COVID-19:サステナビリティの趨勢をめぐって―COVID-19が明らかにした3つの課題

2020-07-10

はじめに

COVID-19による混乱は、日本国内では一旦の収束を見せようとしているものの、その先行きは依然として不透明である(本記事は2020年5月に執筆したものである)。

こうした状況の中、企業は、まず足許の危機を生き抜くため、緊急の対策を講じつつも、それと並行して、この状況から得るべき教訓を得たのちに、改めて企業の「あるべき姿」を再定義する必要に迫られている。

ここでは、COVID-19が企業に提起した「あるべき姿」の一つとして、企業のサステナビリティ(持続可能性)を取り上げる。COVID-19は、短期的には企業に喫緊の課題に対する対策を迫ったが、中長期的には企業にとってのサステナビリティの重要性を高めうるものであると、我々は考えている。右の簡易調査の結果は、回答者の数は少ないものの、そうした認識がまったく的外れではないことを示している。

サステナビリティの重要性が今後高まるとすれば、その背景には、COVID-19の混乱によって明らかとなった「3つの課題」が大きく関わるであろう。ここでは、その3つの課題を追いながら、COVID-19がサステナビリティとどのように結びついているのかを紐解きたい。

1.Washing 見掛け倒しの“サステナビリティ企業”
~真のサステナビリティ企業への転換

昨今、SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)など言葉は様々だが、サステナビリティに取り組む企業は増加している。

しかし、足許の収益が逼迫するとき、サステナビリティ経営を一貫することは難しくなる。今回のCOVID-19流行下では、特に従業員やサプライヤーに対する企業対応に係る非難が目立った。例えば、補償制度の整備が不十分な企業に対する非難や、人手不足を恐れた企業が、子どもを持つ従業員が臨時休校中の育児のために仕事を休むことを奨励する助成金制度の利用を控えるよう社員に求めたことで、世論の非難を受け、撤回を余儀なくされた例などがある。また、既に生産を発注していた新興国のサプライヤーに対して、生産中/生産済みの注文も含めてキャンセルしたことで、国際的な非難にさらされている企業もある。

これら非難を浴びた企業の中には、これまで「サステナビリティ経営」を標榜していた企業も少なくない。そうした企業については、サステナビリティをコアビジネスに対する「付属品」、あるいは良い企業として外部発信するための一種の「飾り」のようなものと捉えていたのか、真の「サステナビリティ企業」と言えるのかなど、疑問の目を向けられることとなった。また、従業員やサプライヤーとの信頼関係にもひびが入ることとなり、今後、こうした企業は、これら重要なステークホルダーとの関係を再構築していく努力が必要だろう。

一方で、COVID-19流行下にあっても、サステナビリティ経営を一貫し、むしろ従業員・サプライヤーの保護に注力しようとする企業もあり、こうした企業は、大きくブランドイメージを向上させることとなった。

本来サステナビリティとは、自社の存続にかかわるものである。自然環境や、今回焦点が当たった従業員やサプライヤーも、企業が価値を創造するための重要な資本である。

真のサステナビリティ経営に向けて、サステナビリティが自社にとってなぜ必要なのかをまず理解する必要がある。

そのためには、サステナビリティが、自社の事業・財務にどのように影響を与えるのか、そのリスクと機会を特定しなければならない。そのうえで、リスクを軽減し、機会を最大化するため、事業の中で具体的なアクションを実行してゆくのである。

これから紹介する残り2つの課題も、これらに大きく関わる。

2.Vulnerability組織・社会の「自然の脅威」に対する脆弱性
~中長期的なサステナビリティ・リスクの分析の実施

今回、自然環境の一部であるウイルスの「不意打ち」に対し、世界経済は大きく混乱し、企業は、調達ルートの確保、リモートワークによる業務オペレーションの確立、事業の一時中断と再開などの対応に追われた。この経験を通じ、我々は、我々の組織・社会が「自然の脅威」に対していかに脆弱であるかを実感することになった。

COVID-19の問題は、超短期的かつ急激に世界へ拡大したため、その変化が明確であり、企業の対応の必要性も逼迫したものであった。他方、感染症以外のサステナビリティをめぐる多くの課題(たとえば気候変動)は、その変化が中長期的かつ緩慢であるがために、私たちの社会への影響も見えにくく、対応は後回しになりがちだ。しかし、実際には、気候変動による原料生産地・生産量の変化や台風の甚大化は、じわじわと企業の調達やオペレーション、そして消費者意識に影響を与え始めている。今回の事案は、こうした緩慢に進み続けている自然の脅威に対しても、COVID-19に対してそうであるのと同様に、我々の組織・社会が脆弱であることに、我々が目を向けるきかっけとなったと言える。上述のアンケート結果も、まさにこの点に関する経営層の認識を示しているといえるだろう。

多くの企業が現在、足許のCOVID-19対策に加え、ポストCOVID-19/ウィズCOVID-19時代に向けて、サプライチェーンやオペレーションの再構築を検討しているだろう。しかし、今後、COVID-19以外の自然環境リスクが顕在化する可能性がある。そうしたリスクに対しても、強靭なサプライチェーンやオペレーションを築くために、あらかじめ、中長期的なサステナビリティ・リスクを分析し、リスクが顕在化してからではなく、事前に対応を検討することが求められる。

こうした対応が、企業自身の「レジリエンス(強靭さ)」を高め、今回のCOVID-19のような突発的な事象に対しても回復力ある組織体を築くことにつながるだろう。実際、多くの金融機関が、今回のCOVID-19流行下でも、サステナビリティ優良企業が高い投資パフォーマンスを示した点、また混乱からの高い回復力が期待できる点を指摘している。

3.Waste 経済活動に潜む二重のムダ
~企業と環境・社会の双方にとっての「最適解」を導くサステナビリティ・トランスフォーメーション

COVID-19感染拡大による経済活動の制限下で、企業も消費者も、自身の日常に当たり前のものとしてムダが埋め込まれていたこと、そしてそのムダが、環境・社会に対してムダな負荷を与えてきたことの「二重のムダ」に気づくことができた。例えば、ビジネスにおいて、対面での会議が必ずしも従来ほど必要ではないことが広く認知された。また、出張による航空機利用に伴う温室効果ガス排出も決して小さいものではなく、ムダな出張を削減すれば、環境負荷は大きく改善する。

そしてもう一つ我々が得た教訓は、こうした削減「できない」と思っていたムダも、削減「できる」ということである。その最たる例の一つが、リモートワークである。COVID-19流行前まで多くの人がリモートワークは難しいと考えていたが、COVID-19感染拡大防止のためにそうせざるを得ない状況になったことで、想定以上に様々な職場で実現可能であることに気づいた人は多いであろう(当然その妥当性については、今後検証が必要ではあるが)。

COVID-19感染拡大を受けて、改めて自社の「ムダな経済活動」と、その「ムダな経済活動」が環境・社会に与える「ムダな環境・社会負荷」という、企業と環境・社会双方にとっての「ムダ」の存在が明らかになり、またこれらを同時に削減することが可能であるということが明らかになった。

そして、今後、デジタル技術の活用によって、この「二重のムダ」の同時削減がより広がっていく可能性がある。デジタル技術と手を携えることにより、「ごみの分別」や「オフィスの電気消費の削減」といった従来型の細かな活動の積み上げから、調達やオペレーションの在り方、ビジネスモデルすべてにおいて企業と環境社会、双方にとっての「最適解」を導く「サステナビリティ・トランスフォーメーション」に主軸が移ってゆくと予想される。PwCでは、現在、こうした最適解を導くための数値化モデルの開発を進めている。

サマリー

ここまで、COVID-19によって明らかになった3つの課題について述べてきた。これらを踏まえて、企業は以下3点を考慮しなければならない。

第一に、サステナビリティをコアビジネスと切り離して考えている企業は、自社の経営戦略の中核に組み込むことを、検討する必要がある。サステナビリティに表面的に取り組むだけでは、予期せぬ非難に曝されるおそれがある。真のサステナビリティ企業を志向することが求められる。

第二に、自社を取り巻くサステナビリティ・リスクを特定し、それに対応できているか、見直す必要がある。感染症以外にも、気候変動による気温上昇や自然災害などのように、その変化が緩慢であったり目に見えにくかったりするがために対応が先送りにされがちであるものの、企業に甚大な影響を与えうるリスクは多く存在する。自社にとって重要なサステナビリティ・リスクを特定することは、サステナビリティを「自分事」として捉えることにも繋がり、真のサステナビリティ企業への一歩と言えるだろう。

最後に、自社の経済活動にとっても、環境・社会にとってもムダとなっていることはないか、改めて確認する必要がある。あるいは、ムダとわかっていながらも、そのムダを削減「できない」と思い込んできたことの中にも、実は削減「できる」ことがないかを確認する必要がある。本来のサステナビリティとは、経済性を犠牲にして環境・社会に配慮することではない。企業は、経済活動と環境・社会の双方にとっての最適解を導くことを志向しなければならない。そうした真のサステナビリティを追求するために、デジタル技術も活用した「サステナビリティ・トランスフォーメーション」をムダの削減と同時に検討する必要がある。

※本稿は、一般社団法人日本百貨店協会が発刊する月刊誌「JDSA e-Journal」7月号掲載のコラムを転載したものです。

主要メンバー

上田 航大

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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