明化」についての議論が始まり、監査報告書において、財務諸表の適正性についての意見表明に加え、「監査上の主要な事項(Key Audit Matter:KAM)」として監査人が着目した監査上のリスクやその対応手続を記載することが検討されている。これにより、監査報告書のコミュニケーション価値と目的適合性を高めることを目的とし、投資家、アナリストおよびその他の監査報告書利用者にとって利便性が高まることが期待されている。

※5 ディープラーニング(Deep Learning:深層学習)とは、脳神経回路を模した数理モデル(ニューラルネットワーク)を多層構造化して用いる機械学習である。一般的に、大量のデータから複雑な方法でパターンを学習させるため、他の機械学習技術より大規模な計算が必要となる。音声、画像、自然言語などで高い認識精度を記録しており、自動運転などのさまざまな分野で応用されている。

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