月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 5月号

2021-05-05

2021年5月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 2021年度予算案(英国)
  2. ATAD法案の可決(ドイツ)
  3. ATAD 2(ハイブリッド防止規定)の制定(スペイン)
  4. デジタルプラットフォーム事業者に係る義務的情報交換の採択(EU)
  5. キャリードインタレストに係る税制優遇措置案の公表(香港)
  6. 非居住者およびデジタル経済に係る新税法(ナイジェリア)
  7. ロシアのオフショア(SARs) - 新たな恩典(ロシア)
  8. 条約上の受益所有権に関する行政最高裁判所の新判決(フランス)
  9. インフラ計画および法人税増税案(米国)

2021年度予算案(英国)

2021年3月3日、財務相は議会に予算を提示した。COVID-19パンデミックに対する緊急措置、財政修復、および経済回復促進の3点を重要な優先事項としている。事業税関連として、以下が含まれる。

法人税

法人税率は、2023年4月から、25万ポンド超の利得に対して25%に引き上げられる。5万ポンド未満の少額の利得に係る税率は19%のままであり、利得が5万ポンドから25万ポンドの事業者は、段階的な救済により、平均税率は標準税率未満となる。迂回利益税(Diverted Profit Tax)の税率は、2023年4月から31%に引き上げられる。

欠損金の繰戻し期間の延長

営業損失(trading loss)の繰戻し規定が、一時的に、1年から3年に延長される。これは、法人化された(incorporated)事業、および法人化されていない(unincorporated)事業のいずれも適用可能である。

  • グループのメンバーではない、法人化されていない事業者や法人(companies)は、2020-21年と2021-22年のそれぞれにおいて、最大2百万ポンドの損失の救済を受けられる。
  • グループのメンバーである法人は、グループの制限なしに、2020-21年と2021-22年のそれぞれにおいて、最大20万ポンドの損失の救済を受けられる。
  • グループのメンバーである法人は、2020-21年と2021-22年のそれぞれにおいて、最大2百万ポンドの損失の救済を受けられるが、グループ全体で2百万ポンドの上限が適用される。

これは、今後の財政法案(Finance Bill)で法制化される見込みである。

プラントおよび機械の特別控除(super-deduction)

2021年4月1日から2023年3月31日まで、新規の適格プラントおよび機械に投資する法人は、初年度に130%の資本控除(capital allowance)の恩典がある。また、一定の適格資産(qualifying special rate assets)について、50%の初年度控除の恩典がある。

フリーポート

フリーポート税務拠点(Freeport tax sites)の事業者は、多くの減税の恩典を受けることができる。

EU内の関連法人(connected companies)への利子/ロイヤルティーの支払い

2021年度財政法案では、利子・ロイヤルティーに係るEU指令(EU Interest and Royalties Directive)を実施する国内法を廃止する。本法律は、現在、英国法人とEU法人間のグループ内利子・ロイヤルティーの支払いに係る源泉税免除を規定している。本廃止により、2021年6月1日から、EU法人に対する年利・ロイヤルティーの支払いに対して、関連租税条約の規定に従って、源泉税が適用される。

R&D租税優遇制度

英国が最先端の研究にとって競争力のある場所であり続けること、これらの優遇措置が引き続き目的に適合し、納税者の資金が効果的に対象とされることを確保する目的で、コンサルテーションが公表されている。さらに、政府は、データとクラウドコンピューティングのコストを、他の多くの政策オプションや優先事項とともに、より広範な見直しで優遇措置の範囲に含めることを提案している。

銀行付加税(bank surcharge)

本付加税は、銀行の利得に対する総税率(combined rate)が現在のレベルから大幅に上昇しないこと、本税率が米国・EUの主要な競争相手に比して不利でないこと、および英国の税制が英国の銀行部門における競争を支援していること、を確保するために見直される。本改正は、2021-22年度財政法案で法制化される。

また、以下のような改正等もある。

期限後申告・納付の利子・ペナルティー

政府は、VAT(付加価値税)と所得税の自己申告の罰則制度を改正する。新しい期限後申告制度は、ポイントベースとなり、関連する閾値に達した場合にのみ、ペナルティーが生じる。

デジタルプラットフォームに関するOECD報告規定

デジタルプラットフォームが、売り手の所得(income)に関する情報を、税務当局(HMRC)と売り手自身の双方に送信することを求める、OECD規定の実施に関するコンサルテーションが開始される。

OECDの義務的開示規定

特定のクロスボーダーの税の取決めに関するグローバルでの情報交換を促進することによって、オフショアの脱税(tax evasion)に対抗するために、既存のEU開示規定をOECDの規定に置き換えることに関するコンサルテーションが開始される。

大規模事業者に係る税務行政の見直し

大規模事業者に対する英国の税務行政の実績を踏まえて、見直しが行われる。これには、適切な場合に事業者に早期の確実性を提供すること、紛争の効率的な解決を確保すること、また、コンプライアンスへの共同的・建設的なアプローチを促すこと、が含まれる。

出典:PwC UK website
「月刊 国際税務」 2021年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

ATAD法案の可決(ドイツ)

2021年3月24日、政府は、租税回避防止指令(Anti-Tax Avoidance Directive; ATAD)の実施を目的とした法案を可決した。本法案は、9月の選挙前に法制化される見込みである。本法案には、ハイブリッドミスマッチ取決めに関するATAD規定が含まれている。さらに、既存のCFC(controlled foreign company)規定および出国税(exit tax)規定が、ATADの観点から見直される。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

ATAD 2(ハイブリッド防止規定)の制定(スペイン)

2021年3月9日、政府は、ハイブリッドミスマッチに対処するために、法人所得税(CIT)法と非居住者所得税(NRIT)法を改正した。本改正の目的は、2016年7月12日付のEU指令2016/1164(ATAD 1)(2017年5月29日付EU指令2017/952(ATAD 2)で改正)に含まれるハイブリッド防止規定を、国内法で制定することである。2021年3月10日、法令(Royal Decree law)が政府官報に掲載され、翌日発効した。本新規定は、事実上、本規定の発効日(2021年3月11日)に終了していない課税年度から適用される。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

デジタルプラットフォーム事業者に係る義務的情報交換の採択(EU)

2021年3月22日、欧州連合理事会(Council of the European Union)は、デジタルプラットフォーム事業者に係る自動的情報交換の範囲を拡大し、税務分野における執行協力に関する既存規定を改正するEU指令(“DAC7”)を採択した。DAC7では、税務分野における執行協力に関する指令2011/16/EU(“DAC”)の第6次改正を導入している。

デジタルプラットフォーム事業者に係る情報交換

本新規定は、デジタルプラットフォームを介して実行される商業活動に関する税規定(所得税やVAT(付加価値税)など)の施行を確実にするために、必要な情報をEU加盟国の税務当局に提供し、デジタルプラットフォーム事業者の管理上の負担を軽減すべく標準化された報告要件を導入することを目的としている。

この新たな報告義務は、EUおよびEU域外のデジタルプラットフォーム事業者に適用され、これにより、特定販売者(“報告対象の販売者”)は、以下の(クロスボーダー/国内)活動を行うために他のユーザーにつながることが容認される。

a)不動産の賃貸
b)人的サービスの提供
c)物品販売
d)あらゆる輸送手段(mode of transport)のレンタル

本報告は、販売者の法的性質(legal nature)に関係なく適用される。より具体的には、EUデジタルプラットフォーム事業者とは、税務上、EU加盟国の居住者である事業者、またはそうでない場合は、EU加盟国の法律に基づいて設立された、またはEU加盟国に管理地(place of management)/恒久的施設がある事業者と定義される。

EU域外のデジタルプラットフォーム事業者とは、EUと前述の地理的ネクサス基準のいずれも満たしていないが、(a)報告対象の売り手による報告対象活動の実行を促進する、またはEU加盟国に所在する資産(property)を賃貸する、あるいは、(b)EU加盟国に所在する不動産の賃貸に関与するデジタルプラットフォームを運営する事業者、として定義される。したがって、EU域外のデジタルプラットフォーム事業は、EU加盟国に登録する必要がある。

しかしながら、これらの事業者は、自国(つまり第三国)の当局に対して同様の報告義務を履行する必要がある場合、これらの報告義務を免除され、そのような当局は、特定の合意に従ってEU当局と情報を交換する。

複数のEU加盟国でそのように認定されているEUの報告対象プラットフォーム事業者は、報告を実施する単一のEU加盟国を選択することができる。EU域外の報告対象プラットフォーム事業者は、通常、報告規定上、登録するEU加盟国を選択することができる。

報告対象の情報には、売り手の正しい識別情報と、プラットフォームを通じて売り手が実現した利得(profits)の決定に関連する情報が含まれる。本情報は、販売者が報告対象販売者として識別された暦年の翌年の1月31日に、プラットフォーム事業者が、所轄税務当局に報告する必要がある。その後、受領するEU加盟国は、受領した情報を他のEU加盟国の税務当局と交換する。

DACのその他の改正

上述以外で、DAC7により、DACについて以下の改正が行われる。

  • 要請に基づく情報交換の前提条件としての“予測可能な関連性(foreseeable relevance)”の基準の明確化(“グループベースの要請(group requests)”に関するものを含む)
  • ロイヤルティーへの義務的な自動的情報交換の拡張
  • 共同調査のための新しい法的枠組み

採択されたDAC 7は、EU官報に掲載される。EU加盟国は、2022年12月31日までに本指令を実施し、2023年1月1日から新規定を適用する必要がある。2023年1月1日以降の報告期間に対応する最初の情報は、2024年に報告する必要がある。

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert
「月刊 国際税務」 2021年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

キャリードインタレストに係る税制優遇措置案の公表(香港)

2021年1月29日、2021年度内国歳入庁(改正)(キャリードインタレストに係る税制優遇措置)法案が公表された。主な規定は以下の通りである。

  1. 適格なキャリードインタレストに対する0%の利得税率(および給与税計算上の雇用所得から適格なキャリードインタレストの100%を除外)
  2. ファンドの利得税免除(profit tax exemption)上、特別目的事業体(special purpose entity)を有するファンドのため、その事業体により保有・管理され得る資産の適格区分の拡大
  3. 関連・経過措置

本優遇措置は、2020/21課税年度(およびその後の課税年度)において、2020年4月1日以後に適格者/適格従業者が受領/に発生した額に適用される。

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2021年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

非居住者およびデジタル経済に係る新税法(ナイジェリア)

2020年、ナイジェリアは「重要な経済的プレゼンス(Significant Economic Presence; SEP)」規定を導入し、特定サービスをリモートで提供する非居住企業(NRCs)を含むよう、税の範囲(tax net)を拡大した。 NRCは、次のような企業で構成される。

  • デジタル活動(‘デジタルSEP’)に従事し、かつ
  • 技術的、専門的、管理およびコンサルティングサービス(‘TPMC SEP’)を提供

2020年財政法(FA)では、グローバル活動に係る監査済財務諸表の申告書添付義務等、NRCsに影響を与えるより多くの改正を導入している。

出典:PwC, International Tax News
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

ロシアのオフショア(SARs) - 新たな恩典(ロシア)

財務省は、多国籍持株会社(multinational holding company; MNHC)のステータスを取得するための適格基準を拡大し、追加の恩典(軽減税率等)を取り入れる法案を導入した。これにより、企業は、特別行政区(Special Administrative Region; SAR)において、特定の場所に投資(3億ルーブル以上)し、物理的なプレゼンス要件(15人以上の正社員や、100㎡以上の事務所)を満たす必要がある。

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2021年5月号収録 Worldwide Tax Summary
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

条約上の受益所有権に関する行政最高裁判所の新判決(フランス)

最近の事案では、ロイヤルティーを徴収してそのメンバー(著者、作曲家、レコード会社)に移転(transfer)している英国法人が、フランス源泉のロイヤルティーを受領した。フランスの税務当局は、本法人をこれらのロイヤルティーの受益者(beneficial owner)とみることはできないとし、英国の税務上の居住者ではない著者に払い戻される(repaid)ロイヤルティー部分について、フランス源泉税免除恩典を否認した。

2021年2月5日の判決で、行政最高裁判所は、本法人を受益者とした控訴裁判所が事件の事実認定を誤ったとした。本最高裁は、本法人の目的は、メンバーの使用料を徴収および管理することであり、実際には、これらの使用料のほとんどは毎年これらのメンバーに移転されていることを強調した。

出典:PwC, International Tax News
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

インフラ計画および法人税増税案(米国)

2021年3月31日、バイデン大統領は、ピッツバーグで、インフラやその他の支出イニシアチブに焦点を当てた2兆ドルの計画(“American Jobs Plan'')を公表した。ホワイトハウスは、大統領の発言に先立ち、具体的なインフラ提案とその財源となる法人税増税の概要を発表した。

American Jobs Planには、クリーンエネルギーと国内製造に対する税制上の優遇措置が含まれ、“Made in America Tax Plan”には、法人税の引き上げ提案が含まれている。ホワイトハウスの要約によると、Made in America Tax Planは、インフラパッケージの“支払い以上”に、15年間で2兆ドルを超える連邦歳入を増やし、連邦予算の赤字を削減するとしている。法人税増税の提案には、法人所得税率の28%への引き上げと、米国の国際税法に関するいくつかの改正案が含まれている。

公表されたインフラと法人税の増税計画は、大統領選挙中に発表された大統領の“Build Back Better”計画の重要な要素を反映している。ホワイトハウスの記者会見で、行政当局は、高所得者に影響を与える増税案が、育児・教育・医療へのアクセス拡大、および対象を絞った個人の税軽減措置に係る支出の増加に関する大統領のキャンペーン提案の他の部分のコストを埋め合わせるために提案される、とした。

本法人税増税案には次の提案が含まれている。

  • 法人税率の21%から28%への引き上げ
  • GILTI (global intangible low-taxed income)税率の21%への引き上げ、国別ベースでのGILTIの適用、適格事業資産投資(QBAI)に係る10%控除の廃止
  • 強力なミニマム税率を採用していない国に本拠を置く外国企業が利得を米国から剥離するのを可能とする支払いについての一定控除の否認

本提案では、BEAT (base erosion and anti-abusive tax) を、外国利得に係るミニマム税を有さない国に拠点を置く企業への支払いをターゲットとする規定に置き換えるもようである。これは、OECDのデジタルプロジェクト提案との整合性を考慮している可能性がある。また、FDII (foreign derived intangible income) に係る控除の撤廃、特別の大企業の会計上利益に係る15%のミニマム税の課税等も含まれている。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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