【新たなステージに到達する電力事業者のドローン活用】~Emerging Technologyの掛け合わせによる新たな価値創出~

2022-02-21

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今回は、航空法の改正により設備点検におけるドローン活用がさらに加速することが見込まれる中、電力事業者が今後取るべき事業オプションについて考察します。

規制緩和によるドローン活用機会の再検討

2021年6月の航空法改正に伴い、有人地帯における飛行レベル4の実現を見据えたリスクベースによる3段階の飛行規制として、操縦者技能証明制度や機体認証制度などの導入が決まりました。電力業界においても、各社が送配電や太陽光発電などにおけるさまざまな実証の取り組みを通じて相応の知見を獲得しており、課題・リスクへの対応の方向性が見えつつあると評価できます。

ドローンに対する規制緩和の見通しがたち、ドローン活用の可能性がさらに広がることで、実証レベルでの取り組みを進めていた電力会社には、今後ドローン活用にあたっての中長期的なゴールを定めることが求められると考えられます。

ドローン活用のゴールは以下の通り、大きくは「自社活用」と「社外向け事業展開」の2つに分けられます。

  1. 「自社活用」としてのゴール:自社設備点検にドローンを活用することで効率化を推進し、コストを削減する
    • ドローンを適用する点検対象物(送配電設備、太陽光発電など)と飛行レベル
    • ドローンの適用により効率化される点検業務プロセス
  2. 「社外向け事業展開」としてのゴール:自社活用を通じて獲得したアセット、スキルを活かしてドローン関連事業を展開する

自社活用のゴールを設定することで獲得できるスキル、アセット、リソースをもって、どのような事業を展開できるかを検討する、という流れになります。

「自社活用」としてのゴール設定の勘所

電力業界におけるドローン点検と一口に言っても、点検対象物は変電所内の建築物、地中送電線、送配電線や鉄塔、電柱など多岐にわたります。ドローン点検がもたらす効果の大きさや実現性は点検対象物の種類に加えて、その設置場所、周辺環境、および検出したい不備内容などに左右されます。

さらに、機体や周辺システム・ツールなどを導入するにはまとまったコストが発生することから、ドローンを自社活用するにあたっては、効率化やコスト削減のシナリオを策定し、そのシナリオに沿った実行計画を立案、実行していくことが肝要です。広範なエリアに多数設置される設備については、原則レベル3以上の目視外飛行を目指しつつ、ドローン点検を優先的に適用する設備に対しては、現状の点検プロセスからドローン活用により自動化・効率化されるプロセスを特定し、ドローン活用の効果を試算するという地道な取り組みを進めることになります。

点検対象物の数や規模、設置エリアやドローン点検の体制によっては、敢えてドローンの適用を見送るという選択肢を考慮する必要もあります。戦略的な適材適所のドローン点検こそが、効果創出のカギとなるといえます。

「社外向けの事業展開」としてのゴール設定の勘所

自社設備に対するドローン点検を推進することで、ドローンの操縦、運航管理、不備検出などのスキルや知見を獲得できます。これらの知見を活かした社外向け事業の領域としては、大きく分けて他の対象物に対する点検サービスと、ドローン活用を支える周辺サービス(パイロット派遣、運航管理、保守メンテなど)の2つが想定されます。

1つ目の点検サービスについては、電力業界以外の点検対象物がターゲットとなりますが、ドローン点検市場の特徴としては、点検対象物ごとにドローンの活用体制が整備され、サイロ型の様相を呈しつつあるということが挙げられます。すなわち、ドローン活用体制の整備が遅れている点検対象物が限定的であることから、積極的に点検サービスを横展開する場合、競合先の有無によって対応の在り方を考慮したり、競合との差別化要素を検討したりするなど、工夫が求められます。

ドローン点検領域における国内主要プレイヤーのポジショニング分析 (例)

2つ目のドローン周辺サービスを展開するにあたっては、各サービスのニーズの勃興時期を踏まえつつ、自社の強みをどこまで活かせるかが参入判断のポイントとなります。とりわけ電力業界の事業者が保有する強みとして、ドローンの自社活用を通じて獲得できるスキル、アセットに加えて、社会インフラ企業として広範なエリアに保有している設備、拠点、人的リソースだけでなく、高い信頼性に基づく企業としてのブランド力があることも考慮に入れておくことが重要です。周辺サービスの中にはこれらの強みを持つ限られたプレイヤーが参入しうるものもあり、離着陸のポート運営領域や運航管理プラットフォーム領域など、今後のニーズや動向を注視しながら参入に向けた検討が進むものと想定されます。

周辺サービスの 展開優先度の検討

ドローン活用の先にある中長期の事業検討

ドローン市場において事業展開を進めたその先には、他のEmerging Technologyを起点とする新しい市場の形成が進むと想定されます。市場形成のカギとなるのは、ドローンを含めたEmerging Technology同士の掛け合わせにより新しい提供価値を見出せるかどうかです。

ドローンを起点に考えても、AIやスマートポール、モビリティポート、自動配送ロボット、3次元空間情報などさまざまな掛け合わせパターンが想起され、今後はこれらの技術が起点となって電力業界における新規事業検討の取り組みが一層加速するものと考えられます。Emerging Technologyの掛け合わせと、それらの活用機会を検討する際には、当該技術の実用化に向けた今後の見通しを踏まえつつ、技術がもたらす価値とその提供先をしっかりと見定めて、中長期的に目指す事業モデルを定義し、その実現に向けたロードマップをバックキャストで策定していくことが重要になると考えます。

PwCでは、エネルギー業界をはじめ、幅広い業界に対してドローン活用の戦略策定や事業展開支援の実績を多数有しております。直近ではドローンに加えて、新たなEmerging Technologyに係る市場動向、関連技術調査および新規事業のアイディエーション、事業構想策定での支援機会が増えています。市場環境が目まぐるしく変わるエネルギー業界において、持続的な成長に資するサービスを引き続き提供していきたいと考えています。

執筆者

佐々木 智広

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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