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日本人の自信を高めて幸福度向上につなげるための教育の在り方

2021-07-13

「友情・努力・勝利」――。最初はか弱い存在である主人公が、ライバルや悪者を倒すために努力し、旅の途中で出会う仲間との友情に支えられて強くなり、最後に勝利する。これは、少年漫画の王道的なストーリーの構成要素です。この過程を、幸福度の観点から考えてみましょう。多くの場合、少年漫画では主人公の内面的な成長が、最終的な目標である勝利に結び付きます。敗北や仲違いといった挫折や葛藤を乗り越え、徐々に成功体験を積んでいくことで「自信」を身に付ける様子が描かれています。この「自信」により幸福度が高まり、成長に対するさらなるモチベーションが想起されることで、ライバルや悪者に勝利するという成功に結び付いていると考えられます。

実際、PwCコンサルティングが慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏と共に行った「全国消費者実態・幸福度調査2020」によると、幸福度と自信は密接に関係していることが分かっています。

図表1: 幸福度と自信・コンプレックス

本稿では、自信よりもコンプレックス(ここでは劣等感の意)のほうが強い日本人がどうすれば自信と幸福度を高められるかを、教育の観点から考察します。

日本人には自信の低い人が多い

日本人は自信が低い――。筆者の周りにもこうした印象を抱く人は少なくありませんが、このことはいくつかの調査結果から実際に示唆されています。

例えば内閣府の調査*1では、「自分自身に満足している」という質問に対し「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答した若年層(13歳~29歳)の割合は、日本が他国に比べて突出して低いことが分かっています。

図表2: 自分自身に満足している人の割合

全国消費者実態・幸福度調査2020」においても、日本全国の15歳~79歳を対象に調査しましたが、いかなる項目においても、自信を持つ人よりもコンプレックスを持つ人の割合が多いことが分かりました。

図表3: 日本人の自信・コンプレックス

「ハイコンテクストな空気読み文化」が、日本人の自信が低い一因である可能性

なぜ日本人は自信が低いのでしょうか。筆者は、文化的な背景が大きく起因していると考えています。異文化間のさまざまな違いを比較したエリン・メイヤー著『異文化理解力』によると、日本はコミュニケーションにおいて非常に「ハイコンテクスト」な文化だということが分かります。つまり、「阿吽の呼吸」でメッセージを伝え、行間から相手の伝えたいことを読み解くという特徴があるのです。反対に「ローコンテクスト」な米国をはじめとする国々では、メッセージはシンプルかつ明確で、額面通りに受け取るという特徴があります。

図表4: コミュニケーションの異文化間の違い

ハイコンテクストな文化圏は、長きに渡る歴史を持っており、共通点や暗黙の了解があることを、無意識的に前提とします。中でも日本は、数千年に及ぶ歴史を単一民族で共有しており、他の国との交流がなく閉ざされた状態も長かったため、お互いのメッセージを汲み取る能力に長けるようになったと考えられます。

このような文化的背景から、他人と異なる意見を堂々と主張する諸外国と比べ、日本は、無言でも相手のことを理解し、空気を読んで周りの人に合わせる協調性が発達したのではないでしょうか。謙虚な姿勢で自分の秀でた部分を隠すことによって、相手に劣等感を感じさせない敬意の表現の仕方も、ハイコンテクスト文化ならではの慣習と言えるでしょう。主張する機会が乏しいまま成長し、幼いころから暗黙のうちに協調性を学び謙遜文化に生きることで、人々は無意識のうちに自身を過小評価してしまい、ひいては、自信を失ってしまうことにつながっている可能性があるかもしれません。

日本人の自信を高めて幸福度を高める手掛かりとなる「やってみよう!」「ありのままに!」因子を伸ばす教育の在り方

『異文化理解力』では、教育について「その国の文化が持つ傾向を極端にまで体現した個性を生み出すもの」としています。日本の教育は、よい意味でも悪い意味でも「横並び」を是とする、とのステレオタイプがあると筆者は考えますが、これが前述のハイコンテクストな文化をより際立たせる社会的装置となっていると言えるかもしれません。

日本人、特に若者の自信を押し上げるためには、何が必要でしょうか。ここからは、教育における幸福度向上の可能性を考えます。筆者は特に、前野氏が提唱する「幸せの4因子」のうち、「やってみよう!」因子と「ありのままに!」因子に着目しています。

前述の内閣府の調査では、「自分に長所がある」と考える割合は、日本人が最も少ないことが分かっています。長所があると考えることは、自らによいところがあると自覚している状態です。つまり、今のままでよいのだ、自分を表現してよいのだという「ありのままに!」因子が満たされた状態であり、何か新しいことにリスクを負ってでも挑戦しようという「やってみよう!」因子も触発される状態であると考えられます。

図表5: 自分には長所があると思っている人の割合

長所があるとの自覚を持つ人数が特に多い米国の教育に目を向けると、決まった答えのないテーマについてのグループディスカッションやワークショップを積極的に取り入れているのが特徴として挙げられます。その中で児童・生徒たちは「ありのままに!」自分を表現することや、「やってみよう!」という気持ちでトライ&エラーを繰り返し、結果的に自信が育まれているのではないかと筆者は考えます。

では、日本人が自信を高めるにはどのようなアクションが求められるでしょうか。筆者は、「アクティブラーニング」の導入が一助になるのではないかと考えています。新学習指導要領にも登場するこの言葉は「主体的・対面的で深い学び」とも呼ばれる学習スタイルを指します。生徒同士でディスカッションをし、意見を交換しながら答えを導いていくのが特徴のこの手法が、学校教育で本格的に取り入れられようとしています。

自分の考えを発信し、相手の意見から学び、学習理解を深めていく過程を繰り返すことで、思考力や表現力、協調性などを主体的に高めていくことが期待されます。間違いを恐れず発言をし、相手から認められることは「やってみよう!」因子や「ありのままに!」因子を育み、自分自身の長所の自覚や自信の芽生えにつながるのではないか――。こうしたアプローチが日本人の幸福度を高める可能性は大いにあると、筆者は考えています。


本稿では学校教育に焦点を当てて、教育を通じた自信の獲得と幸せの実現について論じました。上記で述べた内容は、企業経営、つまり従業員教育の文脈でも適用可能です。従業員の自信ならびに幸福度を高めることで従業員の付加価値が高まり、業績向上にもつながると考えます。従業員の自信に着目して社内教育やマネジメントを組み立て、それにより従業員の幸福度が高まれば、生産性や創造性が高まり、ひいては業績アップにも寄与する可能性は大いにあり得ます(「イノベーティブ人材獲得の要となるウェルビーイングの視点」参照)。

大きな変革の実現にはどうしても時間が掛かりますが、それを下支えするのは現場の理解力と実行力です。何かを変革する際、トップの掛け声は必要条件ではありますが十分条件ではありません。現場が緻密に一枚岩となって、トップの意思を体現できるか。つまり実行する力を備えていることが、変革の成功を大いに後押しします。こうした力の源となるのは、「この企業の仲間たちと頑張りたい」「仕事を通じて自分を高めたい」「社会をよくするような仕事をしたい」といった健全なモチベーションでしょう。従業員をマーケティング志向で分析・理解し、適切な施策を設計して従業員の幸福度を高め、結果的に生産性や創造性を高める「従業員向け幸福度マーケティング」のアプローチが、企業に好循環を促すきっかけとなるかもしれません。

*1:内閣府, 2018. 「令和元年版 子供・若者白書(全体版)」
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/pdf/b1_00toku1_01.pdf

執筆者

髙木 健一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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高橋 未華

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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