[Management Issue]デジタルトランスフォーメーションから価値を創造するために

ヤン・ボンデュエル

PwC Japanグループ データ&アナリティクス リーダー PwCコンサルティング合同会社 パートナー

PwC Japanグループのデータ&アナリティクス部門統括。クライアントの戦略決定をデータ分析により支援している。国際会議などでの講演および執筆多数、スタンフォード大学卒業(PhD)。

デジタルトランスフォーメーション(DX)への関心の高まりは、とどまるところを知らない。「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が経済紙で取り上げられる頻度は過去三年間で約3.5倍※1に増加するなど、ビジネス界における注目度の高まりは顕著である。今や、デジタルを生業とする企業を除き、大企業のほとんどがDXに取り組み、データを活用したビジネス変革の実現に向けて邁進している。それは、政府、中小企業、そして多国籍企業も例外ではない。このような状況下において、PwCコンサルティング合同会社では、デジタルテクノロジーを活用したビジネス変革を広義に「DX」と捉える一方、アナリティクスやAIを活用したクライアントのビジネス変革実現を狭義に「アナリティクス & AIトランスフォーメーション(AIX)」と捉え、支援している。

AIXの実現を阻む要因

日本国内でデータ&アナリティクスサービスを利用したことがある企業を対象に、2018年3月にPwC Japanグループが実施した調査※2によると、データやアナリティクスから得られる結果を軸に経営の意思決定をしているエグゼクティブはほとんど見られなかった。そして、従業員数5,000名以上の企業に所属する17名を対象としたヒアリングでは、最重要課題として以下四点が明らかになった。

(1)主要データを収集することが難しい:データ収集に膨大な時間を要する、データマネジメントスキル不足、ソーシャルメディアやセンサーなどを活用した新規データ収集および分析の難しさ(82%)

(2)データ&アナリティクス専門スタッフ、もしくは、データ&アナリティクススタッフのスキルが不足している(71%)

(3)ビジネスとデータ&アナリティクス双方を理解しているスタッフが欠如している(53%)

(4)データプライバシーおよびセキュリティに関する透明性および理解が欠如している(47%)

上記は昨年の調査結果ではあるが、企業がデータを活用したビジネス変革の実現を目指し、よりいっそう取り組みを推進していることを踏まえると、現在も同じ状況だと推察できる。実際、当社がクライアント向けに実施した、データ&アナリティクスやAIを業務に取り入れることを想定したヒアリングでは、以下のような要望や懸念が浮き彫りになっている。

  • 「経営層は、データドリブンで意思決定をしたい、また、AIを業務に取り入れたい、と言っているが、私たちはデータ共有もデータ活用もできていない。社内で合意した戦略や計画もない。どこから始めればよいのか」
  • 「自社にはデータベースやデータウェアハウスがたくさんあるが、何のデータがどこに格納され、それが使用可能な状態なのかも分からない。一つの正しいデータを用意したいが、どうすれば現状を整理できるか」
  • 「私たちはデータ分析やAIを用いた実証実験を数多く実施してきたが、利益を上げることにつながっていない。どうすれば利益を増やすことができるか」
  • 「分析結果をダッシュボードで可視化することはできているが、アナリティクスやAIを活用したより高度な分析を行う実証実験が必要であると考えている。しかし、私たちには十分な経験がない。優先順位を踏まえた実現可能なメニュー作成や、より高度な実証実験を手伝ってもらえるか」
  • 「社内にデータ&アナリティクスやAIスキルを備えた複数のチームが存在しているがビジョンがない。それぞれが同じようなことを主張するが、なかなか利益を拡大できていない。実用的な戦略立案、適切な人材の獲得、育成はどのようにすればよいのか」

クライアント主導のAIXを実現するPwCのアプローチ

クライアントが抱えるこれらのニーズに応えるために、当社では、データを活用したビジネス変革の実現に向けた検討課題の特定支援を強化している。データに注力すべき企業には、データを軸に支援を行う。例えば、データマネジメント、データアーキテクチャ、データガバナンス、データ収集、データセキュリティもしくはデータトランスフォーメーションなどの領域で対応可能だ。多くの企業には、比較的より包括的なアプローチを取っており、プロジェクトを通じて以下のような成果を提供している。

  • データ&アナリティクスやAIの導入戦略およびロードマップ
  • 優先順位を踏まえた経営課題に直結するユースケースリスト
  • 最適なデータ&アナリティクスやAIのオペレーティングモデルの提案
  • データサイエンティストなどのスペシャリスト向けキャリアフレームワーク構築、それに付随する採用や人材開発支援

AIXの実現には、時間を要する。机上での実証実験の比ではない。図2は、AIXを目指すプロジェクトにおいて発生する三つの主要段階と、それに付随するタスクを示したものである。

第一段階では、トランスフォーメーションに向けたクライアントの準備状況を評価し、ビジョンおよび実現可能なロードマップを策定する。第二段階では、プログラム構築および実行、そして第三段階では、スケールアップおよび継続的な改善を支援する。

当社がクライアントに対して何を提供できるのか。それは、何を行うかだけでなく、どう行うか、そのアプローチに着目していただくと理解しやすいだろう。AIXを推進する際には、多種多様なスキルを持つ方々との多くの連携が必要となる。取り組む内容も全く異なり、例えば、社内体制の構築やそのための予算取りやサポート、革新的なデータ&アナリティクスやAIのユースケースの導入、デジタルを活用した新たな働き方やツール、ソフトウェアの導入、データクレンジング、活用できそうな外部データの特定などが含まれる。

当社は、可能な限り速やかに、クライアントが当社コンサルタントから自立できるよう尽力している。当社主導で新規プロジェクトを推進し、その後、クライアント主導で推進できるよう体制を整えていく。裏を返せば、自立に向けてクライアントの準備が整えば、当社はご発注いただいている業務を積極的にクライアントに引き継ぎ始めるということになる。このようなパートナーシップを当社ではRamp up/Ramp down model(クライアントとPwC間の段階的な主導権の移行/図3)と称しているが、このアプローチは、クライアントによる真のトランスフォーメーションを長期に渡って可能とする組織作りに大きな影響を与えると考えている。

※1:【PwCコンサルティング合同会社調べ】 2016年9月1日を起点に「デジタルトランスフォーメーション」の1年間の引用件数を日経テレコンにて算出。対象媒体は、日本経済新聞朝刊、日経産業新聞、日経電子版。
※2:PwC Japanグループが、2018年にSOURCE Global Researchを通じて実施した調査。データ&アナリティクス関連サービスを利用したことがある企業に所属する50名のシニアエグゼクティブが回答。17名が従業員数5,000名以上の企業に所属し、33名が従業員数1,500名から5,000名の企業に所属。


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