月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 7月号

2019-07-05

2019年7月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 税制改正(スイス)
  2. PE自主開示手続きの実施規則の公布(イタリア)
  3. IRS、起業活動の分離に係るATOB要件に関する情報を要請(米国)
  4. デジタル経済プロジェクトに係るワークプランの公表(OECD)

税制改正(スイス)

2019年5月19日の国民投票で、税制改正が過半数の66.4%で支持された。その結果、スイスは、新たな国際的に準拠した税制を導入し、税法は現在の国際基準に完全に沿った形になる。

スイスの現在の持株(holding)、ドミサイル(domiciliary:国内登録国外支配管理)、ミックス(mixed:前二者の混合)会社の税制、並びに、プリンシパル(principal)会社のステイタス及びいわゆる「ファイナンスブランチ(finance branches)」の税制は、2020年1月1日に廃止される。本税制改正では、現行税制から新税制への移行を緩和するため、経過措置を導入する。スイスは、本税制改正の実施により、OECDとEUの要件を満たし、したがって、「ブラック」リスト/「グレイ」リストに含まれるのを回避することになる。

税制改正には、以下の主要な措置が含まれる。

改正措置

概要

現行税制の廃止

2020年での現行税制の廃止: カントンの持株、ミックス、ドミサイル会社; 連邦のプリンシパル会社; ファイナンスブランチ規定

現行税制廃止のための経過措置

一般に、新税制への移行について、2つのモデルが利用できる:

  • モデル1(償却ありのステップアップモデル): (現行税制の廃止/不適用選択に伴う)税務貸借対照表上での資産と営業権(goodwill)の時価(fair market value)への無税でのステップアップと、その後の税務上の創設資産の最大5~10年の期間に亘る償却)
  • モデル2(別個の税率モデル): 税制適用中に創出された隠れた積立金(つまり、時価と税務上の簿価との差額)と営業権は、税制改正の成立後5年間、別個の低税率の対象になる。別個の低税率は、カントンごとに定義されるが、1%~4%と見込まれる。

パテントボックス

  • OECD準拠の修正ネクサスアプローチによるパテントボックス
  • パテントおよび同等の権利(著作権のあるソフトウェアを除く)に恩典
  • パテントボックス利益について、最大90%の免税
  • パテントボックス適用開始に係る特別措置

R&D恩典(特別控除)

国内R&D費用について、最大50%の追加控除

超過資本の利子控除(NID)

現在は、チューリッヒのカントンのみ

全措置での最大軽減額

  • パテントボックス、R&D恩典およびモデル1のステップアップを通じた課税所得の合計軽減額は、70%を超えてはならない。
  • カントンは、カントンの法律で自由にこの閾値を引き下げられる。

カントンの資本/富裕税

  • 投資、パテント、関係会社間貸付に比例したカントンの資本/富裕税(net wealth tax)の軽減
  • 特定のカントンは、かわりに資本税率を引き下げの意向

スイス上場会社の資本出資原則の改正

  • 適格資本出資積立金(qualifying capital contribution reserves)の源泉免除払戻しに関する新たな50%比例規定(proportionality rule)
  • スイス市場上場会社のみに関係、スイス市場上場のスイスへの本拠移転法人(inverted companies)は免除可
  • スイス市場上場でない限り、スイスへのインバウンド(対内投資)会社への影響なし

スイスへの会社移転(本店移転)に伴うステップアップ

スイスへの会社/事業の移転を促進するため:

  • スイスへの会社移転(登記地(statutory seat)/実質管理地(place of effective management))または、事業活動/機能のスイスへの移転に伴う資産・営業権の税務申告上の無税でのステップアップ
  • より高い税務簿価からの費用控除可能償却

以上の措置に加えて、本税制改正では、一括税額控除制度を拡大し、外国法人のスイス支店が、一定の状況下で、外国源泉税の一括税額控除を申請することが可能になる。特定の現行規定(配当・キャピタルゲインの資本参加免税、ユニラテラル支店免税、タックスホリデーの適用等)は変更ない。更に、スイスはEU加盟国ではないため、CFC/ハイブリッド防止/新たな利子制限規定は導入しない。

税制改正のカントンレベルでの実施

特定のカントン(例えば、バーゼルシュタット、グラールス、ヌーシャテル、サンクトガレン)では、改正カントン税法が既に最終化されている。その他のカントンでは、カントン税法の最終化がまもなく行われる。カントン税法の国民投票は、必要であれば、2019年後半に行われると見込まれる。ジュネーブ、ゾロトゥルンは、連邦の投票と同時にカントン税法の投票も行った。ジュネーブの投票者はカントン税法の改正を承認し、ゾロトゥルンの投票者は、カントン税法を否決した。

更なるカントン税率の引き下げ見込み

カントン税法を、連邦税法で規定する新たな枠組みと整合させることに加え、いくつかのカントンでは、カントンの法人所得税率の引き下げを公表している。その結果、過半数のカントンでは、連邦税、カントン・地方税(cantonal and communal taxes)の統合標準実効税率は、12%~14.5%になる。特定のカントンは、既にこの範囲での実効税率を提示している(例えば、アッペンツェルアウサーローデン、アッペンツェルインナーローデン、バーゼルシュタット、ルツェルン、ニートワルデン、オプワルデン、ボー、ツーク)。その他のカントンも、税率を同範囲に引き下げると見込まれる。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年7月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

PE自主開示手続きの実施規則の公布(イタリア)

2019年4月16日、イタリア歳入庁(IRA)は、外国企業のイタリア恒久的施設(PE)の自主開示手続きの実施規則を公表した。これは、法令No. 50(2017年4月4日)第1-bis条で承認され、2017年6月21日付法律No. 96(「自主開示手続き」)で改変された。

自主開示手続きでは、外国の多国籍事業体(MNEs)のイタリアでの事業活動(operations and activities)が、法人所得税(「PE」)及びVAT目的上(固定施設(「FE」))、課税対象となる存在(taxable presence)に相当するかどうかについて、IRAに照会する機会を提供する。該当する場合、本手続きにより、MNEsは、IRAとの合意で、独立企業間利得をPEに帰属させ、派生するVAT問題に対処することが認められる。

自主開示手続き

外国のMNEは、実施規則で求められる関連文書を含め、申請を提出することで自主開示手続きを開始する。もし、手続きを進めたのち、PEがないとなると、IRAは、拘束力のある最終証書(atto conclusivo di istruttoria)を交付する。事実状況が変わらない限り、PE認定はできない。

しかしながら、PEが存在するとみなされた場合、最終証書には、PEの存在に関する事実上・法律上の論拠、及びPE帰属利得の定量化とVATの課税ベースに係る情報が含まれる。この場合、納税者が税額を全額支払えば、適用される行政罰は大幅に減額される。例えば、所得税申告書の不提出による刑事罰はない。更に、外国のMNEは、PEに帰属する収入にかかわらず、法令no. 128/2015を通じて導入された協力的コンプライアンスプログラムに参加する権利がある。

自主開示手続きの恩典を受けられる者

外国の事業体は、以下のいずれの要件も満たす場合に、自主開示手続きの申請を提出することができる。

  • 連結年度の収入が10億ユーロ超の多国籍グループに属すること。なお、全世界閾値(「worldwide threshold」)は、申請を提出する現年度前3年間に亘り、その外国事業体が属する多国籍グループの連結財務諸表上で(正確な会計原則に基づき)開示されている物品販売とサービス提供から生じる収入をベンチマークすることで判定される。
  • イタリアの「補助企業(auxiliary enterprises)」のサポートを得て、イタリアで年間5千万ユーロ超の物品販売/サービス提供があること。この5千万ユーロの閾値には、イタリア居住者/非居住者であるその他の「関連企業(associated enterprises)」の活動から生じる収入が含まれる。このイタリアの閾値(「Italian threshold」)は、申請を提出する現年度前3年間に亘る外国事業体とその他の「関連企業」の(正確な会計原則に基づく)財務諸表上のイタリアでの物品販売とサービス提供から生じる収入をベンチマークすることで判定される。

この自主開示手続きは、(i)調査でPEが問題とされている、(ii)刑事手続きが進行中である、又は、(iii)調査活動開始が知らされている、場合には利用できない。PEsへの対処をその範囲に含めない調査では、自主開示手続きへのアクセスは妨げられない。

補助企業のサポート活動

補助活動は、補助企業の活動と外国事業体がイタリアで稼得する収入との間で直接/間接の経済的つながりがなければならならず、全体として評価されなければならない。

文書提出の時期

申請後30日以内に、関連文書とその他の補足情報を作成しなければならない。文書提出を怠った場合には、申請を放棄したものとして取り扱われる。文書提出後30日以内に、申請が認められるかどうか告知される。外国事業体の申請提出後すぐに、本手続きを所管する権限ある部署は、IRAとTax Policeの両地方当局との調整を開始する。

PE認定

IRAは、主観的要件を積極的に調査した後、PEがあるかどうか決定する。PEがあるとみなされた場合、次にPEへの帰属利得とVATの課税ベースを決定する。IRAとの議論は複数回に及ぶ可能性がある。検討結果は、文書化される。この手続きのフェーズは申請認可の告知後、180日以内に完了する。IRAがその件に必要とみられる追加情報を要求した場合には、180日の期間は延期される。手続き終了時に、IRAは、PE認定に関する事実上・法律上の論拠を含む最終証書を交付する。PEが存在しない場合、証書で示されている事実状況に変化がない限り、IRAにとって、最終証書は拘束力があるものとなる。しかしながら、IRAがその他の税務関連移転価格リスクを検出した場合には、IRAは、権限のある地方当局に更なる分析のために通知をする。

租税債務の決済

イタリアにPEが存在するとの結論になった場合、IRAは、この決定を権限のある地域当局と共有する。この報告書には、外国事業体に帰属する、イタリアで課税される利得額と、VAT上の課税ベースも含まれる。その後、権限ある地方当局は、PEの租税債務を確定するために、必要な調査活動を開始する。地方当局が上述の情報を受領した場合、次に、当該外国事業体に租税決済手続きを開始するよう促す。

決済の効果

決済の合意がなされ、外国事業体が、決済手続きに従って、申告期限を徒過した事業年度の全額を速やかに納付した場合には、適用される行政罰が(すべての決済手続きに適用される減額(the one-third reduction)に加えて)半分に軽減される。また、分割納付も可能である。更に所得税/VAT申告漏れに係る刑事訴追はない。納税者が、決済証書に署名しないか全税額を納付しない場合、地域当局は、通常のVAT・所得税の時効にかかわらず、招集通知/租税決済証書の通知後、租税賦課通知(制裁措置を含む)を年末までに交付する。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年7月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

IRS、起業活動の分離に係るATOB要件に関する情報を要請(米国)

2019年5月6日、IRSは、これまで所得を得たことはないが、相当の(substantial)R&Dその他の活動に従事してきた比較的新規の起業ベンチャーから既存事業(established businesses)を分離するために、Section 355の非課税スピンオフ規定を法人が利用できるか、またその程度に係る継続的な調査に関する情報要請を公表した。特に、IRSは、調査を円滑に進めるために、これらの類型の起業ベンチャーの活動に関する情報を要請している。

背景

一般に、Section 355では、(分配)法人が、被支配子法人(controlled subsidiary corporation)の株式・証券を、分配法人、被支配子会社又はそれらの株主/証券所有者の課税利益なく、分配法人の株主・証券所有者に分配することを認めている。このような非課税の分離(tax-free separation)は、分配法人と被支配子法人のそれぞれが、「能動的営業/事業(ATOB: active conduct of a trade or business)に従事する」との要件を含め、一定の要件を満たす場合のみ利用できる。Treas. Reg. sec. 1.355-3(b)(2)(ii)では、ATOBの活動は、「通常、所得の稼得が含まれなければならない」と規定している。IRSは通常、事業管理が及ばない例外的な状況(干ばつ、火事、財政難、季節的な稼働停止期間等)がない限り、歴史的に、適格ATOBについて、5年以上の継続的な所得の稼得を求めてきた。しかしながら、いくつかの起業ベンチャーの活動は、特に製薬・テクノロジーベンチャーの場合、長期フェーズのR&Dから構成される。これらのフェーズでは、これらベンチャーはしばしば所得を稼得しないかごく少額の所得を稼得するが、かなりの財務支出が生じており、また、歴史的に「能動的(active)」事業の証しとされてきた日々の事業と管理機能を行う。

2018年9月25日、IRSは、納税者とそのアドバイザーにATOB要件に関する調査を知らせ、調査事項へのコメントを求める声明(statement)を公表した。更に、IRSは、これらの事項に係るプライベートレタールーリングの申請を受け入れるであろうことを明らかにしている。2019年3月21日、IRSは、Rev. Rul. 57-464及びRev. Rul. 57-492の適用を一次停止する、Rev. Rul. 2019-09を公表した。これらのルーリングでは、かなりの部分で、ATOB要件を満たすかどうかの判断に当たり、検討中の活動から生じる所得の不足にフォーカスしていた。

情報要請

今回、IRSは、5年間の継続的な所得の稼得がない中で、どのような類型の起業ベンチャーがATOB適格となるのか明らかにすることを支援するための情報を求めている。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年7月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

デジタル経済プロジェクトに係るワークプランの公表(OECD)

2019年5月28日、OECDの包摂的枠組(IF)は、今後18カ月をカバーするデジタル経済プロジェクトのための意欲的なワークプランを承認した。5月31日に公表された40頁のワークプランでは、課税権の配分とネクサス、及び未解決のBEPSの論点に対処する新たな国際租税構造に係るコンセンサスベースの長期的解決策を見出すというIFの狙いに言及している。

これら論点への各国のアプローチ方法には多くのギャップが存在する可能性があると認めつつ、本ワークプランでは、IFで受け入れ可能な統一的枠組みという成果に組み入れるべく、諸規定と諸設計基準の開発を検討するための積極的なタイムラインを設定している。今後予定される重要な段階としては、2019年12月の進捗報告(ここで統一的アプローチが公表される可能性)、2019年・2020年を通じた継続的な作業部会(Working Party)での検討、及び2020年末までにG20に提出される最終報告が含まれる。

第一の柱(Pillar 1)

現在のPillar 1の利得配分とネクサス提案 - ユーザー参加、マーケティング無形資産、及び重要な経済プレゼンス - に関して、本ワークプランでは、物理的プレゼンスのないネクサスの存在、総事業利得の使用、及びコンプライアンスコストと紛争を減らすための協定(conventions)の簡素化(独立企業原則から離れるものとなる可能性)を含む、いくつかの共通の性質に言及している。ある程度の利得をマーケットのある国・地域間で配分する新たな課税権方式を考案するに当たり、本ワークプランでは、主要検討事項 - 二重課税を避けて利得/欠損を決定するコンセプトを支える方法、納税者と税務当局の負担を制限する簡素化措置、及び解決策の実際の執行可能性 – に係る特定の選択肢に言及している。本ワークプランでは、検討対象となるアプローチ及び事項として、修正残余利益分割(MRPS)法、分数配賦法(fractional apportionment method)、分配ベースアプローチ(distribution-based approach)、ビジネスライン及び地域区分の利用、対象範囲の制限、損失の取扱い、が示されている。

第二の柱(Pillar 2)

本アプローチ - グローバル税源浸食防止(GloBE)提案 - では、ミニマム税率未満の実効税率で所得課税されている場合に、その他の国・地域が適用する規定を検討している。検討中の2つの相互に関連する規定には、所得取り込みの構成要素、及び税源浸食支払防止規定が含まれる。調査すべき重要な設計の特徴には、規定の調整、簡素化、閾値、国際的義務との両立が含まれる。源泉税の潜在的な役割が、設計の選択肢の一つとして参照されている。

なお、OECDでは、これら諸提案による税収のレベル及び分配並びに投資・イノベーション・経済成長等への潜在的影響を知るために、経済分析及び影響調査を行うこととしている。

 

出典:OECD website
「月刊 国際税務」 2019年7月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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