月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 7月号

2018-07-05

2018年7月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. デジタルサービス税の提案(スペイン)
  2. 今後の税制改正ガイダンスに関する政府当局者の見解(米国)
  3. BEPS行動13(国別報告)のピアレビュー(OECD (1))
  4. 移転価格ガイドライン第4章(税務執行上のアプローチ)及び第7章(グループ内役務提供)の改訂範囲に関するパブリックコメント募集(OECD (2))

デジタルサービス税の提案(スペイン)

財務相の2018年5月第1週の公表によると、政府は議会に対して、3月21日に欧州委員会(EC)が提示したEU指令案に合わせた新たなデジタルサービス税(DST)を提案する見込みである。政府は、2018年末前までの新税の発効を目指している。

予算交渉の中で、政府は、当初予定を超えてすべての公的年金を増額させることに合意した。この追加コストを賄うため、政府は、DSTを提案する意向を公表した。4月30日にECに送られた2018年度の安定化プログラムと予算計画のアップデート(SPBPU 2018)で、この公表が確認されている。

DSTの運用案の詳細はまだ公表されていないが、SPBPU 2018によると、DSTの共通制度に関するEU指令案の設計原則に従うであろうとしている。したがって、大規模な年次収入がある法人だけに適用され、特定のデジタルサービスの提供から生じる収益だけに課税されるであろう。SPBPU 2018では、DSTの対象サービスの範囲、収益の閾値、税率やコンプライアンス要件はカバーされていない。

SPBPU 2018では、DSTからの追加的な歳入の見込みとして、2018年に6億ユーロ、2019年に15億ユーロが含まれており、政府が、本授権法規(enabling legislation)の本年中の通過を目指していることを示している。


出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年7月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

今後の税制改正ガイダンスに関する政府当局者の見解(米国)

2018年5月10日から12日までのワシントンDCでのアメリカ法律家協会(ABA)租税会合にて、財務省と内国歳入庁(IRS)の当局者は、2017年度税制改革法を踏まえた行政ガイダンスの策定についてコメントをした。

国際税務規定

本法により、米国は、100%配当益金不算入(DRD)を規定する属地主義課税制度に移行し、米国所有の外国法人の未分配利得(E&P)にみなし送金税(toll tax)を課し、間接外国税額控除を廃止し、既存のサブパートF繰延防止規定を修正し、特定の利子損金算入規定を改正している。本法では、グローバル無形資産軽課税所得(GILTI)、外国源泉無形資産関連所得(FDII)と税源浸食・濫用防止税(BEAT)に関する新規定も導入している。財務省とIRS当局者の重要コメントは、本法で対処される以下の国際税務規定に関係する。

国外源泉分の配当の100%配当益金不算入(DRD)

本法には、米国株主である内国法人が、特定の10%保有の外国法人から受領する国外源泉分の配当の100%控除を原則とする245A条の資本参加免税制度が含まれる。本法について両院協議会報告(conference report)の注記(footnote)によれば、課税所得決定上、外国法人を内国法人と取り扱う財務省規則1.952-2条(Treas. Reg. sec. 1.952-2)により、被支配外国法人(CFC)間の配当が245A条で配当益金不算入(DRD)になることを示している。

本ABA会合で、当局者の1人は、財務省が245A条と954(c)(3)条(関連者から受領する特定所得)及び954(c)(6)条(関連CFCのルックスルー規定)のサブパートFの特例との関係を検討中であると言及した。質問への回答で、当局者は、これは、特にハイブリッド配当への245A(e)条の規定の適用に関係しているとした。これは、財務省が、新267Aのハイブリッド防止規定に関連して分析中である。

更に、IRS当局者は、245A条の制定により、外国法人から米国株主へのCFCのスピンオフについて懸念は生じるかとの問い合わせが納税者からあるとコメントした。IRS当局者は、245A条のDRDは、現行の内国法人株主のDRD規定と同様の結果になるであろうとした。しかしながら、IRSはこの要件に対処するための現行規則の改正は予定しておらず、プライベートレタールーリング(PLR)を通じてこの論点に対処する可能性があることを明確にした。

みなし送金税(Toll tax)

本法では、新たな属地主義課税制度への移行の一環として、特定米国保有法人の未分配・未課税の1986年後の外国E&P(税務上の留保利得)について、一回限りのみなし送金税を課す。みなし送金課税に関する規定は、本法の965条の改正に明記され、現金/現金等価物は15.5%、非流動資産は8%で課税される。965条は、原則として、CFCあるいは、米国株主として取り扱われる1以上の内国法人(つまり、958(a)及び(b)条の帰属規定に従って外国法人の議決権の10%以上を有すると取り扱われる内国法人)を抱える外国法人、と定義される特定外国法人(SFC)に適用される。

965(h)条では、米国株主に対して、965条で課される純租税債務について、当初5年は8%、6年目に15%、7年目に20%、8年目に25%の8年までの期間にわたる分割払いの選択を規定している。965(h)条の選択ののち、SFCが第三者に買収された場合、買収者が、965条の租税債務を有する株主の如く、すべてのみなし送金税分割払いの残りを引き継ぐ契約をすることができる。

財務省当局者は、このようなSFCの第三者の買収者の信頼性にフォーカスした提案規則の発出を検討中であるとコメントした。

みなし送金税について、IRS当局者は更に、財務省が2018年夏の終りまでに提案規則の公表を予定しているとコメントした。

GILTIと外国税額控除制限

本法では、904条(GILTIバスケット)で新たな外国税額控除を創設し、外国税額控除計算上、GILTIを別個に含めることを求めている。しかしながら、外国税額控除額の計算上、904(d)条の下で、78条のグロスアップがGILTIバスケットか、その他の外国税額控除制限額に含まれるか不明確であった。

3つの別個のパネルにおいて、財務省とIRSの当局者は、951A条の今後の規則により、米国株主のGILTIに関する78条のグロスアップ部分を、GILTIバスケットに配賦することを明確にした。

BEATとFDII

本法では、税源浸食・濫用防止税(BEAT)と外国源泉無形資産関連所得(FDII)を導入している。BEATはいわば10%のミニマム税で、損金算入支払いを通じた利益移転の防止を狙いとしている。FDIIは、米国法人に、外国法人への特定販売から生じる特定所得の控除を規定している。両規定とも、米国法人に多大な影響があると予測される。

財務省当局者のコメントによると、BEATとFDIIの提案規則が2018年末までに公表される予定であるとしている。

163(j)条

2018年4月、財務省とIRSは、通知(Notice 2018-28)を公表している(詳細は、本誌2018年6月号参照)。本通知では、改正163(j)条上、利子費用の事業利子と非事業利子への適切な配分を決定するためにどの方法を利用すべきか見解を示していない。ABA会合において、IRS当局者は、財務省とIRSがこれらの活動間での適切な配分方法について検討中のため、本通知ではあえてこの論点に対処していないとした。

また、ABA会合において、IRS当局者は、連結グループで適用すべき免税・課税事業間の利子費用の配分方法は確認していないが、納税者は適用する配分方法を毎年継続して使用するであろうとしている。

グループを離脱するメンバーへの連結グループの163(j)条の繰越額の適切な配分方法については、(1)非メンバーに対する負債に係る事業利子費用に基づく配賦、(2)すべての負債の純利子費用に基づく配賦、(3)メンバーの相対的な資産又は所得に基づく配賦、(4)配賦なし、といったいくつかのアプローチが議論された。その他連結関連の論点では、(1)163(j)条の繰越がSRLY(単体申告制限年度)規定の対象になるか、(2)163(j)条の繰越が108(b)条の減額の対象になるか、(3)163(j)条の投資簿価修正を行うタイミング、が含まれていた。

外国法人について、当局者は、163(j)条が米国事業に実質的に関連する所得(ECI)を有しないCFCに適用されるかを財務省が検討中であることを確認した。同様に、政府は、ECIがある事業体について改正163(j)条と財務省規則1.882-5条の規定間の調整も論点であると認めた。

この会合において、財務省当局者は、財務省とIRSが、規制当局条項(regulatory authority clause)の下での調整課税所得(ATI)の追加修正と、382条の所有者変更に伴う欠損会社の過大利子の取扱いに対処する規則を公表する意向であるとした。

会合において、IRS当局者は、2018年8月の部内期限に予定されるガイダンスプロジェクトの一つは、改正163(j)条にフォーカスすることを確認した。なお、通知(Notice2018-28)で説明されている規定及び今後の規則で対処すべき追加論点についての納税者のコメントは、2018年5月31日まで受け付けられた。

追加的な提案規則

財務省とIRS当局者は、以下の論点に関する提案規則を2018年末までに公表する予定であるとしている。

  • 245A条の‘ハイブリッド配当’の定義の明確化
  • 267A条適用上の‘ハイブリッド取引’と‘ハイブリッド事業体の’定義の明確化
  • 904(d)条の外国税額控除制限に適用される特定のルックスルー規定と費用配賦規定間の調整
  • 既課税所得(PTI)に関する959条及び961条の改正規定


金融商品

987条

2016年12月7日、IRSは、987条の適格事業単位(qualified business unit)に関する納税者の課税所得/欠損の決定に関する最終規則(TD9794)及び暫定規則(TD9795)を公表した。暦年の納税者について、これらの規則は、原則として2018年1月1日以後開始する課税年度からの適用とされていた。その後、通知(Notice 2017-57)により、適用日は1年延期され2019年1月1日となっている。

財務省当局者によると、これらの規則の適用日を更に1年(つまり、2020年まで)延期させる通知を近々に公表する見込みであるとした。この当局者は更に、選択された方法が選り好みの損失認識(例えば、損失のいいとこ取り(‘cherry-picking’)) を認めないものである限り、987条の損益計算上、納税者にいかなる合理的な方法の使用も認めるとする、新たな簡素化された987条の提案規則を作業中であるとした。

988条

本法の制定前に、財務省は、446条、954条及び988条の提案規則を公表した。本規則のパッケージには、提案規則1.988-7条が含まれており、納税者が‘988条取引’について外国為替損益の時価評価(mark-to-market)の選択をすることが容認されるであろうとしている。

従前、最終規則の公表前にこの提案規則に依拠できるのかとの疑問があったが、財務省当局者は、本提案規則は、連邦公報(Federal Register)に公表された日(2017年12月19日)以後に終了する課税年度について依拠することができることを確認した。したがって、暦年の納税者は、2017課税年度に係る988条取引の外国為替損益を時価評価することができる。この当局者は更に、本提案規則は会計処理方法の一つであることを明確化した。

移転価格の検討事項

本法では、無形財産(intangible property)の新たな定義が含まれ(現367条、旧936条)、現実的な選択肢(realistic alternatives)と集合原則(aggregation principles)を482条に成文化している。財務省当局者は、367条と482条での規定の成文化は、IRSが以前裁判で採用していたポジション(敗訴)をサポートするであろうとしている。その他、IRSが主張しているインカムメソッド(income method)の使用について、政府のパネリストによれば、新たな定義は、営業権のような特定項目は特定無形財産に特掲されていないとの原則に依拠するインカムメソッド反対論を未然に制するとしている。なお、無形資産の定義(現367(d)(4)条)には、IRSがこれまで裁判で主張してきた特定項目(営業権、継続企業価値、労働力(workforce in place)等)が含まれるとしている。政府当局者によれば、新法はより広範な影響があり、例えば、通常は補償や所得相応性基準の対象にならない財産が潜在的な補償価値があるとされる可能性があるとしている。

その他の検討事項

財務省とIRSの当局者は、本法についてその他のコメントをしている。特に、IRS長官の代行は、IRSが今後数か月にわたって20~30の追加的な行政ガイダンスを公表する見込みであるとした。リソースが限られるため、予定されるすべての提案規則に当初から行政通知(Notice)が付帯するわけではないであろう。長官代行によれば、みなし送金税(toll tax)の行政通知の公表が近々に見込まれる。一方、GILTIに関するガイダンスは8月中、BEATに関するガイダンスは12月中にそれぞれ公表される見込みである。

本法の特定規定の更なる検討

財務省とIRSの当局者は、提案規則のガイダンスを発出する前に、以下の項目について引き続き検討するとした。

  • CFCレベルで245A条の100%DRDを付与する提案規則を発出する権限が財務省にあるかを決定
  • 米国株主の956条の取り込みと新たな‘適正帰属(properly attributable)’基準の決定に関する960条の外国税額控除の適用
  • 965条の現金及び現金等価物の決定上のみなしキャッシュプーリング(notional cash pooling)の影響
  • 連結申告規定上の米国株主に係るGILTI、FDII及びBEATの影響
  • 米国納税者が、米国連邦政府の販売仲介により、外国政府に販売する場合にFDIIが適用されるかの決定
  • 958(b)(4)条の廃止及び、財務省が、インバウンドストラクチャーへの広範囲のCFCの適用を制限する提案規則を発出する権限があるかどうか
  • 改正960(c)条が、GILTIのPTIに課された外国税額に適用されるか
  • 個人の納税者による245A条と250条の控除を求める962条の選択の可否

 

出典:PwC, Tax Insights
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PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

BEPS行動13(国別報告)のピアレビュー(OECD)

2018年5月24日、OECDは、国別報告の取り組みに関する最初のピアレビューを公表した。本レビューでは、本取組でカバーされる大規模事業体(MNEs)の本拠があるほとんどすべての国で、透明性要件に適合する新たな報告義務を導入している。国別報告の交換は、2018年6月からとなる。

この最初の年次ピアレビューは、主に国内の法律上・執行上の枠組みにフォーカスしており、2018年1月時点での実施状況を反映している(日本は、行動13のミニマムスタンダードに関してすべての適用付託条項を満たしているとされ、本報告での勧告はない)。3回の年次レビュー(2017、2018、2019)を通じて、国内の法律上・執行上の枠組み、情報交換の枠組み、及び、守秘性と適正利用の条件がモニターされることになる。包括的枠組みのすべてのメンバーをカバーする第二弾の年次ピアレビューが2018年4月に始まっている。守秘性と適正利用の条件に加え、情報交換の側面にフォーカスする。

 

出典:OECD website
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PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

移転価格ガイドライン第4章(税務執行上のアプローチ)及び第7章(グループ内役務提供)の改訂範囲に関するパブリックコメント募集(OECD)

2018年5月9日、OECDは、移転価格ガイドライン第4章(税務執行上のアプローチ)及び第7章(グループ内役務提供)の改訂範囲に関するパブリックコメント募集を公表した。2018年6月20日までコメントが募集された。その後、2018年末まで、ガイダンス改訂プロジェクトのスコーピング作業を行う。第4章に関して、第6作業部会は、現時点でセーフハーバーと仲裁に関する現行ガイダンスを改訂または補強する必要はないとの決定を下しているが、実務的な観点からのパブリックコメントが募集された。第7章に関しては、BEPSプロジェクトの一環で、2015年に低付加価値グループ内役務提供(LVAIGS)に関する簡素化されたアプローチが組み込まれたものの、BEPS行動8~10で開発されたガイダンスを組み込む観点からはレビューされていない。本章の将来的な改定として、特に第1章、また第6章、8章との整合性、及び、利益分割法の利用や金融取引に関する継続作業の取り込みの検討にフォーカスする可能性がある。本章に関しては、実務的な適用面がより懸念されており、これらに対処する観点からパブリックコメントが募集された。


出典:OECD website
「月刊 国際税務」 2018年7月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

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