経営アジェンダとしてのサステナビリティ、その実現に向けて

2020-09-25

PwCは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する(Build trust in society and solve important problems)」というPurpose(存在意義)を掲げています。このPurposeのもと、PwCはクライアントや社会の課題解決にどのように貢献しようとしているのか。ESG(環境・社会・企業統治)やサステナビリティ(持続可能性)に関するプロフェッショナルサービスの提供に携わっている4人の座談会を通じて紹介します。

鹿島 章(PwC Japanグループ マネージングパートナー)
坂野 俊哉(PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスエグゼクティブリード)
久禮 由敬(PwCあらた有限責任監査法人 パートナー)
道浦 京子(PwCコンサルティング合同会社 ディレクター)

(左から)坂野、道浦、鹿島、久禮

鹿島 財務情報については会計監査によって、第三者が確からしさを保証する仕組みがあり、企業活動の結果を財務的に表現するルールもきちんと決まっています。しかし、非財務情報に関してはそうした仕組みやルールをどうするかという議論が世界中で行われている最中で、明確な基準は定まっていません。企業にとっては悩ましい問題です。

久禮 情報開示の枠組みとして大きくは、財務情報と非財務情報、制度開示と任意開示といった区分があります。有価証券報告書などこれまでの情報開示は、財務情報の制度開示という枠組みで行われてきました。ESG投資の動きが広がる中で、こうした枠組みを意識しながら、有価証券報告書において記述情報(非財務情報)の拡充を積極的に行うとともに、非財務情報の任意開示をより一層うまく組み合わせていくことが有意義です。

投資家にとって困るのは、開示されている財務情報と非財務情報の整合性・結合性がない、あるいは中長期の経営計画とPurposeやサステナビリティビジョンに一貫性がないといったケースです。いかに開示資料を作成する部門間のサイロを打ち破り、全社目線で簡潔で筋の通った開示をできるかが、企業にとっての挑戦になります。

財務情報と異なり、非財務情報は似たような業種・業態の他企業と同じ基準で比較できない点も投資家の判断を難しくしています。この点に関しては、米国のサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が業種セクター別に細かい基準を決めており、今後はこの基準に沿って非財務情報を開示している企業が増えていくことが予想されます。

このような中で、いわゆる非財務情報の確からしさを社外の第三者がきちんとチェックし、保証しようという動きも加速しつつあります。さらに、単なる保証にとどまらず、データアナリティクス等を活用して、財務情報と非財務情報をトータルに分析し、そこから見えてくるインサイト(洞察)をウェブサイト等で動的に報告する「インサイトレポート」を作成することで、確からしさの保証をサポートする動きも注目されています。

外部向け報告のみならず、内部向けの報告も重要です。内部向けの非財務報告は、経営者が変化の予兆をいち早く察知し、リスクマネジメントを行うために役立てることができます。

サステナビリティ経営に取り組むことは、5年先、10年先の不確実性はどこにあるか、自社の中長期戦略に対して何が阻害要因になりそうなのかを明らかにし、対策を打つことでもあります。つまり、持続的な企業価値創造を実現し続ける上での全社的リスクマネジメントそのものとも言えます。

鹿島 章(PwC Japanグループ マネージングパートナー)

鹿島 財務以外の情報の部分で、どこから、どのようなデータを集め、どう分析すれば、今までより確からしい経営判断ができるか。そういう点で企業をサポートすることも、私たちの重要な仕事になっています。

非財務情報の開示ルールや比較可能性に関連する動きとしては、2020年7月に一般社団法人ESG情報開示研究会が発足し、私たちPwC Japanグループも参画しました。同研究会には、大手上場企業や機関投資家、4大会計事務所グループなどが参加し、ESG情報開示のあり方や日本固有の特色などを加えた実践的なESG情報フレームワークの探究や実証、効果的かつ効率的な情報開示やエンゲージメントを行うためのインフラ整備などについて報告をまとめ、国内外の企業・機関投資家などに広く活用してもらう予定です。PwC Japanグループとしては、幅広いプロフェッショナルサービスの知見を結集して、同研究会に貢献していきたいと考えています。

久禮 投資家と企業の対話をより実りあるものにするための活動という点では、PwC Japanグループは、PwCあらた有限責任監査法人が運営事務局を務めるCRUF(コーポレート・レポーティング・ユーザーズ・フォーラム)Japanの活動を継続的に支援しています。CRUFでは企業の開示情報について利用者の視点から意見を発信し、資本市場の参加者の対話をより実りのあるものにすることを主な目的に、世界各国が連携して活動しています。例えば、企業がよかれと思って開示している情報が、投資家が必要としている情報とずれているとしたら、そのずれをどう解消するかを基準作りなどの際に積極的に発信・提言したりしています。

道浦 京子(PwCコンサルティング合同会社 ディレクター)

バリューチェーン全体の情報を把握することは、サステナビリティ経営に必要な戦略的投資

鹿島 サステナビリティを経営アジェンダとして、企業戦略やオペレーションにどう取り込んでいくか。つまり、公言していることと実践していることの整合性、一貫性をどのように担保していくか。それが企業にとっては、喫緊の課題と言えます。

道浦 整合性、一貫性を担保するためには、重要な社会課題を自社のPurposeやビジョンと照らし合わせて長期戦略に盛り込み、中期経営計画や年度の事業計画、さらにはバリューチェーン全体のオペレーション活動に落とし込み、統合していくことが重要です。

そして、経営や事業活動の結果やリスク開示するだけでなく、投資家を含むステークホルダーへ短期視点だけでなく中長期への取組みや提供価値を対話し、次の計画に生かしていくPDCAサイクルを行う事が重要です。自社内の意見だけで完結するのではなく、投資家などのステークホルダーを巻き込んだ大きなPDCAサイクルを共創し、Purposeと連動した持続的成長のストーリーやその実効性を開示・対話することが、経営者の重要なミッションとなっています。

先日、欧州のサステナビリティ経営先進企業と意見交換する機会がありました。その企業の方は、重要な社会課題を長期戦略から事業計画、バリューチェーンへと落とし込んでいくためには、CxOだけでなく事業部門長、サステナビリティ部門やリスク部門、デジタル部門と一体となって定期的に意思決定を行い、組織全体で理解を深めて、現場に浸透させていくことがサステナビリティ経営の鍵になるとおっしゃっていました。

また直近では、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で、ESG視点を加味したバリューチェーンをどう再構築するかという相談が増えています。グローバルに事業展開する日本企業は、生産拠点の海外移転を進めてきましたが、今回のコロナ危機ではバリューチェーンが分断され、事業継続に支障をきたしました。

バリューチェーンの見直しを行う場合は、BCP(事業継続計画)の視点だけでなく、サプライヤーを含むバリューチェーン全体で二酸化炭素排出量をどう把握するか、児童労働などの人権侵害や腐敗防止をどう回避するかといった環境・社会を考慮した視点も欠かせません。そのためには、バリューチェーン全体からサステナビリティの視点で情報を集め、組むべきサプライヤーの見直しや、サプライヤーの育成を戦略的に検討することも必要になります。

鹿島 バリューチェーンの見直し1つをとっても、企業が考えなくてはならないことが従来に比べて格段に増えています。

久禮 リスクマネジメントの対象が、連結範囲を超えているという言い方もできます。これまでは、直接的な取引があるサプライヤーの環境問題、社会問題などを把握できていればコンプライアンス対応できましたが、今は取引先のさらに先の取引先で何が起きているかまで情報を把握しておかないと、リスクに適切に対処することはできません。

道浦 バリューチェーン全体の情報を把握するためには、時間もお金もかかります。1年や2年で直ぐに完了するものではありませんが、サステナビリティやESGが重要な経営アジェンダとなっている時代に企業が生き残るためには、欠かせない戦略的な投資です。環境や社会価値に反する企業活動を行っていては、顧客や消費者、NPOなどのステークホルダーから指弾され、企業のブランド価値を大きく毀損することになります。

久禮 バリューチェーン全体を可視化することは、大変な取り組みですが、ベネフィットも非常に大きいはずです。バリューチェーン全体を見据えることで、最終製品だけでなく、その生産・利用・廃棄に至るプロセスを含めたトータルでのブランド価値を守ることができます。

また、BCM(事業継続マネジメント)そのものを強化し、レジリエンスを高めることにもつながります。例えば、直接的な取引があるサプライヤーのさらに1つ先、2つの先のサプライヤーまで追っていくことで、分散調達しているつもりが、3歩先では同じサプライヤーから調達していたといったことが分かるようになるのです。それによって、サプライチェーンのボトルネックを解消することができますから、コストをかけるだけの価値がある投資だと思います。

最近では、サプライチェーン監査の相談を受けることも増えてきました。どのサプライヤーと取引するかといったことも含めて、ビジネスは常に変わっていきます。デジタルテクノロジーを使って継続的にサプライチェーン監査を行い、リスクマネジメントやBCMに役立てるのが肝要です。

久禮 由敬(PwCあらた有限責任監査法人 パートナー)

鹿島 バリューチェーン全体の可視化という観点で言うと、日本企業にとって一番大きなチャレンジは、データを持っていない、データを取る仕組みを構築できていないことだと思います。日本の本社内ですら縦割り組織の中で異なるシステムにデータがばらばらに保存されていて、それを統合・可視化することができていない企業が少なくありません。グループ会社や海外子会社、サプライヤーのデータとなるとなおさらです。

このようにばらばらなデータを統合・可視化し、そのデータを活用することで業務プロセスを抜本的に改革したり、新たな企業価値を生み出したりするのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。こうしたDXを推進していかないと、サステナビリティトランスフォーメーションも実現することは難しいと言えます。

坂野 企業組織は、分業と協業で成り立っており、分業のために組織内の各所や外部に散在してしまう情報を統合することで、物事の判断ができます。つまり、分業と協業の組織においては、マネジメントとは情報と判断に行き着きます。必要な情報をタイムリーに集めて、物事を的確に決めていくことができる企業が、将来の変化を予見して、サステナビリティ課題に向き合い、社会価値と経済価値を生み出せるのです。そのためには、デジタルテクノロジーの活用が必須課題となっています。

そういう視点から言うと、DXもサステナビリティトランスフォーメーションも、あるいは昨今話題となっているレジリエンス経営も、1つの球体を別の角度から見ているようなものです。目指しているゴールは同じで、いずれにしても企業はこれからESGやサステナビリティに向けてトランスフォームしていかなくてはならないと痛感しています。

鹿島 クライアントの目指すゴールに応じて、さまざまなソースから的確なデータを集めて、それを分析し、経営者にとって重要なインサイトを提供する。それは私たちPwC Japanグループの最も得意とするところです。その強みを生かして、クライアントのDXやサステナビリティ経営の推進を強く後押ししていくことが、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というPwCのPurposeの実現につながります。本日の座談会では、これを改めて確認することができました。PwCの総合力を生かして、クライアントと社会により積極的に貢献していきましょう。

1 Statement on the Purpose of a Corporation

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

主要メンバー

鹿島 章

グループマネージングパートナー(戦略、マーケット), PwC Japan

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久禮 由敬

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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道浦 京子

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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