PRAが金融機関へ気候リスク管理の大幅改善を要請

2020-09-18

概要

  • PRA(Prudential Regulatory Authority:健全性規制機構。英イングランド銀行傘下で銀行や保険会社、一部の投資会社の健全性を監督する機関)は2020年7月1日、金融機関のCEOに向け、気候関連の金融リスク管理に関する書簡を公表しました。監督上の指針に基づくフィードバックと管理の実施に向けた次のステップが示され、一部の分野では短期間での改善が求められます。
  • PRAとFCA(Financial Conduct Authority:金融行為監督機構。PRAと同様、英イングランド銀行傘下で英国の投資会社、取引所、その他金融サービス提供会社等を含む金融機関に対し金融行為規制および健全性規制を行う機関)が共同で立ち上げた気候変動金融リスクフォーラム(Climate Financial Risk Forum、以下CFRF)は2020年6月29日、金融業界が気候関連金融リスクに取り組むための手引を公表しました。このガイドはリスクマネジメント、シナリオ分析、開示、イノベーションの4章で構成されており、金融機関が実践するにあたっての具体的な指針が記載されています。

解説

  • CEO向けの書簡では、PRAは監督上の指針(Supervisory Statement 3/19。英国の金融機関へ気候変動による金融リスクへの対応を促す文書)を基に金融機関が作成したグッドプラクティスや、指針と金融機関の現状との重要なギャップを明らかにし、次のステップへの期待を明確にしました。
  • PRAは、金融機関が2021年末までを期限として気候関連リスクへの対応策を実施すべきであると表明しています。
  • PRAは、データの制約により、金融機関が既存の資本枠組みの中で気候リスク分析を2021年末までに実施し、対応策に組み込むことは難しいと認めてはいるものの、金融機関はこの期限までに気候関連リスクを十分に把握し、対応すべきとしています。
  • PRAは金融機関のこれまでの取り組み状況はおおむね良好であるとしていますが、いくつかの重要なギャップがあるとしています。
  • PRAは、金融機関は気候リスクへの戦略的対応をより明確化し、経営判断の参考となる情報を集めるツールを開発する必要があると述べています。特に、シナリオ分析のケイパビリティに大きなギャップがあり、短期間での改善が必要としています。同様に開示についても、短期間での改善が求められると述べています。
  • CFRFのガイドは金融業界を対象に作成され、金融機関にとって具体的な指針となっています。CFRFはPRAとFCAが共同で立ち上げたフォーラムですが、ガイド自体は規制に関わるものではありません。
  • ガイドは気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、以下TCFD)を含む既存のフレームワークを補完するものとされます。
  • リスクマネジメントとの関連では、CFRFガイドは財務リスクと同様に気候リスクにもガバナンスアプローチを設計・実施するよう金融機関へ推奨しています。
  • シナリオ分析の章では、シナリオの識別や開発、評価のほか、シナリオ分析を実施する上での金融機関共通の課題や障壁の詳細について説明されています。
  • 開示については、CFRFガイドではTCFDが推奨している「効果的な開示のための7つの原則*」を基に実施されるべきと定めています。
  • イノベーションについての指針では、資本フローを気候目標と合わせるよう推奨しています。具体的には、資産を生み出す新たな投資手段や金融商品の開発、省庁などのパブリックセクターと金融機関とのパートナーシップの構築が含まれます。

*「効果的な開示のための7つの原則」:TCFDが気候関連リスクおよび機会の情報開示をする上での原則のこと。以下の7つを指す。

1:関連性のある情報を提示する
2:具体的であり、完全性がある
3:明確であり、バランスが取れており、理解しやすい
4:時間の経過のなかで一貫性がある
5:あるセクター、産業、またはポートフォリオの会社同士で比較可能性がある
6:信頼性があり、立証可能であり、客観的である
7:タイムリーに提供される

金融機関は何をすべきか

  • PRAとFCAは金融機関が気候リスクを認識し、管理するための措置をすぐにとるべきであると明言しています。PRA規制範囲の金融機関には気候リスクプログラムの実施に対する明確な期限が定められました。ほとんどの金融機関は、2021年末の期限までに実施すべきことが多くあることから、今から対応していくことが必要とされています。
  • 全ての金融機関は、CFRFのガイドを利用しながら、気候関連のリスク管理を進めるべきです。ガイドは全ての金融機関に該当する答えを提供するものではありませんが、自社のアプローチを検討する際にはこのガイドとケーススタディを活用すべきです。
  • 金融機関は、自社のビジネスの性質や規模、複雑性に応じたアプローチをとるべきですが、同時に直面する気候関連リスクの性質も認識した上で進めるべきです。比較的シンプルなビジネスモデルの小規模金融機関は気候関連の重大な金融リスクに直面する可能性があるため、適切にこれらのリスクを管理していくことが重要です。
  • 気候関連の金融リスクにまだ対応していない、もしくは対応が進んでいない金融機関が気候リスクの程度を理解するには、マテリアリティアセスメントを実施する必要があります。その上で、最初は特定のリスクに焦点をあて、限られた範囲での対応から着手し、後に対象を拡大していくべきです。
  • また、金融機関は適切なガバナンスが実行され、役員会が適切に理解し関与しているか確認すべきです。PRAは金融機関が役員会に定期的に気候リスクへの取り組みの進捗を報告することを期待しています。
  • 2021年の気候変動BESテスト(Biennial Exploratory Scenario:隔年探究的シナリオ。英イングランド銀行により、気候関連リスクに対する金融機関の対応力をテストするもの)の対象である主要金融機関はすでに準備に着手し、特にクライアントやカウンターパートの気候関連リスクのエクスポージャーに関するデータ収集を進めているべきです。
  • 最後に、気候リスクがPRAの監督範囲となることは明らかとなっており、金融機関は気候リスクへの監督機関の関与が今後高まっていくという前提で準備を進める必要があります。

今後の動向

  • PRAは金融機関が気候関連の金融リスク管理への対応策を2021年末までに実施することを期待しています。今後2021年末までの間に、PRAは金融機関(特に担当役員(SMF))とともにリスク管理の実施状況を確認し、協議していく予定です。
  • CFRFは、ステークホルダーからのフィードバックを踏まえつつ、気候関連の金融リスクと機会の管理を進めるための文書を継続的に提供していきます。2020年の後半には、今後のCFRFの取り組みについてのアップデートが公表される予定です。
  • ロンドン証券取引所プレミアム市場の上場企業がTCFDに沿って開示を行うにあたっての、FCAによるComply or Explainでの実施に関する諮問書へのコメントは2020年10月1日に締め切られる予定です。
  • 英イングランド銀行の気候変動BESテストは2021年中ごろまで延期されました。金融機関はCFRFガイドとCEOに向けた書簡のグッドプラクティスへの考察を参考に、同テストへの準備を進めておくとよいでしょう。

翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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