月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 2月号

2021-02-05

2021年2月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 2020年秋季経済ステートメント(カナダ)
  2. 国内資産の間接譲渡に係る新規則による報告義務の拡大(チリ)
  3. 資本参加免税(ロシア)
  4. 租税条約の「目的テスト」に係る実施規定(オーストラリア)
  5. 国外への一定費用の実費精算(ブラジル)
  6. APAの2019年度報告の公表(中国)

2020年秋季経済ステートメント(カナダ)

2020年11月30日、副首相兼連邦財務相のChrystia Freeland氏は、秋季経済ステートメント(声明)を提示した。本声明による個人/法人所得税率の改正はないが、以下が含まれる。

  • 従業者ストックオプション課税規定案の明確化 - 2021年6月30日後に付与(granted)されるストックオプションより実施
  • 2020年12月20日から2021年3月13日までのカナダ緊急賃金補助(CEWS)、カナダ緊急家賃補助(CERS)、およびロックダウン支援プログラムの詳細の提示
  • 従業者のための簡素化された2020年ホームオフィス税控除(tax deduction)の公表
  • カナダの消費者にデジタル製品/サービスを提供する非居住販売者(vendors)に、物品サービス税(Goods and Services Tax)/統合売上税(Harmonized Sales Tax)(GST/HST)の登録を要求 – 2021年7月1日より実施

事業税制措置

従業者ストックオプション

政府は、2021年6月後の付与分から発効する従業者ストックオプション課税の新規定を進める計画である。これらの規定は、2019年の公表提案に基づいている。

  • 50%従業者ストックオプション控除が適格となるオプションについて、(オプションの基礎となる付与日の株価に基づく)20万ドルの年間権限授与(vesting)制限の設定
  • 一定の条件のもと、新たな年間権限授与制限を超過するストックオプションベネフィット額に係る雇用者控除の導入

従業者

この20万ドル制限は、雇用者別(複数の関連(non-arm’s length)雇用者が発行するオプションは全体で20万ドル制限となろう)に、暦年ベースで、従業者に適用される。雇用者が一年間に権限授与するオプションに基づき取得される株式の価値が20万ドルを超える場合には、ストックオプション控除は、これらオプションの関連部分として実現した課税ベネフィットには適用されないであろう。

本新規定案では、この20万ドル制限を超えるストックオプションに基づいて取得される上場株(publicly listed shares)を寄附する従業者は、関連ストックオプション控除の適格とはならないであろうことも明確化する。従業者は、引き続き、寄附株式の全額について、慈善寄附税額控除を申請する権利がある。

雇用者

雇用者が一定の通知要件を順守する場合、ある年にこれらの新規定の下でストックオプション控除の適格とならない従業者ストックオプションの雇用ベネフィット部分は、雇用者がその年に損金算入できよう。雇用者は、この税務上の取扱いを、20万ドルの閾値未満のストックオプションにも適用することを選択できる。

本規定は、従業者へのオプションの付与時において、以下の要件を満たす雇用者が発行するオプションに適用される。

  • カナダ支配の民間法人以外の法人/ミューチュアルファンドトラスト
  • 連結総収入が5億ドル(注)超のグループのメンバー
    (注)グループ最終親会社の株主/投資者(unitholders)に提示された直近年次連
    結財務諸表に反映された額

新規定の対象にならない雇用者は、この新たな税務上の取扱いの選択は認められない。

緊急事業サポート

本声明では、以下の期間のCEWS、CERS、およびロックダウン支援プログラムの詳細を示している。

  • period 11 – 2020年12月20日から2021年1月16日
  • period 12 – 2021年1月17日から2021年2月13日
  • period 13 – 2021年2月14日から2021年3月13日

2021年3月14日から2021年6月30日までの期間のこれらのプログラムの詳細は、後日提示される。

カナダ緊急賃金援助(CEWS)プログラム

政府は、periods 11-13の能動的な(active)従業者の最大賃金補助率を、65%から75%に拡大することを提案している。

カナダ緊急家賃補助(CERS)、およびロックダウン支援プログラム

政府は、現在のCERS、およびロックダウン支援プログラムの料率体系(65%のCERS基本補助率に加え、追加で25%のロックダウン支援)を、periods 11-13に延長することを提案している。

デジタルサービス税

政府は、2022年1月1日より、カナダでデジタルサービスを提供する一定の法人への税の実施を提案している。本税は、国際コミュニティー(OECD主導)間での受け入れ可能な共通アプローチが発効するまで適用される。詳細は、2021年連邦予算で公表される。

個人税制措置

ホームオフィス費用

本声明では、カナダ歳入庁(CRA)が、2020年のCOVID-19パンデミックにより在宅勤務を行う従業者に係る簡素化されたホームオフィス費用控除を認めることを公表している。これらの従業者は、詳細費用の追跡/報告要件なしで、(在宅勤務日数に応じ、最大)4百ドルまでの控除が認められる。

このほか、カナダ児童手当(CCB)受領者への追加支援もある。

セールスタックス措置

フェイスマスクおよびフェースシールドに係るGST/HST救済

政府は、一定のフェイスマスクおよびフェースシールド供給に係る暫定ゼロ税率を提案している(2020年12月6日後の供給より発効)。

GST/HSTとデジタル経済

GST/HST制度が、成長するデジタル経済に公正・効率的に適用されるよう、政府は、通常2021年6月30日後に期限が到来する(または行われる)供給について、以下の提案をしている。

  • カナダの消費者に(従来型のサービスを含む)デジタル製品/サービスの提供をする非居住販売者(vendors)は、GST/HST上登録し、カナダ消費者への課税対象提供について、CRAに徴収・納税しなければならない。カナダで事業を行っていない(例えば、カナダに恒久的施設がない)非居住販売者(vendors)および非居住者の販売(distribution)プラットフォーム事業者(operators)は、簡素化されたGST/HST登録・送金フレームワークが利用可能である。
  • 販売プラットフォーム運営法人(例えば、Amazon)は、通常のGST/HST規定で登録し、それらのプラットフォーム上で第三者の販売者(vendors)が販売し、カナダの倉庫(fulfillment warehouses)経由で発送される製品に係るGST/HSTを徴収・納税しなければならない(販売者(vendor)がGST/HST上既に登録されている場合を除く)。
  • 短期間の宿泊プラットフォーム運営法人(例えば、Airbnb)は、これらのプラットフォームを通じて提供される宿泊について、GST/HSTを徴収・納税しなければならない(資産所有者がGST/HST上登録されている場合を除く)。カナダで事業を行っていない非居住者の宿泊プラットフォーム運営者は、簡素化されたGST/HST登録・送金フレームワークが利用可能である。

これら提案に関する政府へのコメントが、2021年2月1日まで求められた。

その他の措置

税の公正性(fairness)の改善とコンプライアンス強化

本声明では、以下の通り、カナダ税制の公正性改善のための政府の取り組みを説明している。

  • 従業者ストックオプション – 上述の通り
  • 外国の非居住者オーナーによるカナダ住宅の非生産的な使用に関する課税 - 国税措置の実施ステップをとる予定
  • タックスコンプライアンス強化 – 国際的な脱税およびアグレッシブな租税回避をターゲットとした新たな取り組み、および既存のプログラム拡大のため、2021-22年から5年間にわたり追加で6億6百万ドルを支出予定
  • 租税回避防止規定の近代化 – 一般的租税回避防止規定(GAAR)を含む、カナダの租税回避防止規定の近代化のコンサルテーションを開始予定

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

国内資産の間接譲渡に係る新規則による報告義務の拡大(チリ)

2020年9月29日、税務当局(Chilean Tax Authorities)は、チリ法人の株式、チリに所在する動産/不動産、およびチリの恒久的施設を含め、2021年1月1日以後のチリの資産の間接譲渡に係る報告要件(Form N°1921)を改正する決議(Resolution N°119/2020)を公表した。

本決議では、すべての関係者(all involved parties)(売り手、買い手、およびチリの事業体)は、チリの資産の間接譲渡について、取引発生月の翌月最終営業日前までに、報告しなければならない。従前の規則では、売り手がForm N°1921を提出する場合には、買い手とチリの事業体についてこのような義務から解放されていた。

さらに、本新規則では、間接譲渡をチリで課税対象として取り扱うテストを満たさない場合であっても、チリの資産の間接譲渡を含むすべての取引の報告が求められる(従前の規則では、取引がチリで課税対象になる場合のみ、Form N°1921の提出が求められていた)。期限後提出の罰金は、最大約850米ドルになる可能性があり、チリのIRS(内国歳入庁)と適時に共有しない場合には毎月増えて、最大24,700米ドルになる。

この新たな報告要件は、2021年1月1日以後の間接譲渡に適用される。なお、Form N°1921を提出するためには、売り手と買い手は、チリの税務ID番号(Tax ID number)を取得しなければならない。チリの税務ID番号取得プロセスは手間がかかる可能性があり、様々な文書(例えば、委任状、(改正)定款(bylaws)、外国の税務IDs、税務居住者証明)の提出が求められる(注釈をつけ、スペイン語に翻訳しなければならない)。さらに、報告者は、チリの居住者である法定代理人(legal representative)を選任する必要がある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

資本参加免税(ロシア)

現在、 (1)ロシア法人、および、(2)自らをロシアの税務居住者と分類した外国法人について、資本参加免税(受取配当へのゼロ%税率)が適用できる。資本参加免税を利用するため、自らをロシアの税務居住者と分類した外国法人について、2021年に移行期間が始まる。2021年1月1日から2023年12月31日まで、これらの外国法人は、以下の3つの基準を満たす場合に、資本参加免税を適用できる。

  • その外国事業体が、50%以上の所有持分を構成する株式を、1年以上継続保有した
  • 配当支払い法人、および配当受領法人が、ロシア財務省によるブラックリスト掲載国(例えば、BVI)以外の国に登録された法人である
  • 配当(ロシア法人からの受領の場合)が、ロシアの銀行の口座に入金されている

2024年より、外国法人は、資本参加免税を使えなくなる。

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2021年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

租税条約の「目的テスト」に係る実施規定(オーストラリア)

税務当局(ATO)は、法執行実務声明(Law Administration Practice Statement PS LA 2020/2)を発出した。本声明では、オーストラリアの租税条約に含まれる主要目的テスト(principal or main purposes test)適用の執行プロセスに関して、ATO職員へのガイダンスを示している。この「目的テスト(purpose test)」は、以下に適用される。

  • 対象租税協定(CTA)に適用される、MLI(BEPS防止措置実施条約)第7条パラグラフ1の主要目的テスト(principal purposes test)
  • CTAではない、オーストラリアの租税条約にある主要目的テスト
  • まだMLIで改正されていない、あるいは、改正される予定のないオーストラリアの租税条約にある主要目的テスト

本ATOガイダンスによると、関連する可能性がある質問(questions)および文書(documentation)は、どの目的テストを考慮するか、また、関連取決め/取引が、トリーティーショッピング、所得分類の転換、あるいは条約恩典を受けるために所得が生じる状況におけるその他の変化を含むかどうかによる。

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2021年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

国外への一定費用の実費精算(ブラジル)

2020年8月25日、連邦ブラジル税務当局(RFB)は、指針(Consultation Solution)(Solução de Consulta DISIT/SRRF02 2006(2020年7月20日付) (SC 2006/2020))を公表した。これによると、外国所在の同一グループの事業体が当初負担(support)していた一定コスト(partner-administrators/expatriate costs)に係るブラジル事業体の弁済(reimbursement)について、源泉税(WHT)、または、クロスボーダー支払いに適用されるその他の分担金(contributions)の対象とすべきでないことを確認している。さらに、これらの費用がブラジル事業体の事業活動に必要である場合には、その金額を、法人所得税上、損金算入可能と取り扱うべきであることも確認している。

国外関連者へのコスト弁済は、何年も、議論の余地がある問題とされてきた。納税者が、適正配分(adequate allocation)および文書化基準に関して、国外法域で直面する共通のコストシェアリングの論点に加え、RFBは最近、国際コストシェアリング取決めは、一般に、技術サービスの輸入と同様に取り扱うべきであるとする決定(decisions)を公表している。これにより、源泉税だけでなく、連邦負担金(社会統合基金(PIS)、社会保険融資負担金(COFINS)、および特別財源負担金(CIDE))も適用されることになる。このような輸入活動(import operations)への重課は、しばしば、国際コストシェアリング取決めにおいて、歪んだ取扱い・実務につながっている。

(弁済は、国外事業体の所得を構成しないという)税務当局の解釈は、国際コストシェアリング取決めに関して、取引税(transaction taxes)不適用を支持する、RFB発出の以前のガイダンスと整合しているように思われる。

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2021年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

APAの2019年度報告の公表(中国)

2020年10月29日、国家税務総局(STA)は、事前確認(APA)の2019年度報告(China Advance Pricing Arrangement Annual Report (2019))を公表した。本年度報告には、2005年から2019年までのAPA事案の統計データおよび分析が含まれている。2019年、STAは、APA事案を促すため、機能を強化する努力を続けた。2019年、中国は、12件のユニラテラルAPAs(更新1件含む)、および、9件のバイラテラルAPAs(更新1件含む)に署名しており、いずれも近年で最高となっている。中国税務当局は、様々な革新的な措置(例えば、簡易なユニラテラルAPAプログラム(深圳市)や、税関総署(General Administration of Customs)との連携)を開始しており、APAsの署名件数、特にユニラテラルAPAsの件数は、将来的に増加する可能性がある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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