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2022-01-12
鼎談前編では、水族表現家である二木あいさんの経験から、世界と対峙する上で大切な心の在り方、環境問題や社会課題を自分ゴト化してもらうための伝え方の重要さについて伺いました。鼎談後編では、二木さんが体験した水中でのリアルな体験をベースに、環境問題やサステナビリティと私たちがどう向き合っていくべきかを、より深く掘り下げていきます。
鼎談後編にも、PwCコンサルティング合同会社ディレクター・髙木健一、シニアアソシエイト・安藤緑が引き続き参加。パートナー・武藤隆是がファシリテーターを務めました。
鼎談者
水族表現家
二木 あい氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
髙木 健一
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト
安藤 緑
(ファシリテーター)
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
武藤 隆是
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
二木あい写真展「共に生きる」会場(主催)のインスティトゥト・セルバンテス東京で撮影
水族表現家 二木あい氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙木 健一
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 安藤緑
武藤:二木さんの活動やメッセージからは、環境問題や企業のサステナビリティ経営にも多くの視座やヒントをいただくことができます。そこで鼎談後編では、その二つの問題にさらにフォーカスしながら議論を深めていきたいと思います。
髙木:二木さんは海の中でリアルに環境問題と向き合っていますが、潜った時に、環境破壊の様子や影響を目にするケースは多いのでしょうか。
二木:世界的に問題視されているプラスチック問題はやはり実感しますね。自然からできたものは必ず自然に戻りますが、人間が作り出したものは、完全には戻りません。水の中に人間が作り出したごみがたくさんあったり、人が生活している場所から数百キロ先の海でも風や潮の流れでごみが漂流したりすることは本当によく起こっていますし、実際目の当たりにしました。
私は一時期、人間である自分が水に入ること自体、海を汚しているとしか感じられない時があって、肩身が狭く、説明し難い思いをしていました。ただ、そうは言っても人間であることは変えられないですし、行動しないと何も進まないので、自分ができることから始めています。もちろん、急に全てがよくなることはないと思いますが、私たち一人ひとりが地球環境を自分ゴトと捉え、自分の行動に責任を持ち、自分から生まれる影響を踏まえた上で生きていかないといけないと強く思います。
髙木:日本人はサステナビリティに対する意識が高くないという声を耳にすることがあります。欧米と比較して感じられるギャップはありますか。
二木:日本においては「人と同じであるべき」という感覚が強く作用し、サステナビリティへの意識がなかなか高まらなかったというのが私の考えです。例えばレジ袋1つとっても、有料化以前は包装することがサービスであり、しないすなわちサービスを受けていない、もしくはサービスを提供していないと思われてしまうという同調圧力のようなものがあったと思います。ここからは企業側が考えるべき「なぜそのサービスを提供するのか」という大事な前提・ポイントが抜け落ちてしまっていたように感じます。
武藤:日本人の環境やサステナビリティに対する意識について、留学経験のある安藤さんは外国と比較してどう感じていますか。
安藤:私の印象ですが、若者のほうがサステナビリティに対する意識は世界的に高いと思われがちですが、日本の場合、そうではないように見えます。50代以降の年齢層のほうがサステナビリティを考慮した出費をいとわない傾向にあるというか。若者が持続可能性の高い商品よりも安いものを選択する傾向があるのは、意識の問題もありますが、経済格差といった構造の問題も一因であるという印象も受けます。
二木:なるほど。確かに経済格差の側面は否定できませんね。ただ米国であれば低所得層と富裕層では利用するスーパーマーケットも違いますが、日本は富裕層であっても、「1円でも安く」という意識があるように見受けられます。海外は生活の質が大事という意識があって、そこにはしっかりとお金を使う傾向にあるという印象を抱いています。スペインなどは特に、自分の生活を高めるために働いているという価値観が根強いです。
髙木:ちなみに、二木さんと所縁の深いスペイン語圏の方たちは、地球との共生についてはどのような意識を持たれているのですか。文化の違いから環境問題やサステナビリティに対する意識にも違いが生まれるのか、とても気になります。
二木:意識は人それぞれだと思いますが、スタンスとしては、たとえ今サステナブルなことができていなくても、方法を伝えると、受け止めて行動に移すという傾向が強いと思います。知らなかったことに後ろめたさをあまり感じていませんし、これまでと違うことをやる心理的ハードルが低いです。
また、分からないことには分からないとしっかり言います。そして他人の声に耳を傾けます。分からないことを知ろうとして、聞いて、見て、質問する。そうすると理解が深まるし、そうなると次は目に入ってくるもの、自分から出る発言や意識が変化します。彼らの意識を高めるためのコミュニケーションプロセスからは、大いに学ぶところがあるのかもしれません。
髙木:現在、世の中では価値観のグレートリセットの必要性が叫ばれていますが、そこに必要な対話の方法論やスタンスが、スペイン語圏には土壌としてありそうですね。
全く新しいことを理解・意識し、行動に移すための対話プロセスというのは、日本社会でも重要な論点かもしれません。企業経営においても、サステナビリティ経営やパーパス経営を実現する上では、既存の価値の枠組みとは全く異なる視点を持たなければなりません。地球環境や社会に対する責任を考えていくことを、利益の追求と両輪で検討していくという意識の変化が必要です。社会では、それを実行に移されている様子を既に垣間見ることができます。
例えば小売店がお客に買い物袋を渡さないという試み。たくさん買わせないというのは、従来の常識から見ると儲からないので否定されるでしょうが、環境に配慮しつつ長くビジネスを続けて社会の役に立つというパーパスを突き詰めているので、ブランドとしてはとても強固になります。効率主義からすると一見遠回りなのですが、長期的に見ると、その価値の高まりは他の追随を許しません。
情と利をまず分けて考えて、サステナビリティへの向き合い方を模索するというアプローチも存在します。環境問題に対するコミットは世界的なアジェンダですから、絶対に必須。問題は、それを踏まえた上でビジネスとして成立させられるかです。実際にサステナビリティ要素を組み込んだブランドをローンチして試し、売れ行きを比較して、サステナビリティであるほうがビジネスとして成功すると確信した上で全世界で商品を展開するという方法を採用している企業も存在します。ステークホルダーの声に耳を傾けながら、サステナブルな自社と社会作りを行っていきたいですね。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 武藤隆是
武藤:二木さんは、日本企業がサステナブルな社会作りにさらに貢献するために、他にどのような施策があると考えられますか。
二木:業界をリードするような力を持った企業が率先してサステナビリティ経営の在り方を従業員や消費者に提案することで、いずれ社会の空気や価値観をも変えていけるのではないでしょうか。日本には元々八百万の神というような世界観があって、ダイバーシティを含む新たな価値観を受け入れる土壌があるはずです。
日本人や日本の文化は、元々サステナブルだったことも忘れてはならないでしょう。「もったいない」をはじめとする概念や習慣、災害時やコロナ禍における規律正しい行動。海外から見ると、なぜ自律的によい行いができるのかが信じられないくらいです。また日本人はとても繊細で、他の国々では思いもつかないような技術や解釈を世に送り出すこともできます。そういう強みを生かすことで、ビジネスとサステナビリティを両立できる競争力ある企業が生まれるのではないでしょうか。そして、そういう企業が活躍することで、世界によい影響を及ぼすことができると思います。
武藤:外部からの声や圧力に同調し過ぎず、元々は自然と共生していた日本ならではのストーリーを大事に歩んでいくことが、日本企業の未来にとって大事になるという示唆も含まれていると感じました。
二木:はい。西洋は自然災害や地震があると、力でどう押さえ込むかを考える。日本は自然に対抗したところで太刀打ちできないことを理解しているから、自然とどう共に生きるかということを考える。まさにサステナブルに生きてきたのです。そういう歴史や文化を再考すれば、企業経営にもきっとヒントが見えてくるのではないでしょうか。
髙木:二木さんは今後、どのようなことを伝えたい、もしくはやろうと考えていらっしゃいますか。
二木:私は水の中に入らないと何もお伝えできません。今こうやって陸上でお話ししているのも、水中での体験があってこそ。これまでは年間の3分の2は海にいましたが、コロナ禍でなかなか動けない時間が続いています。今はとにかく水に帰してほしいと切望しています(笑)。海に帰ったら、きっとまた何かが生まれてくるはずです。
また、何かを伝える時に一人の力だけでは限界があるため、より多くのコラボレーション、プロジェクトをやっていきたいと強く思います。そこに関わる皆さん各々に専門分野があり、そういったプロフェッショナルが集まることで新たな化学反応が生まれると思うからです。自分一人では思いもしなかった新たなことが生まれるんじゃないかと。私は自分のマネジメントが上手いわけでもありません。より多くの方にメッセージを伝えていくためには、見ている方向が同じ企業の皆様と協力していきたいとも考えています。
武藤:企業目線で考えると、二木さんのような体験や発信をされている方をレバレッジするという発想もあってよいと思います。私たちは経営者とも仕事柄よく接しますが、二木さんのような稀有なご体験は多くのインスピレーションを与えるのではと思います。
二木:もしそうならとてもうれしいですね。それと、もし機会がありましたらぜひ皆さんに素潜りを経験していただきたいですね。素潜りでは、ものの30秒で否応なしに自分自身と対面します。水中では呼吸ができない私たちが生きられない世界、体験したことのない知らない世界に足を踏み入れ、死の恐怖に直面するからです。私たちは、知らず知らずのうちに自分で自分の可能性を閉じてしまう傾向にあります。自分自身で作り上げた壁を破れるのは自分以外に誰もいません。壁の高さや厚さは一人ひとり違いますが、知らない世界に行く体験ができるというのは、思考の鍛錬という面でも非常にプラスだと考えています。
私の話を聞いた方々は「素潜りで6分間はすごい」とおっしゃいますが、人間には元来、その力が備わっている。安定を求める脳が、そうした能力を止めてしまっているだけなんです。
自分が「できない」と思い込んでいる壁は、いざやってみると何が問題だったのかさえ忘れるくらい実は何でもない。問題や壁は乗り越えるもの、壊すものという感覚を素潜りから学びました。遠くにある壁はすぐには乗り越えられないですけど、目の前にある一つ一つにフォーカスし、確実に着々とやっていくうちに、いつの間にかゴールにいるという感覚ですね。おそらく企業で働く方々も同じではないでしょうか。他者と比べるのではなく、いかに自分に集中して壁に向き合うか。そこで成果が出るのです。
髙木:パーパス経営をはじめ、自社の存在意義を考えて再発見するという企業の姿勢にも言い換えられそうですね。リーダーシップについても、オーセンティックリーダーシップという概念が最近、注目を集めています。これは、自らの信念や価値観をベースにリーダーシップを発揮して他者とコラボレーションしていくことを指します。素潜りで得られるような「自分にだけ向き合う瞬間」は、企業経営やリーダーシップを形作る上でも貴重な機会なのかもしれません。
武藤:自分たちがどういうことをしたいか、自分たちの顧客が何を課題と感じているかに目を向ける。イノベーティブな要素をキープして突き抜けるためには、まず自分に集中することが大事ということですね。
二木:そう思います。個人や企業に関係なく、それまで見えていなかった自己と向き合うことが何よりも大事です。
武藤:本日は貴重なお話しをお聞かせいただき、ありがとうございました。
「幸福」や「ウェルビーイング(Well-being)」が世界的アジェンダになりつつある現在、企業は顧客をはじめとするステークホルダーと、「幸せ」を起点とした長期的かつサステナブルな関係性構築を求められています。
PwCコンサルティングが提唱する新時代のマーケティングコンセプトおよびアプローチである「幸福度マーケティング」「WX(Well-being Transformation)」にまつわるインサイトを提供します。