月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 9月号

2020-09-05

2020年9月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. ECの一括税法案 – 公正・簡素な税、執行共助、およびグッドガバナンス(EU(1))
  2. 金融商品の分離所得課税の制定計画(韓国)
  3. 最高裁、Altera事件の上訴を認めず、IRSの株式ベース報酬規則の適用を支持(米国)
  4. 一般裁判所、国家補助に係るAppleのEC決定を破棄(EU(2))
  5. 法人税統計改訂版の一部として、2016年統合国別報告(CbCR)データを公表(OECD(1))
  6. 多国籍企業に関するADIMAデータベース(OECD(2))
  7. APAガイドラインの改訂(香港)

ECの一括税法案 – 公正・簡素な税、執行共助、およびグッドガバナンス(EU)

2020年7月15日、欧州委員会(EC)は、新たな一括税法案を採択し、7月17日から21日の欧州理事会会合において、各国首脳(leaders)は、その他の主要税措置を含むより広範な課題に合意した。本法案には、以下の3つの個別の関連する取り組みがあり、最近の議論に関する理事会の結論は次のとおりである。

  • 税行動計画(Tax Action Plan)では、税を「より簡素・公正にし、近代経済によりよく調和」させることを意図した、25の注目すべき行動(actions)(約15はVAT関連)を示している。本計画では、納税者の登録、報告、支払い、検証(verification)、および紛争解決の側面に対処している。また、本計画では、加盟国が、データおよび新技術を、脱税(tax fraud)への対抗、コンプライアンスの改善、および執行負担の軽減に係る措置に結び付けることを支援する。
  • 執行共助案(Proposal on Administrative Cooperation)(DAC 7))では、加盟国間の税務情報共有に関する既存規定を強化・明確化する。また、本案では、これらの規定を、特定物品およびサービスの販売者に関して、デジタルプラットフォームで収集されるデータに拡大する。さらに、本案では、2以上の加盟国間で合同調査(joint audits)を行うための、明確(explicit)で確実(clear)な法的枠組みを創設する。
  • 税のグッドガバナンスに関する連絡文書(Communication on Tax Good Governance)では、「EU内および国際的に、公正な課税を促進し、不公正な租税競争を取り締まること」にフォーカスしている。本文書では、加盟国の制度を規制している事業者課税の行動規範(Code of Conduct of Business Taxation)の改正を提案しており、これには、特定多数決(qualified majority voting)が含まれる。また、本文書では、非協力的な法域のEU「ブラックリスト」について、その基準(criteria)および地理的範囲に関する改正案を示している。
  • 次世代EU(Next Generation EU)の回復計画に関する合意の中で、7月21日、欧州理事会は、プラスチック廃棄物税(plastic waste tax)、炭素国境調整の仕組み(carbon border-adjustment mechanism)、排出権取引制度(emissions trading scheme)、デジタル課税(digital levy)、および金融取引税(financial transactions tax)に合意している。税収は、EUの新たな「独自資金」である。

出典: PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」 2020年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

金融商品の分離所得課税の制定計画(韓国)

2020年6月25日、企画財政部(MOEF)は、Central Economic Response Headquartersの第8回会合を開催し、金融分野の課税の改革計画を公表した。本計画では、免税金融商品(financial instruments)の範囲を縮小し、同様の性質の金融商品の所得に公正な課税を実現する必要性に対処する。金融分野課税の改革の方向性は、2020年7月末までに最終化され、政府の2020年税制改革案に含まれる予定である。MOEFが公表した改革の方向性の主要ポイントは以下の通りである。

金融分野課税の対象になる投資所得の範囲: 予定されている分離課税は、法律(Capital Markets and Financial Investment Services Act)上の有価証券(securities)や金融派生商品(derivatives)といった、金融商品から生じるすべての投資所得に適用されよう。債券(bonds)から生じるキャピタルゲインは、現在課税されないが、2022年から課税されよう。少数株主(上場会社の発行済株式総数の特定閾値未満を保有)が稼得する上場有価証券から生じるキャピタルゲインは、2023年から課税され、課税は徐々に拡大する。しかしながら、これは、銀行預金、定期性預金、預金保険勘定(savings insurance plans)、債券の利子や株主配当(corporate dividend)といった、無リスク(risk-free)の金融商品からの投資所得には適用されないであろう。このような投資所得は、当年課税(current taxation)の対象になり、年間稼得総所得が20百万韓国ウォン超となる場合には、納税者の年次個人所得税申告で累進所得税率の対象になる利子・配当所得として取り扱われるであろう(そうでなければ、14%の源泉税率の対象)。

分離課税: 関係する投資所得は、年次所得税申告の対象になる投資家の所得(例えば、給与所得(employment income)、銀行預金利子や配当)、投資所得の性質、所得実現の累積効果、および損失リスクを踏まえたキャピタルゲインや退職所得、とは分離して課税される。

課税ベース: 課税ベースには、暦年の関係する金融商品から受領するすべての種類の所得(対価 - 取得費)が含まれる。年間課税ベースの算定に当たり、金融商品からの利得(gains)は、同年の金融商品からの損失(losses)と相殺される。

税率: 適用税率は以下の通りである。

課税ベース

税率

3億韓国ウォン以下

20%

3億韓国ウォン超

60百万韓国ウォン + (3億韓国ウォン超の金額の25%)

発効日: 金融分野の課税は、2022年に発効する。

 

出典:PwC Korea, Samil Commentary
「月刊 国際税務」 2020年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

最高裁、Altera事件の上訴を認めず、IRSの株式ベース報酬規則の適用を支持(米国)

2020年6月22日、最高裁は、Altera Corp. v. Commissioner(#19-1009)事件におけるAltera社の裁量上訴(writ of certiorari)の訴えを斥けた。本判決(decision)は、株式ベース報酬(stock-based compensation; SBC)コストを、コストシェアリング取決め(cost sharing arrangement; CSA)に基づく無形資産開発コスト(intangible development costs; IDCs)に含めることを規定する財務省規則(Treas. Reg. sec. 1.482-7A(d)(2))の有効性を支持する、2019年6月7日の第9巡回裁判所(Ninth Circuit)の判決のレビューを行わないことを意味する。

最高裁がAltera事件での上訴の訴えを認めなかったことは、SBCコストをCSAのIDCsから除外していた法人の税務および財務報告に多大な影響がある。本規則の有効性に関する第9巡回裁判所の判決は、第9巡回裁判所では先例(controlling precedent)となるが、他の巡回裁判所では反論の余地がある。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2020年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

一般裁判所、国家補助に係るAppleのEC決定を破棄(EU)

2020年7月15日、EU一般裁判所(GC)は、Appleについての2016年8月30日付欧州委員会(EC)の国家補助(State aid)最終決定(SA. 38373)の取り消しを求めたApple Sales International(ASI)、Apple Operations Europe(AOE)、およびアイルランドの訴訟提起に関して、判決を下した(T-778/16、およびT-892/16)。GCは、ECがEU国家補助規定の意義の範囲内での経済的優位性(economic advantage)の存在を示さなかったとして、ECの決定を破棄した。

背景と事実

Appleについての最終決定の中で、ECは、2つのアイルランドで設立された非居住法人のアイルランド支店への利得帰属に関して、1991年および2007年に付与された2件のルーリングは、違法な国家補助との結論を下し、補助の即時返還を求めた。アイルランドおよびAppleは、このECの最終決定について、GCに提訴していた。

ECが、このGC判決を受けて、欧州司法裁判所(European Court of Justice)に控訴するか、また、本判決が、移転価格に関して継続中のその他の国家補助事件にどのように影響するか、注目される。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2020年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

法人税統計改訂版の一部として、2016年統合国別報告(CbCR)データを公表(OECD)

2020年7月8日、OECDは、約4千の多国籍企業(MNEs)のグローバルタックスおよび経済活動に関して、国別報告(country-by-country reports; CbCRs)からの初の統合情報を含む、法人税統計報告の第2版を公表した。本情報では、26の法域にグループの本拠があり、世界100超の法域にわたって活動するグループ企業をカバーしており、匿名化された2016年の国別報告データを示している。

背景

OECDの年次法人税統計第2版には、異なる期間の様々なBEPS勧告(recommendations)の影響、およびその他の情報が含まれている。CbCRデータは2016年(導入初年度)のものである。その他のデータはより最近のものであり、2019年の被支配外国法人(controlled foreign company; CFC)規定、および利子制限規定の分析が含まれる。法定税率(statutory tax rates)の比較には2020年が含まれるが、将来の実効税率(effective tax rates)の計算は2019年のものである。

CbCRとその他のBEPS分析

関連するOECDのプレスリリースによると、本データには一定の限界があり、単年データからBEPS行動様式のトレンドを検出することは不可能であるが、この新たな統計には、多くの初期的見識(preliminary insights)が示されている。

  • 利得が報告される場所と、経済活動が行われる場所の間に不均衡があり、投資ハブ法域のMNEsは、従業者および有形資産の割合(share)に比べて、利得の割合が比較的高くなっている。
  • 従業員当たりの収入は、法定CIT(法人所得税)率がゼロの場合、および投資ハブ法域、においてより高くなる傾向がある。
  • 平均して、総収入に占める関連者収入の割合は、投資ハブ法域のMNEsにおいてより高い。
  • 事業活動の構成は、法域のグループ(jurisdiction groups)企業により異なり、投資ハブの重要な事業活動は、「株式その他の持分証券(equity instruments)の保有」である。

CbCRデータの解釈の限界

別の免責条項(disclaimer)セクションの中で、CbCRデータについて、7ページの補足説明(caveats)がある。主要論点のいくつかは、以下に関係する。

  1. 各法域は、共有する情報について、独自の守秘義務基準を適用した。これは、法域によって、異なる・一様でないレベルで統合されたCbCRsを提出したことを意味しており、したがって、これを比較し、さらにこのデータを統合することは困難である。
  2. 課税されるMNEsグループ内に免税事業体(tax-exempt entities)を含めることで、統合データの分析に影響が出ている。これら免税事業体は通常、収入・利得があり従業者がいるが、税金の支払い/未払いはない(いくつかの法域は、これらの免税事業体を除外した)。
  3. 統合CbCR統計を編集する中で、基礎となるデータ(microdata)に適用される手続き(clearing procedure)について、各法域で異なるアプローチを採用した。これは、各国がOECDに提出した集約データ(aggregation)により、各国比較を完全には行えない可能性があることを意味している。
  4. いくつかの法域では、MNEsに対して、構成事業体(constituent entities)からの配当(dividends)を税引前利得から除外するよう求めていたが、財務会計上利得として報告されている場合には、これらの金額を含めるよう求めた法域もあった。他の法域グループは、この点を開示しなかった(取扱い不明)。企業内配当(intra-company dividends)を「税引前利得(欠損)」に含めることで、人為的(artificially)に低い実効税率(ETRs)となりうる。
  5. 税務上いずれの居住者でもない事業体(いわゆる、無国籍事業体(stateless entities))の取扱いは、2020年の見直しの一環で議論中である。これは、利得の二重集計(double counting)になる可能性がある。
  6. MNEsは、CbCRについて、連結された法域情報(consolidated jurisdiction-wide information)ではなく、統合された法域情報(aggregate jurisdiction-wide information)の報告を求められている。
  7. CbCRテンプレートの未払所得税(当年)には、繰延税金/不確実な租税債務(uncertain tax liabilities)の引当を含めるべきではないとされている。

本免除条項では、二重集計の問題の規模予測は、「評価および修正が難しいため、BEPSの包摂的枠組み(Inclusive Framework on BEPS)では、これらの統計に基づくETRsといった率の計算に対して明確に注意を促す」と結論付けている。「これらの統計を利用する者は、これらの統計分析を利用する前に、少なくとも、CbCR統計を、他の関連データソース(例えば、納税者の基礎データ(microdata)/企業レベルの財務統計)に照らして評価(benchmark)するために、感度分析(sensitivity analysis)を行うべきである。」

その他の重要なデータ

法人税統計第2版によると、法人所得税が総税収に占める割合は、2000年の12.1%に対して、2017年は93法域平均で14.6%と報告されている。法人税収が総税収に占める割合は、開発途上国においてより高くなっており、その内訳は、アフリカ18.6%、ラテンアメリカ・カリブ15.5%となっている(OECDは9.3%)。OECDの法人所得税収の総税収に対する割合は、2017年に9.3%であり、2016年の8%、2015年の8.8%より高い。

本第2版では、他の重要な側面として、以下をカバーしている。

  • 法定法人所得税率(Statutory corporate income tax rates): OECD法域の説明文書(explanatory annex)、およびOECD以外の法域の説明文書のいずれにも、特定法域の法定法人所得税率の更なる情報がある。
  • 将来の実効税率(Forward-looking effective tax rates): ETRsの算定手法は、OECD Taxation Working Paper No. 38(Hanappi, 2018)で詳細に説明されている(Devereux、Griffithが開発した理論モデル(1999, 2003)に基づく)。
  • R&D税恩典(R&D tax incentives): 2つのR&D税恩典の指標の基になる手法に関する情報は、2つの報告書で入手できる。
  • 知的財産税制(Intellectual property regimes): 有害税制フォーラム(Forum on Harmful Tax Practices)がピアレビューのために優遇税制(preferential regimes) について集めた情報を集約している。
  • CFC規定(Controlled Foreign Company rules): 49法域について入手できる。
  • 利子制限規定(Interest Limitation rules): 67法域について入手できる。

 

出典:PwC, Tax Policy Alert
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

多国籍企業に関するADIMAデータベース(OECD)

OECDは、個別の多国籍企業と系列会社に関する分析データベース(Analytical Database on Individual Multinationals and Affiliates; ADIMA)を2019年に初めて開始しており、現在、ADIMAには、(35か国に本拠がある)時価総額(market capitalisation)世界最大500の公開(public)多国籍事業体(MNEs)(ADIMA-500)のプロフィール情報が含まれている。ADIMAには、グループの事業体、物理的プレゼンス(physical presence)、および各MNEに属するウェブサイト/ドメインが含まれている。また、ADIMAには、ウェブページとメディアの解説による、投資および再編活動(investment and restructuring activities)のデータも含まれている。開始当初、本データベースには、(17か国に本拠がある)約100の最大MNEs(売上ベース)(ADIMA-100)の情報が含まれ、例えば実効税率(ADIMA-100の平均25%)などの税関連データが含まれていた。今後、ADIMAにより税に関する分析を再度行えるよう、ADIMA-500についても財務情報を収集することを目指している。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」 2020年9月号収録 Worldwide Tax Summary
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

APAガイドラインの改訂(香港)

2年前の条例(Inland Revenue (Amendment)(No. 6)Ordinance 2018)(BEPS・TP(移転価格)条例)の制定により、香港の移転価格税制は、より厳格になっている。一方、BEPS・TP条例に対応して、2012年に発出された税務条例解釈及び執行ガイドライン(Departmental Interpretation and Practice Notes; DIPN)48号 - 事前確認(Advance Pricing Arrangement; APA)は、APAsを進めるための手続き・要件に関して、納税者に対してより多くのガイダンスを示すために改正された。本改正により、納税者にとって、全般的により簡素化し、透明性が増し、効率的なAPA申請手続きとなる。主要な改正には、以下が含まれる。

  • バイラテラル、マルチラテラルに加えて、ユニラテラルAPAが受け入れられ、納税者は、租税条約がない法域との取引に関して、香港税務局(Inland Revenue Department; IRD)とのAPAsの締結が認められる。
  • APA締結に係る手続きが、これまでの5段階から3段階のプロセスに簡素化され、効率が改善する。新手続きの下で、初期段階に求められる文書化レベルは軽減され、より柔軟になり、APA締結に係る時間が減少する可能性がある(暫定で、初期段階6か月、申請段階18か月)。
  • APAの対象範囲が拡大し、香港の恒久的施設(PE)への利得帰属も含まれることとなった。また、関連するAPA申請の閾値もそれぞれ規定された(物品販売又は購入: 年間80百万香港ドル、サービスフィー: 年間40百万香港ドル、ロイヤルティー: 年間20百万香港ドル、事業利得(PE帰属利得): 年間20百万香港ドル、その他: 年間20百万香港ドル)。
  • バイラテラルおよびマルチラテラルAPAsでのTP算定手法(methodology)のロールバックが可能になり、過年度の税務調査/TP照会が、ペナルティーのプレッシャーがより少ないなかで解決できる可能性がある。

APA申請者は、APA申請料を負担する必要がある。これには、APAチームの時間ベースのサービスチャージ(上限50万香港ドル)、および当局による第三者の専門家のフィーその他のコスト・費用が含まれる。正式申請の前に、IRDに供託(deposit)が必要である。

出典:PwC Hong Kong, News Flash
「月刊 国際税務」 2020年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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