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イノベーティブ人材獲得の要となるウェルビーイングの視点

2021-06-24

現在の職業のうち47%は人工知能(AI)やオートメーションに代替される――。カール・ベネディクト・フレイとマイケル・A・オズボーンが2013年に著した論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」*1が世界に衝撃を与えてから8年。コロナ禍による急速なデジタルシフトも相まって、その予測のリアリティは当時よりも格段に高まりつつあるのではないでしょうか。例えば、人件費の固定費としての負担が大きい大手金融機関では、AIやRPA(Robotic Process Automation)を活用して業務を効率化し、低付加価値業務を極力減らしてスリム化し、人材をリスキルして新規事業創出などの高付加価値業務へシフトしようとする動きが、もはや当たり前になってきています。

高付加価値業務を行える人材にリスキルすることは簡単なことではありませんが、企業経営においては、今後ますます必要となるであろうと筆者は考えます。本稿では、そうしたイノベーティブ人材とも呼べる従業員をいかに拡充していけるか、幸福度、ウェルビーイングの観点から考えます。

幸福度の高さは、生産性や創造性の高さに比例する

持続的な競争優位を構築するために、イノベーティブな人材をいかに獲得するかは、多くの企業にとって重要な経営課題でしょう。そのための切り口として、私たちは、従業員や採用候補者にとっての幸せやウェルビーイングに着目することが1つの解だと考えます。

そうした価値観の必要性は、労働者の視点に立つと見えてきます。転職や副業、ワーケーションが当たり前になりつつある昨今、企業から引く手数多であろうイノベーティブな人材は、自分が幸せを感じながら仕事に向き合うことができる、幸福を実現する上で最適な職場を選ぶことが考えられるからです。実際、学生のうちから希少性のあるスキルを獲得し、経験を積んで労働市場での価値を高めた新卒人材が、就職活動において他の新卒人材と横並びの役割や待遇を用意する企業に所属するのを避ける動きは、今に始まった話ではありません。

一方で、経営者の視点に立ってみても、幸福やウェルビーイングを軸にした採用や人材育成の必要性は見て取れます。幸福度の高い人材は創造性や生産性が高いことが分かっており、企業の利益に直接的に影響すると考えられるからです。
米イリノイ大学心理学部名誉教授であるエド・ディーナー氏らの論文によると、主観的幸福度の高い従業員の生産性は平均で31%、売上は37%、創造性は3倍高いという傾向が出ています*2。それだけでなく、OECD諸国の幸福度と1時間当たりの労働生産性の間には、一定の相関関係(相関関係0.64)がある*3ことも分かっています。「全国消費者実態・幸福度調査2020から見えてきた『幸福度が高い人のビジネス的な意味合い』」で論じたように、幸福度の高い人には、イノベーター理論で言うところのイノベーターやアーリーアダプターといった感度の高い層が多いことも見えており、もはや従業員の幸福度の高さが業績に結び付くと言っても過言ではないのかもしれません。

「幸せの4因子」から考える「幸せなイノベーション人材」獲得のための施策

幸福度に着目してイノベーティブ人材を増やすために、企業にはどのようなアクションが求められるのでしょうか。私たちは、2つの視点が重要であると考えます。一つは、従業員や採用候補者を、長期的な関係性を築くべき対象であるという「マーケティング志向」をもって接すること、もう一つは相手の幸福の実現を目的とした「幸せ志向」で扱うことです(マーケティング志向と幸せ志向については「地方創生における『マーケティング志向・幸せ志向』の必要性」でも論じていますので、合わせてご参照ください)。

ほしい人材要件を明確化し、その層にとっていかに魅力的な職場を作るかを考え、従業員の幸せにつながるような施策を打ち出す――。ここからは、企業が今日から実践できる「幸せ志向」に着目した取り組みを、幸福度マーケティングの共同研究者で国内幸福学の第一人者である前野隆司・慶應義塾大学大学院教授が発見した「幸せの4因子」の観点から考えます。

  1. 勤務時間のいくらかを、従業員がやりたいことに充てられるようにする
    「勤務時間のうちの〇%を、通常の職務を離れて自分のやりたいことに充ててよい」という施策を導入する企業が一定数存在します。これは、従業員の「やってみよう!因子」(自己実現と成長)を促すことが考えられます。業務時間の一定割合を、各従業員がやりたいことを自由にテーマに設定して仕事・研究を行うことに割くことで、モチベーションアップおよび新たな知見の習得やアイデアの発見につながるため、通常業務に対してポジティブな影響を与えることが期待できます。
  2. 「ありがとう」を贈り合う
    利他的な行為の授受は幸福度を高める因子(「ありがとう!因子」(つながりと感謝))として知られていますが、これを自然に作り出す社内制度を仕組み化する企業も存在します。社内で使用できる独自通貨や、ギフト券や商品と交換できる独自ポイントを、「ありがとう」のメッセージと共に贈り合うというものです。他者と共に働く中で生まれた感謝の気持ちを伝え合うことは互いの幸福度を向上させ、働く上での大きなモチベーションになり得ます。
  3. チャレンジを賞賛する制度・カルチャー作り
    チャレンジすることを推奨し、結果として失敗しても、チャレンジ自体がポジティブに捉えられ、個人の評価や組織の形式知に反映される風土作りです。新規事業の公募や立候補制のプロジェクトなどを実施し、そこに名乗りを上げることを賞賛するカルチャーは、「なんとかなる!因子」(前向きと楽観)を刺激し、新しいことに挑戦しようという従業員を多く生み出すことが期待されます。
  4. 人それぞれの働き方を尊重する
    昨今、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という単語を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。D&Iの実現、つまり、千差万別のワーキングスタイルや仕事に対する価値観を尊重する姿勢を経営層が打ち出し、例えば在宅勤務の導入や副業の許可といった施策に落とし込むことは、「ありのままに!因子」(独立とマイペース)として従業員の幸福度を高めることにつながる可能性があります。人それぞれの働き方を実現するために、情報共有システムをクラウド上に整備したり、バーチャルオフィスで従業員同士がコミュニケーションをとれるようにしたりすることも、従業員の幸福度を向上させるための環境整備の一例と言えるかもしれません。

私たちが2020年12月に発表した全国消費者実態・幸福度調査2020では、「変化・革新を好む」「リーダー気質だ」「大きな野心に幸福を感じる」「色々なことにチャレンジ」といったイノベーティブ人材に親和性が高いと思われる考え方・価値観を持った日本人は少数派であることが分かりました(図表1)。これらのみがイノベーティブ人材を示す要件というわけではありませんが、いずれにしろ、まずは欲する人材像を明確に定義し、従業員の幸福度や生産性を定期的にアセスメントし、結果を踏まえてそれらを高めるための施策を立案・実行・軌道修正するというPDCAサイクルを、データやエビデンスをもとに回していく――。言ってみれば「従業員向け幸福度マーケティング」を実践することで、従業員や採用候補者にとっての幸福やウェルビーイングとは何かが見えてくるはずです。

図表1 日本人の考え方・価値観

*1:Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne, 2013. ‘THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?’ https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf

*2:*1:American Psychological Association, 2005. ‘The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success?’ https://www.apa.org/pubs/journals/releases/bul-1316803.pdf

*3:ニッセイ基礎研究所, 2020. 「幸福度が高まると労働者の生産性は上がるのか?-大規模実験を用いた因果関係の検証:プログレスレポート-」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63388?pno=2&site=nli

執筆者

髙木 健一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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勝村 周平

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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石川 春奈

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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