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2022-05-17
(左から)坂野 俊哉、ロバート・スワーク氏、磯貝 友紀の写真
ABNアムロのロバート・スワークCEOは、経営トップ就任後に「Support our clients’ transition to sustainability」(顧客のサステナビリティへの移行を支援する)など3つの基幹戦略を策定しました。3つの基幹戦略は、地球や社会の未来への責任を果たすためのものであるという点で通底しています。ロバート・スワークCEOは、デジタルなどの新しいテクノロジーやスタートアップ企業の知見などを積極的に取り入れ、従業員の体系的なリスキリングも行いながら、次世代への責任を果たそうとしています。
鼎談者
ABNアムロ銀行 CEO
ロバート・スワーク氏
Robert Swaak
CEO, ABN AMRO Bank N.V.
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
エグゼクティブリード
坂野 俊哉
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
テクニカルリード
磯貝 友紀
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
磯貝:社会や環境に対してインパクトのある投資を行うことが長期的な価値を生むと分かっていても、経営者は常に投資家から財務的リターンを求められており、そのバランスをどのように取るか、という意思決定に苦心しています。
社会的なリターンと財務的なリターンを両立させる投資判断、あるいは投資先のポートフォリオ管理について、どのような基準で意思決定していますか。
スワーク:ABNアムロは2020年11月に新たな戦略を公表しました。それは3つの柱によって構成されています。1つ目 は「Reinvent customer experience」(顧客体験の再発明)、2つ目は「Support our clients’ transition to sustainability」(顧客のサステナビリティへの移行を支援)、そして3つ目は「Build a future-proof bank」(未来に耐えうる銀行の構築)です。
私たちはこの戦略に従い、サステナビリティへの移行を基準にしながら顧客との対話を進めています。例えば、欧州の石油・ガス会社が現時点で環境負荷の大きい事業を行っているとしたら、それを理由に取引を打ち切るのではなく、そうした会社が自らサステナビリティへの移行にどのように取り組んでいるのかを理解したいと考えています。
そのために顧客と対話し、気候や環境へのリスクを評価するための指標を自社で開発しています。これは、顧客との相互の学習プロセスであり、今後も評価指標に磨きをかけ、国際機関のネットゼロシナリオに合わせながら顧客の移行状況を検証していきます。
これは長期的なプロセスであり、投資家や資本市場に対しては自社の優先順位は何かを明確にした上で対話を行っています。欧州の銀行にとっては、長らくROE10%が財務的リターンの基準となっていました。しかし、戦略の3つの柱を遂行するためには、短期的にそれを下回る可能性があります。当行はそれを投資家にはっきりと伝えています。
市場がそれをどう受け止めるかは市場に任せるしかありませんが、長期的な価値創造のために短期的な財務リターンが低下することを、投資家も受け入れ始めているのではないかと私は感じています。
坂野:次の世代のために地球を守るべき責任を、競合他社を含めて共有しているという視点は、非常に重要なものだと思います。グローバルな金融システムの一員として、ABNアムロは他の金融機関とその考えをどのように共有していくのでしょうか。
スワーク:私もかつてPwCに在籍していたので、会計監査法人を例に説明しましょう。世界にはPwCを含む大手監査法人グループがあります。
日頃、各グループは競争関係にありますが、世界の会計基準がどうあるべきかについてはそろって議論のテーブルに着き、会計基準の標準化については競争ではなく、合意を目指していました。それは、標準化が会計監査法人にとって共通の責任だったからです。
そして、世界の会計基準はIFRS(国際会計基準)とUS GAAP(米国会計基準)に標準化されました。一方で、顧客へのサービス提供という点では、互いに競合関係にあります。
それと同じように、世界の大手金融機関も地球を救うという大きな責任については競争すべきではなく、互いに議論し、合意を図るべきだと思います。環境を守り、人権を守るという責任を政府や規制当局任せにするのではなく、私たち自身が責任を負っていることを認識しなくてはなりません。それが私の出発点であり、その責任を果たすためには競合他社を含めて協力し合うというのが私の結論です。
だからといって、全ての競争を放棄するつもりはありません。地球を守るという究極のミッションについて合意した上で、欧州で最高の銀行になるための競争には喜んで参加していきます。
ABNアムロ銀行 CEO ロバート・スワーク氏 Robert Swaak CEO, ABN AMRO Bank N.V.
坂野:欧州はサステナビリティという点で先進的であり、多くの企業が社会や環境に対して同じ価値と責任を共有しています。そして、金融機関と取引先企業が一体となって、より良い社会づくりに取り組んでいます。
日本にも同じように先進的な企業はありますが、多くの企業はまだ学習フェーズにあり、サステナビリティ目標と現状との大きなギャップに苦慮しています。
スワーク:私は何度か日本を訪れたことがある程度で、日本について深く理解しているわけではありません。しかし、私がいつも感動させられるのは、日本がどこから来たのか、そしてどのように進化してきたのかという自らのレガシー(遺産)に対する認識の深さ、そしてそこからもたらされる賢明さです。
私が知る限り、経済的に厳しい状況にあっても日本は学習を止めたことがなく、変化への対応をやめたこともないはずです。変革のスピードは十分ではないかもしれませんが、変革が起きつつあることは間違いありません。豊かな文化がある国ほど、素早く変化することは難しいという面もあるでしょう。
それぞれの地域には、それぞれの力学があります。私たちはそれに注意を払い、尊重すべきだと思います。私が日本を訪れ、日本企業の人達と交わした会話の中でとても驚かされたのは、「自分の会社は何のために存在するのか」というパーパスについての意識が非常に高かったことです。
そのパーパスを、人類にとってあるべき世界の姿に結び付け、野心的なサステナビリティ目標と関連付けることができれば、変化のスピードはもっと速まるのではないでしょうか。
磯貝:日本では長らく、個人の幸せが最優先事項になっていない会社が多かったことは事実だと思います。人々は会社を第一に、私生活を二の次に考えてきました。世代によってそれは変わりつつありますが、それゆえに今後は会社のパーパスと個人のパーパスを一致させることが重要だと私は考えています。
スワーク:確かに日本には個人より会社を優先する文化があったのかもしれませんし、そうした文化では、まず会社のパーパスがあり、そこに個人のパーパスを合わせていくという順番になるのかもしれません。
私が常に念頭に置いているのは、社員一人ひとりにそれぞれの価値観を持っているということです。経営者は、それを決して忘れてはいけません。一人ひとりの価値観を受け入れず、会社の価値観だけを受け入れるよう求めることはできません。会社が成功できるのは、社員の価値観と会社の価値観が一致しているときだけだと私は考えます。
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス エグゼクティブリード 坂野 俊哉
磯貝: 2020年10月、当時の日本の首相が2050年にカーボンニュートラルを達成する方針を宣言し、政府は脱炭素へと大きくかじを切りました。しかし、日本の経営者の中からは、急な方針転換によって多くの雇用が失われるとして反対する声も挙がり、私はそれをとても残念に思いました。
経営者は脱炭素化に反対する前に、サステナビリティ・トランスフォーメーションに向けて従業員のリスキリング(新たな技能の習得)を行い、企業としてのケイパビリティ(組織能力)の転換を図るべきだと思います。ABNアムロでは、従業員のリスキリングをどのように行っていますか。
スワーク:サステナビリティへの移行は不可逆的な流れであり、それに逆らうよりは代替案を見つける方が賢明です。したがって、従業員のリスキリングを行うべきだという意見には賛同します。
ただ、それは非常に難しい問題であることも事実です。銀行業界についていえば、おそらく今後3〜4年で現在よりも15%少ない人数で仕事をするようになるだろうと私は予測しています。銀行業務のデジタル化が急速に進んでいるからです。これは、ABNアムロが全社的なスキルセットを変えなければならないことを意味します。
私たちは比較的早い時期にそのことを認識し、デジタルテクノロジーを活用した業務を適切に行うためのスキル習得に取り組んできました。
サステナビリティやESGに関しても同様にスキルセットの入れ替えが必要であり、当行では「サークルアカデミー」という名称の社内教育機関を開設し、非常に基礎的な研修から専門的なトレーニングまで、さまざまなカリキュラムを受講できるようにしています。
しかし、EUタクソノミー(脱炭素に向けた事業活動・投資活動を分類する枠組み)が制定されたり、オランダの中央銀行が新任取締役にサステナビリティに関する実証的な知識と経験を求めるようになったりするなど、新たに学ぶべきことは次々に増えています。ABNアムロでは、取締役を含む経営幹部から現場スタッフまでが継続的に学べるプログラムを用意しており、リスキリングのプロセスは銀行内のさまざまな領域で進行しています。
坂野:銀行業務を適切に遂行するにも、革新していくにも、重要な社会課題を解決するためにも、新しいテクノロジーが欠かせません。テクノロジーの視点から見た銀行業界の将来をどのように展望していますか。
スワーク:実際のところ、私はテクノロジーがもたらす変化に対しては、かなりポジティブにとらえています。銀行業務の変化を歓迎しているからです。
先ごろ、5人のフィンテック企業の経営者と会いました。彼らはいずれも事業ドメインの1つとして決済サービスを行っており、5社ともクラウドをベースに、信じられないほどのスピードで成長しています。
今、ABNアムロはITジャイアントと同じように新興企業への投資を続け、新しいテクノロジーを行内に取り入れようとしています。
私たちは新興企業にはない規模と専門知識を持っています。ウェルスマネジメント(資産管理)の豊富な知識があり、コーポレートバンキング(投資銀行)の歴史があり、商業銀行としての優れたネットワークもあります。それらを通じて、顧客に価値を提供することができます。
一方で、将来もその価値を提供し続けるためには、新しいテクノロジーと最新の専門知識を組織に注入しなければなりません。だからこそ、テクノロジーがもたらす変化とそのスピードを歓迎しています。
米国に比べると、欧州の銀行業界はまだ非常に細分化されています。それだけに再編を含めて成長の余地は大きく、変化を取り入れることで銀行を成長させていきたいと考えています。
坂野:地球を守るという究極のミッションを果たすことを全ての出発点とし、自社を取り巻く変化を積極的に受け入れ、トランスフォーメーションを加速させようとしている経営者としての姿勢に、とても感銘を受けました。ありがとうございました。
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス テクニカルリード 磯貝 友紀
『2030年のSX戦略 課題解決と利益を両立させる次世代サステナビリティ経営の要諦』(日経BP刊)では、経営者インタビューとともに2030年までの近い未来に、サステナビリティ領域において起こり得る世の中の動きを業界別に示し、未来のサステナビリティ経営の指針となり得る2つのフレームワークとして、「サステナビリティの未来シナリオ」と、投資判断の考え方である「SXの方程式」を提示します。