月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 2月号

2018-02-05

2018年2月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 税制改革法案の署名(米国)
  2. 大企業の暫定法人付加税の導入(フランス)
  3. 2018年度財政法案(イタリア)
  4. 低価格輸入品への物品・サービス税(GST)の拡大(オーストラリア)
  5. EUの共同調査パイロットプロジェクト(イタリア/ドイツ)
  6. 欧州司法裁判所(CJEU)、ドイツの旧条約/指令濫用防止規定にEU法違反の判決(EU/ドイツ)
  7. 税に関する第三国の非協力的法域の公表(EU)

税制改革法案の署名(米国)

2017年12月22日、大統領は、両院協議会が合意し、議会承認された税制改正法案(Tax Cuts and Jobs Act(HR1))に署名した。これにより法制化されたHR1の事業・国際税務関連規定には以下が含まれる。

事業関連

法人所得税率 - 35%の最高税率を20%に引き下げるという上下両院案と異なり、最終法制では、2018年から21%になる。

(注)本最終法制により、州等の地方税を含めた平均税率は38.9%から25.75%に下がる(その他のOECD加盟国の平均税率は23.75%)。

パススルー控除 - 本最終法制には、パススルー所得の20%控除が含まれる(公開パートナーシップ(PTPs)を除き、給与・報酬費用(W-2 wages)の50%に基づく制限あり)。法人のパートナーは本控除の対象にならない。この新たな控除は、2018年から適用される。

資本支出の即時償却 - 本最終法制では、2017年9月28日から2022年末までに事業供用した一定の償却資産の即時(100%)償却が認められる。その後、毎年20%ずつ逓減する。中古資産の即時償却を認めるという下院案が維持された。なお、一定の規制電力事業等には、本規定は適用されない。

(注)連邦税と州税の取扱いの差異が拡大する可能性があり、本最終法制を受けた各州の対応の検証が必要となろう。

内国歳入法199条 - 本最終法制では、2018年から、一定の適格国内製造活動に係る控除が廃止される。

利子費用制限(内国歳入法新163(j)条) - 本最終法制では、2018年から2021年までに開始する課税年度について、EBITDA(利子・税・償却控除前利得)の30%相当額までの純利子費用の制限が適用される。その後は、純利子費用の制限が、EBIT(利子・税控除前利得)の30%で計算される。損金算入否認額は、無期限に繰越できる。なお、規制電力事業等には、本規定は適用されない。パートナーシップへの投資に係るパートナーの利子制限には、特別規定が適用される。上院案の全世界レバレッジテスト(163(n)条)は盛り込まれていない。

(注)州税の改正動向(損金算入否認額の計算、繰越期間)も留意が必要になろう。

代替ミニマム税(AMT) - 本最終法制では、2018年から、法人のAMTを廃止する。AMT控除可能額の繰越がある納税者は、2018年、2019年、2020年に開始する課税年度において、当該年の通常税額と相殺後の控除残額の50%の還付請求ができ、残額は、2021年に開始する課税年度に還付請求ができる。

(注)個人のAMTは廃止されない。

繰越欠損金(NOLs) - 本最終法制では、2018年以後開始する課税年度で生じたNOLの利用は、課税所得(NOL控除前)の80%に制限される。NOLsの繰戻は原則廃止となり、繰越は無期限となる。これらの改正は、2018年以後終了課税年度に生じたNOLsから適用となろう。

(注)デラウェア州、ミズーリ州、バージニア州といったいくつかの例外を除き、ほとんどの州のNOL規定は、連邦NOL規定と異なる。連邦NOL規定と概ね一致する州についても、特に繰越期間について対処が必要になる可能性がある。

試験研究(R&E)支出の償却 - 本最終法制では、内国歳入法174条のR&E支出(ソフトウエア開発費を含む)の選択的控除が廃止され、2022年以後開始課税年度から、資産計上と5年間の償却が求められる。

国際税務関連

(みなし)本国送金 - 本最終法制では、100%受取配当益金不算入(DRD)により、全世界所得課税制度から属地主義課税制度に移行する。日本と異なり、既存の海外留保利益に対しては、配当の有無にかかわらず、一旦本国に配当されたものとみなして、現金及び現金等価物に対応する部分の留保利益に対して15.5%、非流動資産に対して8%で、一回限りの強制みなし配当課税(toll charge)がなされる。また、重要な税源浸食防止措置も含まれる。

(注)多くの州では、課税所得計算上、国内・国外配当(Subpart F所得を含む)について、一定のレベルの控除を規定している。本最終法制を受けた各州の対応が注目される。なお、連邦規定と異なり、州がtoll chargeの複数年払いの選択を規定する可能性は低い。

グローバル無形資産軽課税所得(GILTI) - 本最終法制では、米国株主は、特定のGILTI(適格事業資産投資(QBAI)の10%相当(一定利子額控除後)を超える特定利得)の課税所得取り込みが求められる。50%(2026年以後開始課税年度からは37.5%)の控除と80%の外国税額控除が認められる。本規定は、外国法人の2018年以後開始課税年度で、同課税年度終了日を含む米国株主の課税年度から適用される。

(注)関連規定と各州の取扱いの差異にも留意が必要となろう。

このほか、外国源泉の無形資産関連所得(FDII)について、製品・サービスの国内製造と国外販売に係る37.5%の控除(2026年以後開始課税年度からは21.875%)を認める新たなインセンティブも創設されている。

税源浸食・濫用防止税(BEAT) - 本最終法制では、特定のインバウンド‘税源浸食支払’(国外関連者に対する「損金算入可能な」支払、および、償却資産の購入対価。「損金算入可能な」支払には、売上原価は含まれない点に留意)に対して、新税(BEAT:base erosion and anti-abuse tax)が課される。BEATは、過去3年間の平均年間総収入が5億ドル以上(米国グループベース)の法人について、修正課税所得の10%(一定の銀行・証券ディーラーは11%、2018年は5%(一定の銀行・証券ディーラーは6%))が、納税者の通常税額(一定の税額控除調整後)を超える場合に課される。税源浸食支払から生じる損金算入額が総損金算入額の3%(一定の銀行・証券ディーラーは2%)未満の場合は適用されない。本規定は、2018年以後開始課税年度の支払/未払額からの発効となる。2026年以降、BEATは、修正課税所得の12.5%(銀行・証券ディーラーは13.5%)が、すべての税額控除適用後の通常税額を超える場合に課される。

国外支店所得の外国税額控除分類 - 本最終法制では、国外支店所得は、適格事業単位(QBUs)に帰属する事業利得と定義され、当該所得のための新たな外国税額控除分類が加わる。2018年以後開始課税年度からの適用となる。

パートナーシップ持分の譲渡 - 本最終法制では、非居住者・外国企業によるパートナーシップ持分の譲渡・交換について、パートナーシップがすべての資産を時価で譲渡したとすれば譲渡者がECI(米国実質関連所得)を有することとなるときは、パートナーシップ持分の譲渡等損益をECIと取り扱うこととされる。これは、実質的に、最近の租税裁判所で否定されたRevenue Ruling 91-32を法制化することになる。本規定は、2017年11月27日以後の譲渡等からの適用となる。

(注)譲受者は10%の源泉徴収義務があり、本規定は、2018年1月1日以後の譲渡等からの適用になる。なお、Notice 2018-8により、MLPs等の公開パートナーシップの持分譲渡等については、追加のガイダンスが出るまで源泉徴収義務の適用は延期される。

 

出典:PwC, Tax Insights 
「月刊 国際税務」 2018年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編

大企業の暫定法人付加税の導入(フランス)

2017年11月14日、議会は、2017年度第一次修正財政法を可決した。本法律では、大企業に係る新たな法人付加税が導入される。本付加税は、2017年12月31日以後2018年12月30日までに終了する課税年度のみに適用される。2017年11月29日、憲法調査会(Constitutional Council)がこの新たな付加税を承認し、2017年12月2日、本決定が官報で公表された。

2017年10月6日の憲法調査会で違憲とされた3%の配当分配税が最近廃止されたことにより、フランスの予算は大幅な赤字になっていた。EUの要求に沿った財政赤字を維持するため、政府は法人付加税を導入した。法人付加税は以下の2つから構成される。

  • 総収入が10億ユーロ超の法人: 15%負担(いわゆる、「特別(exceptional)」負担)
  • 総収入が30億ユーロ超の法人: 追加の15%負担(いわゆる、「追加(additional)」負担)

以上の2つの負担は、税減免/控除前の法人税額に対して課される。付加税は、法人税上、損金不算入である。フランスの連結納税グループ企業は、一体で総収入を判定する。付加税の納付期限は法人税と同じで、課税年度終了後4か月目の15日までであるが、2017年12月31日終了課税年度については、2018年5月15日である。付加税の対象になる法人は、見積税額の95%を見込納付しなければならない。法人の2018年2月19日以前に終了する課税年度の見込納付期限は、(ⅰ)最終法人税分割納付日と、(ⅱ)2017年12月20日のいずれか遅い日である。残額は、12月31日終了課税年度については、5月15日までに法人税とともに納付しなければならない。


出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編

2018年度財政法案(イタリア)

2017年11月30日、上院は、最新版の2018年度財政法案を公表した。本法案には、(ⅰ)「デジタル経済」の課税、(ⅱ)イタリア法人株式の譲渡に係る登録税(registration tax)といった重要な税規定が含まれる。本法案は、議会での修正及び最終承認に係ることとなる。

デジタル取引に係る新税

本法案では、イタリア法人と事業者(非居住者のPEs(恒久的施設)を含む)に対する電子機器(インターネット等の電子ネットワーク)を用いたサービスの提供に適用されるデジタル取引への新税を導入する。2018年4月30日に関連法令が公表される予定である。税率は6%で、課税ベースはサービスの支払対価(VAT除き)である。サービス提供者が居住者(又は非居住者のイタリアPE)の場合は法人所得税等から控除できるが、サービス提供者が非居住者の場合は、取引に関与する金融仲介者が適用する源泉税が最終税額になる。本税は、取引完了地に関係なく課される。2019年1月1日からの適用が見込まれる。6か月間に、非居住者の納税者が1,500超の関連取引の契約をし、総価値が150万ユーロ以上になる場合、税務当局は30日以内に当該非居住者に閾値を超えた旨を通知する。また、税務当局は当該非居住者と当該活動がPEになるかどうかを協議する。PEとなる場合、当該非居住納税者は、自主納税プログラムにより、行政ペナルティーの50%減額及び刑事罰の回避をすることができる。

以上のほか、本法案では、BEPS行動7を反映したOECDモデル租税条約に沿ったPEの定義の改訂等が行われる。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編

低価格輸入品への物品・サービス税(GST)の拡大(オーストラリア)

オーストラリア税務当局(ATO)は、2018年7月1日から、オーストラリアの消費者への低価格輸入物品(1千オーストラリアドル以下の衣類、化粧品、書籍、電子機器等)の販売に対して、10%の物品サービス税(GST)を適用する旨の新規定を公表した。
本規定は、直売業者と、オンライン業者(電子販売プラットフォーム)・再販売業者(サプライヤー)といったその他の事業体にも適用される。登録売上閾値(7万5千オーストラリアドル)を満たし、これら低価格物品の提供を行う場合、GST登録と申告が必要になる。


出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編

EUの共同調査パイロットプロジェクト(イタリア/ドイツ)

2017年10月、イタリアとドイツの税務当局は、国境を超えた共同調査のパイロットプロジェクトの実施状況について議論した。国際レベルでは、その定義と目的は、2010年のイスタンブールでの第6回OECD税務長官会合(FTA)を受けた2010年OECD共同調査報告書で概説されている(各国調査官が自国内のみで同時に独立して調査を行う同時調査とは異なる)。イタリアは、共同調査を推進する13か国のグループ(OECDスタディチーム)に参加しなかったが、当局は本プロジェクトを迅速に受け入れ、非公式にコミットをしていた。共同調査の主目的には、類似取引等についての各国での調査に係る納税者負担の軽減、(必要に応じた)権限のある当局の早期関与による相互協議解決の促進、多国籍企業のコンプライアンス強化、迅速・効果的な税務論点解決による納税者のコンプライアンスコスト軽減、が含まれる。EUレベルでも、租税回避脱税への対処に係る2012 EU Communication 722/2012があり、より効果的な調査/管理と納税者負担の軽減のための短期、長期の勧告がある。

パイロットプロジェクト

2012年、G5メンバーは、税に関する多国間で標準化された自動的情報交換プロジェクトの制定を決定した。イタリア・ドイツ税務当局は本プロジェクトを受け入れ、2013年に第1フェーズを開始した。その結果、共同調査チームが創設され、国際税務問題に関する同時・共同調査に関する基本合意が署名された。第2フェーズでは、両国の税務当局が、2016年、2017年のクロスボーダー共同調査のスケジュールを立てている。

国家主権の問題があり、共同調査が可能なのは、一方の法域の当局者が、納税者の事前合意を得て、他方の当局者同席のもと、他国内で納税者へのインタビューや帳簿調査ができる場合に限られる。通常、共同調査は、移転価格や法人の居住者の論点に係る事案に特に有用である。運用上の主な難点として、調査官が従う手続きや規定、使用言語の違いがある。情報収集と納税者の関与に関する国内法の違いという論点もある。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編

欧州司法裁判所(CJEU)、ドイツの旧条約/指令濫用防止規定にEU法違反の判決(EU/ドイツ)

2017年12月20日の2つの判決(C-504/16とC-613/16)で、欧州司法裁判所(CJEU)は、2011年まで効力を有していた旧条約/指令濫用防止規定(Anti-Treaty/Directive Shopping Rules)がEU法に適合しない旨の判決を下した。本判決は、CJEUが、現行規定もEU法に適合しないとの判決を下す可能性があることを示している(係争中のC-440/17)。

いずれのケースも、ドイツのGmbH(有限責任会社)が、非居住者株主(オランダ法人とデンマーク法人)に配当をした。配当は、EU親子会社指令により、通常はドイツの源泉税(付加税を含め約26.375%)は課されないか、全額還付される。しかしながら、ドイツ連邦税務当局は、株主が旧規定で要求される十分な「実体(substance)」を有していないとして、同指令による源泉免除を否定した。

CJEUは、同指令の目的は、EU内での配当課税の回避であるとし、旧規定は同指令に適合しないとした。更に、外国株主がドイツの株主に比して不公平な取扱いを受けているとして、EUの設立の自由にも適合しないとした。CJEUの判決は、旧規定の実体テストでは、完全に人為的な取決めの回避に限定されておらず、納税者に反証の機会がない、との事実認定に基づいている。

なお、旧規定では同指令の恩典が完全に否認されたが、現行規定では、非居住者株主が受ける「good」・「bad」所得額に応じて、部分的に否認される。今回の2つの判決では現行規定のEU法適合性については判断していないが、その理由づけをみると、同様の結論になる可能性がある。係争中のC-440/17の判決が待たれる。

 

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert / Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編

税に関する第三国の非協力的法域の公表(EU)

2017年12月5日、閣僚理事会(ECOFIN Council)は、税に関する(第三国の)非協力的法域のリスト(ブラックリスト)を公表した。本取り組みは、税の透明性・公平性とBEPS対抗措置の実施の促進というEUのより広範なアジェンダの一部である。最終的には、17の法域(注)がブラックリストに掲載されている。

(注)米サモア、バーレーン、バルバドス、グレナダ、グアム、韓国、マカオ、マーシャル諸島、モンゴル、ナミビア、パラオ、パナマ、セントルシア、サモア、トリニダード・トバゴ、チュニジア、UAE

ブラックリスト法域について、同閣僚理事会は、EU各国が防禦措置を取ることを容認している。これらの防禦措置には、税以外の分野のほか、税の分野(例えば、調査の増加、費用の損金不算入、源泉税措置、CFC(被支配外国法人)ルールの適用、挙証責任の転換、資本参加免税の制限、スイッチオーバー条項)も含まれる。EUのブラックリストのプロセスは2018年も継続し、少なくとも年1回見直される。進捗レポートが、2018年の夏までに出される見込みである。

 

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert
「月刊 国際税務」 2018年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編

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