2018-03-07
2018年3月1日、トランプ大統領は産業界代表との会合の中で、鉄鋼に対する25%、アルミニウムに対する10%の関税措置を講ずる方針を発表しました。もし上記の関税措置が実施された場合、WTOにおける論争や、米国外での米国製品に対する報復関税措置などが生じる可能性があります。
今回発表された関税措置の詳細は多くの点で明らかになっていません。例えば、具体的にどの国のどの鉄鋼製品が関税措置の対象となるのか、既存のFTAの対象となる場合の取扱、関税措置の実施期間などについては不明です。
今回の動きは、昨年発表されたカナダ製旅客機への制裁関税や今年1月に発表された太陽光パネルや洗濯機への関税措置といった、政権による一連の保護主義的政策の一環であると考えられます。これら2つの関税措置は1974年通商法201条に基づくものであり比較的多くの先例がありますが、今回発表された措置は1962年通商拡大法232条に定める国家安全保障上の懸念(national security concerns)を理由とした措置となります。
トランプ大統領のコメントは、通商拡大法232条による関税措置を勧告した米国商務省報告書(2018年2月)を反映しているように思われます。同報告書は、殆どの形態の鉄鋼・アルミニウム素材(パイプ、チューブ、アルミ線、アルミホイル)を対象としており、海外との競争によってこれらの国内生産能力が減少することは国家安全保障上の懸念につながると指摘しています。その上で同報告書は、通商拡大法による関税・輸入制限を課すこと、一定の国(ブラジル、中国、コスタリカ、エジプト、インド、マレーシア、韓国、ロシア、南ア、タイ、トルコ、ベトナム)からの鉄鋼・アルミニウム輸入についてはより高い関税率・輸入制限を課すことを推奨しています。大統領はその裁量によりこれらの勧告を採用する権限(必要に応じ修正して採用する権限)があり、また、採用にあたっては議会の承認を必要としません。勧告の採用期限は、鉄鋼については2018年4月11日、アルミニウムについては2018年4月19日となっています。最終的にトランプ大統領がどの範囲で関税措置を講ずるのかについては未だ不明です。
一部の識者からは、国家安全保障上の理由で課された関税措置が経済に悪影響を与える可能性が指摘されています。前回の鉄鋼に対する関税措置は2002年、ブッシュ政権時において通商法201条に基づき発表されましたが、ブラジル等による報復措置やEUによる対抗措置の発表を受けて撤回されています。現政権が海外や国内産業界からの反対の声を踏まえどのような結論を下すかは、まだ明らかではありません。
製造業者としては、(特に輸入に依存する原材料を仕入れている場合は)材料価格の上昇が生じる可能性に対して準備する必要があります。また、対象となる可能性のある輸入業者は、商務省報告書が併せて導入を勧告している関税免除手続(国内代替品の無い場合の例外)の適用可能性について留意する必要があります。
詳細は以下をご参照ください。
PwC米国ニュースレター(英語)
2018年3月6日発行
President Trump announces steel and aluminum tariffs to be implemented [PDF 145KB]
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