2017年3月24日、共和党は下院通過を目指していた健康保険制度(Affordable Care Act、いわゆるオバマケア)の改廃(Repeal and Replace)案を撤回しました。 オバマケア改革が一旦止まったことで、議会における税制改革論議が再び注目を集めています。
本連載は、実現すれば30余年ぶりとなる米国の抜本的税制改革の可能性について、その背景、現段階で想定される内容および日系企業へのインパクトについてお伝えします。
導入時の影響
導入時の影響を考える上で重要な論点は、為替市場におけるドル高調整です。国境調整による一時的な輸出増・輸入減が為替市場におけるドルの需要を高めるためです。 仮に完全な形でドル高調整が入った場合(税率20%の場合、25%のドル高)、貿易収支および米国法人の税引後所得は国境調整導入前と変わりません。 すなわち、輸入仕入の損金不算入による税負担増がドル高による仕入価格減で相殺される結果、米国法人(輸入者)は同じ価格で商品を輸入して販売し続けることができます。 また、為替市場の調整が入らなかったとしても、国境調整による一時的な輸入品価格の上昇は国内市場における(輸入品に対する)国内品の需要を高めることから、国内品価格および国内賃金の上昇が輸入品価格と同程度まで生じれば、同様のオフセットが理論的には生じます。
このことを示したのが、以下のモデルです。米国法人(輸入者)が300で輸入品を仕入れ、300の国内賃金(または国内での仕入)を用いて1000で商品を販売します。
為替調整をめぐって分かれる見解
複数の経済学者は、為替調整が即座に完全な形で入ることを予測していますが、これまでに仕向地主義キャッシュフロー税を導入した国はなく、実際にどのような市場調整が生じるかは不明確です。 為替調整が完全に入るまで一定の時間がかかるという見解もあり、実際、2005年ブッシュ大統領時の専門家パネルは、4年間の段階的な導入措置を提案していました。 上記の市場調整が完全な形で達成されなかった場合、輸入者に国境調整における税負担が生じることから、米国の小売業や石油輸入業からは国境調整に対する反対の声が上がっています。
(3)へ続く。
2017年4月10日更新
本連載における税制改革議論の進捗については、更新日現在の情報を基に記載しています。
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