プロセスマイニングによるキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の最適化(2) ―在庫管理・売掛管理・買掛管理への働きかけ―

  • 2024-07-05

本連載「プロセスマイニングによるキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の最適化」の第2回では、第1回に引き続き、プロセスマイニングを活用し、戦略的に金融サービスと組み合わせることにより、企業のCCCを最適化する革新的なアプローチを提案します。また、プロセスマイニングを中心としたデジタル技術を活用し、在庫管理、売掛管理、買掛管理のプロセスを改善するなどの、より具体的なプロセスの見える化・改善に着目したアプローチについて解説します。

CCC短縮のアプローチには、さまざまなものがありますが、本稿では、在庫管理、売掛金管理、買掛金管理の3軸を中心に、キャッシュフローの流れを整形するアプローチを例にとって話を進めます。

以下に、主なものを提示します。

  1. ベーシックアプローチ・在庫管理
    • 在庫転換期間を短縮
  2. ベーシックアプローチ・売掛金管理
    • 売掛金回収期間の最適化。
  3. ベーシックアプローチ・買掛金管理
    • 支払い猶予期間を効果的な管理。
    • この期間を過度に延長すると、企業の信用評価に悪影響を与える可能性や法的リスク(下請け法など)を負うことがあるため、丁寧な対応が必要。
  4. 応用アプローチ・CCCコンポーネントへの包括的アプローチ
    • 在庫、売掛金、買掛金(CCCのコンポーネント)の間の相互作用の探索と最適配分の調整。

ここでは、各項目について、フィーチャーすべきポイントを確認していきます。便宜的に各STEPを表記しますが、業界や個社の状況に応じて、実情に応じた対応が必要となることをご承知おきください。

在庫管理関連

STEP1:在庫レベルの最適化

  • 在庫レベルを最適化するために、需給予測ツールを利用し、過剰在庫や不足を防ぐ。予測精度を高めることで、必要な在庫を正確に把握し、在庫コストの削減とサービスレベルの向上を図る。
  • 物流(特にグローバル物流)における着荷タイミングの適正性などをプロセスマイニング技術による分析を行う。

STEP2:JIT(ジャストインタイム)システム

  • 在庫を保持する代わりに、必要な時に必要な量だけを供給するシステムを導入する。これにより、在庫および在庫を運営するコストを削減し、スペースの有効利用が可能となる。

STEP3:ABC分析

  • 在庫品をA、B、Cのカテゴリに分け、Aグループ(最も価値の高い商品)に最も多くの管理資源を割り当て、Cグループ(最も価値の低い商品)は簡易な管理で済むように最適化する。これにより、在庫管理の効率を向上させる。

STEP4:WHパススルー(カンバン)

  • 入荷した商品を保管することなく、直接出荷エリアに送ることで、在庫保持期間を短縮する。これにより、在庫コストと取り扱いコストの両方を削減できる。

STEP5:バーコードまたはRFIDシステムの利用

  • 在庫の追跡と管理を自動化するために、バーコードまたはRFIDタグを使用する。これにより、在庫管理の精度が向上し、在庫管理の時間が短縮される。
  • バーコードまたはRFIDタグによりプロセス上の追跡が可能となるため、プロセスマイニング技術による分析を行うことにより、荷の管理粒度の細分化、精度の向上、業務プロセスの最適化、人的管理工数の削減が実現される。

売掛金管理

STEP1:債権の定期的な監査と評価

  • 売掛金の年輪分析を行い、古い債権に対しては回収活動を強化する。また、定期的なレビューにより、潜在的な問題を早期に発見し、対処することが可能となる。

STEP2:クレジットポリシー・プライシングポリシーの厳格化

  • 売掛金回収期間を短縮するために信用調査を徹底し、信用リスクの低い顧客や購入数量が低い、あるいはアドホックな顧客に対して、価格交渉を持ち掛ける。これにより不良債権のリスクが減少し、現金回収が迅速化される。

STEP3:電子請求と支払いシステムの導入

  • 電子請求書の使用により、請求プロセスを迅速化し、顧客による支払いの遅延を減少させる。また、オンラインでの即時支払いを促進することで、売掛金の回収期間が短縮される。

STEP4:割引施策の活用

  • 顧客との取引を分析し、分量だけでなく、シンプルな購買・販売プロセスをもち、自社のサプライチェーンへの負荷が低い顧客とは、早期支払い割引などのインセンティブを設定する。
  • 金利がある世界が常態化する近い未来においては、期間の利益は、自社・顧客にとって重要な要素となるため、顧客に迅速な支払いを促し、売掛金の回収速度を向上させことにより、現金流の改善が期待できる。
  • これにもプロセスマイニンイング技術を活用した分析が力を発揮する。「目に見えないコストを発生させる顧客か」「目に見えないコストが少ない顧客なのか」という点は、商流のプロセスまでブレイクダウンして分析することで、より明確に見えることになる。

STEP5:プロセスマイニングと機械学習を用いた支払い予測

  • プロセスマイニング技術と機械学習モデルを利用して顧客の行動特性に応じたカテゴライズと評価付けをより詳細に行い、顧客の支払い行動を予測する。それに基づき特定の顧客に対して個別の対策を講じることで、効率的な債権管理が可能になる。これにより、リスクが高い顧客に対する対策を強化し、売掛金の健全性を保つ。

買掛金管理

STEP1:支払条件の再交渉

  • 大口のサプライヤーとの交渉を通じて、支払期限の延長あるいは割引を打診する。これにより、資金の支払いを遅らせることができ、手元資金をより長く保持することが可能になる。

STEP2:プロセスの整流化と電子支払システムの導入

  • 電子支払システムを導入することで、支払プロセスを効率化し、誤支払や遅延支払のリスクを減らす。これにより、資金の流れをより正確に管理できるようになる。
  • この前段として、実際の買掛金に関するプロセスをプロセスマイニング技術によって分析することで、ボトルネックや異常ケースが特定され、導入により正しい効果が得られるかどうかの適切な予測を立てることができる。
  • 可能であれば、ファクタリングなどの金融サービスも検討する。

STEP3:サプライヤーの選定と評価

  • 信頼性の高いサプライヤーを選定し、定期的にそのパフォーマンスを評価する。プロセスマイニング技術による分析は、ここでも効力を発揮する。産業によっては、納品率やリードタイムにブレが生じることもあるが、これらの分析・見える化より交渉材料を獲得することができる(納品率の良しあしや納品遅延の発生度合い、検品不良の発生度合いなど)。これにより、支払条件の遵守や供給の安定性を保証し、結果として財務リスクを低減する。

STEP4:購買プロセスの最適化

  • 購入発注のプロセスを標準化し、不必要な在庫保持を避けることで、支払負担を減らす。この分析と特定にもプロセスマイニング技術が大きく寄与する。
  • バルク購入や早期支払い割引を活用することで、購入コストを削減する。

STEP5:サプライチェーンの統合

  • サプライチェーン全体のプロセスを俯瞰し、トータルバランスを最適化し、効率を向上させることで、必要な在庫レベルを正確に把握し、過剰在庫による不必要な支出を回避する。これにもプロセスマイニング技術を利用した分析が大きく寄与をする。これにより、買掛金の管理が容易になる。

CCCコンポーネントへの包括的アプローチ

STEP1:在庫管理の最適化

  • 在庫の正確な監視と分析により、必要以上の在庫保持を避け、在庫を現金に変換する期間を短縮。これは、在庫回転率を高め、キャッシュフローを改善することに寄与する。

STEP2:売掛金の効率的な管理

  • 売授金の回収プロセスを効率化することで、売上から現金を得る期間を短縮する。電子請求書の導入やオンラインでの即時支払いシステムなど専門ベンダーのソリューションの導入が効果的と考えられる。
  • これらの導入の前段として、プロセスマイニング技術の導入による分析が効果的である。

STEP3:買掛金の戦略的延長

  • 支払い条件の再交渉により、サプライヤーへの支払いを適切に延長し、より長く現金を保持する。ただし、信用リスクを考慮に入れる必要がある。

STEP4:キャッシュフローフォーキャスティング

  • 正確なキャッシュフロー予測により、未来の資金需要と供給を把握し、不測の資金不足を防ぐ。これにより、企業の財務健全性が保たれる。

STEP5:電子支払いシステムの利用

  • 支払いプロセスの自動化と電子化により、取引の処理速度と正確性が向上し、支払いサイクルを短縮できる。

STEP6:価格割引と供給チェーンの最適化

  • 供給チェーン全体を通じての価格割引や物流の効率化により、購入から販売までの時間を短縮し、CCCを改善する。

【参考文献】

Georgios Kolias, Nikolaos Arnis, K. Karamanis, 2020: The Simultaneous Determination of Cash Conversion Cycle Components. Accounting and Management Information Systems Vol. 19, No. 2, pp. 311-332

Haitham Nobanee, Maryam Al Hajjar, 2014: An Optimal Cash Conversion Cycle. International Research Journal of Finance and Economics. March (120), pp. 13-22

J. Gentry, R. Vaidyanathan, Heiwai Lee, 1990: A Weighted Cash Conversion Cycle. Financial Management Vol. 19, No. 1 (Spring, 1990), pp. 90-99

執筆者

駒井 昌宏

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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今井 政行

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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三原 亮介

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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