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2022-05-10
(左から)坂野 俊哉、ロバート・スワーク氏、磯貝 友紀の写真
オランダの大手金融機関ABNアムロは、欧州においてサステナビリティ経営の先進企業として知られており、「Banking for better, for generation to come」(次世代のためのより良い銀行)というパーパスを掲げています。そして、顧客、投資家、従業員、社会など全てのステークホルダーに対してインパクトを生み出し、長期的な価値を創造することを経営の基本としています。ステークホルダーをいかに引き込みながら、同社のパーパスに沿った経営をどのように実現しようとしているのか。かつてPwCオランダの会長を務めたロバート・スワークCEOに伺いました。
鼎談者
ABNアムロ銀行 CEO
ロバート・スワーク氏
Robert Swaak
CEO, ABN AMRO Bank N.V.
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
エグゼクティブリード
坂野 俊哉
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
テクニカルリード
磯貝 友紀
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
磯貝:企業が長期ビジョンを策定する際に、カーボンニュートラル達成のターゲットである2050年、そこへのマイルストーンとなる2030年を多くの経営者が強く意識するようになっています。スワークさんは2030年、あるいは2050年にどのような世界が到来すると考えていますか。そして、その予測に基づいてどのような戦略を立てていらっしゃいますか。
スワーク:2030年、2050年の世界を予測するのは非常に難しいですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって私たちがはっきりと気づかされたことがあります。それは、世界が以前よりはるかに小さくなりつつあるということです。
COVID-19は瞬く間に世界中に広がり、人類全体を苦しめました。今、世界は1つの村のようになりかけています。多くの人にとって受け入れ難いことかもしれませんが、それが現実です。
私たちはCOVID-19による危機をまだ克服できていません。しかし、明らかなことは1つの国で克服することは不可能であり、他の国の専門性や知識の協力が必要となっており、国境を越えた広域的なアプローチの重要性が増しています。
COVID-19によって、もう1つ私たちが気づかされたのはレジリエンスの重要性です。これまでの世界は効率性を重視していました。しかし、感染症以外にも世界はさまざまな危機に直面しています。気候変動、地政学リスク、人口動態の変化、脆弱なヘルスケアシステムなどです。こうした危機に柔軟に対処し、より早く回復できる社会をどのように実現するかが非常に重要なテーマになっています。レジリエンスは私たちの生活の全ての面で、非常に重要な役割を果たし続けるでしょう。
国をまたぐ広域的なアプローチやレジリエンスの重要性が高まっていることが、企業の戦略に対してどのような意味を持つのか。それは、長期的な価値創造がより大切になるということだと私は考えます。
ABNアムロは、国際統合報告フレームワークを受け入れ、6つの資本(財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)を使って長期的な価値創造のプロセスを説明することにしました。
そのため、どのような戦略を取るにせよ、顧客、投資家、従業員、社会など全てのステークホルダーに対してどのようなインパクトを生み出しているか説明しなくてはなりませんし、インパクトを測定する精度を高めなくてはいけません。
それは容易なことではなく、高度3万フィート(約9キロメートル)から世界を見下ろすような俯瞰的な視点が必要です。そのような方向に進むことが求められており、COVID-19がそれを加速させたのです。
磯貝:インパクトを生み出して、長期的な価値を創造することがあらゆる戦略の基本になるということでしょうか。
スワーク:その通りです。しかし、全てのステークホルダーに対して、インパクトを生み出すというのは容易なことではありません。
例えば、それは従業員の安全を確保することであり、株主へ利益を還元することであり、顧客に対して利便性や専門知識を提供することであり、社会から信頼を得るということです。私たち銀行は信用を取引するビジネスを行っており、信頼される存在であり続けなくては、ビジネスを継続できません。そのために、インパクトを創造し続けなくてはならないのです。
これはレピュテーション(評判)も関係してくる問題であり、非常に難しい。例えば、欧州ではマネーロンダリングに対して金融監督当局の目がとても厳しくなっており、私たちはそうした責任も果たす必要があります。
社会に対してインパクトを生み出すということは、社会の期待に応えるということです。そのためにABNアムロはESG課題に責任を持ち、環境、社会、ガバナンスの各視点からインパクトを創出し続けたいと考えています。
ABNアムロ銀行 CEO ロバート・スワーク氏 Robert Swaak CEO, ABN AMRO Bank N.V.
磯貝:日本では今、脱炭素化に大きな焦点が当たっていますが、社会の期待に応えるためにはそれだけでは十分ではありません。例えば、生物多様性の保全などが挙げられますが、そうした新たなアジェンダはABNアムロの経営にどのように影響していますか。
スワーク:日本に限らず、ビジネスの世界では脱炭素化が大きな焦点になっています。そして、ご指摘の通り、生物多様性も次に取り組むべき大きなテーマの1つです。
例えば、食糧の安定供給や食品原材料の調達などに生物多様性は直接的な影響を与えます。そのため、企業活動が生物多様性にどのような影響を与えているかを測定し、自然との関係性を見直していく必要があります。
ただ、二酸化炭素排出量を測定することに比べて、生物多様性への影響を測定することは難しいという課題があります。ABNアムロでは他の企業とともに、英国ケンブリッジ大学の研究機関を中心とするイニシアチブに参画し、生物多様性への影響を測定するための方法を研究しています。現在はまだ研究段階にあるが、生物多様性への影響を確実に予測できるようにしていきたい。2022年4月には、ABNアムロとして初めて生物多様性への影響に関するレポートを発行しました。
脱炭素化の次のテーマとして生物多様性に加えてもう1つ重要なのは、社会的不平等や人権などの社会問題です。AI(人工知能)がさまざまな場面で活用されるようになり、データプライバシーも慎重に取り扱うべき問題になっています。
したがって、脱炭素化にとどまらず、生物多様性や人権も含めて、より広範に議論する必要があると考えています。
磯貝:ABNアムロの投融資先は非常に幅広く、欧州以外にも広がっています。なかには、サステナビリティ・トランスフォーメーションへの動きが遅い企業、変革を望んでいない企業もあると思われますが、そうした企業にはどのように対応していますか。
スワーク:総じていえば、当行の顧客企業はESG課題に対して責任ある行動を取るための変革に向け、すでに歩み出しています。
顧客企業に限らず、競合他社であっても、ESG課題に関して私たちは対立すべきでないと考えています。なぜなら、地球全体のウェルビーイングに対して、全ての企業が、そして私たち一人ひとりが共同責任を負っているからです。国の違いは関係ありませんし、大企業であっても、中小企業であっても、私たちは責任を共有しなくてはなりません。
もしこの共同責任を果たすことができなければ、子どもや孫など将来の世代は、私たちが暮らしてきたのと同じ地球環境の中で暮らすことはできなくなってしまいます。
ですから、ESG課題に関しては競合であっても共同責任者として接していますし、それは顧客に対しても同じです。特に中小規模の顧客企業については、大企業に比べると、サステナビリティに向けた事業変革やサステナビリティファイナンスの経験と知識が不足している場合がありますので、必要なサポートを提供しながら、ともに責任を果たしていきたいと思っています。
ABNアムロは多くの顧客企業よりもサステナビリティに関して少しだけ先に進んでいます。顧客企業は対話に建設的な姿勢で臨んでくれますし、私たちの専門知識に基づく提案を歓迎してくれています。
私たちは顧客企業がサステナビリティに向けてどのようにトランジション(移行)すればいいのかという方法論の他、トランジションの効果を測定するツールなども提供しています。そういう意味で、顧客との関係は、信用リスクをベースとしたアプローチから付加価値ベースのアプローチへと変わってきています。
いただいた質問に直接的に答えるなら、移行を望まない企業に対しては、投資や融資を続けたくても関係を見直さざるを得ないでしょう。ただ、繰り返しになりますが、顧客の大半は私たちと同じ方向を向き、変革に向け歩み始めています。
坂野:ABNアムロと顧客との関係が、信用リスクをベースとしたものから付加価値ベースへと変わっているというお話は、サステナビリティ・トランスフォーメーションにはビジネスモデルの変革を伴うものだということを示す好例といえると思います。
『2030年のSX戦略 課題解決と利益を両立させる次世代サステナビリティ経営の要諦』(日経BP刊)では、経営者インタビューとともに2030年までの近い未来に、サステナビリティ領域において起こり得る世の中の動きを業界別に示し、未来のサステナビリティ経営の指針となり得る2つのフレームワークとして、「サステナビリティの未来シナリオ」と、投資判断の考え方である「SXの方程式」を提示します。