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2020-11-04
MaaSとは「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス」と定義されています1)。2019年は、経済産業省と国土交通省が共同で実証事業「スマートモビリティチャレンジ」を立ち上げるなど、MaaS元年だったと言えます。しかしながら現在、MaaSに対する注目度は、昨年のピーク時に比べると衰えているようです。本稿では、MaaSについて、日本における歩みを振り返り、将来のスマートシティの中でどのように発展すべきかを論じます。
MaaSの効果は「モビリティのデジタルトランスフォーメーション(DX)」と言えます。DXには大きく2段階あり、最初の段階ではデジタル技術を用いて単純な改善・省人化・自動化・効率化・最適化を図ります。次の段階では社会の根本的な変化に対して、時には既成概念の破壊を伴いながら新たな価値を創出するための改革を進めます。すなわち、交通事業者視点で言い換えると、利用者や事業者の状態をデータで把握・解析し、サービスに利活用することで、短期的な収益改善と長期的な新規事業機会創出を獲得することが期待されるのです。
日本においてMaaSの注目度が減少しているのは、主に期待効果とMaaS実現にあたっての諸前提のアンマッチによるものではないでしょうか。代表的なアンマッチを3点挙げます。1点目は、事業者のデジタル基盤・利活用方針とのアンマッチです。事業者のデジタル基盤が、MaaS実現の前提となる運行計画や運行状況などの交通データを提供できる状態にはないというケースです。2点目は、収益源のアンマッチです。長期的な新規事業機会創出に期待するあまり、短期的な改善・省人化・自動化・効率化・最適化という収益基盤の検討が後手に回るケースです。3点目は、エンドユーザーとDX自体とのアンマッチが生じるケースです。特にMaaSによる交通課題解決を図るべき地域では高齢化率が高い傾向にあり、検索・予約・決済などを一括で行うMaaSを利用するためのデジタルデバイスに不慣れなエンドユーザーが多く、DXに適さないと言えます。
このような逆風下ではありますが、日本版MaaSを推進するのであれば最初のステップとして、交通事業者のDXに主眼を置くべきでしょう。交通事業者は、人口の減少や今後の天災・疫病懸念の増加に伴い、不足する働き手や不安定な収益への対応が急務です。そこでMaaSを一義的にそれらへの対応策と位置付けることで 「儲からない」「技術実証目的が中心で実際には利用されない」という懸念を払拭することが可能です。MaaSの本質的な価値・用途については、「日本におけるモビリティ将来シナリオ」をご覧ください。
また、MaaSが事業者間の連携や生活者への価値提供まで昇華されるためには、スマートシティと密接不可分な形で設計されるべきでしょう。例えば、観光や医療といった他のサービスとの連携により、MaaSが地域の課題解決に資する重要な手段となります。栃木県宇都宮市では観光地における人流データ分析、モビリティサービスの導入による地域活性化を目指す観光MaaS、茨城県つくば市においては顔認証技術を活用し、バスに乗るだけで病院受付が可能となる医療MaaSの試みが進みつつあります。ただし、MaaSと事業者や都市課題解決を結び付けた草の根活動型のアプローチは、進め方を誤ると、サイロ型やタコつぼ型のソリューションとなってしまう懸念がありますので、早期からその横展開を見据えた標準化やアーキテクチャの構築が不可欠となるでしょう。
1) 国土交通省「日本版MaaSの推進」
※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。
総人口と労働力の減少、高齢化の進行が予測される昨今の日本において、「スマートシティ」の取り組みが注目されています。PwCはSociety5.0時代の社会課題の解決に向け、クライアントである行政とその先に暮らす住民の価値創出を、ワンストップで支援します。
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