
AI技術はコンテンツ流通変革の起爆剤になるか――権利処理自動化の可能性
消費デバイスや消費形態の多様化が進むコンテンツ業界でビジネスモデルの変革が求められる中、権利処理業務の煩雑さが課題となっています。テクノロジーを活用して業務量を合理化し、コンテンツ流通のボトルネックを解消する鍵を解説します。
2025-03-07
※本稿は、銀行実務 2025年2月に掲載された記事を転載したものです。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。
近年、BaaS(Banking as a Service)を活用した異業種の金融サービスの参入が急速に増えている。それらの動きは大手金融機関だけでなく、地域金融機関にも広がりつつあるが、その特性を踏まえたBaaS 活用の在り方が求められている。本稿では地域金融機関におけるBaaS 活用の現状と今後の展望を解説する。
「BaaS」「Embedded Finance」、「NeoBank」……近年、これらの言葉を耳にする機会は非常に多い。その一方で、人によって、これほど異なる概念で利用される用語も珍しい。詳細な解説に移る前に、BaaSビジネスに多く携わってきた筆者の見解として、国内外の最新動向を踏まえた上でこれらの用語や概念の実践的な整理を図表1に示す。
元来、「BaaS」というものはその名の通り、銀行機能の全部/一部提供を指すが、これはあくまで供給者である銀行目線であり、同じBaaSを活用したサービスであっても、ユーザー体験は大きく異なる。そのため、BaaSの類型はユーザー体験で分類する方が分かりやすいと思われる。
ユーザー体験で考えるとBaaSを活用したサービスは「ユーザーが金融を意識しない=Embedded Finance」と、「ユーザーが新しい金融サービスと意識して利用する=NeoBank」に大きく分かれる。前者は例えば、流通/小売のアプリで銀行口座からの直接払い機能や後払い機能が利用できるユースケースを想定すると分かりやすい。また、後者は近年盛んになっている、異業種フロントの銀行サービスや、プラットフォーマーやFintechが提供する金融アプリ/サービス等への銀行機能組み込みが代表例となる。
海外、特に欧州ではPSD2に端を発したOpen Bankingの流れからAPI開放が先行して進んだため、前項の分類でいうNeoBankに近いチャレンジャーバンク等の動きが先行した。
一方、米国では地域金融機関がITプラットフォーマーや全米を代表するスーパーマーケット、チャレンジャーバンク等にBaaSを活用した金融機能提供を行う事例が多く見られる。また、金融機関は必ずしも大手金融機関だけでなく、地域金融機関が大手プラットフォーマーに金融機能を提供する事例も複数見られる。規制業種として一定のガイドラインがある銀行の金融機能は大手銀行も地域金融機関も本質的には変わらない訳だが、海外事例に比べて、国内のBaaS事例はメガバンク、ネットバンクに偏っているのが実情である。これは何故か?
その理由として地域金融機関が共同利用可能なリーズナブルなBaaS基盤が存在しなかったという背景が挙げられる。メガバンク等の先行事例では基本的にはマルチバンクではなく各金融機関のシングルバンク構成となっており、BaaS基盤整備に相応のコストがかかる。一方、勘定系システム等が既に共同利用前提となっている地域金融機関においては個別のBaaS基盤構築はコスト的にも現実性にハードルが高い状況である。
また、日本では利用者側は銀行APIの活用が進んでいないという課題もある。実態としては、日本の銀行APIは更新系APIの提供が少ない上、銀行やベンダ毎に仕様がかなり異なっており、利用者側がその1つ1つの仕様を読み解いて、自らのアプリに複数の銀行APIを実装するのは工数/コスト等を考えるとこちらも相当なハードルがある。
前項で延べた日本の銀行APIが抱える課題に対して、近年では業界標準のマルチバンク決済サービスであるBank Payを活用したBaaS基盤や共同利用勘定系システムを活用したBaaS(ネオバンク)基盤、FinTech等が提供するBaaSサービス等のオルタナティブなBaaSスキームが相次いで提供されている。これにより、地域金融機関が利用可能な「現実的な」選択肢が整ってきたため、地域金融機関におけるBaaS活用サービスが徐々に増えてきている。
例えば、EmbeddedFinance的な利用としては、BankPayを活用した地域アプリ(地域通貨)や地元密着の流通/小売アプリにおける口座決済(チャージ)機能の組み込み等の事例が近年多く見られる。一方、ネオバンク的な利用としては、即時振替API等を活用した銀行主体のWalletサービスが数年前からいくつか見られる程度の状況だった。
ところが、昨年になって、BaaS(ネオバンク)基盤を活用したデジタルネイティブなセカンドブランドを立ち上げる地域金融機関が登場する等、地域金融機関においてもネオバンク領域が活況になる予兆が見られる。この背景には金利上昇局面に入ったというマクロ環境の変化を踏まえたリテール回帰のトレンドがある。長らく続いたゼロ金利政策から「金利ある世界」に転換し、従来よりALM運用収益が見込める状況になった。そのため、新たな預金獲得に向けた従来と異なるアプローチとしてBaaSを活用したデジタルネイティブなセカンドブランドや異業種フロントのネオバンク等の検討が増えてくると思われる。
地域金融機関はその名の通り地域密着型の金融機関であるため、その地域内では長年親しまれているブランドや店舗網を活用して預金獲得を行うことが最も効率が良い。しかし、1県1銀行等の地域も複数生まれ、地域から都市部への資本移転が加速する昨今、地域内で寡占的なシェアを獲得した場合でも相応の預金量獲得が困難なケースも想定される。一方で、地域色の濃い地域金融機関のブランドでは他都市部での預金獲得が難しい側面もある。そのため、地域密着型の既存のブランドとは別のデジタルブランドや既に幅広い認知を獲得している異業種のブランドを立て、ユーザーから見たFaceを分けてブランド戦略を構築することも新規ユーザー獲得に有効である。
ブランド戦略としては銀行免許を個別に取得し、全く異なるデジタルバンクとして全国展開するというアプローチもあり、実際にその様なアプローチを採用している地域金融機関も複数見られる。この場合、ブランドの世界観やユーザー体験などを完全に別物にできる等のメリットがあるが、一方で多大なIT投資のかかる勘定系システム等のコスト負担が最低でも数十億円以上かかるため、多くの地域金融機関が簡単にそのアプローチを決断するというわけにはいかないのがビジネス上の実態である。
一方、BaaS(ネオバンク)基盤を活用したネオバンクサービスの場合、勘定系システムは既存のものを活用するためIT投資の総額は勘定系システムを別構築した場合に比べて数十分の一と相当リーズナブルであり、多くの地域金融機関が採用しやすい側面がある。また、アプリの世界観も既存銀行のものと全く異なるUI/UXを実現できるBaaS基盤も登場している。一方で、このスキームの場合、既存銀行の一支店という位置付けとなる場合が大半であるため、送金時に既存銀行のブランド名が見えてしまう専用支店宛に送金する必要がある等の制約はあるが、その制約は限定的であると言える。
現時点では、国内における地域金融機関のネオバンク事例は金融機関自身のデジタルブランド提供に留まっているが、前項に挙げた米国の事例の様に地域金融機関が全国展開するナショナルブランドに金融機能を提供する形でのネオバンク事例なども登場することが想定される。また、地域金融機関がFintech企業等に銀行機能を提供する等の事例も生まれつつあり、その成否が非常に注目されるところである。
地域金融機関と一口に言っても、地域性が各行で大きく異なるため、誰にでもオートマティックに適用可能な汎用的なBaaS戦略というものは存在しない。それぞれの地域課題や自行戦略を踏まえたBaaS戦略を立案することが重要である。
また、その場合にBaaS提供者である銀行側の目線だけで検討するとプロダクトアウト的な発想に陥りがちであるため、必ず、ユーザー体験起点でサービスの戦略検討(左脳)、ユーザー体験設計(右脳)をバランス良く交互に組み合わせた戦略立案を行うことが非常に重要である。
とは言え、地域金融機関にとってのBaaS活用アプローチは無限にあるわけではなく、いくつかのパターンに整理可能なため、参考として以下図表2に示す。
地域内のユーザーの体験向上に重点を置くか、地域外に進出する手段としてBaaSを活用するかで大別される。但し、これはどちらか一方で進めれば良いというものではなく、地域で重要な役割を果たすことが求められる地域金融機関としてはこれらのアプローチを「両利き」で進めていくことが極めて重要となる。
地域内でBaaSを活用する場合は地域内に存在する他のステークホルダー(自治体、地元密着の大手企業等)との連携が必要不可欠である。それらの連携によるBaaS活用で、地域の購買データ等が蓄積・可視化され、それらのデータ活用により、地域DXが一層促進される効果が期待できる。
また、地域外の取り組みにおいてもEmbedded Finance的な活用アプローチとネオバンク的な活用アプローチがある。しかし、API開放状況によってはすべてのアプローチが採用できるわけではないため、自行のケイパビリティを良く見極めながら戦略検討することが重要となる。一方で単純に自行ケイパビリティのみに着目し、ユーザー体験を顧みないサービスを組み立ててしまうと、サービス自体の成長は極めて難しいため、前述した通り左脳(サービス戦略)と右脳(ユーザー体験)を上手く組み合わせた戦略立案が重要であることは言うまでもない。
近年、より現実的でオルタナティブなBaaS基盤の登場により、これらを活用した地域金融機関のBaaS活用事例は益々増えていくことが想定される。
一方で、地域金融機関にはこれらのサービスを企画できるDX人材や、サービス創発のためのDX組織のケイパビリティが十分でないケースも見られる。単純にBaaS基盤というハード面があれば良いというわけではなく、人材や組織等のソフト面も整わないとBaaS戦略を実行に移すことは難しい。
そのため、BaaS活用においては、ソフト面が整っている地域金融機関とそうでない地域金融機関の差が広がっていくことが想定される。地域金融機関が存在する地方にとってDXケイパビリティ不足は、BaaSのDXメリットを享受できないという意味でその地域全体の損失につながってしまう懸念がある。
言うまでもなく、DXの本質は単なるデジタルの活用ではなく、デジタルを活用してその企業自身の変革(CX:Corporate Transformation)につなげることにある。是非、BaaS戦略の立案/実行を通じて、地域金融機関自身の企業変革を進めることが最も重要であることを念頭に置いて本件に取り組んでいただきたい。
消費デバイスや消費形態の多様化が進むコンテンツ業界でビジネスモデルの変革が求められる中、権利処理業務の煩雑さが課題となっています。テクノロジーを活用して業務量を合理化し、コンテンツ流通のボトルネックを解消する鍵を解説します。
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