月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 9月号

2018-09-05

2018年9月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 恒久的施設で生じた欠損の損金算入に関する欧州司法裁判所(CJEU)の判決(デンマーク)
  2. 条約/指令濫用防止規定はEU法違反との欧州司法裁判所(CJEU)の判決(ドイツ (1))
  3. 再編規定は国家補助との欧州委員会決定を欧州司法裁判所(CJEU)が破棄(ドイツ (2))
  4. フランスの恒久的施設への利得帰属に関する判決(ベルギー)
  5. 株式報酬をコストシェアリング支払いに含めるべきとする控訴審(逆転)判決(米国)
  6. G20財務大臣・中央銀行総裁会議への報告(OECD)

恒久的施設で生じた欠損の損金算入に関する欧州司法裁判所(CJEU)の判決(デンマーク)

2018年7月4日、欧州司法裁判所(CJEU)は、C-28/17(NN A/S)事件に関する判決を公表した。本事件では、デンマーク親会社と連結納税(joint taxation)を行っていたスウェーデン子会社のデンマークPE(恒久的施設)で生じた欠損を連結納税で否認することが、設立の自由(freedom of establishment)に適合するかが問題となった。もし仮に国内子法人のPEであれば、国内連結納税で損金算入できたはずである。なお、2018年6月12日に公表されたC-650/16(Bevola)事件に関するCJEU判決では、デンマークの国際連結納税スキームに言及していた。

事実関係

デンマークの法人税法第31(2)条(Corporate Tax Act section 31(2))によれば、国内PEで生じた欠損は、その法人の本国でも損金算入できる場合、デンマークの連結納税では損金算入できない。

本件デンマーク法人グループの親会社(NN)は、スウェーデン子会社を2社(SE1、SE2)有しており、いずれもそれぞれのPE(PE1、PE2)をデンマークに有していた。PE2はSE1に移管され、2つのPEは1つのPE(PE A)に統合された。デンマークの税務上、PE Aは移管された営業権(goodwill)の償却ができ、PE Aに欠損が生じる。しかしながら、スウェーデンでは、このような償却は認められておらず、スウェーデンの税務上損金算入できない。スウェーデン子会社は欠損の損金算入ができなかったが、デンマーク税務当局は、連結納税での損金算入を否認した。

CJEUの判決

税務当局は、C-18/11(Philips Electronics)事件に言及し、デンマーク税法では、居住法人も費用負担(charges)が他国で損金算入できる場合には損金算入が認められないことから、取扱いの差異はないと反論した。しかしながら、CJEUは、国内法人の国内PEであれば欠損の損金算入はできたはずなので、取扱いの差異はあるとした。

CJEUは次に、デンマークの本規定の目的は、国内PEで生じた欠損の二重控除の回避であるとした。本目的に照らして、非居住法人の国内PEの状況は、国内法人の国内PEの状況に客観的に同等である(comparable)とした。

CJEUによれば、取扱いの差異は、欠損金の二重控除防止の必要性から正当化される。しかしながら、事実上他の加盟国で欠損控除の可能性がない場合には、欠損控除の否認は、二重控除防止のために必要な限度を超えることになった。これは、CJEUのC-650/16事件の判決に沿っている。

したがって、CJEUは、デンマークの規定は、EU法違反であると結論付けた。

 

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert
「月刊 国際税務」 2018年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

条約/指令濫用防止規定はEU法違反との欧州司法裁判所(CJEU)の判決(ドイツ)

旧法の条約/指令濫用防止規定がEU法に沿っていないとの判決(C-504/16(Deister Holding)事件とC613/16(Juhler Holding)事件)(本誌2018年2月号、6月号参照)後、 欧州司法裁判所(CJEU)は、2012年に発効した現行規定もEU法に適合しないとの判決を下した(2018年6月14日公表のC-440/17事件)。

ドイツのGmbH(有限責任会社)は、オランダ法人である非居住株主に配当を分配した。当該配当分配は、EU親子会社指令に基づく恩典の対象となり、通常は、ドイツの源泉税が課税されないか、全額還付される。ドイツの配当源泉税率は、通常、付加税を含めて26.375%である。

しかしながら、連邦税務当局(Federal Tax Office)は、その株主が規定上要する十分な「実体(substance)」を有していなかったことから、親子会社指令の下での源泉税免除を否認した。

CJEUの判決

CJEUは、本指令の目的がEU内の配当分配の課税を回避することであるから、本規定は、EU親子会社指令に適合しないと結論付けた。

また、ドイツ法人の国外株主が、同一法人のドイツ株主に比して差別的となることから、本規定は、EUの設立の自由の原則(Freedom of Establishment principle)にも適合しないと結論付けた。

今回のCJEUの判決は、本規定の実体テストが、通常支払われる国税を免れることを意図した完全に人為的な取決めの回避に限定されていない、また、納税者に反証の機会が与えられていない、との事実に基づいている。

 

出典:Source: PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

再編規定は国家補助との欧州委員会決定を欧州司法裁判所(CJEU)が破棄(ドイツ)

2018年6月28日、欧州司法裁判所(CJEU)は、ドイツの再編規定に関するC-203/16 P(Andres, Heitkamp BauHolding)事件の判決を公表した。

背景

ドイツ税法では、5年間に50%超の株式が移転する場合、法人所得税納税者の繰越欠損金は、全額切り捨てとなる。2009年の金融危機により、ドイツは新規定を導入し、株式が、企業体(corporate entity)の再編目的で移転される場合は、繰越欠損金は維持されるとした(再編規定(restructuring clause))。

2011年、欧州委員会(European Commission)は、本規定が、株主変更の際に適用される通常の欠損金切り捨て規定の例外を見越していたことから、選択的(selective)であるとした。欧州委員会は、2011/527/EU決定により、当該再編規定の恩典を受けた納税者からの違法な国家補助(State aid)の返還を求めた。

ドイツ政府に加え、一部の法人所得税納税者は、委員会決定の破棄を求めて、第一審である一般裁判所(EU General Court)に訴訟を提起したが、2016年2月4日に棄却された(T-287/11事件)。納税者は、第一審裁判所判決の破棄を求めて、CJEUに訴えを提起した。

CJEUの判決

第一に、手続き上の論点に関して、CJEUは、申立人が、固有の属性または他のすべての者と異なる事実状況のために委員会決定の影響を受けるのであれば、本決定に個別に関係するとした。したがって、ドイツ税務当局から再編規定適用の要件を満たすとするルーリングを取得している本件申立人は、破棄を求めて訴訟を提起する権利があるとした(第一審裁判所と同様)。次に、CJEUは、第一審裁判所が、欠損金切り捨て規定を参照フレームワーク(reference framework)と考えることで、より広範な参照フレームワーク(欠損金繰越規定)からいくつかの規定を誤って適用したとした。その結果、第一審裁判所は、参照フレームワークを狭く定義しすぎた。この参照フレームワーク決定の誤りが、全体的な選択性分析の障害となったとみられ、CJEUが、第一審裁判所の判決と委員会決定に対する申立人の訴えを支持することにつながった。

 

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert
「月刊 国際税務」2018年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

フランスの恒久的施設への利得帰属に関する判決(ベルギー)

裁判所(First Instance Belgian Court)は、最近公表された事件で、税務当局を支持する判決を下した。本紛争では、ベルギーの納税者とフランスの恒久的施設(PE)間の利得の帰属を扱っている。納税者と税務当局は、PEの存在自体は争点にしていない。

裁判所は、OECD移転価格ガイドライン(PEへの利得の帰属に関するOECD 2010年報告)とベルギー国内法を参照した。裁判所は、あまり今までにないアプローチを採用して判決を行った。つまり、裁判所は、承認されたOECDアプローチ(Authorised OECD Approach)は特定の範囲でしか対処されていないため、部分的に直近のベストプラクティスを採用することで、ベルギー・フランス間の1964年租税条約の当初の文言を解釈した。

本判決は、移転価格分析の基本的に重要な側面、すなわち機能分析を含む比較可能性、移転価格文書化(挙証責任に関する)、移転価格算定方法の選択、ベンチマーキング分析、もカバーしている。

2017年11月7日、裁判所(Court of First instance of Mons)は、2011、2012事業年度のベルギー法人とそのフランスPE間の利得配分を含む事件の判決を下した。ベルギー法人は税務上の繰越欠損金があったため、ベルギー税務当局の行った移転価格調整は、繰越欠損金の更正となった。フランスPEの課税利得決定にあたり、納税者は、1964年に署名されたベルギー・フランス間の租税条約第5.1条に言及し、売上げベースの方法を優先させるべきとの立場をとった。なお、フランスPEは以前、フランスで税務調査の対象になり(対象年度は異なる)、フランス税務当局は、納税者の採用した方法を受け入れている。

ベルギー税務当局は、昔からの独立企業原則の定義を規定する租税条約第5.4条が適用される、また、租税条約の規定上、利得帰属を決定するにあたり相互協議手続きが規定されていると反論した。ベルギー税務当局は、フランスPEに配分される利得部分に関する納税者の申告ポジションに同意しなかった。この事実は、挙証責任の議論にとって重要である。特に、ベルギー当局は、フランスPEは、完全に別個の法的事業体(legal entity)として取り扱われるべきで、機能的には受託製造会社(contract manufacturer)と性格づけられるべきであるとの立場をとった。結果として、税務当局は、売上ベースのアプローチではなく、コストマークアップの取引単位営業利益法(TNMM)を適用した。

本事件の最初の重要なポイントは、ベルギーの裁判所は、2017年OECD移転価格ガイドライン、PEへの利得の帰属に関するOECD 2010年報告、EU仲裁条約(EU Arbitration Convention)を参照して、施行されている二国間条約を適用する傾向があるという事実である。今一つのポイントには、挙証責任が含まれる。ベルギー税法では、挙証責任は、売上に関しては当局、損金算入/免税に関しては納税者にある。本件納税者は、当局が売上の課税(フランスPEに配分される売上)に異議を唱えているとしたが、税務当局は、本訴訟は、納税者の税務申告書に含まれる条約免税に関するものであると反論した。裁判所は、ベルギー税務当局を支持する判決を下した。裁判所は、受託製造会社としての機能的性格をサポートするために、重要な機能(「本質的機能」)が、フランスでなくベルギーで行われていると述べることで、税務当局のポジションを確認した。

本事件では、納税者は、移転価格文書を作成していなかった。したがって、ベルギー税務当局は、ベルギー法人のマネジメントと行った会議に基づいてフランスPEの機能的側面を決定した。会議議事録はベルギー税務当局が作成し、納税者がレビューした。ベンチマーキング分析がなかったため、ベルギー税務当局は、比較分析(comparable search)を行った。裁判所は、税務当局が行ったベンチマーキング分析を受け入れ、独立企業間価格レンジの中位値を採った。


出典:PwC, Tax Insights
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PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

株式報酬をコストシェアリング支払いに含めるべきとする控訴審(逆転)判決(米国)

2018年7月24日、控訴審(US Court of Appeals for the Ninth Circuit)は、コストシェアリング契約に株式報酬費用を含めるべきとした事件(Altera事件)について、2015年の租税裁判所の決定を覆す判決を下した。所得税規則(sec. 1.482-7)では、株式報酬をコストシェアリングの支払い(reimbursements)でカバーすることを正当に求めている、と判示したものである。

裁判所は、本規則の発布にあたり、財務省は、その論拠を十分に説明し、法制化プロセスの過程で提示されたパブリッコメントに対処しており、行政手続法を遵守しているとした。更に、本規定は、482条(Section 482)に基づく財務省の権限の正当な行使であり、裁判所が解釈する独立企業原則と所得相応性基準(CWI)に整合しないことはない、とした。この判決は、最近の移転価格訴訟の中で、政府の数少ない勝訴となった。

本控訴審判決について、納税者からの再審理の請求、あるいは、最高裁への上訴がない限り、株式報酬の論点は最終決定となる。再審理の請求は例外的な状況のみで検討されるものであり、このような請求が受理されるのはまれである。同様に、最高裁がこのような上告を受理する可能性も高くないと思われる。なお、株式報酬をコストシェアリング契約のコストに含めるべきかが争われた別の事件(Xilinx事件)では、2003年の株式報酬コストの規定の公表前の年度について、これを含めなくてよいとする租税裁判所の判決を支持する判決が同控訴審で出ている。再審理の請求は45日で期限切れとなる。最高裁の上告期限は、控訴審の最終決定後90日である。

プログラマブル論理装置を開発・販売する米国法人であるAltera社は、ケイマン諸島の子会社と、研究開発(R&D)のコストシェアリング契約を締結した。2004から2007課税年度まで、Altera社はストックオプションとその他の株式報酬(SBC)を特定の従業員に付与したが、いかなるSBC費用も、R&Dコストシェアリング取決めの負担コストに含めていなかった。IRSは、これは、SBCコストをコストシェアリング取決め(CSA)の負担コストに含めることを求める2003年公表の規則に違反すると主張した。

2015年7月27日、租税裁判所は、本事件(145 T.C. 91(2015))の中で、本SBC規則は無効であると判示した。租税裁判所は、全員一致で、財務省とIRSが、法制化の過程で提出された、非関連者間の同様の取決めではSBCコストは負担しないであろうことを示す(異論のない)パブリックコメントに照らして、SBC規則が独立企業基準に整合するとする合理的根拠の提示をしていない、とした。

本控訴審判決は、関連者間のコストシェアリング契約を有する法人の税務ポジションのみならず、独立企業原則の解釈適用にまで影響を及ぼす可能性があり、今後の動向が注目される。

(注)2018年8月7日、本控訴審(第9巡回裁判所)は、自ら、上述7月24日付の判決意見(opinion)を取り下げた。本控訴審判決では、判事(3人)の意見が2:1で分かれていたところ、2003年規定の有効性を認める判事の1人が本判決前に死去し、その後(8月2日)後任判事が就任した。本控訴審は、これを受けて、新体制での協議時間が必要なため判決意見を取り下げたとしているが、その他の理由の開示はなく、今後の検討手続き・スケジュールは現時点では明らかでない。

 

出典:PwC, Tax Insights
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G20財務大臣・中央銀行総裁会議への報告(OECD)

2018年7月21日~22日にかけてアルゼンチン(ブエノスアイレス)で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議に提出されたOECD事務総長の報告書(PARTⅠ)には、以下の記載が含まれている。

  • 2008年から、G20は国際的な租税回避等に優先的に立ち向かってきた。各国首脳と財務大臣の協力により、大きく前進した。
  • 特に、デジタル経済の課題への対処について、これを更に進める必要があり、その予定である。
  • 金融口座情報の自動的交換は、2017年9月時点でほぼ50の国・地域が開始しており、更に50か国・地域が2018年9月に開始する予定である。
  • ほぼ120か国・地域が税務行政執行共助条約に参加し、BEPS防止措置実施条約(BEPS multilateral instrument)には、82か国・地域が署名し、2018年7月に発効している。
  • 有害な優遇税制の改正/廃止について、175の制度がOECD/G20の包摂的枠組み(116メンバーで全世界のGDPの95%超をカバー)でレビューされ、うち130超の制度が改正/廃止され、あるいは、その途中である。
  • 透明性に関して、17,000超のタックスルーリング情報が既に特定され、交換されている。
  • 国別報告(CbCR)も開始し、ピアレビューもなされている。
  • 以上の直接の成果として、多くの多国籍企業が、税務ストラクチャーを真の経済実態に整合させるよう、プロアクティブなステップを踏んでいる。また、国際的税務協力の進展等により、情報開示も進んでいる。
  • 2018年6月までに、各国・地域はこのような取り組みから、930億ユーロの追加的な税収(本税、利子、ペナルティー)を特定している(BEPSプロジェクト開始時の租税回避コスト見積額は、年間1,000~2,400億米ドル)。
  • OECD/G20の包摂的枠組みで、利得配分とネクサス(profit allocation and nexus)規定の再検討に合意しており、コンセンサスベースの解決に向けて作業を進めている。デジタル経済に関するOECD/G20包摂的枠組みのタスクフォースが2018年7月11日に会合し、調整を行っている。2019年6月に中間報告、2020年に最終報告書が作成される予定である。

 

出典:OECD website
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