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2020-08-04
農業・食料・林産物セクターは、人々の健康と福祉のために重要であり、また多層的なバリューチェーンを通じて多くの人々の生計を支えているという点でも非常に重要です。その一方、バリューチェーンが複雑であるがゆえに、気候変動のさまざまな移行リスクや物理的なリスクに晒されてもいます。
今回は「TCFD対応の現状とハイリスクセクターにおける気候リスク・機会の概要」で紹介したTCFDが定義する気候関連のハイリスクセクターのうち農業・食料・林産物セクター(特に食品・飲料企業中心)を取り上げ、具体的なリスクやビジネス機会と食品・飲料企業へのインパクト、対応の方向性について整理します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の見解であり、所属する組織を代表するものではない旨をあらかじめお断りしておきます。
農業・食料・林産物セクターでは、消費者の嗜好やコモディティ市場が商品提供や生産慣行と密接に関係しています。この構造に対し、気温変化や極端な気象現象が大きく影響を与える可能性があります。気候変動に関連するリスクと機会は、事業者の事業運営や関連するサプライチェーンに影響を与え、この影響が当該企業に財務インパクト(事業コスト・必要資本・売上の変化)をもたらします。実際に、PwCが開発した気候変動シナリオ分析ツール(FAO<Food and Agriculture Organization: 国連食糧農業機関>などの予測データを用いて気候シナリオ別に個別企業の損益計算書や貸借対照表への影響を試算するツール)で当該セクターに属するいくつかの企業を分析したところ、気候変動に関する適切な対応措置を講じていない企業に関しては、将来的に大幅にEBITDAが減少する可能性があることが確認されています。
WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)1の分析によると、気候変動の影響により、食品・飲料関連企業の操業コストが増加する可能性が指摘されています。物理的リスクとしては、干ばつや洪水などの急性リスクと気温上昇や海面上昇などの慢性リスクがありますが、いずれも原材料としての農産物などの入手可能性の制限につながる場合があり、原材料自体の価格高騰や新規仕入れ先の確保に伴う調達コストの増加といった事態が考えられます。
日本の食品企業では、原材料調達を商社に依存しているケースが少なくありませんが、その場合、極端な気象現象などに起因するサプライチェーン上のリスクを管理することが困難な場合があります。サプライチェーンに商社が介在する場合には、自社で直接的にサプライチェーン上流までさかのぼって原材料に係る気候関連リスクを把握したり、その管理に関してサプライヤーと協力したりすることが難しいためです。このことは、逆に新たな製品やサービス(例:干ばつに強い農作物、農家が気候変動に対する強靭性を高めることを支援するサービスなど)の開発においてサプライヤーと協力する機会を阻むことにもつながります。
他方、海外の一部の企業では、上記のようなリスク・機会への対応を既に始めています。例えば、米国の食品関連企業では、NGOと連携してトウモロコシの持続可能な生産を増加させるイニシアティブを立ち上げています。また別の食品企業では、持続可能な農業を実現するためのポリシーを策定し、主要な原材料サプライヤーからの調達にこれを適用しています。
移行リスク・機会に関しても図表2に示すように、いくつか検討が必要な要素があります。上述したWBCSDの分析によれば、移行リスクを念頭に入れて先行してエネルギー効率の改善を行うことで、結果として将来のエネルギー価格に対する感応度を低下させることができます。中長期的な移行リスク低減と運用コストの削減を狙って、早いタイミングで技術投資を検討することは一考に値します(なお技術投資に関して言えば、エネルギーのように移行リスクに対応するものだけでなく、物理的リスクに対応するものとして、排水再利用のための超ろ過技術の開発なども考えられます)。
上述のようにサプライチェーン強化やエネルギー効率改善などを通じて気候関連のリスクと機会を管理するには、通常、新しい投資が必要です。多くの企業では、短期的にリターンが見込まれる取り組みに優先的に投資配分することが多いため、こうしたリターンが中長期的にしか見込まれない取り組みへの投資額を確保することが課題となることも多いのではないでしょうか。
しかしながら、非財務要素の数値化による投資意思決定プロセスの見直し、サステナビリティの取り組みやパフォーマンスと連動した資金調達アプローチ(サステナビリティボンド発行や金融機関からのサステナビリティ・リンク・ローン)の検討など、企業の気候変動に対する活動は、着実に金融市場で注目を集めています。大手食品関連企業の例では、サプライチェーンと自社オペレーションにおけるサステナビリティ・パフォーマンスの向上の取り組みのための資金を、サステナブル・トランジション・ボンドの発行により調達しました。このボンドは、同社の通常社債よりも低金利にも関わらず、3回に渡り、募集に対して応募超過となっています。
企業としては、農業・食料・林産物セクターの気候変動による物理的リスクと移行リスク、そして機会を適切に把握して、長期的な視点に立って、必要な対応を先回りして検討することが重要です。また、ステークホルダーと確実にエンゲージしていくためにも、サステナビリティボンドなどの新しい資金調達を活用することも有効です。
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