「遊ぶ」:英国と日本におけるビデオゲームとeスポーツ―― 2つの業界の動向

英国のエンタテイメント&メディア業界の消費者が「遊ぶ」場合、ビデオゲーム(TVゲーム)とeスポーツという2つの業界が深く関わっています。この2つの業界は密接に関連しており、一括りに見られることが多いですが、実際には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響に違いがあり、ビデオゲーム業界とeスポーツ業界は、市場の規模や流動性、ビジネスモデル、将来の成功への道筋が大きく異なります。

図1:英国におけるビデオゲームおよびeスポーツの収益の成長(2016年~2025年)

  2016 2019 2020 2021 2025
英国におけるビデオゲームおよびeスポーツ(百万ポンド) 3,598 4,739 5,423 5,891 7,116
eスポーツ(百万ポンド) 12 27 30 37 65
ビデオゲーム(百万ポンド) 3,588 4,717 5,399 5,860 7,060

ビデオゲーム業界:ロックダウンの波に乗る

2つのどちらの業界にも良いニュースがあります。図1に示すように、英国のビデオゲームおよびeスポーツ業界全体の収益は、2020年に14.43%増加し、ほとんどの分野で2桁の増加を記録しました。これは、ロックダウン期間の延長により、物理的に離れていても人々が社会とのつながりを維持することを必要とし、遠隔地でも一緒に楽しめるエンタテイメントを求めたことによるものです。

しかし、表向きの数字の裏側には違いがあります。この2つの業界のうち、多くの点でよりわかりやすいのがビデオゲーム業界です。2020年に売上が大幅に増加したのは、既存のビデオゲームユーザーが時間を持て余していたことを表しているという面もあります。しかし、この業界は、パンデミックの前から既に進行していた社会的変化の恩恵も受けています。ビデオゲームで遊ぶということは、以前は不当な活動というように見られることもありましたが、そのような固定観念は払拭され、誰もが楽しめる屋内での活動と見なされるようになったのです。

ロックダウン期間中、各家庭の親たちは自分の社会生活がリモート会議ツールの利用でオンラインに移行したことで、子供たちがビデオゲームで同じことをすることに慣れてきました。また、かつてビデオゲームで遊んでいた30代の多くは、昔好きだったビデオゲームを再び手に取り、マリオカートは家族で楽しめるビデオゲームとして復活しました。

その結果、英国のビデオゲーム業界はパンデミックから脱却し、より広範で多様な顧客層を持つようになりました。また、社会的な認知度も高まり、ビデオゲームが企業にもたらす機会も認識されるようになりました。

ブランドや広告主の参加が相次ぐ

実際、ブランドや広告主はゲーム内のダイナミック広告、モバイルアプリのゲーム周辺広告、ゲームから離れたコンテンツやストリーミングサイト、あるいはスポンサーシップなどのさまざまなルートを通じ、オンラインのゲーマーをターゲットにすることに大きな価値を見出すようになり、商業的な機会は拡大しています。これは、特定のブランドに関連する特定のタイトルやジャンルだけでなく、ブランドがターゲットとする大規模な視聴者を惹きつけるようなビデオゲームにも当てはまります。これを受けて、大手広告代理店の多くは、この分野の市場をターゲットにするために、ビデオゲーム専門部門を設立しています。

英国では、ビデオゲームが主流の活動として認知されつつあることもあり、CarlyleによるJagexへの投資など、プライベート・エクイティの投資対象としてビデオゲーム業界はより信頼性の高いものとなっています。また、Electronic ArtsによるCodemastersの買収に見られるように、業界のM&Aも活発です。このような取引が示すように、英国のビデオゲーム業界は、2025年まで投資と収益の健全な成長を続けることができる状況にあります。

eスポーツ業界:デジタル体験による確かな収益

eスポーツ業界も、例年よりもベースは非常に小さく、かなりゆっくりではあるものの、ロックダウンの影響を受けて成長を遂げました。しかし、注目すべきは、その収益を生み出すビジネスモデルです。ゲーマーはビデオゲームで遊ぶためにお金を払いますが、eスポーツはYouTubeやTwitchなどのプラットフォームを通じて視聴者に無料で配信されます。

その結果、eスポーツチームの収益のほとんどは、スポンサーシップや放映権、そしてマーチャンダイジングやライブイベントでのチケット販売によるものとなっています。ライブイベントが中止されたことで、これまでの収入源の急激な増加は劇的に鈍化し、eスポーツ業界がビデオゲーム業界に比べて相対的に若い業界であることが浮き彫りとなりました。

しかし、ロックダウンはeスポーツにも明るい兆しをもたらしました。物理的なライブスポーツがほぼすべて閉鎖されたため、eスポーツが消費者にとって唯一のスポーツ観戦の楽しみとなったのです。つまり、財政的に厳しい状況だったものの、Sky SportsやESPNといった主流のテレビネットワークで初めて放送されるなど、eスポーツの知名度と人気が急上昇したのです。

共生しているようで、不平等な関係

英国がパンデミックから立ち直るにつれ、この2つの「遊び」の業界の密接なつながりが前面に出てきており、ビデオゲームとeスポーツは互いに自立しながらも、その未来は密接に結びついています。


eスポーツの人気の高まりがビデオゲーム業界を活性化させています。eスポーツのファンは、トーナメントで活躍する世界的なスーパースターのプレーを真似したいと思っているのです。その一方で、ビデオゲーム業界の盛り上がりはeスポーツ業界にも影響を与えています。昼間にCall of DutyやFortniteをプレーしたゲーマーは、夜になるとeスポーツのイベントで世界最高のプレーヤーが直接対決する様子を見たくなるのです

Andy Fahey ―PwC英国のeスポーツスペシャリスト、ディレクター

新たなeスポーツのビジネスモデルを求めて

前述の関係性は好循環と言えます。しかし、eスポーツ業界における問題点は、ゲーマーはお金を払い、eスポーツのファンはお金を払わないため、収益面で非常に不平等であることです。ビデオゲーム業界とeスポーツ業界に対する1人当たりの支出額(図2)を見ると、英国においてはどちらの業界も成長の余地があると言えますが、同時にその市場規模において先進国との圧倒的な差も浮き彫りとなっています。

今後、クラウドゲーミングが何百万ものデバイスで利用できるようになると、さらに広い範囲で急速に成長する可能性があり、eスポーツにとっては新しいビジネスモデルで収益を上げることがますます急務となります。

図2:世界各国の1人当たりのビデオゲームとeスポーツへの支出(2021年)

eスポーツ業界はベンチャーキャピタルからの多額の投資を正当化するため、利益を上げる必要があります。しかし、スポンサーシップと放映権を中心とした現在のビジネスモデルは、すべての参加者にとっては長期的に維持できないことかもしれません。

今後の展開

eスポーツ業界のソリューションはいくつか考えられます。1つは競争を激化させ、メディアの権利を高めること。もう1つは、アクセスのためのサブスクリプションの導入です。こうしたことは、最初は一部のファンからの抵抗を受けるかもしれませんが、テストクリケットやプレミアリーグフットボールのようなフィジカルスポーツが過去に成功したように、信仰の跳躍が起こりうると言えます。

しかし、最後の、そして最も重要な要素は、ゲームパブリッシャーにeスポーツの真の価値を示すことです。つまり、eスポーツの人気の高まりが、人気ゲームタイトルの成長や発展に影響を与えているということ、そして今後も影響を与え続けるということを、パブリッシャーに納得してもらうことです。商業的な優位性を確保するためには、eスポーツチームがこの点をゲームパブリッシャーに示すことが重要です。

今日、ビデオゲーム業界とeスポーツ業界が直面する大きな問題は、eスポーツのチームやリーグが、ゲームパブリッシャーに自分たちの価値を十分に認めてもらうにはどうすればよいか、ということです。しかし、その答えはまだ見つかっていません。

日本国内の状況概要

パンデミックによる影響は日本国内のビデオゲーム市場にも少なからず及んでいます。図3の通り、ビデオゲーム市場(eスポーツを除く)では2019年から2020年にかけて12.74%成長し、eスポーツ市場は22.73%の成長が確認されました。

図3:日本におけるビデオゲームおよびeスポーツの収益の成長(2018年~2022年)

注:2020年は直近の入手可能なデータ。2021年から2022年の数値は予測データ
出所:PwC Global Entertainment & Media Outlook 2021-2025, www.pwc.com/outlook

 

ビデオゲーム市場全体が成長している理由としては、企業主導によるゲームタイトル開発やオフライン大会の開催が考えられますが、屋内にいながら、かつ離れていてもオンラインを通じて他者とプレーすることが可能なゲームタイトルが、パンデミック下のニーズにマッチしていた点が考えられます。

また、eスポーツ市場においても、在宅時間が増えるにつれて動画を視聴する時間も増え、同時期に急速な広がりを見せたVTuberなどのインフルエンサーがeスポーツタイトルをプレーすることにより、それらを観戦し、コメントしたり、投げ銭をしたりすることによるコミュニケーションが確立され、新たなマーケットが広がりました。他にも、eスポーツの業界団体が法解釈を整理し、企業が高額賞金を設けた大会を開催できるようになったことも、eスポーツ市場成長の一因と考えられます。

日本企業への示唆

新型コロナウイルス感染症のパンデミックも徐々に落ち着きを見せている中で、eスポーツを配信メディアで視聴するだけではなく、メタバース空間上で観戦しながらコミュニティを形成したり、eスポーツのチケットやスーパープレーをNFT化したりするなど、eスポーツと親和性の高い技術や戦略が世界的に注目されていることもあり、今後も市場は加速度的に拡大していくと考えられます。メタバースやNFTはグローバルで既に展開されており、国内企業はその波に乗り遅れないためにも、より巨大な市場を持つ海外展開を見据えた戦略を練り、いち早く参入することが求められると言えるでしょう。

本コンテンツは、「“Play”: video games and esports in the UK – a tale of two segments」を翻訳し、一部加筆したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

原田 雄輔

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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前田 昌廣

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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安部 勇気

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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福永 新一

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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秋山 宇希

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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