月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 6月号

2021-06-05

2021年6月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 企業復興・税インセンティブ法(フィリピン)
  2. 2021年度予算案(カナダ)
  3. ハイブリッドミスマッチ規定のガイダンス案の公表(オーストラリア)
  4. 法的事業体の税務上の区分規定に関するコンサルテーション(オランダ)
  5. USTR、関税の可能性を提案 - 6件のデジタルサービス税の調査を継続、4件は調査終了(米国)
  6. ニューヨーク州の税率引き上げ、その他の改正(米国)

企業復興・税インセンティブ法(フィリピン)

2021年3月26日、法律(Republic Act(RA) No. 11534/Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises(CREATE) Act)に大統領が署名した。本法には、内国歳入法(National Internal Revenue Code)のいくつかの規定の改正、主に、法人所得税率の軽減、および税インセンティブに関する新たな章(title)の導入、が含まれる。本法律は、公式官報または新聞(newspapers of general circulation)に掲載されてから15日後に発効となる(本法律は、2021年3月27日にBusiness Mirror誌に掲載された)。

本法律(Package 2)の主要規定は、以下のとおりである。

  • 内国法人および居住外国法人(RFCs)の法人所得税(CIT)率が、2020年7月1日に遡って25%に引き下げられる(注)(非居住外国法人(NRFCs)は2021年1月1日から)。純課税所得が5百万ペソ以下で、総資産(特定の事業体の事務所、プラントおよび設備がある土地を除く)が1億ペソ以下の内国法人は、2020年7月に遡って一息に20%の所得税の対象となる
    (注) たとえば、2020年12月期の実効税率は27.5%(現行税率は30%)になる。なお、財務省(Department of Finance)資料によると、法人所得税率は、2023年から2027年にかけて毎年1%ポイントずつさらに引き下げられる
  • 内国法人およびRFCsの総所得に係る15%の選択的CITの廃止
  • 一定要件のもと、国外源泉配当の所得税免除
  • オフショア銀行ユニット(offshore banking units; OBUs)の10%特別所得税率の廃止
  • 2022年1月1日から、地域事業本部(regional operating headquarters; ROHQs)は、通常の25%CITの対象になる
  • 2020年7月1日から2023年6月まで、以下のとおりとなる。
    • 私立(proprietary)教育機関および病院の所得税率の1%への暫定的引き下げ
    • 内国法人およびRFCsのミニマム法人所得税率の1%への暫定的引き下げ
    • VAT(付加価値税)免除となる者の税率の1%への暫定的引き下げ
  • 拡大外貨預金制度の下で、預託銀行から生じるRFCsの利子所得の最終所得税率が、7.5%から15%に引き上げられる
  • RFCsおよびNRFCsの証券取引所に上場されていない株式の売却によるキャピタルゲイン税が、5%/10%から15%に引き上げられる
  • 留保利得税(improperly accumulated earnings tax; IAET)の廃止
  • タックススペアリング規定について、2020年7月1日から、税額控除は、通常所得税と、配当に係る15%の税、との差相当になる
  • 公立高校、公立高等教育機関、公立技術職業訓練機関に在籍する企業系研修生の技能開発に要した労働訓練費の1/2の労働訓練費の追加控除
  • 控除可能な利子費用が、最終課税の対象となる利子所得の33%ではなく、20%削減される
  • セクション40(C)(2)に基づく非課税交換(tax free exchange)の適用範囲が拡大され、免税を利用する目的での事前の内国歳入庁(BIR)の確認/タックスルーリングは不要になった
  • 財務省による、税額控除可能な源泉税に関する規定の定期的なレビュー
  • がん、精神疾患、結核、腎臓病の医薬品の販売または輸入に対するVAT免除の実施日(effectivity)について、2023年1月1日から2021年1月1日に変更された
  • COVID-19健康関連物資および医薬品のVAT免除が2021年1月1日から2023年12月31日まで実施される

本改正が必要な理由として、①現在のフィリピンのCIT率(30%)が、ASEAN地域で最も高いこと(2020年のCIT率は、シンガポール17%、ブルネイ18.5%、カンボジア・タイ・ベトナム・ラオス20%、インドネシア22%、マレーシア24%、ミャンマー25%)、また、②税インセンティブが、長期にわたって一部の投資家に永続的に与えられ、コスト・ベネフィットの定期的・詳細なレビューが行われてこなかったこと、が挙げられている(財務省資料より)。

出典:PwC Philippines / Philippine Department of Finance website
「月刊 国際税務」 2021年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

2021年度予算案(カナダ)

2021年4月19日、副首相兼連邦財務相のChrystia Freeland氏は、政府の予算案を提示した。本予算案には、次のようないくつかの国際税務に関する提案が含まれている。

  • パブリックコンサルテーションを条件に、カナダの義務的な報告取引の開示規定を強化 - 2021年より後に開始する課税年度/2022年1月1日以後の取引に適用見込み、2021年9月3日まで財務省で本提案へのコメント/フィードバック受付(今夏までに法案見込み)
  • デジタルサービス税案(2022年1月1日発効)の詳細を提示(税率3%、損金算入可/税額控除不可) - 2021年6月18日までコメント募集(今夏に法案公表予定)
  • 法人(非居住納税者のカナダ支店を含む)、信託、およびパートナーシップの控除可能利子を、税務ベースEBITDAの30%に制限 - 2024年1月1日以後開始課税年度。2023年1月1日以後、2024年1月1日前開始課税年度は、経過措置で40%(今夏に法案の詳細を公表見込み)
  • ハイブリッドミスマッチ取決めに対処する規定の導入 - 第1パッケージ(金融商品から生じる「控除/不算入」ミスマッチ)は、2021年中に公表、2022年7月1日から適用見込み。第2パッケージ(上述以外)は、2021年より後に公表、2023年以後に適用見込み

本予算案には、カナダの法人税率の変更案は含まれていない。本予算案により、カナダは、OECD、欧州連合(EU)、および多くの法域(jurisdictions)で提案された行動と協調していくことになる。

以上のほか、移転価格税制のコンサルテーション(移転価格の再構築(recharacterization)規定を扱ったCameco連邦控訴裁判所事件関連等)、および以前2020年秋季経済ステートメントでも公表された一般的租税回避防止規定の強化・近代化のための諸措置を採る意向も公表されている。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

ハイブリッドミスマッチ規定のガイダンス案の公表(オーストラリア)

オーストラリアのハイブリッドミスマッチ規定(Subdivision 832-H of the Income Tax Assessment Act (ITAA) 1997)には、「輸入ミスマッチ(imported mismatch)」規定が含まれている。これは、他の国で実施されているOECD・BEPS行動2準拠のハイブリッド規定よりも広く適用される可能性がある。 2021年4月21日、オーストラリア税務当局(ATO)は、納税者が輸入ミスマッチ規定を実際に適用する方法と必要な文書化に関するガイダンスを示す、実務コンプライアンスガイドラインの草案(PCG 2021/D3)を公表した。

本案では、自主評価(self-assessment environment)によりこれらの規定に取り組む納税者にガイダンスを示しているが、オーストラリアでの控除(deductions)(利子、ロイヤルティー、物品・サービスの購入等を含む)を立証するために必要な情報と文書化に関して、高い基準を設定している。本案では、所得税申告書の提出前に取得し、国外関連者への支払いに係る控除を立証すべく、当局(Commissioner)が納税者に求めるサポート情報のレベルを詳しく示している。

本案は、特に、ハイブリッドミスマッチ規定の2回目の運用年(2020年12月31日に終了した年度または2021年6月30日に終了する年度)の所得税申告書を作成する場合に重要となる(2021年5月21日まで納税者のコメントが募集された)。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

法的事業体の税務上の区分規定に関するコンサルテーション(オランダ)

2021年3月29日、オランダ財務省は、オランダおよび外国の事業体(entities)の区分規定(qualification rules)の改正案を含む協議(コンサルテーション)文書を公表した(2021年4月26日まで)。

本提案の目的は、国際的な文脈でハイブリッドミスマッチの数を減らすことである。特に、提案された規定は、事業体の非対称的な区分(qualification)に起因するハイブリッドミスマッチを少なくするはずである。各国間の事業体の税務上(fiscal)の区分のミスマッチによって、所得に2回課税されるか(つまり、事業体のレベルとその参加者(participants)のレベルで)、まったく課税されない可能性がある。

法律案は協議期間後に公表され、本提案は2022年予算の税制の一部(2022 Budget Day tax plan)となることが想定されている。本改正は、2022年1月1日の発効が提案されている。

オランダを含む国際的なストラクチャーについて、特に、以下のいずれかを含む場合に、本提案規定の影響を受ける可能性がある。

  • 非透明(non-transparent)なオランダのリミテッドパートナーシップ(CV)
  • 共同口座に係るオランダの基金(FGR)
  • 既存のオランダの法的形式に類似(comparable)しない外国の事業体

個人投資家も影響を受ける可能性がある。

本提案規定によると、「同意要件(consent requirement)」は、オランダでの多くのハイブリッドミスマッチの原因であるため、廃止される。「同意要件」に基づいて、オランダのCVまたはFGRは、他のすべてのパートナー(リミテッドおよびジェネラルパートナー)の同意なしにリミテッドパートナーの加入(admission)または入れ替え(replacement)が可能である場合、オランダの法人所得税上は、非透明であるとされている。

FGRの場合は引き続き非透明とされるための新たな代替要件が提案されているが、CVは新規定では常に透明(transparent)となる。

ハイブリッドミスマッチの数はかなり減少するはずであり、透明なオランダのCVストラクチャーを求める組織にとってはより多くの柔軟性が期待される。ただし、予期しない結果を回避するために、既存のストラクチャーを分析することが重要である。

オランダのCVおよび類似の外国リミテッドパートナーシップ

オランダのCVの区分を透明または非透明として現在規定している「同意要件」は、本法案では廃止される。したがって、オランダのCVは常に税務上透明として扱われ、オランダの法人所得税やオランダの源泉税は課されない。代わりに、2022年1月1日の時点で、CVのパートナーは、CVへの参加に関して、オランダの(法人または個人の)所得税が課されることとなる。本区分は、オランダのCVに類似する外国のリミテッドパートナーシップにも同様に適用される。

現在オランダの法人所得税上非透明とされているCVおよび類似の外国のリミテッドパートナーシップの場合、透明への変更(擬制)により、資産と負債がパートナーに譲渡されることとなる。突然の税金のキャッシュアウトを回避するため、本協議文書には、条件付きロールオーバー条項や支払い延長などのさまざまな救済が含まれている。

共同口座のFGRおよび類似の基金

FGRに関しては、本法案で、「同意要件」がここでも廃止される。それでも、以下のいずれかの場合に、FGRが依然として非透明となり得る新要件が提案されている。

  • FGRへの参加権が上場されている
  • FGRは、発行済参加権の償還要請に応じる必要があり、この義務が定期的に行使される

非透明なFGRが透明なFGRに変更された場合、CVと同様に、資産と負債がパートナー/投資家に譲渡されることになる。このような状況はまれであると予想されるため、救済措置は提案されていない。

オランダの法的事業体に類似しない外国の事業体

現在、外国の事業体は、オランダの法的事業体との類似性に基づいて、オランダの税務上、透明または非透明のいずれかに分類されている。本提案によれば、この分類方針は維持される。既存のオランダの法的事業体と類似しない外国の事業体の場合、本提案には以下の2つのアプローチが含まれる。

固定アプローチ(Fixed approach) - 外国の事業体がオランダで実質的管理の場所(place of effective management)を有する場合、そのような事業体は非透明であるとされる(したがって、オランダの法人所得税の対象となる)。

対称性アプローチ(Symmetry approach) - 外国の事業体がオランダで実質的管理の場所を有しない場合、その区分は、その事業体が設立された法域の区分に従う。

後者は、オランダの事業体が外国の事業体の持分を有する場合、またはその逆の場合に生じる。

本協議文書では、オランダの法的事業体に類似しない事業体の例として、英国の有限責任パートナーシップ(LLP)、アイルランドの無制限会社(Unlimited Company: ULC)、およびドイツのKommanditgesellschaft auf Aktien(KGaA)に言及している。さらに、例えばまた、フランスのSociété en Nom Collectif(SNC)は、オランダの法的事業体に類似するものではない。

出典:PwC Netherlands website
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USTR、関税の可能性を提案 - 6件のデジタルサービス税の調査を継続、4件は調査終了(米国)

2021年3月26日、米国通商代表部(USTR)は、オーストリア、インド、イタリア、スペイン、トルコ、英国、ブラジル、チェコ共和国、EU、インドネシアに関するデジタルサービス税(DST)調査の最新情報を公開した。 USTRは、ブラジル、チェコ共和国、EU、およびインドネシアに関する調査を終了した。これらの法域は、調査期間中にDSTを採用していないか、実施していないためである。その他の国については、調査プロセスが継続されており、USTRは潜在的な関税の各国別品目リストを提案している。

USTRは、提案された関税に関するコメントを募集しており、複数の法域に係るヒアリング(multi-jurisdictional hearing)と、各国に関するヒアリングの両方を予定している。

出典:PwC, Tax Insights
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PwC税理士法人編
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ニューヨーク州の税率引き上げ、その他の改正(米国)

2021年4月7日、ニューヨーク州議会は、州の2022年度予算の一部として、包括的な税法(S2509-C/A3009-C)を可決した(注)。この法律には、事業者や高所得者に対する増税と、パススルー事業体の課税選択、が含まれている。その他の規定には、不動産流通税(real estate transfer tax)の改正や、州の税制上の優遇措置に関するリモートワークの影響が含まれる。

検討されていたいくつかの注目すべき項目 - 州税上S法人(S corporations)を連邦税上の選択に連動させる規定や、当局(Department of Taxation and Finance)が、税控訴裁判所(Tax Appeals Tribunal)の判決に対して上訴することを認める条項などは、最終法案には含まれなかった。

本法律では、事業所得ベースが5百万米ドル超の納税者の2021年1月1日以後、2024年1月1日前開始課税年度について、法人フランチャイズタックスの税率が、6.5%から7.25%に引き上げられる。

加えて、予定されていた資本ベース課税(capital base tax)の段階的廃止は延期された。この資本税の税率は、2021年から0%となる予定であった。本法律では、2021年1月1日以後、2024年1月1日前開始課税年度に0.1875%の税率を課し、0%の税率は2024年に発効となる。ただし、この延期は、みなし中小事業者(deemed small businesses)には適用されない。

個人所得税に関して、現在8.82%の最高州所得税率が、9.65%になる(2021年から2027年の高所得区分が対象)。さらに、本法律では、2つの追加の課税区分(brackets)ができ、所得が5百万米ドル超、2千5百万米ドル以下の場合は10.3%の税率、2千5百万米ドル超の所得は10.9%の税率で課税される。

(注) 2021年4月19日、クオモ知事は、本法律に署名した。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年6月号収録 Worldwide Tax Summary
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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