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2022-01-05
幸せやサステナビリティを起点とした新たな企業経営が世界的なアジェンダとなる中、多くの企業がその答えを求め日々、模索・葛藤を続けています。根本的な価値観の変化が見られる時代において、企業や個人はどのように自分、そして世界と向き合い、社会に価値を提供していけばよいのか。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)で「幸福度マーケティング」を含む企業のパーパスドリブンなブランディング・マーケティングをはじめ戦略マーケティング領域を担当するマーケティングチームは、そのヒントを得るべく、水族表現家として自然との共生やありのままの自分であることの大切さを発信する二木あいさんをお招きした鼎談を企画しました。日本社会での違和感をバックボーンに世界で学び、そして自ら発信すべき明確なメッセージにたどり着いた二木さんの経験には、個人や企業がパーパスをもとに生きる上で重要なこと、また幸せやサステナビリティを実現するための示唆が多く含まれているはずです。
今回の鼎談には、PwCコンサルティング合同会社ディレクター・髙木健一、シニアアソシエイト・安藤緑が参加。ファシリテーターをパートナー・武藤隆是が務めました。
鼎談者
水族表現家
二木 あい氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
髙木 健一
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト
安藤 緑
(ファシリテーター)
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
武藤 隆是
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
二木あい写真展「共に生きる」会場(主催)のインスティトゥト・セルバンテス東京で撮影
武藤:鼎談前編では、海の世界を伝えるプロフェッショナルである二木さんの活動をお伺いしながら、企業活動にも生かせる示唆を探っていきたいと思います。二木さんは素潜りのギネス世界記録を2つ樹立され、また水族表現家として世界中の海を舞台に、水中の魅力とあるがままの姿を写真や動画などさまさまな方法で発信する活動を続けていらっしゃいます。活動を始めるに至ったきっかけや原体験はどのようなものだったのでしょうか。
二木:私は石川県出身で、小学校はミッションスクールでした。そこで、日本人、外国人という違いがあることを頭で理解する以前から、ごく自然に外国の子供たちと学び、遊び、生活するという幼少期を送っていました。
その後に進学した中学校で、個性や多様性はないほうがよい、もしくは周囲の空気に合わせることが正しいという価値観に縛られる、小学校とは全く異なる環境で違和感を募らせる日々を過ごすことになります。そのころから、「何かがおかしい」「変えなければ」という思いを強く抱くようになりました。
高校から本格的に海外留学を希望していましたが、家族の意向もあり、1年間の交換留学という形に落ち着きました。私が留学したのはカナダ・ケベック州の都市モントリオールです。人種のるつぼで、学校には移民が多く通っていました。公用語や授業はフランス語なのですが、休み時間や放課後には皆、それぞれの言語で生活します。その多様性の在り方や、それぞれの違いに感化され、同時に、世の中に何かを伝えるべきだという気持ちが膨らんでいきました。
武藤:カナダでの生活を通じて、個性や多様性の魅力や可能性をあらためて感じるに至ったと。
二木:そうですね。何かを伝えるための手段として、学生のころはドキュメンタリー映画の監督を志望していました。見る、聞く、読むなど、できる限り五感を使って感じ取ったものを作品として昇華できる職業だと考えていたからです。ただ、物事の真実は相対的ですよね。同じものでも、見る方向が違えば答えも違ってくる。真実を追求する仕事を職業にした時、いずれ嘘を本当だと言わなければならないかもしれない。私には絶対にそれができないと悩み始めました。
高校卒業後はキューバで学んでいたのですが、日本で祖母が亡くなったことをきっかけに日本に一度帰国することになりました。21~22歳のことです。その後、いろいろなことが重なり、全てが嫌になったのでしょうね。コンタクトを一切断ち切り、誰とも連絡を取らず、自分の内側にこもりました。ただ数カ月経って、これで一生を終えてはだめだと思い始めた時、なぜだか分かりませんが、直感的に「水に帰ろう」と。
私は物心がつく前から水泳をやっていたこともあり、元々水の中にいることに全く違和感がありませんでした。水に関することで、それまでやったことがなかったのがスキューバダイビングでした。当時、世界で一番安く資格を取得できるのがホンジュラスでした。私はいったん決めると即行動に移すので、翌週には日本を発っていました。
武藤:水に帰ろうと直感で決めた後、実際にスキューバダイビングを始めてみて、どのような思いを抱かれましたか。また、ギネス記録に挑戦したり、水中での作品を生み出したりするに至ったプロセスはどのようなものでしたか。
二木:スキューバダイビングで全身、頭の上までどっぷり水に浸かった時、「私の居場所はここだ」と確信しました。そこから私の「水中人生」が始まるのですが、徐々にまた違和感が生まれてきます。スキューバダイビングは、水中に長く滞在して生物を観察するには最適だと思いますが、息を吸うと音が出て、吐くと音と泡が出てしまい、それらは水中に普段は無いものなので、動物たちは怖がり、逃げてしまいます。彼らの中に同時に入っていくことができなかったのです。日本や陸上にいたころの疎外感を海の中でも感じて落胆していましたが、水中は自分の居場所だという確信は変わらなかったので、水中で映像を撮影し、真実をここから発信していくんだと確信していました。
スキューバダイビングで水中を撮影する映像家は数多く、世界でトップ水中映像家としての生き方を実現していくのは米粒ほどの狭き門でした。他人がやらないことをやらなければならないと模索していた時、たまたま友達に誘われたのが素潜りでした。
何の気なしに体験した素潜りでしたが、全てが1つにつながったのです。素潜りは一息で潜るため大きなカメラを持ち込めない。まただましが利かず、本当に自分の肺、自分の力一つで世界と勝負できると確信しました。私が伝えたいのは「共に生きる」という世界観でしたので、水中の自然世界や水中に住む生き物だけではなく、同じように水中に入っていく素潜りの被写体も共に写したいと思ったのですが、自分が求めるような方になかなか出会えず……。最終的には自分が被写体になることを含め、その道を切り拓かなければという結論に至りました。
ただそこで名のない一個人が何かをやったところで、自己満足で終わってしまいがちです。今みたいに、個人で発信し、世界に届くというほどSNSは発達していなかった当時、誰もが知るギネス世界記録で世界新記録を樹立し、肩書きを得たら発言・発表できる機会があるのではないか、ということでギネス世界記録に挑戦しました。記録というものはどんどん更新されますが、世界初という称号は最初に獲得した人だけが一生ずっと持っていられるものです。誰もやったことがない「洞窟の中を一息で泳ぐ」という種目を作り、挑戦、成功しました。
水族表現家 二木あい氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙木 健一
髙木:ギネス記録を最初に獲得したというのは、ブランディングやマーケティングの観点からもとても分かりやすいですね。私たちも企業をサポートする中で、分かりやすく何かを伝えるということはすごく意識しています。二木さんは直感に従って生きてこられたのかなという印象を抱きましたが、結果的にマーケティングのセオリー的にも妥当なことをやられている。他者がやっていないからだめだと切り捨てるのではなく、チャンスと捉える思考も、とても示唆に富んでいると感じました。
また、二木さんは絶対に幸福度が高いというのも私の印象です。幸福学研究の第一人者である慶應義塾大学大学院の前野隆司先生が、幸せを導出する要素として「やってみよう!」因子、「ありがとう!」因子、「なんとかなる!」因子、「ありのままに!」因子からなる「幸せの4因子」を提唱していますが、二木さんは全て持っていらっしゃいますね。
二木:自己分析すれば、確かにそういう因子はあるのかもしれません。これまで何度か開催した写真展で、自分が撮影者として素潜りで写した作品群の題名が「中今」なんです。ここには、未来でもなく過去でもなく、今に生きることが大事だというメッセージを込めています。いくら後悔しても、過ぎ去った過去は変えられない。反対にいくら未来を考えても知ることは叶わず、そこから不安や恐怖が生まれます。今に集中することで、それ相応の未来が必ずやってくると常に心に思って行動しています。
武藤:幼いころからそういった心持ちで生きてこられたのでしょうか。
二木:感覚的にはそうだと思います。ただ最近では、自分の心の持ちようや伝えたいことを言語化する重要性も感じています。ターニングポイントは、『TED』でプレゼンテーションを行ったことでした。なぜ、何のために、どうして潜っているのか、自分がはっきりと理解していないと相手にも伝わりません。出演をきっかけに、より多くの方に考えをしっかりと伝えるために、自分の中で答えを模索しながら言葉にしていくことを心掛けるようになりました。
私が今、伝えたいことは「人と違ってよい」ということです。そして、人と違うことを怖れず、本当に自分がそうだと信じることは、反対されてもやり抜くべきだということです。もう1つは、素晴らしい個性が私たち一人ひとりにあり、誰一人として同じ人間はいない。他と比べるのではなく、自分自身に自信や誇りを持ってほしいということ。芯がないまま外部に答えを求めても、ふわふわし、流されてしまうだけ。本当の意味で満たされることはないと思います。外からの助けも必要ですが、大事なのは自分の内側に深く潜った際に見つかる「何か」であるということを伝えたいです。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 安藤緑
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 武藤隆是
髙木:自信という言葉が出ましたが、内閣府がまとめている世界比較の調査で、日本の子供の自信が低いという数値が出ています。自信と幸福度には相関性があるという研究もありますし、自分なりの考えを持つということは自信とつながっているのかもしれません。
安藤:私は米国やスペインへの留学経験があるのですが、留学先で出会った外国の友人たちは日本人と比較すると個性をより大事にしており、かつ自分らしく生きているという印象を受けました。一方で、実はそれほど能力には差がないということにも気付かされました。二木さんは、海外で過ごす経験の中で、海外と日本との違いは何であると感じられますか。
二木:日本人は、自分の意見・意思をしっかりと伝えたり、状況に応じて臨機応変に対応したりということが少ないと感じます。周囲に同調することはあっても、流されることは決してハッピーではありません。それが習慣化されると、人生を何となくこなすことが普通になってしまいます。
安藤:自分の考えより他者の考えという基準は、企業にも置き換えられると感じます。例えばサステナビリティ推進1つ取っても、そもそも内から湧き出る意思を持ってしっかりと取り組んでいる企業は多くないのではないかという印象を抱いています。国内市場や消費者の関心が高まっていないうちは手を付けなくてよいという、他者の出方を伺うスタンスがあるように思うのです。
武藤:本来であれば、自分たちの中に伝えるべきコアがあり、それとSDGsを対比させて正しい解を導き出すことが必要だと思います。企業活動もそうですが、他者に伝えたいメッセージを正しく上手に伝えるためには、世の中の流れに反応するだけでなく、そこに自分なりの答えを見つけていないと難しいということですね。正直、地球や環境の問題は複雑で、人間が理解し切ることは到底できないと思います。そこでは、何よりまず、知ろうとするスタンスや心構えが大事になるのかなと。周囲の様子を伺って答えが出るまで動かないでは、何も始まりませんから。
二木:日本社会に共通するものの一つとして、答えを他者から教えてもらおうとする傾向も感じます。答えやゴールは、プロセスの先に結果としてあるもの。本当はその道のりが一番大事だと思います。そこを飛び越えて、できるだけ早く答えに行きたいという欲が強いように感じますね。
安藤:二木さんがおっしゃる「答え」というのは「定義」とも言い換えることができると思います。幸福の定義が日本では限られている感があり、海外のほうが幸せの在り方が多様な気がします。他者と比較して自分は幸せかそうではないかを考えているのと、自分の中の幸せをもとに生きているのの違いとでも言いますか。
髙木:前野先生によると、幸せにはお金持ちになるとか「他者と比較するタイプ」のものと、「自分の中にあるもの」とで別れるそうです。前者には持続性が低いという特徴があり、幸せが長くはもたない。一方、後者は、自分がこうしたいと思ったらそれを突き詰める傾向にあるので、それが幸せの持続度、ひいては幸福度にもつながるのかもしれません。
武藤:今のお話しはまさに、二木さんが伝えたいこととつながりますね。成績や学歴、お金などには皆、興味がありますが、元来内発したものかというと必ずしもそうではない。自分を振り返る時間を持てば、何が自分にとって幸せなのかが初めて見えてくるのかもしれません。企業も同じで、株主やコンサルタントに言われたとか、他の企業がやっているからとか、外発的な動機でアクションを起こすことが少なくないのですが、そうではなく自分たちは何をなすべきか、何ができるかを内省して、パーパスに基づいてアクションすることが、自分のみならず他者や社会にポジティブな要素をもたらすのかもしれません。
二木:答えが分からないまま模索することや、やりながら考えるというのはすごく時間の無駄だと思われがちなのですけど、最終的には一番の近道だと私は思います。そして大事なことがもう1つ。私自身の活動や発信しているメッセージは、解決策ではないですし、それを強制しようとも思っていません。私は、水中から淡々と皆さんにシェアし、後は皆さん次第と委ねます。自分以外の何か、誰かを変えようとするのは自分のエゴでしかないと思うので。
二木:少し話はそれますが、実は昨年まで、私は自分のことを「水中表現家」と紹介していました。しかし、それだと何もない水中で私一人が好き勝手やっている感じがどんどん強くなると思いまして。「水族」としたほうが、水の中の生き物たちの輪に私も入り、彼らの一員となるイメージが浮かびます。小さなことかもしれませんが、伝えるということは自分をどう解釈してもらうかということと同義であるので、伝え方や見え方は強く意識するようにしています。
髙木:二木さんは言葉1つ1つに対してすごく丁寧に考えられていますね。自分の体験を社会課題とリンクさせながら伝えることがコンサルタントにはよくあるのですが、聞き手にはギャップや話の飛躍(ジャンプ)があると捉えられるかもしれません。伝え方で工夫されていることが他にあれば教えていただきたいです。
二木:やはり最も大事なのは自分ゴト化させられるか否かではないかと思います。例えば「環境」というキーワードが出ると、多くの人が「外部」環境を想像し、守らないといけないものと捉えがち。しかし実際は私たちもこの地球に住む一員ですし、内部の問題であり自分の問題なのです。
私の活動が、皆さんが地球を自分ゴト化するための「最初の種植え」となれればよいなと願っています。地球や自然、違う種族との枠を超えたつながりを、普段の生活で感じたり考えたりする機会はなかなか無いかもしれませんが、それを皆忘れてしまったわけではなく、実は感じることができる。そういう一人ひとりの奥深くにある真の部分を呼び起こすことができれば、何かが変わると信じています。考えて頭から変わるのではなく、心が変わらないと何も変わらないと思います。水中からの私の発信が陸上と水中の架け橋になり、内側から発信される最初のインスピレーションになったり、心に積もったほこりを取ったりするきっかけになればよいなと思っています。
武藤:鼎談前編では、自分の中に答えを見つけることや自分ゴト化の重要さ、またそれが幸せにつながることについて議論を交わしました。鼎談後半では、水中でさまざまな体験をされている二木さんに、環境問題やサステナビリティ経営に対する示唆をいただきたいと思います。
「幸福」や「ウェルビーイング(Well-being)」が世界的アジェンダになりつつある現在、企業は顧客をはじめとするステークホルダーと、「幸せ」を起点とした長期的かつサステナブルな関係性構築を求められています。
PwCコンサルティングが提唱する新時代のマーケティングコンセプトおよびアプローチである「幸福度マーケティング」「WX(Well-being Transformation)」にまつわるインサイトを提供します。