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位置情報をより安心・安全な社会インフラとして発展させ、日本企業が関係機関とも連携しながら国内外でビジネスを展開していくために必要な技術開発、ルールメイキング、推進体制などについて意見を交わしました。
(左から)井上 陽介、神武 直彦氏、藤田 智明氏、上杉 謙二
登壇者
宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合
代表理事
神武 直彦氏
LocationMind株式会社
取締役
藤田 智明氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
上杉 謙二
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
井上 陽介
井上:初めに、GPSなどから取得した位置情報が注目される背景をお話しします。近年のコロナ禍における人流の把握、位置情報ゲームやターゲティング広告など、ビジネス展開の意思決定において有効なデータの1つとなっていることが挙げられます。国内ではさまざまなサービスが展開される一方、アジアでは道路交通規制における衛星測位データの活用が検討されるなど社会実装が進められています。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 井上陽介
また、わが国においては準天頂衛星「みちびき」の7機体制に向けた5号機の打ち上げ、信号認証サービスが2024年から開始されるなど測位環境の向上が見込まれています。
一方、ウクライナにおける紛争によりGNSS干渉妨害やスプーフィングなどの脅威が顕在化し、国内のみならず、アジア諸国においてもデータの信頼性やセキュリティを担保していくことが、今後のビジネス展開、社会インフラとして重要な課題です。さらに衛星データなども含む地理空間情報の活用においては、意思決定を支援するための情報としてGEO-Intelligence(GEOINT)が注目されています。
最初に、宇宙産業の状況について、神武さん、解説していただけますか。
神武氏:現在、1万基以上の人工衛星がありますが、大別すると気象衛星「ひまわり」で知られる観測衛星、衛星放送などで利用される通信衛星、そして、準天頂衛星「みちびき」に代表される測位衛星の3つがあります。これらの衛星は防災や自動運転、カーナビなどさまざまな用途で活用されています。
宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合 代表理事 神武 直彦氏
衛星にかかわるベンチャー企業が増えており、日本では約100社、世界では約1,000社あると言われています。大学発のスタートアップもあり、そのうちの12社を取りまとめた事業協同組合が宇宙サービスイノベーションラボ(SSIL)です。本日参加しているLocationMindさんも組合員企業の1つです。
SSILでは、宇宙サービスに関係する民間企業の事業戦略、研究戦略の立案と実行や、宇宙サービスにかかわる技術やサービス創出のための教育プログラムの提供、人材育成、事業の概念実証から事業化支援といった取り組みまでを推進しています。
世界の宇宙産業の規模は約54兆円※円に達します。そのうち、4分の3が民間ビジネスにかかわり、通信放送衛星や、位置情報を受信するGPS受信装置・測位システムなどのマーケットが含まれます。そして、4分の1が各国の政府事業です。日本の政府事業も拡大しており、米国、欧州、中国、ロシアに次ぐ第5位の事業規模となっており、宇宙ビジネスがどんどん広がっているというのが現在の状況です。
日本では政府主導で宇宙基本計画が策定されています(2023年6月改定)。「宇宙安全保障の確保」「国土強靭化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現」「宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造」「宇宙活動を支える総合的基盤の強化」といった4つのポイントがあり、この基本計画に則って日本の宇宙活動が行われているのです。
※出典:Bryce Tech 「2022 Global Space Economy at a Glance」1USドル140円で計算
神武氏:衛星データの活用事例をいくつか紹介します。例えば、地球温暖化で北極の氷が溶けている様子を衛星で捉える。温暖化は大きな問題ですが、ビジネスチャンスでもあります。日本から欧州に船で向かう場合、これまで氷が厚く北極経由で船が航行することができませんでしたが、夏の間は氷が溶け、北極を経由して短距離で行けるようになります。その結果、燃料費を抑えられ、輸送コストの削減も期待できます。
また、衛星で海面水温を把握することにより、遠洋漁業のマグロの周回を高精度で予測することが可能です。漁業の効率化にも衛星データが活用されているのです。
スポーツにも活用されています。ラグビーやサッカーなどで選手たちの背中に位置情報を捉えるGNSS受信機を取り付けて試合を行う。選手の動きがデータ化され、体調の管理や疲労によるケガの予防に役立てることができます。
衛星データによる体調管理は人間だけでなく、家畜にも適用されています。ある畜産事業者は放牧する牛の位置情報を把握し、あまり動き回らない牛の体調の変化を見ているのです。こうしたデータを分析することで、データをインフォメーションに変える。放牧している牛の行動を捉え、体調が悪いようであれば様子を見に行くというような意思決定、インテリジェンスに役立てられる時代になっているのです。
宇宙ビジネスは高機能化とともにコモディティ化しており、だれでも使えるようになってきました。準天頂衛星システム「みちびき」が今後7機体制となるなど測位衛星が増えることで、位置情報はより広い場所で高精度に把握できるようになります。そして、GNSS受信機で受信した信号が本当に測位衛星から送信された信号であるかどうかを確認できる信号認証サービスが開始されます。
宇宙ビジネスが広がる中、データをインフォメーションに変えることに加え、いかにインテリジェンスに変えるか。意思決定に役立てるにはデータの信頼性とセキュリティの確保も必要です。そして日本だけでなくアジアや世界にどう宇宙ビジネスを展開するか、どう国益を高め、世界に貢献していくのかが重要になると考えています。
井上:LocationMindの位置情報を活用したビジネスについて、説明していただけますか。
藤田氏:当社は2019年に創業した大学発のスタートアップです。事業内容は、位置情報データを集めて人の活動やモノの動きを分析して明らかにする「空間情報AI」と、人工衛星を使った「位置情報セキュリティ」の2つです。
LocationMind株式会社 取締役 藤田 智明氏
まず、位置情報の分析では、例えば東京駅周辺の人流、人の位置情報のデータを集めます。スマートフォンのGPSデータを取っているのですが全てではありません。限られたサンプルデータの中から全数を予測する。ここに当社のインテリジェンス、AIを使ったアルゴリズムが含まれているところに特徴があります。また、位置情報のデータを補完するような分析も当社が得意としているところです。
位置情報データを可視化することでいろいろ興味深いことが分かってきました。その一例として、新型コロナウイルス感染者数予測があります。感染者数がどのように推移するのかを人流データを用いて分析するというものです。人流データと実際に計測されているコロナ感染者数を分析して3週間後の感染者数を予測する取り組みでしたが、分析の結果、高い精度で感染者数を予測することができました。
藤田氏:位置情報データを活用していく上で、神武さんも指摘されていましたが、データの信頼性が重要になってきます。位置情報データの信頼性を損なう手口として、妨害電波を出して位置情報を取得できなくするジャミングや、位置情報を偽装するスプーフィングがあります。例えば、スマートフォンの地図アプリを悪用して東京にいながらパリの道路を自動車で移動しているかのように位置情報を偽装することも可能です。
実は、このような位置情報の電波妨害や偽装が世界のいたるところで起こっています。例えばウクライナにおける紛争では自爆ドローンによる攻撃が報道されていますが、偽装の信号を発して自爆ドローン攻撃を阻止するというようなことも行われています。
位置情報データの偽装は私たちの身近な問題になりつつあります。例えば有料道路の課金。日本ではETCのゲートを通過する際に課金されますが、東南アジアや東欧地域などでは位置情報を利用したGNSS道路課金システムが導入され始めています。
まさに自動車の位置情報が金銭的価値に直結しており、もし位置情報データを偽装すれば課金逃れができてしまう。これでは社会インフラとして成り立たないので、位置情報の偽装防止対策が必要です。
当社では信号認証対応のGNSS受信機のハードウエアと、位置情報の信頼性を評価するAI分析のソフトウェアを組み合わせた「位置認証サービス」を開発。ユーザーのスマートフォンや自動車、ドローンなど、さまざまなデバイスの位置情報が偽装されていないかを確認し、信頼性を向上させるものです。こうしたサービスを通じ、社会であまり知られていない位置情報の偽装のリスク、危険性をお伝えしていきたいと考えています。
井上:次にビジネス展開に必要な3つのテーマで話をしたいと思います。1つ目は位置情報をインテリジェンス、意思決定にどう活用するか、2つ目は位置情報のセキュリティ対策、3つ目は社会実装する上でのルールメイキングです。
神武さんからGEOINTの話がありましたが、日本の産業分野でGEOINTを広げていくために検討すべき事項があればお聞かせいただけますか。
神武氏:データを理解できるインフォメーションに変える。そして意思決定に資するインテリジェンスにするというのは決して新しい話ではありません。企業・組織におけるDXも、まさに意思決定のためにデータを活用しており、新しいものではないのです。
それでは、どう変わってきているかといえば、皆さん空間情報、地図データをより価値の高いものに利用し始め、質、量ともに高度化しているのです。インテリジェンスに使うといっても、利用者が何を必要としているのかによって違ってきます。安全保障、防災、ビジネスでは必要な精度、信頼性も異なります。
料理に喩えれば、食材をいっぱいそろえたけれども、まずお客様が何を食べたいのかちゃんと理解する。そして理解するための仕組みをつくることと、LocationMindさんのように事例をきちんとつくることがGEOINTを広げるポイントになると思います。
井上:利用者が位置情報データを使ってどんなことができるのか、まだまだ理解できていない部分もあると思います。位置情報に対するユーザーの理解や工夫されていることなど、事例を含めお話しいただけますか。
藤田氏:位置情報に対するユーザーや市場の理解があまり進んでいないというのが正直な感想です。当社が高度な分析、正確な分析の必要性を提示しても「そんな高度な情報は要りません」「扱い方がよく分かりません」という話を聞くことも珍しくありません。
そうした状況のなかでも、さまざまなニーズがある。例えば人流を把握する場合、かつては国勢調査などの情報を基に調べていましたが、今はスマートフォンのGPSで人流データを把握する動きがあります。時間ごとの人流データの把握が可能なため、広告や不動産などの分野で活用が進んでいくと見ています。
井上:顧客の課題解決や意思決定を支援するための位置情報の使い方など、どのように提案しているのですか。
神武氏:課題解決のために位置情報を使うというのは、あくまでも1つの手段に過ぎません。さまざまな手段があるなかで位置情報がどういうものなのかを理解していただくために、お客様と一緒にソリューションを作っていくことが大事です。
ただ、位置情報を使うとプライバシーを侵害するのではないかと警戒されることもあります。安全に利用するためのルールをつくり、お客様のリスクにならないことを示していく必要があります。そして、位置情報データ活用のリテラシーを上げていくには人材育成とともに、活用事例を地道につくっていくこともポイントになると考えています。
井上:2つ目のテーマは、位置情報を活用する上で欠かせないセキュリティの確保です。位置情報の偽装を防止するための技術開発について、どのように取り組んでいるのでしょうか。
藤田氏:これまで位置情報は人命を左右するようなクリティカルな場面で使われるケースはあまりありませんでした。ところが、車の自動運転やドローンなどで位置情報が利用されるようになり、データを改ざんすることで人命や社会インフラそのものを揺るがしかねない状況を迎えています。
ただ、改ざんや偽造を防ぐのは攻撃者とのいたちごっこになり、困難だと思います。怪しいかどうか、さまざまな情報を組み合わせてリスクベースで評価するなど、市場全体で技術を発展させていくことが重要です。
井上:日本では経済産業省が「民間宇宙システムにおけるサイバーセキュリティ対策ガイドライン」を策定しています。上杉さん、このガイドラインの概要を説明してもらえますか。
上杉:衛星や地上局など宇宙産業にかかわる民間企業を狙ったサイバー攻撃が繰り返され、機密情報の流出やシステムの停止などの事案が世界中で発生しています。経済産業省のガイドラインでは、宇宙システムにかかわるセキュリティ上のリスクや、宇宙システムにかかわる各ステークホルダーが検討すべき基本的セキュリティ対策などを示しています。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 上杉 謙二
推奨される対策が網羅されており、ガイドラインをベースに社内の議論に役立てたり、取引先に対してガイドラインに準拠していることをアピールしたりするなど、宇宙ビジネスを進める上でのサイバーセキュリティ対策の第一歩になると思います。
井上:3つ目のテーマは、社会実装とルールメイキングです。位置情報にかかわるルールメイキングや普及展開に向けたポイントはどうなりますか。
神武氏:産官学で取り組むべき問題だと思います。まず、産業界の方は日本だけでなく世界でビジネスを行うマインドを持っていただき、世界で培った知見を日本にフィードバックするというようなダイナミックな展開を期待しています。例えば準天頂衛星は日本を中心にアジア太平洋を網羅しており、宇宙インフラを海外で活用することも考えられます。
そして、「官」には日本のルールをつくるだけでなく、日本のルールと世界のルールを協調させたり、あるいは日本のルールを世界のルールとして認めてもらったりするような活動に期待しています。
「学」の役割は、民間企業ではチャレンジするのが難しい「とがった」ものを大学レベルで小さく始めることと、海外からの留学生を含め、仲間づくりに期待しています。産官学が連携しながら、宇宙インフラを活用するための体制づくりを進めてほしいと願っています。
藤田氏:セキュリティについてお話しすると、企業にとってセキュリティ対策はコストと捉えられがちです。いくらいいインフラやサービスがあってもコストがかかると躊躇してしまうのです。ルールメイキングをするにも時間がかかります。
そこで海外のインフラを活用してどんどん実証する。その事例を日本に逆輸入するのです。例えばこういう不正行為があったが、こういうセキュリティ対策で対応したというような事例を示すことも1つの方法になると考えています。
上杉:日本の強みは安全・安心だと思います。衛星データ、測位情報などもセキュアで便利に使えることをアピールし、民間事業者は海外にどんどん進出していただきたいです。
井上:産官学がそれぞれの役割を担うことや、海外を見据えた事業展開の必要性などについてお話しいただきました。今後のビジネス活動や研究開発のお役に立てればと思います。
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