内国歳入法163条(j)財務省規則案の概要

2018-11-28

米国時間2018年11月26日に公表された内国歳入法163条(j)規則案(以下、「163条(j)規則案」)の概要をお伝えします。

背景

  • 2017年税制改正に伴い、従前の163条(j)(いわゆるアーニングス・ストリッピング・ルール/過大支払利子損金算入制限)が全面改正され、純支払利子について原則として調整課税所得(EBITDA類似額あるいはEBIT類似額)の30%を損金算入限度額とすることが定められました。
    • 具体的には、支払利子については(1)受取利子、(2)調整課税所得の30%、(3)一定の資産購入にかかる借入利子(floor plan financing interest)の総額が損金算入制限額となります。
  • 基本的にクロスボーダーでの関連者間貸付を適用対象としていた従前の163条(j)と異なり、債権者が国内であっても、非関連者であっても適用があることから、改正法は米国法人の資金調達政策に大きな影響を及ぼすものと考えられています。
  • 調整課税所得の額は、2021年12月31日以前開始事業年度まではEBITDA類似額、以後はEBIT類似額となります。超過利子は無期限に繰越可能である一方で、超過制限額の繰越は不可能となります。
  • 2018年4月2日、財務省はNotice 2018-28を公表し、同条に関する幾つかの実務上の問題について見解を明らかにしていました。163条(j)規則案においてもこれらの見解が反映されています。
  • 163条(j)規則案では、さらに詳細な実務上の論点や、計算の細則、連結納税やパススルー事業体(パートナーシップ・S法人)の場合の取扱いの詳細、関連条文との関係についての定めが明らかになりました。他方で、BEATとの関係の詳細については、BEAT規則案作成中であることから、163条(j)規則案では明らかにされていません。
  • 今後は60日のパブリックコメント期間を経て、修正、最終化が見込まれています。

規則案において明確化された主な項目

  • 利子の定義:幅広な定義が置かれ、(1)負債にかかる利子、(2)税務上の定めにより利子と扱われるもの(例えば、延払取引に関して内国歳入法483条の適用により利子とみなされる部分の額)、(3)経済的に利子に相当する一定の支払が対象となります。
  • 調整課税所得:調整課税所得の計算上算入される資産譲渡益の額からは、当該資産について2018年-2021年の間に生じた減価償却・償却額が(当該資産譲渡益の額を上限として)減算されます。当該償却額は調整課税所得(EBITDA類似額)の計算上足し戻される(あるいは既に過年度で足し戻されている)ため、調整課税所得計算上のダブルカウントを防止する趣旨と考えられます。
  • 超過利子:内国歳入法163条(j)(2)およびNotice 2018-28で示された見解の通り、超過利子は翌年以降に繰り越され、翌年以降の損金算入制限枠内での使用が可能となります。この場合、当該法人の将来年度における163条(j)の適用上は、当該将来年度で新たに生じた純支払利子を過年度から繰り越された超過利子よりも先に使用することが明確化されました。
  • 適用除外:直近過去3年の総収入の平均額が$25M以下の小規模事業者については同条の適用が除外されます。また、regulated utility事業等一定の事業についても適用が除外されます。163条(j)規則案ではパートナーシップやS法人に対する適用除外規定の適用細則、あるいは、適用対象事業と適用除外事業を同時に行っている場合に関する計算の細則が定められました。
  • 租税回避否認規定:広範な租税回避否認規定が置かれ、内国歳入法163条(j)および同条規則を回避することを主要な目的(principal purpose)とする取引は、同条の適用上無視されることが定められました。
  • C法人への適用:改正後の163条(j)は、適用対象となる利子については「事業上の利子(business interest)」と定義しています。これは、同条の適用対象を法人以外にも拡大したために設けられた文言であり、米国税務上の法人(C法人)については、投資活動を通じて生じた利子についても適用対象となります(Notice 2018-28で既に示されていた見解と同じ)。
  • E&Pの計算:法人の税務上留保利益(E&P)の計算上は、163条(j)による損金算入の可否にかかわらず当年度での減算が行われる一方で、超過利子が将来年度で損金算入された場合にはE&Pの計算上減算が生じないことが明確化されました。
  • 連結納税グループへの適用:連結納税申告を現に行っているグループについては、163条(j)の損金算入限度額計算上は単一の法人とみなされる結果、グループベースでの計算が可能(グループ内取引は無視)となります。他方、80%以上の資本関係を持つグループであっても、連結納税申告を現に行っていない場合には別個の法人とみなされます。
  • パススルー事業体への適用:163条(j)(4)に示されている通り、パススルー事業体(パートナーシップ・S法人)において純支払利子が生じる場合、当該パススルー事業体レベルで163条(j)に照らし損金算入可能額計算を行うこととされています。パートナーシップレベルで損金算入可能とされた利子額は、パートナーレベルで再度163条(j)による制限の対象とはなりません。163条(j)規則案では、パートナーシップレベルで163条(j)適用を行う場合の11ステップにわたる計算細則(例えば、一定の含み損益にかかるパートナーシップ所得配賦額調整の取扱い等)が定められています。他方で、パートナーシップが複数階層にわたる場合やパートナーシップ同士の組織再編が生じた場合等についての取扱いは今後のガイダンスに委ねられています。
  • 米国傘下の海外子会社への適用:米国税務上のCFC(一定の米国株主が50%超を支配する米国外法人)に対しても、合算課税対象となる所得(Subpart F所得)やGILTIの計算上163条(j)が適用されることが明確化されるとともに、その計算の細則について定められました。例えば、一定の場合にはCFCグループを一体として扱う選択を行うことで、163条(j)の適用上はCFC間の取引を無視することが可能となります。また、調整課税所得計算上のダブルカウントを防止する趣旨から、米国株主において合算課税が生じる場合の当該合算所得は米国株主自身の調整課税所得からは除外されます。
  • 米国PE/支店を持つ米国外居住者への適用:米国PE/支店を通じて米国事業関連所得(ECI)を得る者についても163条(j)が適用されることが明確化されるとともに、その計算の細則について定められました。例えば、米国支店を持つ米国外法人の場合、(163条(j)を考慮せずに)内国歳入法882条に従い利子費用の本支店間配賦を行ったのちに、163条(j)に基づき支店に配賦された利子費用が損金算入可能かを判定すべきこととされています。
  • 米国外パートナーを持つパートナーシップへの適用:米国で事業を行うパートナーシップに対する同条適用の細則が定められました。
  • 移行措置:旧163条(j)の下で生じたグループベースの繰越超過利子の取扱いの細則が定められました。また、Notice 2018-28に示された見解に従い、旧163条(j)の下で生じた超過制限額については2018年以降は繰越されないことが明確化されました。
  • 適用開始日:163条(j)規則案は、最終規則が連邦官報(Federal Register)により公表された日以降に終了する事業年度から適用されますが、納税者の選択により、また、規則案を一貫して適用することを条件として、2018年1月1日以降に開始する事業年度から適用を行うことが可能です。

参考