月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 6月号

2019-06-05

2019年6月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. LIBORの廃止による移転価格への影響(英国)
  2. 多国間協定(MLI)の発効(ルクセンブルグ)
  3. CFC規定の金融所得免除に係る国家補助に関する最終決定の公表(EU/英国)
  4. 財務省、投資持分継続性(COI)の規則案を取り下げ(米国)
  5. APAの年次報告書(米国)

LIBORの廃止による移転価格への影響(英国)

ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は、全世界の金融取引約370兆米ドルのベンチマークの役割を果たしている。2021年末におけるLIBOR廃止により、市場参加者が使用する代替の基準金利が求められる。新たな代替金利は、地域、通貨、期間(tenor)、ベーシスにより異なる。

代替となる金利

LIBORは、世界の主要銀行がお互いに無担保で借り入れができる平均報告利率(average reported interest rate)に基づく金利である。異なる対象期間の5通貨について公表されている。LIBORは、基本的な貸付から金利スワップその他の複雑なデリバティブまで、多種類の金融商品の値付けに使われている。

国別に、LIBORと異なる性質のいくつかの代替金利が出現している。米国では、連邦準備銀行が2018年4月に導入したSOFR(担保付翌日物調達金利) - 日々のSOFR先物の取引高とSOFRリンク債の売買高で測定 –が急速に支持を得ている(Bloombergのデータによれば、2019年1月22日時点で、企業は、SOFR連動の変動利付債を460億米ドル超発行しており、これは、2018年12月から25%超の増加である)。

LIBORの代替案には、互いに主要な差異もある。たとえば、SOFRと異なり、英国での主要な代替案 – SONIA(ポンド翌日物平均金利) – と、欧州での主要な代替案 – ESTER(ユーロ短期金利) - は、いずれも無担保の翌日物金利である。SARON(スイス翌日物平均金利)は、取引と調査データの組み合わせに基づいている。

関係会社間契約

基準金利としてLIBORを適用し、(LIBOR廃止となる)2021年後に満期となる既存の関係会社間貸付の当事者は、新たな基準金利に基づく同等の利率を決定するため、代替的な文言を含めるよう、関係会社間契約の修正を検討すべきである。貸付条件の重要な変更は新たな課税問題となる可能性があり、今後2021年末までの新規の関係会社間貸付の当事者も、同様に、代替条項を含めることを検討すべきである。

移転価格ポリシー

移転価格規則では、関係会社間貸付は、取引時に、独立企業間ベースで価格を決定する必要がある。LIBORと新たな金利案に含まれる情報の差異 – たとえば、担保の有無、先物かどうか、翌日物かどうか、サーベイ調査によるものか実際に行われた取引に基づくものかなど - によって、現在LIBORを基準金利として適用している関係会社間金融取決めの価格付けに適用されているベンチマークとの比較可能性の差異が生じうる。したがって、多国籍企業は、独立企業間結果との整合性を評価・実現するよう、移転価格ポリシーを再評価すべきである。

債務負担能力

多国籍企業が、大幅な修正となる契約価格または条件の改定を行う場合には、各国の過少資本規定の観点から、これらの貸付の真の負債の性質を再構築すべきである。

ヘッジ

組織内で銀行業務を行う多国籍企業は、他の関連者の外国為替リスクを軽減するため、あるいは、融資機能の一部として負担するリスク管理の一環で、しばしばヘッジ契約を締結する。LIBORは基準金利として一般的に使われているので、ヘッジ契約もしばしばこの金利に紐づいている。したがって、財務グループや組織内の銀行業務においては、LIBORの廃止とそれによる既存の関係会社間融資・ヘッジストラクチャーへの影響を踏まえた計画を立てるべきである。

システムとプロセス

LIBOR廃止時に必要となる上述の移転価格ポリシーの改正は、関係会社間の利率の計算に係るシステムとプロセスに影響する。自動化の程度により、企業のリソース計画システムの再プログラミング、手続きマニュアルの改定、移転価格実施に関与する財務/税務部門のスタッフの教育も含まれる可能性がある。

更に、関係会社間金融・流動性管理プロセスが労働集約型となっている多国籍企業は、既存のモデルを再評価し、マーケット情報の収集源を明確にし、新たな独立企業原則ポリシーに沿った利率に移行するために必要となる可能性がある対応的な調整を特定する必要がある。このプロセスには、財務、税務、移転価格、法務、会計、テクノロジー間の連携が求められる。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

多国間協定(MLI)の発効(ルクセンブルグ)

2017年、ルクセンブルグは、OECDがまとめている多国間協定(MLI)の当初の署名68か国・地域の一つであった。その後、ルクセンブルグは、MLIの批准に必要なすべてのステップを完了させた(Law of March 7, 2019)。2019年4月9日、ルクセンブルグは、MLIの批准文書をOECDに寄託した。MLI規定では、この寄託により、その後のMLIの同国租税条約ネットワークに係る発効時期が決まる。ルクセンブルグにとっては、2019年8月1日にMLIが正式に発効する。各条約相手国のMLI批准プロセスの時期にもよるので、租税条約ネットワークへの実際の適用日は異なる。しかしながら、源泉税減免の条約恩典を制限する可能性があるMLIの新たな主要目的テスト(「principal purpose test」)について、多くのルクセンブルグの租税条約では、これらのMLI措置が、2020年1月1日に発効する。

本寄託文書には、署名時にルクセンブルグがOECDに通知した、正式な留保(「reservation」)とその他のMLI関連事項に関するルクセンブルグのポジションを確認するリストが含まれている。2017年6月7日のMLI署名時に提出した留保・通知の当初リストについて、若干の技術的な修正以外は、修正(たとえば、留保の取り下げ)はない。

MLI措置の発効 - 通常のタイムライン

ルクセンブルグについて、MLIは、批准文書を寄託後4カ月目の属する月の初日に正式に発効する。寄託が2019年4月9日であるので、ルクセンブルグでは、MLIは2019年8月1日に発効する。重要なのは、MLI規定 – たとえば、条約濫用防止のための「ミニマムスタンダード」で、(ルクセンブルグを含む)多くの条約署名国・地域が条約恩典を否認する可能性がある「主要目的テスト」を実施 - は、MLIで条約が改定されるいずれの国・地域もが、MLIに署名するのみならず、批准し、関連文書をOECDに寄託したときにはじめて発効となる。特定規定が発効するMLIの仕組み(第35条で示される)は、複雑である。

源泉税のタイムライン

源泉税を含む条約規定について、一般に、MLIの改定は、いずれか遅い方の関連条約締約国・地域が批准文書を寄託した翌暦年の初日に発効する。現在(2019年4月10日)、87の署名国・地域のうち、(ルクセンブルグを含む)25か国がMLIを批准し、批准文書を寄託している。

ルクセンブルグの租税条約ネットワークにおける、MLIによる源泉税規定の改定は、2020年1月1日から発効を開始する。ただし、これは、他方の締約国が、MLIで当該条約をカバーすること(「covered tax agreement」)を確認し、かつ、MLIの批准および文書の寄託を行った場合のみである。

現時点で、ルクセンブルグ締結の条約のうちの21条約に、2020年1月1日発効の源泉税に影響するMLI規定(たとえば、「主要目的テスト」)がある。これらには、フィンランド、フランス、アイルランド、日本、オランダ、ポーランド、シンガポール、スウェーデン、英国との条約が含まれる。なお、オーストラリアとニュージーランドもMLIを批准した25か国に含まれるが、現時点で、ルクセンブルグは、これらいずれの国とも租税条約を有していない。

MLIを批准した国の数は増えており、OECDは、定期的にこれらの国のリストをアップデートし、公表している。2019年9月末までにMLIを批准し、文書を寄託すれば、MLIによる源泉税規定の改定が、2020年1月1日に発効する。

他の規定のタイムライン

MLIによる、源泉税を含まない改定は、異なるタイムラインが適用されるが、この場合も、関連条約のいずれか遅い方の締約国・地域がMLIを批准し、OECDに文書を寄託した日により、タイムラインが決まる。相互協議手続きに関するMLI規定は、即日発効となる。その他の項目については、MLIにより改訂になる場合、少なくとも、寄託日の6か月後に開始する課税期間からの適用になる。
なお、米国は、未だMLIに署名していない。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

CFC規定の金融所得免除に係る国家補助に関する最終決定の公表(EU/英国)

2019年4月2日、欧州委員会(EC)は、英国の被支配外国法人(CFC)規定にあるグループファイナンスの免除(GFE)は一部正当化できる、と公表した。

背景

ECの正式調査は、いわゆる、金融会社の部分的免除(「Finance Company Partial Exemption」)(ECではGFEと説明している)に関係する。この免除は、英国CFC規定の2012年改正で導入され、2013年1月1日から発効したもので、オフショアの金融取決めがある事業者は、特定の状況下で、金融所得に関して、減額されたCFC取り込み(75%から100%の減額)の対象になる可能性がある。本免除は、多くの英国多国籍企業と、英国に投資する外国企業に適用されてきた。

ルーリング

ECは、英国のCFC規定にあるGFEは、部分的に正当化できるとした。ECは、所得が英国に関係するとみなされる可能性がある場合として、2つのケースにフォーカスした。

  1. その貸付金が、英国からの資本拠出から生じる資金/資産でファイナンスされている場合
  2. 財務活動の管理に関連する融資活動が、英国に所在する場合

ECは、GFEが上述1.のカテゴリーに入る取決めの免除を供与している場合には、本免除により複雑で手間のかかるグループ内の追跡調査(tracing exercise)が避けられることから、これは正当化できるとした。

しかしながら、GFEが上述2.のカテゴリーの取決めに適用されている場合、ECは、免除は正当化できず、違法な国家補助になる、とした。プレスリリースで説明されている結論は、2019年1月1日から実施されている規定の適用と整合する結果になっている(租税回避防止指令(ATAD)に応じた改正を導入)。ECは、特に、2019年1月1日からの適用規定は、国家補助の懸念を生じさせない、としている。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

財務省、投資持分継続性(COI)の規則案を取り下げ(米国)

財務省は、Section 368条で規定される特定の組織再編(reorganizations)に適用される財務省規則(Treas. Reg. sec. 1.368-1(e))において、投資持分継続性(COI)要件に関するガイダンスを示すとされていた2011年公表の規則案を取り下げた。財務省とIRSは、現時点での公式見解(pronouncements)は、COI要件に関して十分なガイダンスを示していると判断し、したがって、本規則案を取り下げる決定を行った。

COI要件は、売却に類似する法人組織再編を損益不認識(nonrecognition)取扱いの適格とすることを防止することを意図していた。本要件を満たすためには、ターゲットとなる法人への所有持分の価値の相当部分(substantial portion)が、再編において維持されなければならない。

COI要件を満たすかどうかの判断に当たり、ターゲット法人の株主が受け取る発行法人株式の価値は、受領する総対価と比較される。IRSは、通常、ターゲット法人の株主が、ターゲット法人の所有持分と交換に受領する対価の40%以上が発行法人の株式で構成される場合には、COI要件を満たすものと取り扱う(Treas. Reg. sec. 1.368-1(e)(2)(ⅴ), Ex. 1)。

本規則案の公表と同じ日に、財務省とIRSは、COIの算定日に関するガイダンスを示す最終規則を公表した。2011年以前は、発行法人株式の価値は、組織再編の効力発生日(Closing Date)で算定されていた。

2011年発出の最終規則には、潜在的な組織再編の対価が、拘束力のある契約で確定している場合に適用される特別規定(Signing Date Rule)が含まれている。本特別規定が適用される場合、対価は、拘束力のある契約が存在する前の最終営業日終了時点で評価される。

本規則案では、本特別規定でカバーされるもの以外で、発行法人株式の価値が、Closing Dateの実際の取引価格以外の価値に基づいて決定できる状況を明確にしている。このような状況の一つとして、本規則案では、COI要件を満たすかどうかの判断に当たり、発行法人株式の取引価格について、当事者に、Closing Dateの実際の取引価格に替えて、数日の平均を使用することを認めるとしていた。

2018年1月、IRSは、納税者が、ターゲット法人株主が潜在的な組織再編で受領する上場株式がCOI要件を満たすかどうかの判断を支援するための、3つの平均価格のセーフハーバー評価方法と算定期間について規定する、Rev. Proc. 2018-12を公表した。Rev. Proc. 2018-12のセーフハーバー要件を満たす場合、IRSは、COI要件が満たされるかどうかの判断に当たり、納税者が特定の株式評価方法を使用することについて、異議をとなえないであろう。

財務省とIRSは、現在の公式見解はCOI要件に関して十分なガイダンスを示していると結論付け、したがって、本規則案を取り下げる決定を行った。Rev. Proc. 2018-12は、そのまま残り、将来ガイダンスがない限り、平均株式評価法を使用する納税者に、引き続き、関連ガイダンスを示すことになる。

 

出典:PwC, Tax Insights
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PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

APAの年次報告書(米国)

2019年3月27日、IRSの事前確認・相互協議(APMA)プログラムは、事前確認合意(APAs)に関する第20回年次法定報告(Annual Statutory Report)を公表した。最も興味深いデータは、2018年のAPA申請数が大幅に伸びていることである。2018年の申請は、203件の提出があり、2017年提出の101件の2倍超である。

申請の急伸は、2018年のAPA利用者手数料(注)の段階的引き上げに起因しており、納税者は、手数料の2018年6月の引き上げと、2018年12月の更なる引上げの前に申請を行っている。ただ、手数料引上げの効果を考慮したとしても、多くのAPA申請があることは、多くの企業にとって、APAsが引き続き非常に魅力的であることを反映している。

本報告書では、APMAプログラムについて、2018年の処理件数は若干前年より減ってはいるものの、引き続き、APAsを年間100件超のペースで処理していることも示している。引き続き、二国間APAsが、APAの取扱件数の大半を占めている。処理された二国間APAsの過半数は日本とカナダが含まれるが、APMAでは、韓国、インド、メキシコ、スイス、オランダを含む多くの他の国とも、多様なAPAsを成功裏に締結している。

2018年に処理されたAPAsについて、平均処理期間は43か月で、前年より若干増加している。APAの平均処理期間の増加は、2018年のAPMAの人員の微減、より複雑なAPAsの処理、条約相手国との調整交渉の困難さ、等、いくつかの要因による可能性がある。また、移転価格算定手法については、有形・無形資産移転に係るAPAsの大半がCPM(利益比準法)を適用している。

(注)APA利用者手数料は、2018年12月31日後の申請については、新規のAPAsは113,500米ドル、APAsの更新は62,000米ドル、少額APAsの場合は54,000米ドル、APAsの修正は23,000米ドルに増加している。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年6月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

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