【非効率石炭火力のフェードアウトによる電力市場への影響】~非連続的な環境変化にどう対応していくべきか~

2020-08-01

※2020年8月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。

2020年7月、梶山弘志経済産業大臣より非効率石炭火力をフェードアウトしていく方針が発表されました。世界的な流れには沿っています。本年の2月には、ドイツでも石炭火力全廃の方針が発表されています。

ただ、国内のこれまでの議論からすれば突然であることは否めません。2020年3月の電力広域的運営推進機関による「供給計画取りまとめ」では、2029年度時点で、石炭火力は総発電量(kWh/年)の約36%を担うとされていました。つまり、この発表は、経済産業省自身にとっても従来の政策方針からの非連続な転換を余儀なくされるものであったと推察されます。

わが国の電力市場は、政府主導による電力・ガスシステム改革下で設計されてきましたが、目下として制度設計は続いており、政策方針の非連続的な転換の影響は避けられません。本稿では、この非効率石炭火力規制によって特に影響が大きいと想定される、卸電力市場(kWh)と容量市場(kW)について、どのような影響を与えるのか考察します。

アプローチ:電力市場への影響をどう考えるか

新たな政策の導入による市場影響を考えるためのアプローチはさまざまですが、今回は以下の3つの観点から検討します。

  1. 需給への影響
    新政策は市場の需給状況にどのような影響を与えるのか?
  2. 価格への影響
    新政策による需給状況の変化は市場価格をどのような方向に導くか?
  3. 今後の論点
    既存政策との整合性等の観点から、今後検討が必要な論点はあるか?

卸電力市場:ポイントは旧一電の余剰供給量の変化

卸電力市場では、端的に言えば、

①非効率石炭火力のkWh供給量が減少し、需要量一定のまま供給曲線が左にシフトするため、

②価格は上昇すると想定されます。特に、現状でも需給が逼迫する冬場の高需要期などでは、価格のスパイクがさらに頻発することも考えられます。

③ポイントは、旧一電の余剰供出への影響です。現在のJEPXスポットの売入札量は、旧一電の余剰電源の限界費用ベースの供出に支えられており、足元では余剰となった石炭火力の限界費用付近で約定することが多いです。

退出させられる非効率石炭火力は、正にこの余剰石炭火力であると想定されるため、約定電源がメリットオーダーの左にずれ、約定価格帯がLNG火力の限界費用程度まで上昇する可能性があります。

他方、非効率石炭火力が退出したとしても、リプレースした石炭火力が発電量を賄うため、石炭火力全体の発電量(kWh)への影響は小さいとの見方もあります。しかし、余剰供給できるだけのリプレースを行うかは不透明です。非効率石炭火力の退出で旧一電の余剰供給がどのように変化するかは、今後も注視が必要となるでしょう。

容量市場:休止した非効率石炭火力は、リクワイアメントを満たせるか?

容量市場においても、基本的な状況は卸電力市場と同様で、

①非効率石炭火力が入札不可とされ供給量が減少し、需要量一定のまま供給曲線が下方にシフトするため、

②価格は上昇すると想定されます。

③ただし、着目すべき論点は①非効率石炭火力が本当に入札不可とされるか?という点です。現行の容量市場のルールでは、廃止は勿論のこと、休止であってもリクワイアメント(応札電源に課せられる義務)を果たせない可能性が高くなります。しかし、非効率石炭火力を全て退出させてしまうと、容量市場において目標調達量を満たせないエリアが発生するおそれがあります。

このとき、想定される政策オプションは2つあります。1つは、非効率石炭火力を退出させリプレースや新設を促すこと。もう1つは、非効率石炭火力を温存し、緊急時の予備力として活用することです。「非効率石炭火力のフェードアウト」が何を意味するかは厳密に定義されていないが、非効率石炭による発電電力量(kWh)が現状の10分の1以下となれば、それはフェードアウトの1つの形と看做せる可能性もあります。また、コスト面でも新設よりも安価となる可能性もあります。第26回の電力・ガス基本政策小委員会において言及のあった「戦略的予備力」は、後者の可能性に基づくものであったと推察されます。

現実の政策判断は、上記の両オプションのグラデーションの中で決定されると想定されます。このため、容量市場への影響については、非効率石炭火力が容量市場においてどのように扱われるかが焦点となります。

非効率石炭火力のフェードアウトによる市場影響のまとめ

非連続的な市場環境変化への対応の必要性

現行の日本の電力市場は発展途上であり、制度変更によって非連続的な市場環境の変化が生じる可能性が高いです。特に、気候変動の進展や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの外的要因によって、これまで既定路線と考えられてきた政策についても大幅に方針が転換される可能性も高まっています。今回の非効率石炭火力のフェードアウトは、正にその一例であったと考えられます。

また、こういった既定路線の変更は、他の既存政策の方針にも影響する。再生可能エネルギーの想定以上の拡大や、原発再稼働の行き詰まりの中で、この非効率石炭火力のフェードアウトが、将来の電源構成の見直しを惹起する可能性は十分にあると考えられます。

さらに、実際に旧一電に非効率石炭火力を廃止させるのであれば、当然その補償のあり方も今後の論点となる可能性があります。冒頭に触れたドイツでは、この石炭火力廃止にあたっての事業者への補償が大きな論点となっています。

PwC Japanグループでは、このような非連続的な市場環境変化への対応について、省庁への出向経験者や水素やバイオケミカルなどCleantechの専門家などの差別化された知見を駆使し、エネルギー業界における将来見通しや戦略立案を支援することが可能です。国内だけに留まらず、PwCのグローバルネットワークを活用することで、世界各国の最新動向と合わせ、他社には提供できないPwC独自の示唆を提供しています。ご興味のある方は是非お問合せください。

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