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「変化を恐れず、愚直に前進するのみ」DXの成功モデルに迫る
──PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020より

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、不確実性が高まる世の中において、ビジネスにおける新しい価値創造やリスクの可視化のため、世界中の企業が取り組む重要なアジェンダとなっている。2020年2月26日に開催された「PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020」のスペシャルセッション「デジタルトランスフォーメーションの成功モデル」では、PwC Japanグループ(以下PwC)マネージングパートナー・鹿島章がファシリテーターを務め、株式会社ナイアンティック シニアディレクター・プロダクトマーケティング(APAC)の足立光氏、株式会社東芝 執行役上席常務・最高デジタル責任者、東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長、東芝データ株式会社 代表取締役CEO(最高経営責任者)の島田太郎氏とともに、DXを成功させるための条件や方法論について議論を交わした。

変革を阻むものは何なのか

では、変革への一歩を踏み出すためには何が必要なのだろうか。島田氏は過去に企業へのコンサルティングに携わった経験から、「日本企業は成功事例を求めすぎる」と指摘。これに対し足立氏も「成功事例が存在していたら、それはすでに新しくありません。まったく違う業界の事例を応用するのであればまだ新しいアイデアにつながりますが、同業他社がやっていることに注目しても二番煎じになるだけです」と述べ、他社や自社の過去の成功事例を一掃すれば新しいことにチャレンジするマインドセットが整うと強調した。

また両氏は、高い目標を掲げることの重要性についても言及した。

「DXを実現するためには、とんでもない目標を掲げることが重要です。もしかしたらできるのではないかという目標では、枠の外に出ていくという機運にならないからです」(島田氏)

「人には変わりたくないという本能があるので、積み上げることで達成できてしまう目標であれば、変わる理由はありません。届かない目標を掲げないと、なかなか動き出さないのです」(足立氏)

足立氏はさらに、任期のある経営層にとっては変革がリスクと捉えられることもあるため、「変えないことによるリスクや、変えることによるベネフィットをきちんと数値化して示す必要があります」と付け加えた。

鹿島は足立氏の指摘に納得した上で、「日本の会社には、全体を大きく変えるのはハードルが高いので、変革のための組織を外側に作るという動きがある」ことに触れ、出島のようなデジタル専門組織の有効性について提起した。それに対し足立氏は、懸念すべき点を挙げた。

「日本企業では、SNSなど新しいツールの活用を一部のデジタル専門部署が主導することが多いですが、それに対して他部署の人たちは無関心であったり、拒否反応を示したりすることもあります。デジタルを一部署に一任することで、かえって全体のデジタル化を阻害する場合もあるので注意が必要です」(足立氏)

「DXを推進するのがアーキテクチャー上不可能であれば、新たに組織を立ち上げるしかありません。東芝は過去5年間にわたり法人の数を減らしてきましたが、今回新しい会社として東芝データを設立しました(2020年2月)。なぜ別会社にしたかというと、この会社をプラットフォームとして、全ての事業のデータを集める仕組みを構築したかったからです。これは出島ではなく“本島”のイメージです」(島田氏)

島田氏は、これはあくまで東芝にとっての最適解であり、何をやりたいかによって処方箋は変わると補足。足立氏も、自身が外食チェーンの再建に取り組んだ際、デジタル部を創設したものの、1年間稼働して実績を作ったところで解散し、全社的にデジタルに取り組む次のステップへ移行したという事例を紹介し、「会社がどのステージにいるかによって、DX推進のための最適な組織はまったく異なる」と述べた。

また島田氏は、デジタル人材についても言及。デジタル人材不足がよく話題になるが、それ自体は大した問題ではないと断言した。

「デジタル人材がいないという話題になると、解決策としてすぐに『若いスタッフを集めよう』『外部から人材を入れよう』『講習を受けさせよう』などという話になりがち。ですが、そういうことでは解決しないと私は思います。お客様からお金をいただく新たな手法を探っていく上で、これまでのやり方をどう変えなければならないかをまず考えること。そうすればデジタルとはそれほど難しいことではない。自分たちの習慣や惰性から、一歩でも外に踏み出せるかどうかが重要なのです」(島田氏)

足立氏もそれに賛同し、デジタル人材に求められる資質について指摘した。

「デジタルとひと言で言っても幅広く、機器もあれば、ソフトウェアもメディアもあり、それら全てが日々変化しています。そうした世界では、理論上“デジタルの専門家”なんて存在しません。人や企業、いろいろなものをつないで絵を描ける指揮者やプロデューサーのような人こそが、DX推進に最もふさわしい人材なのです」(足立氏)

島田 太郎 氏

島田 太郎 氏

株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者
東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長
東芝データ株式会社 代表取締役CEO

1990年、新明和工業株式会社入社。BoeingとMcDonnell Douglasに出向後、1999年、Siemensの一部であるSDRCに入社し、Siemens KK、ドイツのSiemens本社などを経て、2015年、専務執行役員に就任。2018年10月にコーポレートデジタル事業責任者として株式会社東芝に入社。2019年4月、執行役常務 最高デジタル責任者に就任、現在は執行役上席常務として東芝デジタルソリューションズ社、東芝データ社も所管。自動車、精密機器設計、重工業、ソフトウェアのファクトリーオートメーションのエキスパートとして、大手グローバルメーカーのデジタル化に関するコンサルティングも行う。現在はロボット革命と産業用IoTイニシアチブ、IoTアクセラレーションラボのアドバイザーとしても活動。

足立 光 氏

足立 光 氏

株式会社ナイアンティック シニアディレクター
プロダクトマーケティング(APAC)

P&Gジャパン株式会社、戦略コンサルティング・ファーム、シュワルツコフ ヘンケル株式会社の社長・会長などを経て、2015年から日本マクドナルド株式会社にて上級執行役員・マーケティング本部長として業績のV字回復を牽引。2018年9月より現職。株式会社I-neの社外取締役、株式会社ローランド・ベルガーやスマートニュース株式会社のアドバイザーも兼任。

鹿島 章

鹿島 章

PwC Japanグループ マネージングパートナー

1985年、大手監査法人に入所。監査業務を経験した後、1995年にアーサーアンダーセンビジネスコンサルティング部門へ転籍し、2001年にパートナー就任。べリングポイント株式会社マネージングディレクターなどを経て、2012年にプライスウォーターハウスクーパース株式会社のコンサルティング部門代表、2015年に同社代表取締役に就任。2016年より現職。

※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。

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