スマートシティの進化に向けて製造業が変わるべき事

2020-06-16

PwCのスマートシティチームではスマートシティを「社会課題を解決する『仕組み』を有し、新たなテクノロジーを活用しつつ、継続的に住民満足度を高めるまち」と定義しています。これは住民の満足度を向上させることが目的であり、よくイメージされがちな「IoTやAIなどによって生み出される便利なまち」といったテクノロジー起点のものではありません。テクノロジーは目的の達成に必要ですが、あくまで手段です。この目的と手段の逆転や混在化はスマートシティに限らず、これまでさまざまな分野で存在してきました。

その1つの例が製造業です。少し古いデータになりますが、2016年に日経BPとPwCコンサルティング合同会社が連携して行った製造業の新規事業開発に関する調査(図表1)では、新規事業を考える上で拠り所にする自社資源は「技術力」と回答した企業が約7割と最多でした。一方で、同じく2014年に日経BPが行った製造業の製品の差異化に関する調査(図表2)において、製品の優位性が確保できない理由として最も多かったのは「マーケティング力が弱い」、次いで「ユーザーニーズが把握できていない」という回答でした。これらの結果から、製造業の技術志向の強さが見て取れます。本来、製造業が持つテクノロジーは、対象とする顧客の問題解決やニーズ充足の手段であるはずが、逆転してしまっています。テクノロジーが先行して目的化してしまいがちなのです。

スマートシティの実現には、製造業が持つテクノロジーや商品がなくてはなりません。カメラやセンサー、サーバーといった情報収集・蓄積基盤、各種輸送機器など、住民に直接的なスマートシティの価値を提供するのは、製造業各社の商品が代表的だからです。スマートシティの価値を住民に伝える接点を持つ製造業がいかに住民志向になれるかで、スマートシティの質は大きく変わるでしょう。

製造業各社が強みとするテクノロジーと、住民が街に対して抱いている不満や問題点、ニーズにはどのような関係性があるのでしょうか。これを住民視点で考え続け、ソリューションを開発・提供していくことがスマートシティの進化においては重要です。具体的には、営業・販売、コールセンターなど顧客に近い部門と、新たなソリューションを生み出す研究開発部門がこれまで以上に連携していくことが課題と言えます。製造業各社の部門横断力、および関係するさまざまな外部組織との連携力の強化が、「継続的に住民満足度を高めるまち」の実現につながっていくでしょう。

※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。

執筆者

渡辺 智宏

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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