東京大学とともに全国の大学生・大学院生を対象にしたAI起業プログラムとピッチコンテストを開催

  • 2025-11-11

東京大学とPwC Japanグループは、未来を創る経営人材の育成を掲げて、2021年から大学生と社会人のそれぞれを対象に「AI経営寄付講座」を開催しています。その一環である夏の学生向け講座「AI起業サマープログラム」は、全国の大学生・大学院生を対象に、社会課題解決につながる事業案の創出を目的として実施されました。受講者はAIを経営に生かすための実践的なスキルの他、経営の最前線にいる講師から最新のAI活用方法を学び、同年代の受講者とのグループワークを通して、資金調達、アイデアの選別、仮説の立て方などを経験しました。

2025年のプログラムは、前年よりも大幅に多い約500名の大学生・大学院生が参加。8月8日の事前講義からスタートし、9月25日のピッチコンテストで締めくくられました。全7日間のうち、選考を経た3日目以降は100名の学生が講義とワークショップを通じて学びを深めながら、社会課題解決につながる事業案を練りました。

多様化、複雑化する社会課題をAI技術と柔軟な発想で解決していく

社会課題のテーマは、食、都市課題、メディア・エンターテイメント、ものづくり、医療・福祉の5つで、AIの活用によってこれらの課題を解決する方法を考えます。参加者はテーマごとに4、5名のチームとなり、課題の深堀り、ソリューションの考案、ヒアリングなどによるニーズ検証、プロトタイプ作成、企画書作成、ニーズの検証結果を踏まえた修正を行いました。

さまざまなアイデアが生まれた中で、投票で選ばれたファイナリスト6チームがプログラム最終日の「ピッチコンテスト」でその内容を発表。審査員と受講者が内容を評価し、優秀な事業案に賞が授与されました。

以下、ファイナリストの事業案の概要を紹介します。

チームA
相場と修繕費の自動計算で空き家投資を活性化

チームAは、空き家の査定額を可視化するソリューションを提案しました。

日本国内の住宅は約7件に1件が空き家となっています。空き家の増加は、建物倒壊、衛生問題、景観の悪化、治安への悪影響などの要因となり、地域の外部不経済と機械損失をもたらします。また、2023年の総務省の統計「住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」によると、市場で売りに出ない空き家が全体の43%を占めています。このことからも日本の空き家は流通が停滞していると言えます。

資産の有効活用の観点から見ると、空き家は潜在的な投資対象であり、Jones Lang LaSalle「2025年の日本不動産投資市場動向の展望と2024年の振り返り」によると約5兆円の不動産投資市場のうち空き家の流通サービス市場(潜在的な空き家供給も含む)は1兆9,000億円です。この市場の主要なステークホルダーは、売り手であるオーナー、買い手である個人投資家、その仲介を行う不動産事業者の3者ですが、チームAのヒアリングによると、オーナーは査定の根拠に不信感があり、投資家は投資対象としてのリスクが不透明であると感じ、不動産事業者は売却益に対して査定などにかかるコストがかかりすぎるといった課題を抱えていることが分かりました。

これら課題における解決策として、空き家取引の査定をAIによって可視化して効率化するソリューションを考えました。住所や床面積などの基本情報、屋内を撮影した動画を入力すると、AIが地価と修繕費(推定)を自動で計算して査定結果を提示します。このソリューションにより、3者の課題を同時に解決でき、納得感、契約率、購入とリスク判断の精度を向上することができます。

事業化では、このソリューションによって市場の1%を獲得できた場合、売上高は190億円に上る(1兆9,000億円の1%)と推計しました。今後の展開としては、本サービスを不動産会社からの業務委託や不動産事業への参入の足掛かりにして、2030年に売上高60億円を目指し、空き家に投資対象としての新たな価値を創出します。

チームB
アトピーの温泉治癒をもっと身近にするアプリ

チームBは、アトピー性皮膚炎で悩む人に向けて治癒効果のある温泉施設の情報を提供するアプリを提案しました。

アトピー性皮膚炎の治療は生涯にわたります。そのため、副作用が少なく継続可能な治療方法が求められますが、現行の医学的な治癒方法はステロイドを用いる薬物治療が中心で、副作用のリスクと経済的負担が大きいという課題があります。患者からも現在の治療方法に満足していないという声が多く出ています。そこでチームBは、国内での温泉療法を身近にするソリューションを考えました。温泉はさまざまな病気の治癒に効果があるとされ、その医学的な根拠については国内外で数千本の論文が発表されています。また、国内には日帰り温泉施設が7,864カ所あり、温泉療法の医師数は1,000名超、温泉療法の利用者数は48万人に及びます。

このアプリは、温泉、症状、ユーザー情報、過去の体験履歴などをAIの学習データとして、ユーザーの症状に応じた温泉施設をパーソナライズしてレコメンドします。また、効果を客観的に記録、分析して効果を可視化します。事業化について、これを医療用アプリとしてリリースするためには研究結果などに基づく各種承認を受ける必要があり、リリースまでの時間と費用がかかります。そこでヘルスケアアプリとしてのリリースを想定しました。これにより早期の事業化と収入確保が実現でき、ユーザーへの周知と浸透を進めることができます。

厚生労働省「患者調査」によると国内のアトピー性皮膚炎の患者は2020年で125万人、2030年で160万人に増えると予測されており、温泉療法のニーズはポテンシャルが大きいのが特徴です。この市場を見据えて、事業立ち上げでは各種助成金や大学との協業を通じて段階的に7億円の資金調達を行い、患者からは利用料を得ずに、ケア製品の広告料、温泉施設の予約と利用による収益還元、企業や大学などへの医療情報提供料を獲得するモデルとしました。その結果として、リリースから10年目の売上高を約9億円と想定しています。

チームC
ライブ配信の切り抜き作成アプリで成長市場の波をつかむ

チームCは、ライブ配信の切り抜き動画が自動で作れるアプリを提案しました。

スマートフォンや動画編集ソフトなどが充実し、ゲーム実況、雑談配信、Vライバーなどライブ配信を行う人が増えています。市場の成長力もあり、Grand View Research「Japan Live Streaming Market Size & Outlook, 2023-2030」によると2023年に約5,340億円だった日本のライブ配信産業の市場規模は、2030年には2兆5,080億円になると見込まれています。

ただ、ライブ配信は数時間の長編コンテンツが多いため、配信を見慣れていない人にとってはハードルが高く、配信者側もファン獲得に苦労しています。また、動画の中から面白いところを切り抜くことによって、短時間で魅力が伝わり、配信者の認知の拡大、本編への誘導、投げ銭の増加につながりますが、切り抜き作成の手間が課題となります。例えば4時間程度の配信から10本の切り抜きを作成する場合、10時間以上の作業時間がかかってしまいます。

そこで考えたのが、自動で切り抜き作成と編集を行うAIアシスタントです。AIを通して、本編のデータから投げ銭やコメントといった視聴者とのインタラクションを踏まえて盛り上がったところを解析します。それを自動で切り取った上で、文字起こし、字幕作成、BGM追加、サムネイル作成、テンプレート編集などを行います。

海外ではすでに汎用AI自動切り抜きツールがあり、1,000万人規模のユーザーを獲得するサービスも見られます。一方、日本にはまだ主要なプレーヤーが存在せず、海外のツールにおける日本語対応も進んでいません。これを大きな事業機会と捉えて、このサービスでは無料で提供する個人向けプランの他、収益対象としてタレント事務所向けと、配信プラットフォーム向けのプランを作りました。また、長期戦略ではこのサービスの肝である「盛り上がり分析データ」を活用して、リアルタイムの配信改善やフィードバックの提供といったサービスを拡充し、配信業界のAIインフラを目指します。

チームD
ゲーム感覚で特定外来植物を見つけるアプリ

チームDは、地域の自然環境の脅威となる特定外来植物の対策アプリを提案しました。

特定外来植物は、生態系や農林水産業に被害を与える、またはそのおそれがあるとして法律(外来生物法)で指定された外来植物のことです。なかには繁殖力が強い植物もあり、短期間で河川や田畑を覆い尽くしてしまうことがあります。

関係者へのヒアリングでは、河川などを管理する自治体が対策の必要性を感じている一方で、特定外来植物を判別できる人が少なく一定数以上の通報が得られないことや、職員も判別できないことがあるといった声がありました。また、駆除の費用負担が大きく、年間1億円以上かかっている県もあることが分かりました。

この課題を解決するためには、より多くの人が外来植物の情報を提供できるようにする仕組みが有効です。そこで考えたのが、スマートフォンで植物の写真を撮って情報提供するアプリです。AIは、検索エンジンから該当の植物と、その植物に似ている植物の写真を学習します。そのデータを踏まえ、住民が撮影した植物を判定し特定外来植物である場合には自治体に情報提供します。

このアプリを使うことで、自治体の職員が河川などを巡回する手間を軽減できます。外来植物の繁殖状況をリアルタイムで把握してヒートマップ化することによって繁殖の初期段階で駆除作業を始めることができ、駆除費用を抑えることにもつながります。また、より多くの住民に参加してもらうため、情報提供者が地元の商店で使えるクーポンなどに交換できるポイントを獲得できる機能を付けました。

事業化に向けては、サブスクリプション契約を想定して画像認識と分布作成機能を提供する通常版と、ポイント機能をつけるプレミアム版を作りました。今後はPoC(概念実証)に協力してくれる自治体と協業して、2027年にアプリのリリースを目指すというロードマップを策定しました。

チームE
職人の知見をデジタル化して伝統を守る

チームEは、伝統工芸である西陣織の職人が使う機械の修理の知見を集約したプラットフォームを提案しました。

日本の伝統工芸は、工芸品を作る技術が継承される一方で、そのために必要な機械の修理方法が共有されていないという課題があります。また、それら機械は古いため壊れやすく、修理できる人の数も少数です。西陣織を例にすると、300以上の工房があるのに対して修理できる人は2人しかいません。このため、西陣織の職人へのヒアリングでは、ある機械を修理するために専門の人を呼び、3日もかかった例がありました。しかも、このトラブルは歯車に油を吹きつけるだけで解決できる単純なもので、現場にそのような知見がないために仕事が3日間も止まってしまいました。

この課題の解決策として、チームEは機械修理の知見を集約し、インターネット百科事典のようなプラットフォームを提供することを考えました。まずは修理人の暗黙知を形式知に変換して保存します。暗黙知は、例えば、機械が動かない時にペアリングを確認して油をさすといった修理経験から得られた知識のことで、このような情報をログ、テキスト、画像、動画、音声によって入力し、AIが症状、原因、対処法を体系化します。現場の職人の利用シーンでは、機械の症状をチャット形式で質問し、AIと会話しながらトラブルの原因を特定し、対処法を知ることができます。例えば、機械からガリガリと音がするという症状をAIに伝え、その原因をAIが推測しながら具体的な対処法を提示します。

収益モデルは、ユーザーである職人が月3,000円の利用料を払い、修理人は知見を提供することで報酬を得られるモデルを考えました。西陣織の場合、工業組合の登録が340社であり、単純計算で年間利用料36,000円を掛け算すると約1,200万円の売り上げが見込めます。このアイデアは、西陣織以外の伝統工芸にも展開でき、事業としての成長が期待できます。加えて、知見の保存は伝統を次世代に継承していくためにも大きな役割を果たします。

チームF
工事情報を反映する交通対策図の自動生成

チームFは、主に建築業をターゲットとするAI交通作図システムを提案しました。

人口減少と労働力不足が深刻化し、建設業では生産現場の労働力や生産能力が受注量に及ばないケースが頻発しています。その解決策となるのがAI活用ですが、現場ではAI導入の障壁があり、効率化が進んでいません。業界関係者へのヒアリングでは、AI導入のリソース(費用、人材)不足や、書類作成など事務作業が負担となっているという声が多く、特に交通対策図の作成は費用と時間の負担が大きいことが分かりました。交通対策図は、道路工事などによる交通への影響を具体的に示す図面のことです。

このような背景を踏まえ、チームFが考えたのがAI交通対策図作成システムです。このシステムを使うことで作図に必要な現地測量の手間、時間、コストが削減でき、これまで自社作成で2〜6時間、外注する場合には3〜7日かかっていた交通対策図の作成が15分に短縮できます。コストも5万円から2万円に軽減でき、現場の生産性向上と人件費削減につながります。作図に必要なデータは、まずはオープンデータを使って地図データベースを構築します。その上で、工事範囲を指定して工事情報を加え、ニューラルネットワークまたはルールベースのモデルを使ってパターンを識別し、交通対策図を生成します。この方法は、AIに学習させるデータ群を簡単に入手でき、公開情報やヒアリングした情報で開発を進められるのが特徴です。

事業化は、まずは土木系の中小企業向けに月2万円でサービスを提供し、低価格で導入しやすいことを周知しながら、5年間で2,000社との契約を目指します。その先の展開として、AI交通対策図システムと、収集した測量データを組み合わせたプラットフォームを構築し、大手ゼネコンをターゲットとする計画を立てました。

AI社会で価値提供できるビジネスと人材づくりを加速

この講座は今年で5年目となりますが、今回のピッチコンテストでは、複雑化する社会課題をAIによって解決するアプローチと、実現可能性が高い事業案が数多く発表されました。今後も生成AIの普及が想定される中、AIの活用領域と、それに伴うビジネスチャンスはさらに広がっていくはずです。

PwC Japanグループは、私たちが持つAI分野の知見とネットワークを活用して、このような講座やイベントの開催を推進し、より効果的で実践的なアプローチを通じて社会課題の解決に貢献していきます。

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