
ブロックチェーンのガバナンスと安全管理上の考慮事項
ブロックチェーンは幅広い領域での応用が期待される一方で、そのテクノロジー的優位性を生かすためにはガバナンスやマネジメントの視点が欠かせません。本稿では暗号資産販売所を例に、ビジネスの各フェーズにおいて考慮すべきガバナンスについて概説します。
保険業界は、アジア太平洋地域の発展途上市場において急速に成長しています。この多様な地域を統合する重要な要因に、全ての保険契約における国際的に標準化された会計モデルであるIFRS第17号の適用があります。
IFRS第17号は、保険会社による契約の測定に根本的な変化をもたらし、企業の広範囲な機能に大きな影響を及ぼすことになります。IFRS第17号の適用に対して戦略的かつ慎重に検討してアプローチすれば、保険会社は非効果的で非効率的な業務プロセスやシステムの特定、改善、さらには変革を進めることができるでしょう。
この度PwCでは、アジア太平洋地域で事業を行っている保険会社が、IFRS第17号のプログラムをどのように実施しているかを理解する目的で調査を実施しました。調査の回答からは、IFRS第17号を適用するにあたって組織がたどったアプローチ、進捗状況、直面する課題に関する洞察を得ることができます。
今回の調査は、アジア太平洋地域の11カ国/68名の保険会社の経営者を対象として、2020年5月に実施しました。
回答者の多くは、IFRS第17号を、データ機能の強化とともに、テクノロジーの改善、ファイナンストランスフォーメーションの機会になると見ています。例えばIFRS第17号の最低限の要求事項を満たすソリューションの構築のように、実用最小限の対応としてのみ取り組んでいると回答したのは、保険会社の経営者の16%のみでした。
アプローチは国によってもさまざまです。韓国の保険会社の90%は、IFRS第17号を十分なファイナンストランスフォーメーションを成し遂げる機会と捉えていることが示されたのに対し、シンガポールの回答者の55%は、基本的なアプローチ、つまりデータ管理の強化に重点を置いた実用最小限の対応として取り組んでいると示しています。
IFRS第17号による報告の要求事項は、データ要件、システム、プロセス、数理モデル、財務システムおよびプロセスなど、保険会社の多くの機能に重大な影響を与えます。その影響の多くは、保険会社がIFRS第17号のソリューションの設計を開始して初めて明らかになります。
IFRS第17号により報告の複雑性が増加することで、その対応のために手作業による介入が必要な場合、報告のタイムラインが大幅に伸びる可能性があります。財務責任者は、数理部門や財務部門に対し報告に関する過度な負担をかけないIFRS第17号の適用ソリューションを確実に策定できるよう、戦略的なゴールを慎重に検討する必要があります。
保険会社の経営者の半数以上が、IFRS第17号はファイナンストランスフォーメーションのきっかけになると考えています。適用日の延期によって、保険会社はビジネスインテリジェンスと報告機能の最適化により多くの時間を使えるようになります。
回答者の53%は、COVID-19に関連する業務の混乱により、IFRS第17号のプロジェクトのスケジュールは遅れる可能性があると述べています。調査対象となった保険会社の少なくとも半数は、デジタルトランスフォーメーションプログラムを強化して、オペレーショナルレジリエンスを構築しようとしています。
回答者の44%は、詳細設計を開始していません。また、直面する時間、予算、スキルの制約および技術的な課題について特に懸念しています。
保険会社の経営者は、IFRS第17号のプログラムは平均して3年半近くかかると予想しています。この期間は回答者によって大きく異なり、回答者の25%以上は、5年以上になると示しています。プログラム期間の見積りは、生命保険会社と損害保険会社で一貫しています。生損保兼営会社と再保険会社は、プログラムがさらに数カ月長くなると予想しています。
回答者は、IFRS第17号の適用後に組織が完全に安定し通常通りの業務に戻るには、平均してさらに2年半かかると考えています。
IFRS第17号のプログラムの進捗状況には大きなばらつきが見られます。回答者の10%はまだIFRS第17号のプログラムを開始していないと述べており、全体の44%は詳細設計を開始していません。しかし、回答者の10%は既に並行稼働を開始しています。
IFRS第17号のプログラムの予想期間の長さは、生命保険会社、損害保険会社、再保険会社にとって、IFRS第17号の適用がいかに複雑で難しいものであるかを示しています。
IFRS第17号の適用日はほとんどの国で2023年1月1日まで1年延期されており、これにより保険会社はプログラムの完了に約30カ月かけられることになります。IFRS第17号のソリューションの詳細設計を開始していない保険会社は、基準の適用と設計に必要となる時間と労力に留意する必要があります。
保険会社の大多数は、IFRS第17号の適用日の延期を支持しています。これは、ほとんどの保険会社が現在の戦略を実行するために追加の時間が必要であると考えていることを示しています。
しかし、適用日の延期を考慮してIFRS第17号の適用プログラムを変更する予定であるとした回答者は34%のみでした。プログラムの変更を示唆した保険会社のうち、42%がIFRS第17号の活動を減速させると述べ、35%がデータとシステムの強化により多くの時間を費やすと述べています。19%のみが、より戦略的な価値を引き出すためにIFRS第17号の戦略を変更することを示しています。
データ、システム、プロセス、コントロールの変更を含む、完全なIFRS第17号の実装が2023年1月1日までに完了すると考えている回答者は33%のみです。構築・テスト段階または並行稼働段階に達した保険会社のうち44%のみが、適用日までにIFRS第17号が完全に実装されると考えています。
IFRS第17号の適用日を2023年1月1日まで延期するというIASBの決定は、IFRS第17号のプログラムをどの程度進展させているかに関係なく、保険会社の経営者に歓迎されています。
IFRS第17号への取り組みを開始していない保険会社は、適用日の延期をIFRS第17号のプログラムをさらに延期する機会として見るべきではなく、IFRS第17号の報告が開始される際に過度な手作業を回避するため、強力なIFRS第17号の適用戦略を実施する機会として見るべきです。
IFRS第17号の戦略の進捗が順調な保険会社は、適用日の延期を、厳密で効率的なIFRS第17号のソリューションを確実に導入するために、データとシステムの強化により多くの時間を費やす機会として捉えています。
回答者の28%は、COVID-19が業務に及ぼす影響により、自社のIFRS第17号の戦略を修正すると予想しています。また、回答者の22%は、パンデミックの進展と業務への潜在的影響をモニタリングしており、自社の戦略が修正されるかどうかは不確実であるとしています。
保険会社の経営者は、COVID-19による業務の混乱によってIFRS第17号のプログラムに遅れが出ると考えています。回答者の15%は、深刻な遅れを予想しています。回答者の大半は、COVID-19による業務への影響が、IFRS第17号のプログラムの予算に影響しないと考えていますが、16%は予算がカットされると考えています。
回答者の半数以上(52%)は、IFRS第17号の関連業務を行う従業員全員が適切にリモートワークを行える手段を持っているわけではないため、プログラムが影響を受けていると述べています。COVID-19による業務の混乱の影響により、保険会社の経営者の多くがデジタルトランスフォーメーションやクラウドコンピューティングへの関心を高めています。回答者の約半数は、まだ自社がどう対応するかについて明確な見解を持っていません。
政府による強制的な経済上のロックダウンの直接的な結果として、保険会社の経営者は、財務および運用上のさまざまな差し迫った課題に直面しています。財務責任者は、業務のレジリエンスを高めるため、デジタルトランスフォーメーションのイニシアチブと必要なコスト削減努力とのバランスを取る必要があります。
保険会社の経営者からの回答の多くは、IFRS第17号の戦略や予算は影響を受けないが、業務の混乱によりIFRS第17号の適用にさらに時間がかかる場合があることを示しています。従業員が適切にリモートワークを行えるテクノロジーを導入している保険会社は、大きな混乱を生じさせずに、IFRS第17号のプログラムを継続できます。そうしたテクノロジーを導入していない保険会社は、自社の業務の混乱を限定的にするためのデジタルトランスフォーメーションにますます関心を寄せています。
保険会社の経営者の35%が、IFRS第17号のプログラムへの支出は500万米ドル以下であると述べています。当然、費やす予算は組織の規模と密接に結びついています。(アジア太平洋の事業からの)年間総保険料が10億米ドルを超える保険会社の場合、約半数は2,500万米ドルを超える予算を確保したと述べています。
回答者の41%は、実際の支出は予算額と一致していると述べています。回答者の13%は、実際の支出が予算額よりも著しく高いと述べています。
IFRS第17号の適用は基幹システム、データ管理、数理プロセス、財務システム、報告に影響を与えるため、ほとんどの保険会社で巨額のコストがかかります。これらの費用の内訳は、各保険会社の適用アプローチによって変わります。そうした各保険会社のアプローチは、現在の業務上の課題や中長期的な業務および財務戦略の影響を受けます。
一般的に、IFRS第17号のプログラムの設計や実行には、会計、数理、ITのコンサルタントやシステムベンダーによる外部支援が必要とされています。
保険会社のシステム構造の多くの要素が、IFRS第17号による影響を受けています。回答者の大多数は、IFRS第17号の要求事項を満たすため、既存の基幹システムを強化すると述べています。IFRS第17号の直接的な結果として新たな基幹システムを購入するとした回答者は、わずか6%でした。
回答者の44%は、IFRS第17号の報告に必要なデータの大幅な増加に対応するため、新たなデータマート機能を構築しているのに対し、回答者の31%は既存の強化されたデータマートに依拠するとしています。
回答者の29%は、補助元帳のソリューション(例えば、CSMの設定およびリリースなど)に関してはベンダーの力を借りようとしています。通常、このようなソリューションは、保険会社の既存のシステム構造に容易に統合できるので、多くのベンダーが注目している領域でもあります。
報告および連結ツールに関し、20%以上の保険会社は、採用するITアプローチをまだ決定していないと述べています。
ほとんどの回答者は、ベンダーによるIFRS第17号のソフトウェアソリューションを理解するため、ベンダーと協力しています。回答者の半数は既にベンダーを選定しており、13%の回答者は最終候補に残ったベンダーとの詳細な協議中であると述べています。
一般的に、損害保険会社よりも生命保険会社の方が、新しいシステムを購入または構築する傾向があるようです。例えば、生命保険会社の41%が新たな基幹システムを購入または構築すると述べているのに対し、損害保険会社では9%に留まっています。この相違は、損害保険会社が契約の測定に、簡略化されたアプローチである保険料配分アプローチを適用するオプションを有していることと関連している可能性があります。損害保険会社のうち54%は、自社の商品の全てが保険料配分アプローチに適格であると考えており、14%はまだ明確な見解を持っていません。いくつかの保険会社は、今後自社のデータとシステムに係る要件の理解を更新し、ITアプローチを再評価するでしょう。
ほとんどの回答者が既にベンダーとの協議を開始しているというのは歓迎すべきことです。しかし、回答者の25%は、ソフトウェアベンダーがIFRS第17号のソフトウェアを使用できる状態にする準備ができていないと考えていると述べており、さらに32%は、ベンダーが準備できているかどうかについて明確な見解を持っていないと述べています。多くのベンダーは、クライアントとの適用プロセスの議論を通じて追加的な要求事項を収集し、ソフトウェアのアップデートをリリースしている段階にあります。今後数カ月の間に、基準の要求事項が確定し、ベストプラクティスに対する業界のコンセンサスが得られれば、ベンダーは完全な機能を有したバージョンのソフトウェアをリリースすることが予想されます。
回答者は、IFRS第17号のプログラムには多くの側面で課題があると述べています。最も大きな課題は、数理モデルの設定(69%)、データの制約(67%)、スキル/人材の制約(67%)、会計方針の設定(66%)に関連しています。
IFRS第17号のプログラムを開始していない保険会社は、順調に進捗している保険会社よりもさらに厳しく課題を認識しています。具体的には、スキル/人材の制約(89%)、予算の制約(87%)、数理モデルの設定(84%)から最も厳しい課題が発生すると予想しています。
会計方針および見積りに関連する課題を見ると、回答者は、移行、再保険、CSM、リスク調整といったトピックが最大の課題であると認識しています。損害保険会社は、再保険の会計処理が生命保険会社よりも困難と感じているようです(76%対58%)。再保険会社は、キャッシュフローの見積りに特に課題があると述べています(74%)。
保険会社の経営者は、IFRS第17号のプログラムにおいて、時間、予算、スキルの制約から会計方針や数理上の方法論に関する技術的な疑問まで、広範囲にわたる多くの課題に直面しています。
保険会社は、IFRS第17号の固有のスキルを備えた会計、数理、IT人材の雇用・維持が困難であると感じています。コンサルティング会社では熟練した経験豊富なコンサルタントの需要が高まっており、高いスキルを持つ人材は外部でも不足しています。
財務責任者は、会計方針と数理上の仮定および見積りが、財務報告とKPIに大きな影響を与える可能性があることを認識しています。多くの場合、保険会社は、市場のコンセンサスと業界のベストプラクティスが十分にない状態で、これらの意思決定(そして、これらの要件に必要となるデータと技術的なソリューションの構築)を行わなければなりません。
こうした不確実性は、多くの保険会社がIFRS第17号のソリューションの詳細設計を開始していない理由の一つかもしれません。しかし、基準は固まりつつあり、市場慣行もより明確になってきています。そのため、保険会社は、IFRSプログラムを推進して、適用日までにIFRS第17号の準備を確実にする必要があります。
(0=課題はない、100=大きな課題がある)
(上位4項目を表示。0=課題はない、100=大きな課題がある)
回答者の44%は、IFRS第17号を適用する結果として要員を増加させている、または要員の増加を計画していますが、27%は、まだ必要な要員の配置についての明確な見解を有していないと述べています。
保険会社の経営者は、自社の要員のIFRS第17号に関する理解が中程度(66%)または限定的(32%)であると考えています。設計段階に到達していない保険会社では、回答者の62%が自社の要員のIFRS第17号に関する理解が限定的であると述べています。
回答者は、公式・非公式の実地訓練の組み合わせを通じて、自社の要員のスキルアップを計画しています。
IFRS第17号は、保険ビジネスの多くの機能に影響を与える複雑な基準です。財務および数理部門では日々の報告業務に対する基準の影響は一般的によく理解されており、通常、これらのチームは、当初からIFRS第17号のプログラムに参加しています。
ただし、保険会社は、基準が自社の業務と従業員に与える広範な影響を考慮する必要があります。ITとデータ部門は、IFRS第17号に準拠した報告の作成に必要となる、新たなデータ要件とプロセスを理解する必要があります。販売、マーケティングおよび保険引受部門は、業務プロセスとKPIがどのように変化するかを理解する必要があります(回答者の75%は、IFRS第17号のKPIを識別し特定するための作業を開始していないと述べています)。経営陣は、IFRS第17号に対応するための要員をどのように確保するかを検討するとともに、IFRS第17号の適用開始以降、マーケットに対する自社の報告およびメッセージがどのように変化するかを検討する必要があります。
保険会社は、IFRS第17号の適用と通常業務としての報告を成功させるための要員確保に向けて、複数のトレーニング手法を組み合わせる必要があります。
PwCは、2020年5月11日から18日の期間に、アジア太平洋地域の11カ国/68名の保険会社の経営者を対象に調査を実施しました。回答は、小規模、中規模、大規模の生命保険会社(35%)、損害保険会社(37%)、生損保兼営会社(18%)、再保険会社(7%)、その他の会社(3%)から受け取っています。回答者の37%は、各国のPwCの監査クライアントです。調査結果について議論し、PwCが企業のIFRS第17号または関連するファイナンストランスフォーメーションプログラムに対してどのように支援できるかについて理解いただくため、個別の連絡を希望される場合は、下記までお問い合わせください。
本コンテンツは、PwCメンバーファームが2020年6月に公開した『PwC's Asia Pacific IFRS 17 Health Check Survey』を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は英語版に依拠してください。
ブロックチェーンは幅広い領域での応用が期待される一方で、そのテクノロジー的優位性を生かすためにはガバナンスやマネジメントの視点が欠かせません。本稿では暗号資産販売所を例に、ビジネスの各フェーズにおいて考慮すべきガバナンスについて概説します。
サイバーセキュリティに関する財務報告リスクが高まっています。本レポートでは、実際に企業が財務報告リスクを識別しているのか、また識別したリスクに対してどのように取り組んでいるのかを調査し、リスクの識別・評価を推進する際の留意点を解説します。
IT環境が劇的に変化する中で、情報の信頼性の確保が一層重要となっています。企業はITガバナンスの枠組みを活用し、ITのリスク管理や統制を強化する必要があります。本レポートでは、IT環境における主要なリスクを考察し、求められる対応策を体系的に整理します。
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。