月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 10月号

2020-10-05

2020年10月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 2020年税制改正案(韓国(1))
  2. 2020年大統領選 – 事業者に係る税提案の影響(米国)
  3. 情報技術法人への恩典(ロシア)
  4. 法人を経由した人的サービスは租税回避行為との裁決(シンガポール)
  5. 恒久的施設への利得帰属に係る最高裁判決(韓国(2))

2020年税制改正案(韓国)

2020年7月22日、企画財政部(MOEF)は、2020年包括税制改正案を公表した。本改正案により、約676億韓国ウォンの税収増が見込まれる。株式譲渡益課税の拡大、不動産保有税率の引き上げ、および最高個人所得税率の引き上げを考慮して税収増が見込まれる一方、証券取引税の漸減、および投資税インセンティブの拡大を含む改正案による税収減が見込まれる。MOEFの包括改正案は、7月23日から8月12日まで、パブリックコメント募集およびコンサルテーションのため公表された。主要改正案には、以下が含まれる。

COVID危機の間の経済回復力およびパンデミック後の景気回復を支援する提案

統合された投資税インセンティブの導入

既存の投資税インセンティブスキームでは、9の特定分野(試験研究(research and testing)、職業訓練、生産性向上、安全・防護(safety and protection)、省エネルギー、新たな成長の原動力となる技術の商業化等)の設備や、中小企業(SMEs)が取得する特定事業資産等への適格投資について、税額控除が認められている。これらの投資税額控除スキームを、単一の投資税インセンティブスキームに簡素化・統合することを提案している。提案されている統合税額控除スキームでは、既存の適格投資のポジティブリストがネガティブリスト制度に変わり、通常、投資税額控除は、法律等で特に禁止されない限り、全種類の事業目的の有形資産(一般的に、土地、建物および車両等(関連産業で使用される資産、例えば運送業の車両は例外)は除く)に認められよう。しかしながら、人口増加を抑制するため、一定の例外を除き、所定の大都市区域では本統合投資税額控除は認められないであろう(SMEsによる取替投資や工業団地での拡大投資は例外)。

この新たな投資税額控除スキームにより、年間適格投資に対して、基本税率(SME10%、中規模法人3%、大法人1%)の法人所得税額控除が認められよう。この基本税額控除に加え、過去3年の平均投資額を超える適格投資額について、3%の追加税額控除(法人規模を問わず)が規定されよう(基本税額控除の200%が限度)。また、新たな成長の原動力となる技術を商業化するための設備投資には、SME12%、中規模法人5%、大法人3%と、より高い基本税額控除率の対象となろう。さらに、政府のプロジェクト(digital-green new deal project)における新たな種類の技術を、特別措置法(STTCL)の大統領令により投資税額控除が認められる12分野における既存の223種類の技術に加えることが提案されている。

この新たな投資税額控除は、2021年1月1日以後の所得税申告への適用が提案されている。投資税額控除に係る既存のサンセット条項が、2021年12月末に終了することから、法人は、2020年と2021年に行われるすべての適格投資について、既存の投資設備の種類に基づく税額控除の申請と、新たな投資税額控除の適用の選択が可能となろう。しかしながら、このような選択を、投資設備の種類毎に行うことは認められないであろう。

未使用税額控除(Unused Tax Credits)繰越期間の延長

現在、未使用税額控除は、一定の場合(設立後5年以内のSMEsの未使用R&D税額控除は10年、新たな成長の原動力になるコア技術の未使用R&D税額控除は10年、設立後5年以内のSMEsの未使用投資税額控除は7年)を除き、通常5年間の繰り越しが可能である。改正案では、STTCLでのすべての種類の未使用税額控除の繰越期間が10年間に延長されよう。本改正案は、2021年1月1日以後の所得税申告で、繰越期間が経過していない未使用税額控除に適用されよう。

欠損金繰越期間の延長

現在、法人所得税法(CITL)上、税務上の欠損金は、10年間の繰り越しが可能である。本改正案では、COVID-19危機で苦しむ納税者の税負担軽減のため、税務欠損金の繰越期間が15年に延長されよう。しかしながら、繰越欠損金の控除制限(法人課税所得の60%、ないしSMEsその他の特定法人は100%)は改正がない。本改正案は、2021年1月1日以後の所得税申告に適用されよう。

外国税額控除の繰越期間延長と未使用外国税額控除の損金算入

CITL上、法人は、一定の控除限度で外国税額控除が認められる。現在、控除限度を超える未使用外国税額は、5年間の繰り越しが可能である。本改正案では、この5年間の繰越期間が、10年に延長されよう。さらに、納税者は、繰越期間内に使用されない外国税額控除額について、繰越期間終了年の翌年に損金算入(deduct)が認められよう。本改正案は、2021年1月1日以後の所得税申告で、現在の繰越期間(5年)が経過していない未使用外国税額控除に適用されよう。

交際費とみなされない広告費用の閾値の拡大

販促/広告目的での無償配布のための物品購入費に係るある特定の者への広告費宣伝費の支出は、通常、交際費として税務上控除が制限される。例外として、年間3万韓国ウォンの閾値未満(1品目当たり1万韓国ウォン以下の支出を除く)の少額支出は、税務上販促/広告費として損金算入される。本改正案では、2021年1月1日以後の発生支出より、閾値が年間5万韓国ウォン(1品目当たり3万韓国ウォン以下の支出を除く)に拡大されよう。

上述に加えて、以下の提案もある。

  • SMEsのR&D税額控除適格支出の範囲拡大 – R&D税額控除の対象となる適格R&D支出の範囲に、発明促進法(Invention Promotion Act)で指定される特定の工業所有権検査サービス事業体(industrial property examination service entities)への、SMEsによる特許権の研究・分析の外注を含める(2021年1月1日以後開始年度から発効見込み)
  • 外国人技術者の給与所得税軽減措置(当初5年の50%所得税軽減(または当初3年70%、その後2年50%の軽減)の改正案 – 対象となる適格外国人技術者の要件の厳格化、および適格外国人技術者の雇用機会(これらの外国人技術者が勤務する適格R&D設備の範囲)の拡大(2021年1月1日以後雇用契約が履行される外国人に適用見込み)

協調的な業務提携の促進および公正な課税の強化案

以下の提案がある。

  • SMEsの特別所得税免除(免除割合5-30%(1億韓国ウォン限度))の拡大 - 現在46種の適格事業に、通関代理および関連サービス業ならびに一定の電気車両リース業の2種を追加し、2022年12月末まで2年延長
  • R&D税額控除対象の適格人材研修費の範囲拡大 – R&D税額控除を、産学連携の認定法人の適格支出(大学側との協定に基づく、雇用見込大学生への実地研修費支出を含む)に拡大(2021年1月1日以後開始年度から発効見込み)
  • 最高個人所得税率の改正 - 現在5億韓国ウォン超で42%の最高個人所得税率を、5億韓国ウォン超10億韓国ウォン以下は42%、10億韓国ウォン超は45%に改正(2021年1月1日からの稼得所得に適用見込み)

現行

改正案

課税所得

税率

課税所得

税率

1,200万韓国ウォン以下

6%

改正なし

1,200万韓国ウォン超、4,600万韓国ウォン以下

15%

改正なし

4,600万韓国ウォン超、8,800万韓国ウォン以下

24%

改正なし

8,800万韓国ウォン超、1億5千万韓国ウォン以下

35%

改正なし

1億5千万韓国ウォン超、3億韓国ウォン以下

38%

改正なし

3億韓国ウォン超、5億韓国ウォン以下

40%

改正なし

5億韓国ウォン超

42%

5億韓国ウォン超、10億韓国ウォン以下

42%

10億韓国ウォン超

45%

  • 仮想資産(Virtual Assets)からの所得への課税提案 – 仮想資産の移転またはリースから生じる居住者の所得は、新たに、「その他所得」として20%の所得税率で申告課税(年間2.5百万韓国ウォン以下の所得は免税) ※非居住者/外国法人は「韓国源泉のその他所得」として10%の源泉徴収、または20%の所得課税(条約で免税の可能性あり)(2021年10月1日以後の移転/リースから生じる所得に適用見込み)

税制の合理化および納税者に優しい環境の推進

以下の提案がある。

  • 規制区域外への工場(または本店)移転に係る個人/法人所得税の減免の新たな制限 – 当該移転に係る現行制度における当初7年間の100%免除とその後3年間の50%免除を含め、減免を、減免期間の移転エリアでの累積投資額の50%(プラス、常勤者1人当たり15百万韓国ウォン(29歳未満または特定サービスセクターの従業者は20百万韓国ウォン))に制限(2021年1月1日以後の工場または本店移転から適用見込み(制度は2022年12月31日まで2年延長))

その他、相互協議(MAP)に係る仲裁を成文化する新規定(現租税条約に仲裁規定はなし)、MAPの開始・終了要件の改正案(対応的調整を含む調整への対応)、MAP合意の実施に係る要件案(納税者による訴訟取り下げが必要)、被支配外国法人(CFC)規定(みなし配当課税)の課税対象となる受動的所得の範囲拡大、株主/投資家の第二次納税義務の合理化(上場会社の除外、支配株主の範囲縮小等)、免税物品の税関申告不履行に対する新たなペナルティー、税務調査開始前および調査結果通知への追加情報、付加価値税(VAT)の電子サービス(Electronic Services)の提供地の明確化、がある。

その他の改正案

上述のほか、国外関連者(overseas related party)の範囲拡大、移転価格に係る事前確認(APA)ロールバック年の延長(5年から7年(ユニラテラルAPAは3年から5年)に2年延長)、間接外国税額控除の改正案(法人は損金算入方式(deduction method)を使えなくなる)、還付税金の利子計算開始日(納税者による還付のための訂正申告の場合も起算日は納付日にする)、義務的な租税政策の中長期計画の改正案(MOEFが5年毎に計画策定(必要に応じて見直し)、中長期計画の評価・分析を通じた年次評価結果を作成・提出)、がある。

 

出典: PwC Korea, Tax News Flash
「月刊 国際税務」 2020年10月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

2020年大統領選 – 事業者に係る税提案の影響(米国)

2020年11月の大統領選が近づくにつれ、有権者は、租税その他の論点について、トランプ大統領と、前副大統領のバイデン氏の提案の検証を開始している。

両候補は、2020年選挙公約の中で、大きく異なる税提案を示している。トランプ氏は、再選された場合、2017年税制改革の一部として制定された個人の減税を恒久化することを提案しており、現在21%の法人所得税率のさらなる軽減、およびキャピタルゲイン税率の引き下げを提案する可能性があるとしている。バイデン氏は、インフラ歳出の増加、クリーンエネルギーおよび国内製造のインセンティブ、医療アクセスの拡大、および教育・職業訓練資金の増加を含む、様々な政策コストを埋め合わせるため、事業者と高額所得の個人の増税を提案している。

2021年に制定される重要な税法の見通しは、いずれの候補が米大統領選に勝つか、また、いずれの党が上院、下院を支配するかによる。トランプ大統領は、2017年連邦税制改革法の制定を、民主党が2018年中間選挙で下院を支配する前、当初2年間の共和党支配の議会で達成できた。政府支配の分断が続くと、いずれの大統領候補も、選挙での税提案の制定が難題となる。

概して、バイデン氏は、大統領選挙の一環で、事業に係る所得税の改正をいくつか提案している。歳入の観点から最も大きな改正には、法人所得税率の21%から28%への引き上げが含まれる。法定法人所得税率の引き上げに加えて、バイデン氏は、グローバル軽課税無形資産所得(GILTI)の税率の倍増、およびグローバル会計上所得(global book income)への新たな15%の代替ミニマム税(alternative minimum tax)、を提案している。

バイデン氏は、多くの分野特有の歳入増加案も提案している。さらに、気候変動に対処し、米国インフラ投資を促進する計画の一環で、いくつかの歳入減となる税インセンティブを提案している。

バイデン氏はまた、パススルー事業者の税率引き上げも提案している。個人については、給与税(payroll taxes)を引き上げ、課税所得40万米ドル超の納税者の最高個人所得税率の39.6%への引き上げ(現時点では、2025年後の見込み)を提案している。これは、60%超のパススルー事業者所得に影響するであろう。上述の通り、トランプ氏は、再選の場合、2017年に成立した暫定的な個人減税の恒久化を提案している。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2020年10月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

情報技術法人への恩典(ロシア)

2020年6月、大統領は、3つの重要な取り組みを提案した。

  1. 個人所得に、累進所得税(PIT)を導入する。2021年1月1日より、PIT率は、5百万ロシア・ルーブル(RUB)以下の所得は13%、5百万RUB超の所得は15%になる。
  2. 情報技術(IT)法人の税率を軽減する。大統領は、ITセクターの発展の重要性を述べ、総合的な社会保険率(social insurance contribution rate)を、無期限で、現在の14%から7.6%に引き下げることを提案した。現在の14%の率は既に優遇された率である(標準は30%)。また、所得税率を、標準の20%から3%に、無期限に引き下げる提案もある。大統領演説で直接明確に述べられてはいないものの、法人は、その収入の90%をITサービス提供から稼得することが求められよう。
  3. CFC保有者の課税制度の簡素化。外国法人を支配する者は、CFC利得に係る税額を、通常の複雑な方法で算定するのではなく、かわりに年間5百万RUBの固定額を納付することが認められよう。大統領は、この額が、各CFC(each CFC)、あるいは、統合ベース(combined basis)で支払うことになるのか明確にしていない。

各法案は、下院(State Duma)開催となる2020年9月前に具体化がなされる。

 

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2020年10月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

法人を経由した人的サービスは租税回避行為との裁決(シンガポール)

最近の裁決(GCL v Comptroller of Income Tax [2020] SGITBR 1(GCL)では、歯科医が行った取決め(arrangement)を扱った。当該歯科医は、歯科業務を提供するため、法人を設立した(以前従業員として当該業務に従事)。当局(Comptroller of Income Tax)は、所得税法(ITA) section 33の一般的租税回避防止規定(GAAR)を発動し、法人のサービス所得をその歯科医が稼得したものと取り扱った。租税審判所(Income Tax Board of Review)では、歯科業務を提供するために法人を設立すること自体は租税回避行為ではないが、法人の当該歯科医への報酬が極めて低額であったことは、租税回避の構成要素となる、との判断を下した。

 

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2020年10月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

恒久的施設への利得帰属に係る最高裁判決(韓国)

韓国の最高裁は、法人所得税およびVAT(付加価値税)上の韓国の恒久的施設(PE)への利得帰属を扱った事件で、納税者勝訴の判決を下した(Supreme Court Decision 2017Du72935)。

裁判所が検討した主要ポイントは、PE認定がされた場合に、いかにPEに利得を配分(allocate)するかであった。本判決において、最高裁は、以下の通り判示した。

  • 法人税は、関係する租税条約に従って、PEに帰属する利得のみに課すことができる。したがって、PEに帰属する利得は、当該PEが、同一または類似の条件で同一または類似の活動を行い、かつ、当該PEを有する企業と全く独立の立場で取引を行う別個のかつ分離した企業であるとしたならば当該PEが取得したとみられる利得、であるべきである。
  • PEに帰属する利得は、韓国で行う活動に関係する所得に限られるべきであり、韓国外で行われた活動のために受領する対価(consideration)は含まれるべきではない。
  • 仮に重要不可欠な活動が韓国で行われるにしても、さらに重要不可欠な活動が韓国外で行われる可能性があるのであるから、すべての利得をPEに配分すべき、とはならない。

韓国の税務当局は、更正処分を行うに際して、PEへの利得帰属決定に係る立証責任がある。

 

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2020年10月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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