月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 1月号

2021-01-05

2021年1月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 源泉税の改正法案(ドイツ)
  2. 連立政権による重要な法人税改正の提案(スペイン)
  3. 知識集約型活動に係る新たな税インセンティブの承認(アルゼンチン)
  4. 再委託サービスに係る改正法案(メキシコ)

源泉税の改正法案(ドイツ)

2020年11月20日、連邦財務省は、源泉税の救済(relief)および証明(certification)の改正に係る法案を公表した。本改正は、とりわけ、源泉徴収・還付手続き、トリーティーショッピング防止規則、および国内の登記簿(public register)に登録された権利のライセンス/処分(disposal)から生じる所得への非居住者課税等に関係する。新たなトリーティーショッピング防止規定は、以下のとおりである。

新たなトリーティーショッピング防止規定

本法案では、EU法の要件を考慮して、現行のトリーティーショッピング防止規定の大幅な改正を提案している。新規定案には、現行規則で既に知られた要素が含まれている。しかしながら、本法では、本規定にいくつかの重要な改正の導入を意図している。本改正は、CJEU(欧州司法裁判所)での「デンマーク受益所有権(Danish beneficial ownership)」事件判決で策定された原則、およびEU租税回避防止指令(EU ATAD)第6条の要件の反映を意図している。基本規定(basic rule)では、以下のいずれのテストも満たさない場合、条約資格は制限される。

救済資格者(personal entitlement to relief)

救済資格者に関するテストでは、救済を求める外国法人の株主が直接支払いを受けたとした場合に、条約救済の資格が(仮に)あるかどうか、立証が求められる(「ルックスルーアプローチ」)。
しかしながら、本規定では、特定の資格、つまり、特定の租税条約(DTT)での救済申請に言及している。この改正により、立法者は、法案の説明資料に従い、規定の強化を意図している。その結果、他の租税条約による株主への同等救済(equivalent relief)の資格だけでは、本テストを満たすのはもはや不十分となる。これは、以下の基本規定による免除が適用できない限り、条約救済を求める外国事業体とその株主が異なる法域の居住者である状況に影響する可能性がある。

実体(substance): 自身の活動との重要な関連(material connection)

実体テストは、所得源泉(例えば、配当の場合は資本参加(participation))が、外国法人自身の経済活動と重要な関連がない場合には、満たされない。つまり、その所得源泉は、外国事業体の経済活動に関して、経済機能(economic function)を果たす必要がある。
本法案の説明資料によると、「経済活動との重要な関連テスト(material connection with an economic activity test)」を満たすためには、外国法人は本件所得を受領する理由が説明できる必要がある。したがって、今後は、テストを満たすかどうか、個別評価が求められる。
さらに、以下のいずれかの場合、外国法人の経済活動はないと推定される。

a) 外国法人に所得が生じ、資本参加者/受益者(participating or beneficiary persons)に移転(passed on)される。

b) 法人に十分な事業所(business premises)や人材等が存しないにもかかわらず、活動が行われている。

本基本規定の適用除外

最後に、本規定案には、2つの例外がある。

  1. 「主要目的テスト(principal purpose test)」に似た規定で、外国法人が介在する主要目的のいずれもが、税務恩典を受けることではないことを証明することで、条約上の権利が付与される。
  2. 「有価証券市場条項(stock exchange clause)」 – 条約資格を申請する事業体の株式が、公認の(recognised)有価証券市場で通常(regularly)取引されている場合に条約上の権利が付与される。

上述2の例外は現行規定にもみられるが、本法案の資料によれば、本条項は、将来的には、源泉税救済を申請する外国法人のレベルでのみ適用される(つまり、本条項は、外国法人の(間接)株主のレベルでは適用されないこととなろう)。
現行のドイツ投資税法(German Investment Tax Act)対象法人のトリーティーショッピング防止規定免除は、削除される。

改正トリーティーショッピング防止規定の適用範囲

本改正規定は、租税条約、EU親子会社指令、利子ロイヤルティー指令、およびドイツ所得税法(German Income Tax Act) Section 44a(9)のユニラテラル救済に基づいて申請される恩典に適用される。
説明資料によると、本新規則は、租税条約に、「特典制限(limitation on benefits)」(LOB)条項等の条約濫用防止の特別規定が含まれる場合にも適用される。さらに、本資料によると、トリーティーショッピング防止規定のほか、ドイツの一般的濫用防止規定(general anti-abuse rule)も適用可能とされる。

その他

本法案では、免除証明書の取得/税金還付、および手続きのより高いレベルの電子化のための手続き規定について、いくつかその他の改正がある。これらの改正により、免除証明書を遡及して取得することはできなくなり、(申請日ではなく)発行日からのみ有効となろう。
ドイツ組織再編税法(German Reorganisation Tax Act)のさらなる改正で、税務上、再編を通じた欠損金使用を遡及して制限することを目指しており、その他の措置も本法案に含まれている。
本法案には、改正要件の適用日は明記されていない。例えば、本法案に含まれるドイツ源泉税制度のその他の改正は、2022年12月後の適用とされる。

出典:PwC Germany, Real Estate Tax Services News
「月刊 国際税務」 2021年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

連立政権による重要な法人税改正の提案(スペイン)

2020年10月27日、連立政権は、2021年予算案を承認した。一主要法人関係規定により、配当およびキャピタルゲインの資本参加免税(participation exemption)は、95%に縮小されよう。
10月13日、政府は、EU租税回避防止指令(ATAD)に含まれる特定規定の取り込み、およびEU・OECDの基準に沿ったタックスヘイブン規定の全面的な見直しを含む、いくつかの税制措置も導入した。
これら2つの法案に含まれるいくつかの法人税制措置は、2020年1月1日以後開始課税年度に遡って適用される可能性がある。

資本参加免税制度(participation exemption regime)

2021年予算案では、現行の適格株式保有からの配当・キャピタルゲインの資本参加免税を95%免税に縮小する。本改正は、国外および国内の適格子会社に係る所得に適用されよう(これにより、配当・キャピタルゲインの実効税率は、1.25%(5%の課税所得に対して法定税率25%)となる)。この5%分への課税は、連結納税グループ内の配当・キャピタルゲインにも適用されよう。本規定案には、グループの一部ではなく、また収入が4千万ユーロ未満の法人に対する例外もある。これらの小規模事業体は、2021年1月1日以後に組成された完全所有子会社から受領する配当の全額免除が認められよう(組成した年(formation year)に続く3年間のみ)。本改正は、スペインの持株会社(ETVEs)に大きな影響を与える可能性がある。

出国税(exit tax)

現行法律(CITL)上、法人がその税務上の居住地をスペインから外国法域に移す際、通常適用される出国税規定が含まれている。しかしながら、税務上の居住地がEU/EEA(欧州経済地域)法域に移転する場合、納税者は、その資産が第三者に移転するまで、キャピタルゲイン課税の支払いを繰り延べることができる。ATADに沿って、本規定案では、この繰り延べはなくなるが、EU/EEA法域に資産を移転する、または移籍する(migrating)納税者に、5年均等払いで納税する選択肢が与えられよう。
他のEU法域からの移籍/資産の移転があり、その移籍が出国元の国で出国税の対象となった場合、スペインでは、当該資産の税務簿価を、出国元の国の評価価値相当で認識することとなろう(独立企業間価格でない場合を除く)。

CFC規定

本法案では、ATADにより沿ったものとなるよう、既存のCFC規定の適用範囲が拡大されよう。

個人税率の引上げ

本2021年予算には、居住者個人の新たな所得税率区分(国税)が含まれる。30万ユーロ超の課税所得の税率は、24.5%になる(現在は、6万ユーロ超の課税所得で22.5%が国税の最高税率区分)。
現在20万ユーロ超の投資所得は26%の税率であるが、投資所得課税は、3%ポイント引き上げとなろう。投資所得には、配当、利子、および、ほとんどのキャピタルゲインが含まれる。
地方所得税率区分と合わせると、高額所得者の最高税率は、いくつかの地域では、50%に達することとなろう。

その他の税制措置

タックスヘイブン: スペインのタックスヘイブンリストの最終更新は1991年である。本法案では、最近のEU・OECDの取り組みに沿うよう、「非協力的法域(non-cooperative jurisdictions)」の指定に使われる基準が拡大・現代化され、非協力的法域および有害税制(harmful tax regimes)のリストの定期的見直しと更新が規定されよう。
追徴税(tax surcharge)とペナルティー: 一般税法(General Tax Law)が改正され、自主的な期限後納税の場合の追徴税は軽減されよう。同様に、現行のペナルティーの迅速支払いに係る25%軽減は、40%に引き上げられよう。これらの目的は、自主的なタックスコンプライアンスを向上させ、税務訴訟を減らすことであるとされている。
暗号通貨(cryptocurrencies): 暗号通貨の保有・取引に係る新たな報告規定が導入されよう。

今後の法制化と発効

これら規定の発効日は異なっている。出国税とCFC規定の改正は、2020年1月1日以後に開始し、かつ法律の発効日までに終了しない課税年度から適用されよう。
資本参加免税制度の改正は、課税年度が予算法発効日までに終了しない場合には、2021年1月1日以後開始課税年度から適用されよう。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

知識集約型活動に係る新たな税インセンティブの承認(アルゼンチン)

2020年10月26日、政府は、2029年末までの特定の知識集約型活動(knowledge-based activities)を促すことを意図した新たな税インセンティブを制定した。全ての要件に適合する納税者は、本新税法の恩典を受けるためには、申請・登録しなければならない。
本インセンティブは、所得税上、納税者が承認を得る年の翌年より発効する。しかしながら、その他すべての税務上は、関連政府機関が登録を承認した日に発効する。さらに、2019年12月31日に失効したソフトウェアインセンティブ制度の恩典を受けていた納税者について、本インセンティブは、2020年1月1日に遡って適用される。
知識集約型活動を促す同様の制度は、2019年6月10日に発効した(Law No. 27,506として公布)。この以前の制度は、新政権のもと、関連規則とともに、2020年1月20日に適用停止(suspended)となっている。

奨励活動

本新制度は、以下の「奨励活動(Promoted Activities)」に関するものを含む、製品(products)およびサービス(および関連技術文書)の創造(creation)、デザイン、制作(production)、実施(implementation)/適応(adaptation)の奨励を意図している。

ソフトウェア / コンピューティングおよびデジタルサービス / 音声・映像制作および制作後の活動 / 一定の科学・エンジニアリング活動 / 地質・探鉱サービス / 「4.0テクノロジー」を使う産業セクターに関する活動 / プロフェッショナルサービス(注)の輸出

(注)法律、会計、マネジメント、広報、監査、法務税務サービス、翻訳・通訳サービス、人材(human resources)、広告、デザイン・建築、およびエンジニアリングサービス、から構成される。

要件

本新制度の適用を受けるためには、当該アルゼンチンの事業体は、適用される税、労働、給与、社会保険の義務を順守し、その主要活動が、奨励活動の一つでなければならない(つまり、前年総収入の70%超が、奨励活動から生じる)。収入実績がない新設の事業体には、特別な要件が適用される。
申請者は、以下の要件のうち、少なくとも2つを満たさなければならない。

  1. サービス、製品、およびプロセスの質の継続的改善
  2. ミニマム投資:
    a. 従業員教育に、総人件費の5%以上(大規模納税者)
    b. 研究・開発活動に、総収入の3%以上(大規模納税者)
  3. 奨励活動による物品・サービスの輸出が、前年総収入の13%以上(この要件は、プロフェッショナルサービスの輸出者には適用されない)

零細事業者(microbusinesses)、および中小法人には、いずれも軽減された率が適用される。

インセンティブ

新制度のインセンティブには、以下が含まれる。

  • 法定CIT(法人所得税)率(現在30%)の一定率の軽減。軽減は、納税者の規模により異なる。大規模納税者は、20%の軽減(実効税率24%)となろう。零細・小規模事業者は60%、中規模企業は40%の軽減である。この軽減は、国内および国外源泉所得のいずれにも適用されよう。
  • 奨励活動に従事する従業員に関する雇用者の社会保険拠出の70%(一定の新規採用は80%)を上限とする、譲渡不可の税控除証明(fiscal credit certificate)。これは、特定の税金、例えば、VAT(付加価値税)(CITは除く)の支払いに適用できる。輸出者は、CIT債務との相殺に本証明を使うことを申請できる。
  • 国内源泉と考えられる奨励活動に関して、国外で支払った所得税は、CIT上、損金算入できる。
  • 新制度の恩典に関する税の安定性(2029年12月31日まで有効)。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

再委託サービスに係る改正法案(メキシコ)

2020年11月12日、行政府は、再委託サービス(subcontracted services)の税務上の取扱いおよび法務上の許容性に関する労働・税法(labor and tax laws)を改正する法案を議会に提出した。

背景

再委託サービスは、第三者の人材派遣業(personnel providers)を通じて、また、より一般的には、関連者サービス会社を通じて、メキシコ事業で広まっているという特徴がある。ここ数十年、メキシコ事業者は、大抵、事業活動を行う事業体(operating entity)とは別の法的事業体(legal entities)で従業員を維持してきた。さらに、メキシコの労働法(Labor Law)では、従業員への年間10%のプロフィットシェアリング支払いが義務付けられている。支払いは、直接従業員に対して行われる(税ではない)。労働法では、本支払いについて、雇用者の課税利得を基準にしている。その結果、従業員のプロフィットシェアリングは、グループ事業体の連結事業利得ではなく、法的事業体である雇用者の時価利得(fair market value profit)の一部に限定される。従業員を別個の法的事業体に配置するMNCs(多国籍企業)にとって、本労働改正案は、法的ストラクチャー、人材計画、所得税および付加価値税(VAT)を含め、様々な面で大きな影響が出る可能性がある。人材派遣会社にも影響が考えられる。

改正案の詳細

本労働法改正案では、人材の再委託は禁止され、専門的とみなされるサービスの提供のみ許容されることとなろう。この位置づけにより、一つには、再委託サービスの性質が、法的文書(legal formation documents)における法的事業体の事業目的/経済活動以外のもの(「専門サービス(Specialized Services)」)であることが求められる。さらに、専門サービスの提供者は、この指定を受けるため、労働省(Labor Ministry)の承認が必要となり、3年毎の更新が必要となろう(「認可専門サービス(Authorized Specialized Services)」)。また、本改正案には、人材派遣業者向けの規定も含まれる。
以上に関連して、連邦税法(Federal Tax Code)、所得税法(Income Tax Law)、付加価値税法(Value Added Tax Law)、社会保険法(Social Security Law)および労働者住宅供給基金公社法(National Workers Housing Fund Institute Law)(INFONAVIT)の改正もある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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