2020-10-09
移転価格ニュース
2020年10月9日
2020年9月11日付の「移転価格調査解禁ー東京国税局の部内通達から読み解く」でお伝えしたとおり、本編では、情報公開請求で入手した東京国税局調査部作成の文書を基に、今後の移転価格調査がどのように行われるのか、またその対応における留意点を解説します。
新規の調査着手は、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）拡大を受けて保留されていましたが、9月9日付で、東京国税局調査部は、新規調査の正式な着手連絡（国税通則法上の手続き）を一斉に開始した模様です。まずは、9月中に調査に必要な資料提出依頼を送付し、10月に臨場というのが基本的なパターンとされます。移転価格調査も例外ではなく、同様に行われる模様です。
今回、入手した数件の部内通達「国際課税分野におけるリスクが高い法人に対する調査等に係る事務手順について（令和2年7月6日付）」他によると、一般調査であっても、調査開始と同時に、同時文書化義務のある国外関連取引に係るローカルファイルの提出依頼をすることとなっています。提出期限は、同時文書化規定に従い、「書類の準備に通常要する日数を勘案した45日を超えない日を指定する」と指示するとともに、「調査着手後速やかに依頼すること」とも指示しています。
今一度、各国外関連取引について、同時文書化義務の免除基準に該当しているか確認し、同時文書化義務のある（免除規定に該当しない）ものについては、ローカルファイルの内容に問題が無いかチェックされることをお勧めします。また、過去に移転価格の指摘を受けた取引については、免除基準を満たしていてもローカルファイルを要求される可能性がありますのでチェックが必要です。
7月の定期異動に伴う調査部の国際課税セクションの再編成後の移転価格調査について、部内通達は、これまで同様にローカルファイルを中心とした（1）情報収集、（2）調査選定、（3）調査展開の段階ごとに詳細な指示を出しています。これは、最近2年間のローカルファイルを中心とした調査での経験、成果を踏まえてのものと考えられます。特に、（1）、（2）を強化するために、国際調査課と国際情報第一課の管理部分を引き継いだ国際調査管理課に「リスク分析担当」という部署を新設し、「国際課税分野に係るリスクが特に高い法人」をターゲットにするよう指示を出しています。
残念ながら、当該法人の具体的な定義は不開示（墨消し）となっています。BEPSの議論やこれまでの執行から推察すると、国外関連者の利益水準が高いなど、所得移転の蓋然性の高い法人や「事務運営指針6‐14（1）（事前確認を行うこと又は事前確認審査を開始することが適当でない場合）イ」に規定している「非関連者の間では通常行われない形態の取引を確認対象取引とすること等により、経済上の合理的な理由なく我が国での租税負担が軽減されることとなると認められる場合」に該当するような法人を指していると推察されます。
リスク分析担当は、移転価格調査や事前確認審査を含む国際課税のベテラン職員8名から構成されています。内部通達によると、さまざまな機会を通じて情報収集する手続きが整備されています。また、調査選定は、当年含め、今後3年間のリストアップを一般調査と調整を図っています。まずは、グループ内のローカルファイルを分析して、課税リスクの早期発見と対応が必要です。
調査体制については、従来の移転価格単独調査、国際税務専門官支援調査、一般調査部門の簡易事案調査（金利、役務提供）の3タイプが、そのまま再編後の組織に引き継がれています。それぞれ、移転価格単独調査は「国内・国際一体調査」、国際税務専門官支援調査は「移転価格協働調査」と名称づけられています。一般調査部門の簡易事案調査（金利、役務提供）は、特に名称の規定は無く、これまで通り、「簡易事案」として当局内では処理される方向です。なお、「国内・国際一体調査」について、「国内」という言葉が含まれますが、これまでの移転価格単独調査でも行われていた申告書（別表）の審理的なチェックと是正を中心としたもののようです。
以上のとおり、これまでと基本的な調査体制は変わりませんが、いわゆる仕込み段階である情報収集と調査選定の強化によって、当局の調査はターゲットを絞り込んで行われるものと予想されます。繰り返しになりますが、早急にグループ内のローカルファイルを分析して、課税リスクの早期発見と対応が肝要です。
ますます厳格かつ想定以上に詳細な内容に踏み込む調査への懸念がより顕在化する中、想定される調査への対応の準備状況と管理体制を評価し、その改善を支援するサービスへの依頼が増えています。今後の調査対応への懸念等ございましたら、当法人にお気軽にお問い合わせください。
