「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」の公表(内閣官房・金融庁・法務省・経済産業省)

2018-01-17

日本基準のトピックス 第341号

主旨

  • 2017年12月28日、内閣官房・金融庁・法務省および経済産業省は連名で、「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」を公表しました。
  • これは、閣議決定された「未来投資戦略2017」で掲げられた、金融商品取引法に基づく有価証券報告書と会社法に基づく事業報告・計算書類(事業報告等)との「一体的開示」をより行いやすくするため、両書類の類似・関連する項目について、可能な範囲で共通化を図るための対応や今後の取組を取りまとめたものです。
  • 制度所管官庁(金融庁、法務省)は、2017(平成29)年度中を目途として速やかに、企業からの指摘事項について、共通化への対応を行うとしています。

原文については、経済産業省のウェブサイトをご覧ください。

http://www.meti.go.jp/press/2017/12/20171228003/20171228003.html

経緯

「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)に掲げられた「2019年前半を目途とした、国際的に見て最も効果的かつ効率的な開示の実現」に向け、事業報告等と有価証券報告書の一体的開示をより容易とするため、内閣官房及び関係省庁は共同して制度・省庁横断的な検討を行ってきました。

わが国においても、制度上は、会社法と金融商品取引法の両方の要請を満たす一つの書類を作成して株主総会前に開示することは可能となっている一方、企業からは、類似項目に関する両制度間の規定ぶりの相違やひな型の相違等により、実務レベルで企業が効率的かつ安心して一つの書類で開示することができる環境が十分に醸成されているとは言い難いという指摘がなされています。このため、中長期的には、投資家側の利便性の向上および企業側の業務負担の軽減を更に進める観点から、会社法と金融商品取引法の両方の制度に基づく開示要件を満たした一体の書類が作成される方向性が指向されるものの、実務ではその実現に向けた動きは必ずしも見られませんでした。

こうした現状の下、諸外国と同様、一体の書類または二つの書類の段階的もしくは同時提出のいずれの方法による開示も容易に行うこと(すなわち事業報告等と有価証券報告書の一体的開示)をより行いやすくするための環境整備を行うことが求められており、その環境整備の一環として、当面、類似・関連する項目について、可能な範囲で共通化を図ることとしています。

共通化の内容

2017(平成29)年度中を目途として速やかに、以下の15項目に関する企業からの指摘事項への対応として、金融庁・法務省が妥当性を確認したひな型の公表や法令解釈の公表、法令等の改正などを行うこととしています。また、民間関係団体においてひな型の修正等を検討するよう、要請するとしています。

  1. 「主要な経営指標等の推移」/「直前三事業年度の財産及び損益の状況」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(5)/施規第120条第1項第6号)
  2. 「事業の内容」/「主要な事業内容」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(7)/施規第120条第1項第1号)
  3. 「関係会社の状況」/「重要な親会社及び子会社の状況」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(8)/施規第120条第1項第7号)
  4. 「従業員の状況」/「使用人の状況」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(9)/施規第120条第1項第2号)
  5. 「経営上の重要な契約等」/「事業の譲渡」等
    (開示府令第三号様式記載上の注意(14)/施規第120条第1項第5号ハからへまで)
  6. 「主要な設備の状況」/「主要な営業所及び工場」の状況
    (開示府令第三号様式記載上の注意(18)/施規第120条第1項第2号)
  7. 「大株主の状況」/上位十名の株主に関する事項
    (開示府令第三号様式記載上の注意(25)/施規第122条第1号)
  8. 「ストックオプション制度の内容」/「新株予約権等に関する事項」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(27)/施規第123条第1号および第2号)
  9. 「役員の状況」/会社役員の「地位及び担当」ならびに「重要な兼職の状況」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(36)/施規第121条第2号および第8号)
  10. 「社外役員等と提出会社との利害関係」/社外役員の重要な兼職に関する事項
    (開示府令第三号様式記載上の注意(37)および開示ガイドライン5‐19‐2/施規第124条第1項第1号および第2号)
  11. 「社外取締役の選任に代わる体制及び理由」/「社外取締役を置くことが相当でない理由」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(37)/施規第124条第2項)
  12. 「役員の報酬等」/「会社役員の報酬等」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(37)/施規第121条第4号から第6号までならびに第124条第1項第5号および第6号)
  13. 「監査公認会計士等に対する報酬の内容」/「各会計監査人の報酬等の額」および「株式会社及びその子会社が支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額」
    (開示府令第三号様式記載上の注意(38)/施規第126条第2号および第8号イ)
  14. 財務諸表および計算書類の表示科目
    (財規第17条第1項第7号等/計規第74条第3項第1号トからリまで等)
  15.  財務諸表および計算書類の1株当たり情報に関する注記
    (財規第68条の4および第95条の5の2ならびに連結財規第44条の2および第65条の2/計規第113条)

(凡例)

開示府令:企業内容等の開示に関する内閣府令

開示ガイドライン:企業内容等の開示に関する留意事項について

財規:財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則

連結財規:連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則

施規:会社法施行規則

計規:会社計算規則

今後の検討

今後の検討事項として、以下の3点が示されています。

  1. 「未来投資戦略2017」に掲げられた「2019年前半を目処とした、国際的に見て最も効果的かつ効率的な開示の実現及び株主総会日程・基準日の合理的な設定のための環境整備」に向け、投資家と企業の間の建設的な対話を促進するための検討を行い、2018(平成30)年夏までに結論を得る
  2. 新たな株主総会資料の電子提供の在り方の一つとして、事業報告等の記載事項を含む有価証券報告書のEDINET開示も許容することなどについて法制審議会で議論中であり、2018(平成30)年度中のできるだけ早期に結論を得る
  3. 一体的開示の企業実務への浸透を図るため、関係省庁と投資家や企業が一堂に会する場を2018(平成30)年初めに設ける

このニュースレターは、概略的な内容を説明する目的で作成しています。この情報が個々のケースにそのまま適用できるとは限りません。したがいまして、具体的な決定を下される前に、PwCあらた有限責任監査法人の担当者にご確認されることをお勧めします。