Worldwide Tax Summary 2024年1月号

2024-02-20

Worldwide Tax Summary 2024年1月号トピックス

  1. 2023年秋季声明(英国)
  2. 利子控除制限の大幅改正を提案(ドイツ)
  3. 第2の柱のグローバルミニマム税への対応(バルバドス)
  4. 最高裁判決 - 資本参加免税に係る為替差損益の取扱い(オランダ)
  5. 合併指令に関して、国内法で追加要件は課せない旨のCJEU判決(EU/ハンガリー)
  6. モデル租税条約第5条のコメンタリー改定案に係る公開協議(OECD)

2023年秋季声明(英国)

2023年11月22日、秋季声明(Autumn Statement)が公表された。

事業関係税

法人税 - 法人税率の改正はない。

資本控除(Capital Allowances) - 2023年春季予算で、政府は、2023年4月1日から3年間、特別控除(super deduction)制度を「全額費用化」制度に切り替えており、事業者は、適格な工場や機械設備への投資費用の全額を課税利得から償却できるようになっている。政府は現在、この改正を恒久的なものとし、初年度控除額を100%(main rate assets)、ないし50%(special rate assets(長期耐用年数資産を含む))とする予定である。

研究開発(R&D) - 現行の研究開発支出税額控除(RDEC)制度と中小企業(SME)に係る制度は統合され、2024年4月1日以後に開始する会計期間に発生した支出は、統合後の制度で申請することになる。統合後の制度において、欠損事業者に適用されるみなし税率(notional tax rate)は、現行のRDECスキームの25%から19%に引き下げられる。また、研究開発集約型の赤字中小企業に対する追加支援に係る集約度(R&D支出/総関連支出)の閾値が40%から30%に引き下げられ、更に約5千社が救済の対象となる。加えて、政府は1年間の猶予期間を導入し、適格研究開発費の閾値である30%を下回った法人は、1年間の救済を引き続き受けられる。

OECD第2の柱 - 政府は、G20-OECDのグローバルミニマム税制の枠組みの一環として、2024年12月31日以後に開始する会計期間から、無形資産に係るオフショア収益への課税規定を廃止するとともに、OECDの第2柱の軽課税利得ルール(UTPR)を実施する(多国籍企業が事業を行うすべての法域において、最低15%の実効税率が課されることを規定)。

投資区域プログラムの延長 - イングランドの投資区域プログラムが5年から10年に延長され、グレーターマンチェスター、ウェストミッドランズ、イーストミッドランズの3つの対象区域が新たに公表された。

ビジネスレート - 政府は、中小企業および小売、接客、レジャー(RHL)を支援するため、今後5年間で43億ポンド相当のビジネスレート支援パッケージを導入する。これには、RHLに係る75%の軽減措置(現金上限11万ポンド)を2024-25 年まで延長すること、および中小企業向け乗数の4年間凍結が含まれる。標準税率の乗数はCPIインフレ率に合わせて引き上げられる。

企業投資スキーム(EIS)とベンチャーキャピタル信託(VCT) - EISとVCTの軽減措置は2025年4月5日後に期限切れとなる予定であったが、これらの軽減措置の有効期限を2035年まで延長する新たな法律が導入される予定である。

ATED(Annual Tax on Enveloped Dwellings) - ATEDは、2023年9月の消費者物価指数に連動して、2024年4月1日より6.7%の引き上げが行われる。

個人関係税

所得税率および閾値 - 所得税の閾値および税率の改正はない。

国民最低賃金と生活賃金 - 2024年4月1日より、21歳以上の英国全土の対象労働者に対し、国民生活賃金が9.8%引き上げられ、時給11.44ポンドとなる。

国民保険拠出(NICs)料率 –

被用者(従業員):2024年1月6日より、Class 1の被用者(従業員)NICの標準料率が12%から10%に引き下げられる(年間所得12,570~50,270ポンドの場合に適用)。

自営業者:12,570~50,270ポンドの利得に係るClass 4 NICs料率は、2024年4月6日より9%から8%に引き下げられる。また、12,570ポンド超の利得に係るClass 2 NICs(一律週3.45ポンド)は、2024年4月6日から廃止される。ただし、公的年金を含む拠出制給付へのアクセスは維持される。6,725~12,570ポンドまでの利得のある者は、引き続き、NICsの支払いなしで国民保険クレジットが受けられる。

その他の改正 - 
  • 政府は、2023年春季予算での協議に基づき、2024年4月6日から自営業者とパートナーシップの所得税の現金主義を拡大し、簡素化する。
  • Pay As You Earn(PAYE)のみで課税される所得の個人は、2024-25年から自主申告をする必要がなくなる。
  • 政府は、2026年4月から年間所得5万ポンド超の自営業者と家主を対象に税の電子化(Making Tax Digital(MTD))を推進し、2027年4月からは所得3万ポンド超の者を対象にMTDを推進することを確認した(それ以下の所得者について引き続き検討中)。MTDに関する多くの簡素化が公表されている。

年金改革 - 政府は、年金改革の包括的パッケージを公表した。また、2024年4月6日以後、surplus repayment chargeが35%から25%に引き下げられる。

年金トリプルロック - 政府は「トリプルロック」を維持する。2024年4月以後、新公的年金は8.5%増の年間11,500ポンドとなる(900ポンド超の増額)。

英国に住所地を持たない個人への課税、富裕税、相続税、キャピタルゲイン税 – 今回これらに係る公表はない。

ISA(個人貯蓄口座)- 政府は2024年4月より、毎年同じタイプのISAに複数回加入することを認め、2024年4月より長期資産ファンドをイノベーティブファイナンス型ISAの範囲に加える。これにより、貯蓄者や投資家の柔軟性と選択肢が拡大し、長期投資商品の開発が促進される。政府はまた、2024年4月から、プロバイダー間のISA資金の年度内の部分移管を認め、既存の休眠ISAの再申請要件を撤廃する。

以上のほか、VAT(付加価値税)関連では、ゼロ税率の拡大や延長、2023年7月の高裁判決を受けた対応や免税店制度などに係る検討がある。また、アルコール/タバコ税、自動車関係税(HGV Levy and Vehicle Excise Duty)、ゲーム税、プラスチック包装税(PPT)(2024年4月1日からCPIに連動して1トン当たり217.85ポンドに引き上げ)、グリーン諸税関連の改正などがある。

出典:PwC UK
「月刊 国際税務」2024年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

利子控除制限の大幅改正を提案(ドイツ)

2023年11月17日、ドイツ連邦議会(Bundestag)は、政府提出法案(Growth Opportunities Act)を可決した。本連邦議会の立法措置では、省エネルギー達成を目的とした特定投資に係る投資助成金を導入する新法と、国内および国際税法規定の諸改正を予定している。本決議は、2023年8月30日の法案とは一部異なっている。今後、連邦参議院(Bundesrat)での可決が必要になる。本法案の様々な側面で政治的な意見の相違が残る可能性があり、変更の可能性がある(注)。利子控除制限規定に係る改正案には、以下が含まれる。

利子制限規定の改正 - ATAD(2016年7月12日付理事会指令(EU)2016/1164)の要件に適合させるために本法案に盛り込まれた利子制限規定の改正(例えば、その他類似費用を含む利子費用の定義拡大)は、本法案に引き続き盛り込まれている。一方、3百万ユーロの適用除外限度額に係る細分化防止ルール(1個人またはグループによる統一的な経営/支配的影響力の下にある類似事業を合わせて適用)は含まれていない。

金融関係に係る独立企業間価格を決定する規定改正(金利上限規定の代替) - 本法案では、連立合意として公表されていた金利上限規定(所得税法(ITA)第4l条)を盛り込まず、その代わりに、外国税法(FTA)第1条の独立企業間価格を決定するための規則を修正する条項が含まれている。新規定では、グループ内金融の利子控除は、グループ格付けに基づいて決定される金利に制限される。しかし、この提案には、(グループ格付けから派生した)単独格付けが独立企業間原則に準拠していることを証明するオプションが含まれている。そのような証明が可能であれば、控除利率を計算する際、これを考慮しなければならならない(貸し手が十分な実体のある法人でも制限対象となる一方、純粋な国内事業は本法案の影響はない)。グループ内金利の制限に加え、本法案では、グループ内支払利子の損金算入に係るコンプライアンス要件が強化される。本規定によると、納税者は、当初から資金調達の全期間において、いわゆるデットサービス(利子と元本を含む)の履行に係る信頼できる証拠を提出しなければならない。さらに、その資金調達が経済的に必要であり、法人の目的に使用される旨の証明が必要になる。これらの要件が満たされない場合、利子控除は否認される。なお、本法案には、多国籍企業グループ内の仲介や資金移動など、報酬がコストプラスベースでしか決定できないような活動について、低機能・低リスクのサービス活動を行うことを想定した規定が含まれている(企業グループ内の法人が、流動性管理、財務リスク管理、為替リスク管理、金融法人としての活動など、企業グループ内の1または複数の法人の財務リソースを管理する活動を引き受ける場合にも適用)。本法案の利子控除制限は、2024年課税期間以後に適用されよう。

(注)2023年11月24日、連邦参議院は、本法案を否決し、いくつかの個別条項を審議するため、両院の調停委員会を招集して、根本的な修正を求めた。また、本法案は、連邦参議院が以前提案した数多くの修正案を選択的に採用したものに過ぎないなどとしている。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2024年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第2の柱のグローバルミニマム税への対応(バルバドス)

2023年11月7日の首相による公表を受け、2024年1月1日より法人税率が9%に引き上げられる(所得税法(Income Tax Act, Cap. 73)の改正による)。この税率引き上げは、GloBEルールで規定された適用除外に該当する法人を除く全ての法的事業体に影響する。最終親会社が所得合算ルール(IIR)もしくは軽課税所得ルール(UTPR)のいずれかを採用または導入していない法域にある、又はIIRもしくはUTPRの適用を受けない構成事業体を有する適用対象の多国籍企業については、2019年に設定された現行の法人スライド税率(5.5%~1%)が引き続き適用される。QDMTTは適用されない。(注)

(注)GloBEルールに沿った国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)の導入(2024年1月1日から)や、これら税制改正への対応としての雇用関連の税額控除なども見込まれる。また、国際海運業への新税制導入に係る利害関係者との協議も提案している(既存法(2019年制定)の改正がある場合、2025年度からの施行となろう)。

出典:PwC Barbados, Tax Insights
「月刊 国際税務」2024年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

最高裁判決 - 資本参加免税に係る為替差損益の取扱い(オランダ)

最高裁判所は、2023年11月3日付の判決で、以下の判断を示した。

  • 配当に係る債権は、法人(スイス子会社)の機関が配当決議を行った時点で発生するため、その時点で、親法人(オランダ中間会社)は、当該配当債権を評価し、税務上の貸借対照表に資産として計上しなければならない(評価はその時点での公正価値で行う)。(注1、注2)
  • 資本参加免税が適用される場合、親法人が受領する配当は課税免除される一方、配当債権に係る損益(為替差損益を含む)は資本参加免除の対象とはならず、法人所得税の課税対象となる。

(注1)当該判決において、最高裁判所は、過去の判例法(1977年と1988年)はもはや適用されないと判示した。当該判例法に関して、最高裁判所は、配当債権の発生時期およびその額について、会計原則が重要としていた。1988年の判決では、配当の支払いに支障があり、その支払いが不確実な場合には、会計原則に基づき、受取配当を資産として税務上の貸借対照表で認識する必要はないとされた。今回の最高裁判決により、このルールはもはや適用されず、配当の支払いが実際に行われるかどうかが不確実であっても、受取配当について税務貸借対照表上、公正価値で評価されなければならないとした(不確実性が、受取債権の資産評価額に影響する可能性はある)。また、1988年の判決では、最高裁判所は、資本参加免税に関連して、配当帰属後にオランダに送金できない場合、受取債権を認識する必要はないとしていたが、この特例も今後は適用されないことになる。

(注2)本件では、2011年7月1日にスイスの子会社が配当(104百万スイスフラン)の決議を行い、同8月4日にオランダの中間親会社に同額の配当を行った(同日、当該オランダ中間会社は、その親会社に同額の中間配当を行っている)。

出典:PwC Netherlands
「月刊 国際税務」2024年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

合併指令に関して、国内法で追加要件は課せない旨のCJEU判決(EU/ハンガリー)

2023年11月16日、欧州連合司法裁判所(CJEU)は、EU合併指令(Tax Merger Directive)第8条(2)の適用は、本指令に基づかない要件には依拠できない旨の判決を下した(C-318/22)。本指令第8条(2)によると、同指令が適用される部分的分割(partial division)の場合、分割法人の株主に対して分割承継法人の資本を表章する証券を割り当てること自体は、当該株主の所得、利益またはキャピタルゲイン課税を生じさせないと規定している。

事実関係 - 本件は、ハンガリーの事業体(P社)が、国内子会社2社間の事業移転(分割)に係る株主であった。当該分割により、事業部門が分割事業体から切り離され、同時に分割承継法人に吸収された。この分割により、P社は純損失を計上し、納税義務はなかった。一方、税務当局は、本件取引をP社における2つの別個の取引とみなすべきとした(分割承継事業体に係る投資の認識(課税対象利益を認識)、および分割事業体に係る投資の非認識(減損損失))。当局によれば、これは、分割事業体の登録資本が当該分割で減少していないことに起因する。さらに、上述の2ステップの複合的な効果により、P社では、本指令が適用されず、分割事業体に係る投資が資本参加免除制度の対象(P社で減損損失は控除対象外)となり、課税対象利益が生じた。

CJEUの判決 - 予備的裁定請求において、以下の2つの論点があった。

  1. 本指令は、純粋な国内状況にも適用可能か、適用可能な場合どのような状況下においてか
  2. 取引が分割法人の登録資本に反映されない場合、本指令の適格部分分割に係る課税繰り延べは否定されるか

上述1)について、EUは過去の判例法を参照し、同国の課税繰り延べは純粋な国内の組織再編成にも適用され、国内立法者は類似する純粋に国内的な状況にEU法の適用を認める権利があるとした。このような場合、(当該指令の対象となる)国内またはクロスボーダー状況のいずれに適用されるかにかかわらず、所与の規定が一貫した方法で適用されることは、EU法の利益となる。したがって、CJEUはこの純粋に国内的な状況において本指令を解釈する根拠を確認した。上述2)について、CJEUは、本取引が、本指令の適用対象となる組織再編成に該当し、当該分割後にP社が保有する投資に係る税務上の価額の合計が、当該分割直前に保有する投資に係る税務上の価額を上回らないという所定の要件を満たす限り、分割事業体の引受資本が減少しないなどの他の要件が満たされないことを理由に課税繰り延べを否定できない(追加的な条件を課す国内規定や慣行は、本指令に抵触する)とした。(注)

(注)一方、EU加盟国において、脱税や租税回避を主目的とする取引への本指令の適用否認が認められている点は留意が必要である。

出典:PwC, EUDTG Newsalert
「月刊 国際税務」2024年1月号収録 Worldwide Tax Summary
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PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

モデル租税条約第5条のコメンタリー改定案に係る公開協議(OECD)

2023年11月16日、OECDは、モデル租税条約第5条(恒久的施設(PE)の定義)のコメンタリー(採掘可能天然資源の探査および開発活動等関連)に係る討議草案を公表した(2024年1月4日までコメント募集)。本討議草案で示された改定案は、OECDモデル租税条約およびコメンタリーの次回改訂版に反映される予定である。本提案によると、とりわけ、天然資源(石油、ガス、鉱物)の探査および開発活動について、原則として30日超でPEを構成(事業所得も帰属)する(OECDによると、既に約200の二国間条約に同様の規定がある)(注)としている。このような短期間でのPE認定に係る特別な課題、本規定の適用を水力発電、風力発電、太陽光発電などの再生可能資源の利用にも拡大する可能性(現時点での提案には含まれていない)、モデル租税条約第13条(譲渡収益)との関連や、船舶、航空機の運用に係る除外規定などについて、意見を募集した。本改訂は、モデル租税条約第15条(給与所得)の短期滞在者免税規定の判定期間などにも影響する可能性がある。

(注)日本が締結した二国間租税条約にも同様の特別規定があるものが複数あるが、2018年8月31日に発効したリトアニアとの租税条約で30日超の閾値が初めて導入されたほか、2023年11月1日に署名されたギリシャとの租税条約でも30日超の閾値が適用されている(いずれも、オフショア(沖合)での活動にその適用を限定)。なお、本改定案では、準備的、補助的活動に係るPEの適用除外規定への影響についても言及している。

出典:OECD website
「月刊 国際税務」2024年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

その他、海外税務ニュースを含む当法人発行ニュースにつきましては、https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/tax/tax-news.htmlをご参照ください。

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