PwC Global AI Studyの概要

2017-11-20

PwCは、これまでAIについて数多くの報告書を発表してきました。2017年9月に「Global Artificial Intelligence Study」[English]の結果をレポートにまとめましたので、本稿では、その概要について紹介します。

世界経済にAIが与える影響

AI技術は、ここ数年めざましい発展をしています。例えば、画像認識ではDeep Learningの進化により、ここ5年ほどで認識率は20%以上改善し、いまや、人間と同程度の精度になってきました。AIは、すでに、ビジネスのあらゆる場面での活用が始まり、今後、本格的な普及段階に入っていくとみられています。

「PwC Global Artificial Intelligence Study」では、2030年にAIが世界経済に与える影響は、15.7兆ポンドと予測しています。この値は、現在の中国とインドのGDPの合計を上回る大きさです。このうち、6.6兆ポンドは、生産性の向上、9.1兆ポンドは、パーソナライゼーションなどによる消費の増加によりもたらされます。

【図1】AIが世界経済に与える影響の推移(兆ポンド)

【図1】AIが世界経済に与える影響の推移(兆ポンド)

(出典:PwC analysis)

AIは、開発途上国が先進国を追い抜いたり、スタートアップ企業が10年後には市場のリーダーになったりといった、社会における順序変更をもたらす可能性があります。今後、AIをうまく活用できない組織は、自らの革新や、ビジネスモデルの再構築に遅れ、競争上の優位性を失い、最悪の場合は、消えていくかもしれません。

PwCは、Forbes社やフラウンホーファー研究機関とともに、300近いAIのユースケースを作成しています。従来のインターネット(Internet of People)に比べ、今後、物のインターネット(Internet of Things:IoT)の登場により、数倍のデータが生み出されていきます。これらのデータを用いて、これまで想像もしていなかったような自動化や人間のサポートが実現されていくでしょう。

地域別にAIが与える影響

「PwC Global Artificial Intelligence Study」では、グローバル動的経済モデルを用いて57の経済圏を分析しています。相互の貿易によりどのようなサプライチェーンが形成しているかを考慮しています。今後、北米と中国において、AIの影響が大きいと分析しています。

【図2】地域別にAIが与える影響

【図2】地域別にAIが与える影響

(出典:PwC analysis)

北米では、すでに、AIを活用した多くの生産性を高める技術が始まっており、今後さらに進展すると分析しています。GDPへの影響は、AI技術だけでなく、それを利用するためのデータ収集の進展、顧客分析など分析のアセット化が、AIの影響をさらに増大させます。北米では、今後数年で急速にAIが進展するものの、その後は、次第に伸び率は緩やかになっていきます。これは、中国でのAIの利用が進み、北米の進展を抑制するからです。中国では、少し時間をかけて、製造業における生産性の向上などにAIの活用が進み、10年後には、AIがGDPに対して大きな影響を及ぼすことでしょう。

業界別にAIが与える影響

「PwC Global Artificial Intelligence Study」では、AIが各業界に与える影響についても分析しています。

【図3】業界別にAIが与える影響

【図3】業界別にAIが与える影響

(出典:PwC analysis)

例えば、金融業界では、不正検知やAMLにおける利用、バックオフィスをはじめ、顧客接点における効率化にAIが活用されるでしょう。また、金融資産管理においても、投資アドバイスの高度化や、アルゴリズムトレーディングに活用されていくでしょう。また、AIが推測するデータの関係性を用いて、より高度なストレステストがなされるようになるかもしれません。

AIの本格的な活用に向けて

AIは、今後、さまざまな業界において、本質的な変化をもたらす可能性があります。5年、10年後には、市場リーダーは、これまで聞いたことのない企業になっているかもしれません。企業は、AIといった新しいテクノロジーを利活用するにあたって、人材、データ、技術の観点で準備を進めていくことが必要です。

ただし、AIの利用にあたっては、メリットだけでなく、そのリスクについても考慮することが必要です。例えば、AIが偏った判断をしたり、モラルに反する判断をしたり、説明のつかない判断をしたりすることも考えられます。また、判断に対する責任があいまいになるといった危険性もあります。出現する新しいリスクに対して的確にコントロールし、責任のあるサービスを提供することが求められます。

執筆者

熊田 淸志

シニアマネージャー, PwCビジネスアシュアランス合同会社

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。